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クロノス魔導司書官の事件録―悪評公爵令息は聖女の助手となる―  作者: 巴 雪夜
第二篇:魔法学院転落死事件とは

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第11話 容疑者たちの言動

 ヨーデリア国立魔法学院は王都の外れに建っている。この広大な王都の奥地にあるということもあってか、建物は大きく四階建ての別館と本館に別れていた。


 さらには野外訓練場が二か所、室内訓練場が二か所、学院立図書館も併設されているとあって敷地が広い。


 クロノスたちは本館の一階にある第一会議室に通された。アンティーク調の木製長テーブルが中心に配置された室内は、細やかな調度品で飾られていて落ち着いた雰囲気だ。


 テーブルの椅子に男女が座っていた。学生だろう若い三人の前の席に渋面の老けた男性が一人、座っている。その眼光はきつく、威圧的だ。



「レナント捜査課隊長、お待たせしました」


「これはこれはレミリア聖女様。そこまで待っておりませんので、お気遣いなく」



 渋面の老けた男性はレナントという警察隊の隊員のようだ。捜査課隊長となると、事件を捜査する隊員のトップの地位になる。という、警察隊の浅い知識をクロノスは持っている。


 白髪交じりの黒髪をオールバックにしたレナントは席から立ち上がって頭を下げた。それからクロノスへと目を向けて眉を寄せる。



「そちらはリーグベルト家の次男坊様では?」


「はい。私の助手として本日から働くことになりました。クロノス魔導司書官です」


「じょっ、助手! てっきり、騎士団の選ばれた騎士が助手になるかと……」


「騎士よりも魔導司書官という立場のほうが助手としては優秀なのですよ」



 融通も利きやすいですからねとレミリアが話せば、納得はしてなさげではあったがレナントはそうですかと頷く。


 そこで引き下がらずにふさわしくないと言ってくれた方が自分は解放されるのでは。とは思ったけれど、レミリアがそれを許すわけもないのはにこやかな表情から放たれる圧が物語っている。



「それで。容疑者は彼ら三人なのでしょうか?」


「はい。死亡した被害者のベニート・ビルバオの友人の中でアリバイが無かった学生になります」


「待ってくれ、オレは学部の先輩と約束があったんだ」



 待ったをかけたのは一人の男子学生だった。長身で程よく体格の良いツーブロックにされた黒髪が印象的な彼は、テーブルをばんっと叩いて立ち上がる。


 隣に座っていた長い黒髪の先を灰色に染めた小柄な女子生徒が、腰を上げて彼の腕を引いた。


 そんな二人の様子をもう一人の男子生徒が肩肘をついて座り、呆れたふうに眺めている。金髪が良く似合う筋肉質な体格の男子生徒は気だるげだ。



「こら、聖女様の前だぞ!」


「構いません。まず、三人のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


「オレは騎士学科二年生のデオダ・ビィーシェです」


「わたしは魔法薬師学科一年生のセリーヌ・ビィーシェ。デオダの妹になります」



 テーブルを叩いて待ったをかけた青年はデオダというようだ。その隣で彼を押さえていたのは妹のセリーヌで、「兄さん、落ち着いて」と注意している。


 二人の名前を聞いてからレミリアは気だるげにしている男子学生へと目を向けた。彼はゆっくりと立ち上がって一礼をする。



「おれはデオダと同じく騎士学科二年生のエドガー・バシュロです」


「皆さんは被害者と共通の友人ということで間違いありませんか?」


「はい、おれとデオダはベニートと同じ学科なんで。セリーヌちゃんはデオダ経由で知り合っています」



 そうだよなとエドガーが声をかければ、デオダは苛立ちを押さえながら「あぁ、間違いない」と答えた。


 三人とも被害者であるベニートとは親しい間柄だったようだ。よく一緒に居たさとエドガーは話す。



「デオダさん。先ほど、貴方は先輩と約束があったと言っていましたが、どういうことかお話してくださいますか?」


「はい。オレは昼休みに騎士学科三年生のボトヴィット・ベルマン先輩と約束していたんですよ」



 事件当日の昼。昼休みとなった学院でデオダは昼食後に先輩であるボトヴィットに、次の模擬戦闘試験のことで助言をもらう約束をしていた。


 当日は妹のセリーヌと昼食後、ボトヴィットの元を訪ねたのだとデオダは主張する。それに対してレナントが「空白の時間があるだろう」と指摘した。



「約束の場所は犯行現場である別館の非常階段から離れていない。本館と別館を繋ぐ渡り廊下だったんだ。その場所までに行く間に空白がある」


「そんなの言いがかりだ! 近かろうと男一人を相手にするんだぞ!」



 デオダの主張にレナントは「ベニートは小柄なほうだ」と言い返す。


 小柄でも騎士学科に通っている学生なのだから力はあるではないか。そんな言葉を飲み込んでクロノスは「小柄だったのか?」と、話が通じそうなエドガーに問う。


 エドガーは「騎士志望にしては」と教えてくれた。ベニートは小柄でそれをネタにからかわれていたのだという。163㎝ほどだと教えられて、確かに低い方だなとクロノスも思った。


 騎士志望者の多くは170㎝は優に超え、皆ほどよく体格が良いか、筋肉質だからだ。



「163㎝。私が156㎝なので……クロノス魔導司書官、身長は?」


「最後に測った時は186㎝だったな」


「私と貴方の中間より少し低いぐらいですね。それならば騎士としては小柄です。私は寝そべっている遺体を少し見ただけですので、正確な身長は知りませんでした」



 騎士として鍛えているのならば、小柄なベニートを非常階段から落とすことは可能ではある。レミリアはなるほどと頷いた。


 そう考えるのであれば、小柄で力がないように見えるセリーヌは容疑者から除外されてしまう。が、まだ可能性は残っていたので早計なことはしない。



「ベニートだって騎士になるために訓練していたんだ。そう簡単に押し負けたりしないだろ!」


「彼は毒草を摂取している。現場付近に残っていたピルケースには砕かれたアダゴンタの葉が混じっていた。あれは少量でも意識混濁状態に陥らせることができる」



 アダゴンタは葉・花・枝・根・実の全てに毒がある植物だ。他の植物と違い、元から乾燥した状態の葉をしているので、粉末にしやすい。


 虫を寄せ付けず、葉や花から発せられる香りは獣が苦手とするので、害虫害獣除けに植えられていることが多い。


 この学院の裏にも害虫害獣除けとして植えられていると、入手は簡単なことをレナントは指摘した。


(アダゴンタは……前世の記憶でいうところのキョウチクトウ科の植物か。ならば、キョウチクトウ中毒を起こした可能性があるな)


 キョウチクトウはアダゴンタに似ている成分を持つ植物だ。口に含めば、酷い吐き気と嘔吐の症状から始まり、四肢脱力が起き、非回転性眩暈に襲われる。摂取量によっては意識混濁となり――死亡する。


 アダゴンタも同じ症状なので、中毒を起こしたのならば四肢脱力と眩暈によって相手は抵抗できなくなっている可能性があった。


(その状態であれば無抵抗に非常階段から落とせるかもしれない、か)


 ならば、小柄なセリーヌも容疑者となりえる。クロノスの意見とレナントは同じだったようで、「彼女は魔法薬師学科じゃないか」と彼女へ疑いの目を向けていた。




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