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クロノス魔導司書官の事件録―悪評公爵令息は聖女の助手となる―  作者: 巴 雪夜
第二篇:魔法学院転落死事件とは

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第13話 現場検証と詳しい情報

 容疑者の彼らと別れてクロノスはレナントに事件現場である非常階段へ案内された。三人は別の警察隊の隊員に見張らせているらしい。


 レナントはあの三人の内の誰かが犯人だと睨んでいるのだ。証言を聞くに可能性はなくはないので、クロノスはそれに関して否定はしなかった。


 別館の裏手にある非常階段は人気がない。その傍にゴミなどを燃やす焼却炉があるぐらいだ。清掃員がゴミを運んでいた時に遺体を発見したのだろう。


 四階の非常階段脇に被害者のベニートが食べただろう昼食のゴミとピルケースが落ちていたため、此処から突き落とされたというのが警察隊の見解だ。


 四階の非常階段から下を覗けば、高さは申し分なく、クッションになるような草木もない。地面に打ち付けられれば死亡できる範囲だ。



「私はこの辺りから穢れの気配を感じましたね」



 レミリアはそう言って手すりに触れた。まだ残り香があるようで顔を顰めている。


 クロノスも見渡してみるが、周辺には特に仕掛けらしいものは発見できなかった。魔力を感じ取ってみるも、魔法が使われた形跡はない。


 時間が経ちすぎているからかもしれないとレナントに現場検証時の事を聞けば、「今度はしっかりとやっている」とむっとした顔をされた。


 どうやら、宝石窃盗事件で警察隊の隊員を買収されたことを気にしているようだ。今度は問題ないと声強めに言ってくる。


 魔法が使われた形跡はないと、警察隊の捜査でも判断されていた。となれば、毒草を利用した殺人と考えられる。



「ベニートは何故、こんなところで昼食をとっていたのか」


「そこですね、問題は。それから、薬についてですが。どうやらピルケースに入っていたのは栄養剤のようです」



 ベニートは小柄なことを理由に体力が無いと思われたくなかったらしく、栄養剤を飲んで体調を整えていたと、レミリアは話す。薬を飲んでいるのはベニートの同級生なら知っていることだと。


 それほどまでに小柄というのがコンプレックスだったようだ。程よく筋肉が着いていれば、163㎝でも体格は良く見えるのだが、それでも彼は不満だったのだろう。



「他に怪しい物はなかったと私は聞いています。そうですよね?」


「その通りです。こちらは周辺を〝くまなく〟探しましたが、めぼしいものはピルケースのみでした」



 ちゃんと探したと強調する言い方にクロノスは小さく笑ってしまった。そこまで気にしていたのだなと。


(刑事の中にもいたな、無駄にプライドが高い人間が)


 転生前の刑事時代にもこういったタイプの人間はいた。決まって〝自分はちゃんとやっている〟とアピールをするのだ。


 プライドが高いゆえに当たり方も強かった印象が残っている。そんなことを思い出していれば、小さく笑った声が聞こえたらしく、ぎろりとレナントに睨まれてしまった。



「クロノス魔導司書官」


「失礼。レナント捜査課隊長殿がしっかりと調べたのなら安心だ。では、ピルケースにはベニートが摂取した毒薬の他にも残されていたという認識でいいだろうか?」


「あぁ、そうだ。二つほど粉薬を飲みやすくする膜で包まれていた。薬はそれほど大きくはない」



 薬が複数入っていたのならば、確実に飲ませたかったのが想像ができる。では、どうやってピルケースに仕込むことができたのか。


 その疑問にレナントは「聞き込みをしてわかったことがある」と自信満々に言った。



「セリーヌがピルケースをベニートに渡したのを騎士学科の学生が目撃している。彼女なら仕込むことができるはずだ」



 彼女は魔法薬師学科の生徒、毒草には詳しい。薬に入れることも可能なのだ。どうやら、三人の中ではなく、レナントはセリーヌを犯人だと断定していた。


 自信満々に言うのだから、その考えで固まっているのは聞かずとも分かることだ。自信があるのはいいが犯人である決定的な証拠はあるのか。なんていう指摘をクロノスはしない。


 反発してくるのは間違いないし、レミリアのじとりとした眼がそれを許さないと言っている。彼の言動に反応するなと。


 なので、そうかと軽い返事をしておいた。クロノスの返しにレナントは眉を寄せてはいたが、レミリアの「情報ありがとうございます」というお礼の言葉に表情を緩ませる。



「レナント捜査課隊長の情報に感謝します。あとは被害者と容疑者の周辺人物への聞き込みと、セリーヌさんがピルケースを渡したのを目撃した方の証言を聞きに伺います。名前の学部を教えていただけますか?」



 レミリアがそう聞けば、レナントはもちろんと頷いてメモ用紙を渡してくれた。その手際の良さに準備をしていたのだなと察せられる。


 レナントは「こちらでも聞き込みはしていますが」と、自分たちの捜査ではめぼしい情報はなかったことをまた強調させていた。



「私自ら話を聞きたいのです。レナント捜査課隊長の捜査を疑っているわけではないのですよ」


「流石は聖女様。ご自身の耳で民たちの声を聞くとは。もしかしたら、聖女様にだけは話をしようとする人間もいるかもしれませんからね」


「えぇ。後は私とクロノス魔導司書官の二人でやりますので、レナント捜査課隊長は持ち場に戻ってくださって構いません」



 にこやかにレミリアが言えば、レナントは一緒にいても問題ないですがと言葉にしながらも、彼女に任せますと廊下を歩いていく。


 すれ違う瞬間、レナントに睨まれたクロノスは気づかぬふりをした。彼が廊下の角を曲がっていったのを見送ってからすっと目を細める。



「だいぶ、俺は彼に嫌われているようだな」


「あの宝石窃盗事件で上司にえらく怒られたようで。あとは貴方の悪評と言動でしょうね」


「俺の悪評は女性関係と冷たい態度だけだろう」


「それだけでも十分です。女性関係の悪評など持つ男性が聖女の助手など、よくは思わない人間もいるでしょう」



 去る者は追わず来る者は拒まずというのは、悪く言えば女性をとっかえひっかえしているというこだ。そんな男が聖女にまで手を出すかもしれないと考える人間はいる。


 そうでなくとも、性格が悪い相手が聖女の傍にいるのを認めたくはない存在も出てくるはずだ。レミリアは「なので、言動には気をつけてください」と注意してきた。



「それは君が俺を助手にしなければいいだけの話しではないか?」


「貴方が今のところ適任なので」


「……単に聖女として畏まった(あぁいった)態度をしてこないから楽というのが理由ではないのか」



 クロノスの指摘にレミリアは答えない。にこりと微笑むだけだ。全てじゃないにしろ、少しは含まれているのは見て取れた。


 クロノスが片眉を下げれば、レミリアは「さて、聞き込みです!」と話を変える。有無を言わさず、腕を引いてくる彼女に、クロノスは渋々と着いていった。


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