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《世界》をエルフと共に  作者: カケル
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19/21

19 極地

「そうだ。それが見たかったのだッ」


魔力を通して、刀身に数千度に及ぶ炎を纏わせ、上空に向かって振り上げた。極大の炎の斬撃が飛んでいき、巨大な水球にぶつかると一気に水分を蒸発させ、その爆発力が上空へと飛んでいった。アルラスへと直撃する水蒸気爆発が彼女を覆い尽くし、すべての空気を、そしてすべての水分に誘爆して、更なる爆発を生んでいった。


「はあはあはあ」


全回復した魔力を即座に使い、半分にまで減ってしまった。回復と消費による過度な魔力循環によって身体が悲鳴を上げる。


「ふう、今のは良かったぞ」


爆炎が吹き飛んで、少々の火傷を負ったアルラスが姿を現した。だがそれも、魔力回復によってすぐに消えてしまう。


「もっともっと限界を超えてこい」


《世界》の干渉によって、彼女は多少の力を得て私と同等の力を得ている。


「それとも、少し早いがここで幕引きと行こうか?」


深めた笑みで、アルラスはエルソルに近づいた。正面に立った彼女はエルソルを見据えて、ただただ楽しそう面白おかしく――。


「お前は良い相手だった」


「ぐ……」


血の剣を生成して、彼の心臓部に突き刺していた。避けられないよう、彼の両手足をご丁寧に土の鎖で固定して、確実に彼の命を殺し尽くすようにして。


「え、エルソルッ!!!」


アルラスが剣を抜くと、ドバっと傷口から大量の血液が迸った。これ以上とない致命傷だ。前に倒れていき、そして床に顔を、胸を打たせて、ピクリとも動かなくなってしまった彼を、私はただ見ているだけしか出来ない。


「今度はお前だな、エルフの女」


アルラスがこっちを向いた。まったく勝てない相手ではない。少々私よりも強くなった魔王だ。私が彼女と戦うということは、この《世界》に干渉するということ。今は少々強いアルラスであっても、いずれは私でも斃せない力を得るのは簡単に想像できる。けれど、人類なんてどうでもいいくらいに、今はこの女を殺したい気持ちでいっぱいだ。私の大切な人を殺したこの女を、この敵を、私は一秒でも早く根絶やしして殺してやりたいのだ。突き刺し、引き裂き、引き千切り、絶叫を上げさせて絶命してやりたいのだッ。


「その目、その憎悪に塗れた目――何とも憐れだこと」


もう片方の手に血の剣を創り上げ、私を見上げた。視線と視線がぶつかり合う。


「……?」


アルラスが気づく。

両手を見て、自身の両腕を、肩から先が斬り飛ばされていたことに不意に気づき、襲い来る痛みに顔色を変えた。魔力を使って腕を再生させながら、後ろを見る。


「エルソルう~♪」


エルソルが立っていた。

ハクジツを手に、切り飛ばしたアルラスの両腕を足元に転がして、色のない瞳でアルラスを見据えている。

だが気配がない。アルラスが自身の腕を失うまでに、エルソルの攻撃を認識できていなかったのと、私さえも識別できていなかった事実。

魔力が無い、と言うより――無色透明の、白金色を越えた理を越えた魔力を帯びて、大きくも小さくも濃くも薄くもない、まったくもって解らない不可視無感知の魔力を。


「エルソルウウ、お前は本当に最高だ♪」


アルラスは笑みを深めて、エルソルへと突っ込んでいった。

血の剣を携えて、大きく振り下ろして――甲高い音が響き渡り、ハクジツと血の剣が交錯した。

ハクジツから流れる無色透明の魔力。彼の本来の魔力なのかどうかも怪しいそれを、だがハクジツが受け取っている。だがエルソルからの心臓の鼓動も、ましてハクジツからも、ハクジツとしての気配を感じとれない。エルソルはもう――。


「そうだ、そうだぞ勇者あ」


アルラスはエルソルと真っ向から打ち合う。

何度も何度も刃を打ち合って、火花を打ち鳴らし、光が瞬く。


「これならどうだッ」


剣に巨大な魔力を纏わせて、巨剣へと進化させたそれを、少し離れた距離から振り下ろした。対してエルソルも同じく魔力を纏わせてハクジツを巨大な刀へと変貌させ、それを互いにぶつけ合った。迸る魔力、爆発する魔力。刃と刃が火花を散らせ、互いに砕けた。

魔力の破片が宙に飛び、無数の煌めく星々のようにキラキラと輝かせ、その破片を鋭く尖らせて無数の弾丸へと変化させた。次々とぶつけ合うそれらを、宙の色と同じく透明色に輝く。境界線が出来上がる中で、だが今度はアルラスの方へとその境界線が徐々に後退していくのが解る。


「あは、あはは」


魔力を膨れ上がらせ、殊更に魔力の破片を、魔力の弾丸を創り上げ、射出していく彼女。エルソルに十倍もの物量をぶつけていく。

だが何をどうしているのか。やはり彼から魔力を感じることなく、けれど魔力を使っていることは解るほどに魔力の弾丸が増えていき、彼女の物量を跳ね返していく。圧し潰していく。


「はッはあッ」


身体をぐちゃぐちゃされた彼女は、何事もなかったように身体を再生させて、指先から無数の、全身から無尽蔵の魔力の糸を放出させた。細糸が何十何百と重なり合い、強靭に折り重なっていくそれらを。


「……」


エルソルは色のない瞳で黙ったまま、対抗するように魔力を操って糸を出す。

彼女ほどの大量ではなく、指先一つ一つに集まった糸を操っているような感じで、指先を動かすだけに留まる動きだけ。

彼女の魔力糸がエルソルを襲う。

四方八方からのそれらによって、彼は一瞬にして見えなくなった。

その中で、小さな音が聞えていた。

空気を切り裂くような、紙を切り裂くような、糸を切り裂く音。


「そうだ。その意気だッ」


同時に、包み込んでいた巨大な繭が無尽蔵に切り裂かれた。ばさりと落ちる糸の塊の中心にて、エルソルは色のない瞳をして、胸の傷跡を残して、彼はゆっくりとアルラスを見た。

殺意も敵意もなく、ただアルラスを斃すことだけを考えた視線を前に、彼女は身体を震わせて恍惚とさせている。


「そうだ。それこそが魔力の極致ッ」


強大な魔力が放出され、凄まじいほどの呪いの魔力。ガミルのそれとはまるで違う、殺意を乗せた圧倒的な呪いの魔力をエルソルは正面から受けた。身体の筋肉が、内臓が、魔力が、すべてに致命的なダメージを与える。

だがエルソルは顔色を変えずに、アルラスを見ていた。

四肢があらぬ方向へと、さらには引き裂かれ、内臓が飛び出して挽肉にされ、頭蓋が破裂し脳漿が飛び散る。彼を構成するすべての物事が、物質の何もかもが破壊し尽くされていく。

彼女の圧倒的な魔力によって空間がねじ切られようとしていても、知ったことではないと鼻で笑うほどに、彼女は深い笑みを浮かべて彼が居た中心地へと魔力を贈り続けた。


「さあさあさあッ」


期待を胸に、彼女は言葉をつづけた。早く早くと、まだ終わっていないだろうと期待した眼差しで、彼女は一心に意識を巡らせていた。

呼応するように。

アルラスの魔力の中心地にて――エルソルの身体が構築されていく。胸の中心から骨に始まり、内臓へと至り、そして筋肉を構成し、神経を張り巡らせていく。そして服さえも生成されていき、元の姿へと、失ったはずのハクジツでさえ、元の形へと作り替えられていく。


「そうだ、そうこなくてはな――」


と言ったとたんに、アルラスの片耳が吹き飛んでいた。言葉を失う彼女。ハクジツを前にしたエルソルが放った、呪いの魔力。その傷跡から血が流れることなく、噴き出ると同時に消失していった。


「くははははははははははッ」


高笑いして、彼女は自身の傷跡を触ってエルソルの呪いをかき消し、再生させた。彼を覆う魔力はいまだに健在。何もかもを吹き飛ばすほどのアルラスの呪いの魔力は今、ただの暴風へ成り果てたのである。

彼女の身体から膨大にあふれ出す魔力、空気中にある魔力と同化し、彼女の身体が掻き消えた。超高速で動いているわけでも透明になっているわけでもない。

魔力との同化。

彼女の身体は今、この世界と一つになったのだ。彼女が何処にいるのかも解らない。どこにでもいて、何処にも居ない彼女。

四方八方からあらゆる属性、あらゆる種類の魔法が飛び交ってきて、エルソルを襲った。なんなら彼が避けた先にさえ魔法を放つほどに、彼の動きを完璧に把握している。だが彼は避けた。捌き切った。どこから何が飛んでくるのか、どう縛り付けようとしてくるのか、どう包み込んで来ようとするのか、それらすべてを読み切って、ゼロ距離から放たれた魔法さえも盾で防ぎ、流した。


「痛いの痛いの飛んでいけ」


と、エルソルはそう言った。


「この世界なんて、可哀想な《世界》なんだろうね」


そう小さく、宥めるようにして言った。悟るように、落ち着かせるように、ただただ、彼は世界すらも受け入れて、《世界》そのものを受け入れて――傷つこうが、身体の一部が消し飛ぼうが、頭が吹き飛ぼうが四肢をもがれようが、彼はもう彼女の攻撃から逃げることはしなかった。魔力を用いて超回復していくその身体を、自ら捨て去るようにして。


「人間風情が、調子に乗るなッ」


何処からか聞こえたアルラスの叫び声に、だがエルソルは何も言わずに小さく笑っていた。胸の傷から流れ出る魔力が涙のようだった。


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