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クロノス魔導司書官の事件録―悪評公爵令息は聖女の助手となる―  作者: 巴 雪夜
第二篇:魔法学院転落死事件とは

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第12話 容疑者のアリバイ

 レナントは「薬師学生なのだろう」とセリーヌをじとりと見遣りながら言う。



「薬師ならば調合もできるはずだ」


「セリーヌを疑うな! この子がそんなことをするわけがないだろ!」


「兄さん、落ち着いて! 疑われてしまうのは仕方ないわ。わたしの学部は薬を扱っているのだから」



 薬草だけでなく、毒草の勉強もしているのだ。アダゴンタの中毒性も知識として持っている。疑われても仕方ないとセリーヌは冷静だった。


 激情タイプの兄とは違って彼女は落ち着いている。自分の現状をよく理解しているようだ。


 デオダは妹を疑われて苛立っている様子で、レナントを睨んでいる。そんな眼差しは彼には通用しておらず、睨み返されていた。



「話を聞くに三人はアリバイが無いということだが、昼休みは何をしていたのだろうか?」



 クロノスが三人に問えば、セリーヌは「兄と昼食をとってから」と、話し出す。セリーヌは昼食後は来週に控えている薬学テストの自習をしていたという。


 図書館に居たと証言するも、レナントの調べでは彼女を目撃した人物はいなかった。担当していた司書教諭もその時間は席を外していたと。


 図書館を利用していた生徒は多くいたが、周囲に目を向けていた人間は殆どいなかったのだ。なので、彼女のアリバイは証明されなかった。



「十二時から昼食をとって、十三時には図書館に居ました」


「ベニートが死亡したと予想されている時刻は?」


「十三時頃だ。遺体は十四時頃に清掃員が発見している」



 クロノスの疑問にレナントは面倒げに答える。レミリアとの対応の差に苦笑しそうになるのをクロノスは堪え、デオダに「君は?」と問いかけた。


 デオダは「十二時半過ぎにはセリーヌと別れている」と事件当時の行動を話す。セリーヌと別れた後は十三時過ぎに先輩との待ち合わせ場所に居たと。



「学食で昼食をとったという認識でいいだろうか?」


「そうだよ」



 学院の食堂は本館一階にある。別館の非常階段から少し距離はあるが、待ち合わせ場所である渡り廊下からは近い。


(待ち合わせ時間に空白があるのは確かだな)


 十二時半にセリーヌと別れて、十三時過ぎに待ち合わせ場所に着いている。約三十分程の空白があるのだ。そのことについて、デオダは「ノートを取りに行っていたんだ」と言った。



「先輩から聞いたことを忘れないようメモするためにノートを取りにいっていたんだよ。ロッカールームに行ってたんだ」


「これも目撃情報はない」



 レナントの言葉にデオダは拳を握りながら舌打ちをした。苛立ちをぶつけたくとも、目撃情報がないのだからアリバイにはならないからだ。



「おれは昼飯を食ってから次の授業がある騎士学科第二講義室で昼寝してた。一番乗りだったし、おれが起きた頃にも人はいなかったから目撃者は無しだ」



 聞かれる前にエドガーはさらりと証言する。弁明することはないといったふうに。疑いを晴らすのを半ば諦めているようだった。


 現状が現状なのだから仕方ないのかもしれないが、それにしたって抵抗しないのはどうなのか。三者三様の様子にクロノスはふむと顎に手を当てる。



「皆さんはベニートさんが殺される理由に心当たりはありますか?」


「いや、無いな。なんかあったっけ? とは考えてみたんだけど」



 エドガーが即答すれば、デオダとセリーヌも同意するように頷いた。三人には心当たりがないらしい。


(これは彼らと親しい別の人物にも話を聞いた方がいいな)


 三人が知らないような情報を持っている可能性がある。クロノスがちらりとレミリアを見遣れば、「心当たりがないのであれば」と察したように言う。



「長い間、拘束されていたでしょうから、休息を挟みましょう。三人は学生ですので、授業を受けて構いません。午後の昼休みにまたお伺いしますので」



 レミリアの申し出に三人はまだ終わらないのかと言いたげにしていたが、ひとまずは解放されるとあってかほっと息を吐き出している。


 レナントが「逃げないように警備はしておりますのでご安心ください」と、胸を張った姿にクロノスは可哀そうだなと三人に少しばかり同情した。

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