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アルター・ワールド  ~三画TRAVEL~  作者: 一夜一海
明日香編・第一章
54/57

第九幕・二画目

 時は遡る。

 私立ライラック学園高等部3年の3名が、其々に異世界へと旅立つ運命の日。

 運命(そ)の日、飛来龍と同様に寿々奈明日香もまた、音信不通となった黒崎信の行方を追っていた。

 そして飛来龍と別れてからは、学園寮の門限を突っ撥ねてまで捜索を開始。

 スポーツキャップ、マスク、サングラス等で素性を隠しつつ、有益な情報を求めて回る。


(…流石に、正攻法では無理がありますね…)


 何件目かも判らなくなったハ(・)ズ(・)レ(・)を引きながら、明日香は溜め息を吐く。

 龍とは違い真面目な彼女は、素直な聞き込み調査を繰り返していた。

 調査(そ)の主な対象は夜間営業、または24時間営業している店舗や施設である。

 しかしあくまで学生の身分である明日香では、大きく踏み込んだ調査は不可能なのが現実だった。


(…本(・)丸(・)、か。信、貴方がそうまでして躍起になるモノがあったなんて、意外ですよ)


 寿々奈明日香は世間から見ても、非常に優秀な人物である。

 また家柄も良く、将来はスズナ財閥の後継者として目されている。

 そんな彼女からしても、黒崎信はずば抜けている。

 英国に生まれた日本人とのハーフにして、IQ200越えの持ち主。

 十二歳で同国の高名な大学を卒業し、将来は一国を担えるほどの才覚者(カリスマ)。

 既に学園生活の傍らでメディア業界にも進出し、アイドルとしても名を馳せている。

 他にも株取引など、成功に次ぐ成功を収めている。

 この世に手に入らないモノなどないのではないかと、そう思わせる程の天才っぷり。

 しかし実際には、躍起になる本丸(モノ)が存在した。

 六年の付き合いを経ていながら、明日香は思惑(それ)に気付くことが出来なかった。


(…直接、教えてもらいますよ。私に内緒だなんて、許しませんから)


 少しだけ目を閉じ、一度だけ強く拳を握り締めた明日香は、再び捜索を開始する。

 そして此処からは聞き込みではなく、完全な地力。

 三人が共に築いた六年間を振り返り、思い出の場所を辿る。

 その中には買い手の付いていない、単なる空き地も含まれていた。

 しかし三人にとっては、この空き地は特別な場所。

 出会いが学園の入学式ならば、此処は三人が固い絆を結ぶ切っ掛け。

 今は壊滅した暴走族、コモン・レイヴンの元集会所である。


(…流石に、誰も居ませんね。それにしても、あの時から変わっていないとは…)


 四年前、一つの裁判が起きた。

 原告は飛来家、そして被告はコモン・レイヴンのリーダー。

 飛来家当主とその妻を死に追いやった、交通事故が切っ掛けである。

 結果として、この裁判は飛来家の大きな勝訴で終わった。

 しかし、その結果に納得が行かなかった者が一人だけ居た。


『俺は、金が欲しい訳じゃねぇ………裁判に勝ちたい訳でもねぇ………何でだ?どいつもこいつもっ、何でそ(・)れ(・)が解らねぇんだぁ!?』


 両親を失った、まだあどけなさを残していた少年の慟哭。

 憤怒と悲痛が入り混じった、猛る様な激情。

 激情(それ)は少年を奮い立たせ、やがて新たな事件を引き起こす。

 そうしてコモン・レイヴンという暴走族は、文字通り消滅した。

 決して明るみにならない、真実と共に。


(…私も貴方も、彼の為に口を閉ざした。きっと、それは罪と言える)


 明日香は思わず、組んだ腕をぎゅっと握りしめる。

 決して事件に加担したつもりはない。

 ただ、真実を知っているだけ。

 その上で、他の誰にも語らなかっただけ。

 そして黙秘(それ)は、もう一人も同じだった。


『くくく………これにて当方達は、紛うことなき共犯者に候。何と、目出度いことか。未来永劫に至るまで、この絆は断ち切ること能わず』


 多くの学問を修めながら、少女とも見て取れる美少年の愉悦。

 歓喜と快楽が溶け込んだ、弾ける様な欲情。

 欲情(それ)は少年を突き動かし、やがて新たな火種を巻き起こす。

 そして火種(そ)の渦中(なか)には必ず、少年が見込んだ二人が巻き込まれている。


(…きっと、今回も同じなのでしょう?いつも通り、なんでしょう?)


 募る不安を、明日香は必死に振り払おうとする。

 今まで何度も見て、何度も味わった。

 そして時には怒り、時には安堵した。

 お互いに、飽きることなく、今日(こんにち)まで続いた。


(どうして、だなんて答えるまでもない………私にとって、貴方達は………っ!?)


 それまで思案に暮れていた筈の明日香が、不意に周囲を見渡す。

 その理由は、異様なまでの静寂。

 深夜帯とは言え、無人の荒野と見紛う程度(レベル)。

 しかし静寂も束の間、悍ましい気配が明日香の背後から出現する。

 そして彼女が思わず飛び退いた先には、黒いローブとフードを纏った謎の人物。

 辛うじて艶やかな唇と白い柔肌が見て取れる為、女性であろうことが伺える。


「こんばんは。こんな夜中に立ち往生だなんて、随分と不用心な娘(こ)ね」


「…貴女は、一体…?」


「しがない占い師よ。貴女の様に迷い、思い詰めた人間を導くのが、この身のお仕事」


「………」


「あら、急に怖い顔をして………そんなに信用できないかしら?」


「…生憎と、占いは信じない質なので…」


「あら、それは残念。貴女の御友人を探す手伝いが出来ればと、思っていたのだけれど…」


「…そう、ですか…」


 明日香は一つ、深く溜め息を吐いた。

 そしてマスクとサングラスを外し、スポーツキャップの位置を正す。

 その後は姿勢を落とすと、空手特有の構えを取る。

 紛れもない、寿々奈明日香の臨戦態勢だ。

 相手は勿論、黒いローブとフードを纏った謎の人物である。


「あらあら、物騒ね。何か貴女の機嫌を損ねるようなことをしたかしら?」


「…白々しい。貴女なのでしょう?信の言う本丸………街(・)中(・)の(・)預(・)言(・)者(・)は」


 それは明日香が至った結論だった。

 元より龍から話を聞き、状況を踏まえ、可能性としては考えていた。

 そして奇しくも直に対面し、その仕草を視て、確信した。

 街中の預言者は、黒崎信の眼鏡にかなう存在だと。

 故に街中の預言者は、黒崎信が行方不明になる原因に成り得ると。


「…うふふ。だとしたら、どうするの?」


「決まっているでしょう。洗いざらい、吐いて貰います。貴女の知っていることの全てを!」


 言葉と共に、明日香は地面を強く踏み付ける。

 同時に大気が鳴動した。

 それは中国武術における震脚。

 日本の武道では踏鳴(ふみなり)と呼ばれ、武道の基本動作として広く取り扱っている。

 そして此処から更に、様々な技へと転ずることが可能だ。

 また熟練すれば、威嚇としても十分な効果が見込める。

 現に明日香は、場合によっては強硬な手段に出るという、警告のつもりだった。

 しかし街中の預言者はくすくすと笑い、何処からか透明の水晶玉を取り出す。


「…健気なこと。あの子が気に入るだけはあるわ………でも」


「っ!?」


突如として、明日香の視界が揺らぐ。

正確には明日香を中心として、景色全体がぐにゃぐにゃと揺らいでいる。

これまで培った極真空手の構えすら、覚束なくなるほどに。


「感謝なさい、ついでに貴女も送ってあげるわ。もっとも、貴女の様な小娘に何が出来るかは判らないけど…」


 パチンと、白い指が鳴らされる。

 同時に透明の水晶玉から、強烈な光が迸った。

 明日香は咄嗟に両腕で目を覆ったが、光は更に増大して世界をも白く染め上げる。

 まるで太陽が、目の前に落ちて来たと錯覚する次元(レベル)。

 幾ら肉体を鍛え上げていようとも、人間に成す術はなかった。


「うっ、くっ………一体、何が…?」


 世界が光に包まれてから、幾許かの時間が過ぎた。

 明日香は恐る恐る目を開き、周囲を確認する。

 すると今まで見知っていた景色が、打って変わっていた。

 夜であることを除けば、見知っていた全てが消失している。

 辛うじての救いは、先程までと違い、人の気配がある事だった。

 ただしその出で立ちや装いは、現代日本人とは大きく異なっている。


(…あえて言うなら、中世のヨーロッパという印象。建物に関しても、何処か西洋を伺わせる。しかし…)


 明日香は少し遠めから、電飾(ネオン)で照らされている看板を見やる。

 それは旅行者用に向けられた、付近の案内板だった。

 そしてその案内板の羅列は、現代の日本語で書かれている。


(…ガルドヴォワール。察するに、歓楽街の様ですが…)


 歓楽街・ガルドヴォワール。

 少なくとも明日香は、その名前を聞いたことがない。

 ネットで調べようにも、携帯電話は常に圏外を示している。

 そもそも生粋の日本人である明日香にとって、この街は一目見た時から、明らかに外(ず)れていると言えた。


(…とにかく、目立たないように行動しましょう。結論を出すのは、街を調べてからでなければ)


 明日香はマスクとサングラスを付け直すと、案内板に従って徒歩による散策を開始する。

 その道すがらでは、人々の会話も聞こえて来た。

 そしてその全ては日本語で統一されており、生粋の日本人である明日香は自然に理解が及ぶ。

 しかし勝手知る言語が聞こえれば聞こえる程、次第に彼女の混乱は大きくなっていった。


「…よもや、本当に此処が日本とでも?」


 誰も答えないと理解していながら、明日香は疑念を投げかけずには居られなかった。

 街の名前、建物、人物の姿は明らかに和(・)からかけ離れている。

 一方で文字、言語は紛れもなく日本語が主体となっている。

 まるで狐につままれている様な、如何ともし難い状況だった。


(…とりあえず、誰かに話しかけてみますか。私の恰好、怪しまれなければ良いんです、が…?)


 ふと明日香の視線が一点に注がれる。

 街の賑やかさから離れた裏路地の方で、男女の諍いが起きていたのだ。

 しかも男の方は中々に屈強で、全身に至る所に傷跡が見受けられる厳つい人物。

 片や女の方は気は強そうだが、体格面は明日香よりも小柄だ。

 その上で両者とも、かなり熱くなっている様子が見て取れる。


(…警察、は呼べませんね。正直、目立つのは避けたいところですが…)


 迷惑行為防止条例、47都道府県で其々に機能している日本の条例。

 当然その条例では、暴力行為はいの一番に取り締まられる。

 元より法と秩序を重んじる気質である明日香にとって、見過ごせる光景ではない。

 また仲裁(これ)が対話の切っ掛けにもなると踏み、その一歩を踏み出した。


「もし、どうかしましたかお二人とも?」


「あぁ?何だテメェは、引っ込んでろ!」


「生憎と、そうもいきません。公共の場で喧嘩は、他の方に迷惑ですから」


「はぁ?何を寝ぼけたこと言ってやがんだ!この街で、んな綺麗事が通じっかよ!」


「おい止めな!その娘は関係ねぇだろ、この男(タコ)!」


「うるせぇなこの女(アマ)!ろくに借金も返せねぇ癖してよ!」


 男は野太い声を張り上げると、相対する女の顔を殴打した。

 しかも一発で女が倒れ込んでしまったにも関わらず、更なる暴力を振るおうとする姿勢だ。

 もっとも、暴力(それ)は既に第三者(明日香)の怒りを買ってしまっている。

 とは言え、まだ同じ手段には訴えない。

 あくまで男の肩に手をやり、男の行為を引き留める姿勢である。

 しかし男にとって、制止(これ)は正しく火に油。

 すかさず暴力の矛先を、倒れた女から明日香へと変更した。


「愚か者!」


 凛とした一喝と同時に、明日香は男の拳を振り払った。

 続けて隙だらけとなった男の脇腹に、堂々たる正拳突きをお見舞いする。

 これが有効打(クリーンヒット)となり、男はダメージにより前屈みの姿勢へ追い込まれる。

 其処へすかさず、垂直に伸ばされた右足が振り下ろされる。

 対する男は反応すら出来ておらず、そのまま脳天へ見事な踵落としが炸裂した。

 これも有効打(クリーンヒット)となり、同時に決定打(フィニッシュ)となる。

 やがて男は蹲る様にして倒れ、そのまま起き上がる様子はない。

 一方の明日香は残心しつつ、倒れている女の元へと歩み寄る。


「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」


「あ、あぁ………これくらい、大したことないよ」


「そうですか?でも頭部を殴られたのですから、念の為に病院で検査を受けた方が良いですよ」


「…それよりアンタ、何であたいなんかを助けたんだ?アンタには何の関係もないだろ?」


「別に、当然のことをしたまでですよ。公共での諍いは、条例違反ですから」


「…ぷっ、あははは!何だいそりゃ?さてはアンタ、この街は初めてだろ?」


「…ええ、まぁ…」


「…なら、とっとと失せな。幾ら電飾で着飾っていようと、此処はドス黒い犯罪が渦巻く暗黒の街さ。育ちの良さそうなアンタが、長居する場所じゃない」


「…そう、なんですね。ご忠告、感謝します」


「…ああもうっ、礼を言うのはこっちだっての!調子狂う奴だなぁ、もう!」


「す、すみません。貴女を怒らせるつもりは…」


「いちいち謝んなってーの!ったくぅ………名前は?」


「…明日香です」


「あたいはエマだ。助けてもらった礼もしたいし………良かったらあたいが世話になってる店に来な」


「…では、お言葉に甘えて」


 斯くして出会った二人は、共に歓楽街であるガルドヴォワールの東側へと向かう。

 そして街の喧騒から離れた隅の方に設けられている、小屋の前へと辿り着く。

 エマ曰く、其処は最近に開店したばかりの酒場で、女性が一人で切り盛りしている。

 その店の名前は、ハニーメニ―。

 由来は全てのお客様に、甘いひと時を込めているとの由だった。


此処まで読んでいただき感謝<(_ _)>




拙いですが、もし少しでも楽しんでいただけなら幸いです。




良ければ次回以降も拝読して頂ければ幸い。

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