↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルター・ワールド  ~三画TRAVEL~  作者: 一夜一海
明日香編・第一章
53/57

第八幕・宵闇の旅団

『…』


 つい先ほどまで、戦地で舞っていた花弁がピタリと止まる。

 同時に第五部隊長ヒュージンの実体が顕わとなった。

 標的が完全に消失(ロスト)した為、戦闘態勢を解いたのだ。


「どげんー?上手くいっとー?」


 ヒュージンの傍らで、ほ(・)わ(・)わ(・)ん(・)と煙が舞い上がる。

 そしてその煙の中から、第八部隊長リスキーが姿を現した。

 先程まで雲の上で昼寝時間(シエスタ)していた彼だが、彼の感知魔術は部隊長の中でも一級品。

 例え空の上で微睡の中にあっても、地表の重要な局面を見逃すことはない。

 そんなリスキーに対し、ヒュージンも筆談で応える。

 尚、ヒュージンの筆談にはペンも紙も必要ない。

 自身の頭上に表示画面(ウィンドウ)を出現させ、適度にスクロールする文章(メッセージ)を提示するのだ。


『標的逃亡。第三勢力の介入により、追撃無用と判断』


「ふぉふぉ、珍しか~。ヒューちゃんの必殺、空振りに終わるん」


『雑談無用。西方支部へ、至急帰還』


「よかたい。おいちゃんも帰(けえ)る。帝国との戦争も、もう直(じ)きよ~」


 リスキーはからからと笑うと、煙となって姿を消した。

 一方のヒュージンは、視線を自分の右手に移す。

 正確には人差し指の側面で、其処には小さな擦り傷を負っていた。


『…ツギハコロス…カナラズコロス…』


 それは花と消える前の、ヒュージンの独り言。

 抑揚のない、酷く入り混じった音調。

 まるで質の悪い変声機を使っているような、地声かどうかも疑わしい独特さ。

 ただしその内に秘める、凶悪な殺意だけは疑いようもなかった。

 一方で死地から逃げ果せた明日香とナトラルは、共に東南の方角へと疾走。

 その先には名もない森が生い茂っており、宵闇の旅団の6番基地(アジト)が存在している。


「…お、来たゾ」


「あれ、何か変なのが付いてるナ?」


 二人が6番基地(アジト)へ到着した際、先ずはゼルとテールの兄妹が出迎えた。

 また他の団員も事前の連絡により、既に何名かが集結していた。

 そしてそんな彼らの視線は、自ずと団長の傍らに居る部外者(ナトラル)へと注がれる。


「…オイラ、知っているぜ。ありゃあナトラル・レガートだぜ」


 二人が合流してから第一声を放ったのは、ボサボサに伸びた緑の髪と非常に鋭い犬歯を持つ少年。

 見た目は正に野生児そのもので、全身の肌は傷だらけ。

 またちゃんとした服を着ておらず、黒い毛皮で局部を覆っているだけの格好。

 名はセセリ、団員の中で最も野戦に長けている。


「ううう、嘘やん!?ななな、ナトラル・レガートって、おおお、【音無の閃光】やん!?かかか、統制機関(カレンデュラ)の正規員やーん!?」


 盛大に震える第二声は、高く垂直にフェードカットされた金髪が特徴の青年。

 派手なスキーゴーグルをしており、レンズが着色されている為に目元は隠れている。

 また服装は過剰(やたら)とふっくらしたウィンドブレーカーにトレッキングパンツと、まるで登山家の様相。

 名はアルデン・ティーン、団員の中で最も工作を得意としている。


「コココ、元(・)ぞえ元(・)。今は権力の座から失墜した、哀れな傭兵風情ぞえ」


 第二声に呼応したのが、とんがり帽子と白髪のツインテールが特徴の矮人族。

 見た目は幼気な少女だが、口調は何処か古風が漂う。

 また黒いローブにマントを纏い、箒を携える姿は魔女のイメージそのもの。

 名はキュイシーヌ、団員の中で最も毒(・)に精通する。


「個性的で御座るな、旅団の方々は」


「ええ。旅団(ここ)には、この世界の問題児しかいませんから」


「ケヒヒ、酷い言われ様だナ」


「キシシ………で、団長。部外者(ソイツ)はどうしたんだゾ?」


「…そうですね。折角ですから、自己紹介してもらいましょうか」


「おお、挨拶は基本で御座るな。では改めて………ナトラル・レガートで御座る。アスカ殿、ひいては旅団の方々を援けるべく、全力を尽くすで御座るよ」


 ナトラルは実に朗らかな笑顔を浮かべながら、団員達に向けて一礼する。

 しかし挨拶を受けた団員達が、ナトラルへと向ける視線は酷く冷たかった。

 盲目である筈のナトラルが、気配だけで思わず一歩を退く程に。


「…貴方達、どうしたのですか?何か不満があるのなら、全て私に申してください」


「だだだ、大丈夫やん!ぼぼぼ、ぼくちんは団長さんの忠実な下僕(しもべ)やーん!ななな、仲良くするやん!」


「ケヒヒ、右に同じく」


「キシシ、左に同じく」


「…えーと、正面に同じく、だぜ?」


「コココ………団長、吾(わえ)は甚(はなは)だ遺憾ぞえ。こ奴はかつて、部隊長候補と謳われた女郎(メス)。ともすれば、未だ統制機関(カレンデュラ)との繋がりがないとも限らんぞえ」


「承知の上ですよ。寧ろ見方を変えれば、部隊長候補(それ)は戦力として申し分ないと言う事ですから」


「…そもそもだぜ?かつて【沼底の魔女】と謳われたアンタが、【音無の閃光】に対する遺憾とか、どの口なんだぜ?」


「そそそ、そういえば忘れてたやん。きゅきゅきゅ、キュイシーヌも、ももも、元は統制機関(カレンデュラ)所属だったやん?」


「ケヒヒ、前に団長に教わったナ。これって確か、同(・)じ(・)穴(・)の(・)ム(・)ジ(・)ナ(・)って言うんだよナ?」


「キシシ、違うゾ兄ぃ。これはきっと、自(・)分(・)を(・)棚(・)に(・)上(・)げ(・)る(・)の方だゾ。だからもっと質(たち)が悪い奴だゾ」


「…おのれ、貴様らぁ。随分と減らず口を…」


「…そこまで、積もる話は後にしてください。先ずは各人、活動の報告をお願いします」


 団長(アスカ)が促すと、団員達は即座に気持ちを切り替え、各自の報告を行う。

 先ずゼルとテールは、引き続き統制機関(カレンデュラ)内部への潜入を模索中。

 続いてセセリは自らの足で稼いだ、戦時下における世界情勢を先ずは報告する。

 そして以降も東奔西走し、情報収集に努める事を約束した。

 またアルデンは旅団内の伝達手段を増やそうと、専用の通信機を試作している最中だ。

 これは団長である明日香から着想を得ており、現代のスマートフォンを模している。

 最後にキュイシーヌは自作した魔封器を幾つかお披露目した。

 何れも漏れなく彼女特製の毒が仕込まれており、掠り傷だけでも致命傷に繋がる。

 尚、今回のメンバー達にはデザイン面が凶悪(エグ)いと不評だったため、一旦はお蔵入りとなった。


「…では最後に私から。つい先ほどの事ですが、私は統制機関(カレンデュラ)西方支部長ヒュージンと交戦しました」


「ううう、嘘やーん!?ももも、もう三人目やーん!?」


「…本当に無茶するんだぜ。だけど、無事って事は仕留めたのかぜ?」


「…いいえ、残念ながら。寧ろ、危うい所を彼女のお陰で命拾いしました」


「ケヒヒ、成程ナ」


「キシシ、納得だゾ。ソイツは団長にとって、命の恩人って訳なんだゾ」


「ええ。もっとも、恩人だからと手拍子で旅団へと迎える訳ではありませんよ。当分は常に私の目に留まる範囲に置き、様子見します」


「コココ、それは何とも見物ぞえ。何せこ奴は、かつて自分を取り巻く全てを台(・)無(・)し(・)にした女郎(メス)。如何に団長とて、手に負えるか…」


「…大丈夫で御座ろう。かつて自分の取り巻く全てを裏(・)切(・)り(・)捨てた、魔女殿の手綱を握れているようで御座るから」


「「あ」」


 ゼルとテールが思わず、素っ頓狂な声を調和させる。

 ナトラルの発言は、キュイシーヌにとって最大の逆鱗だったのだ。

 しかしキュイシーヌの発言もまた、ナトラルにとって最悪の地雷だった。

 結果、何方ともなく、静かに自らの武器を構える。

 そして次の瞬間には、相手に対する凄まじい敵意を放ちながら臨戦態勢を取った。


「あああ、あわわわわーっ!」


「おぉい馬っ鹿!何を二人してマジ切れしてんだぜ!」


 セセリの言う通り、対峙する二人は激昂している。

 互いが最も得意とする五大属性、即ち風と水の属性が肉体から浮き彫りとなっているのだ。

 魔術(そ)の波動は未だ放たれずとも、周囲を震撼させる次元(レベル)。

 かつて統制機関(カレンデュラ)へ正式に身を置き、異名で語られた格を互いに体現している。

 しかしその状況下で、ゼルとテールは別の方向に対して慄いていた。


「双方、鎮まりなさい。旅団内での喧嘩は、ご法度です」


 制止(それ)は麗しくも、強い語気であった。

 そして眼帯と言う、唯一の封を解かれた【簒奪】の魔眼が、対峙する両名へと向けられる。

 魔眼(そ)の紺碧の輝きは、例え味方であろうとも等しく、そして容赦なく弱体化(デバフ)を与えるのだった。

 

「お、ろろ………これは、貴殿の魔眼で御座るか、アスカ殿…」


「ぬ、うっ………よ、止さぬか、団長。これは、喧嘩ではない。た、単なる戯れぞえ…」


「…私は余り冗談が通じないと、貴女ならご存知の筈でしょう?」


「す………済まぬ。どうか、平(ひら)に頼むぞえ…」


「…宜しい。ただし、次はありません。ナトラルさんも、どうか我々の方針をご理解ください」


「しょ、承知で御座る…」


 キュイシーヌの謝罪とナトラルの理解を経たところで、明日香は漸く紺碧の輝きを眼帯で封じた。

 時間にしてほんの数分間ではあるものの、魔眼の効果を受けた二人は既に立っているのがやっとの状態。

 一方の明日香はヒュージンとの戦闘ダメージが消え、ほんの少しながら昇段(レベルアップ)もしている。


「さて、もう他に報告のし忘れはありませんね?ならば、これにて解散とします。次の会合までに、各自の健闘を祈りますよ」


 明日香は全員を見渡しながら言葉を締めくくる。

 同時に団員達は、其々の移動方法であっという間に姿を消した。

 斯くして6番基地(アジト)には明日香とナトラルの二人だけとなる。


「…ナトラルさん。団員達の手前、ああ言いましたが………貴女は基本的に自由です。もし主人の下に帰ると言うなら、ご自由に」


「お気遣い、感謝するで御座る。確かに定期的な連絡の為、外すことはあるで御座ろうが………暫くは、近くで貴殿を見守らせて頂くで御座る」


「心強い限りですが………貴女ほどの実力者を欠いて、帝国側は痛手ではないのですか?」


「心配ご無用で御座るよ。主殿の元には、綺羅星の如く勇士が集っているで御座る。拙(せつ)如きが居らずとも、大局に影響はないで御座ろう」


「…ふふふ、安心しました。相変わらず、あらゆる者達をあらゆる波乱へと巻き込んで………本当に、はた迷惑な男です」


「…やはり、お二人は親しい間柄なので御座るな」


「…まぁ、六年の付き合いですから」


「…アスカ殿。もし良ければ、もっと貴殿の話を聞かせて貰えぬで御座るか?」


「…私の話、ですか?またどうして?」


「見ての通り、拙(せつ)は盲目で御座る。故に繰り返し対話をすることで、諸人との間合いを掴むのが常なので御座るよ」


「…成程。貴女は、私を推し測ろうと言うのですね?そしてあわよくば、私の弱味を掴もうとしている………自分の主の為に」


「おーろろ、それは誤解で御座る。拙(せつ)はただ、貴殿なら主殿の意外な御姿もご存知で御座ろうから…」


「…」


「…あ、あいや実の所?何故(なにゆえ)に貴殿が、統制機関(カレンデュラ)と敵対しているかなど?経緯など諸々に聞いておきたいことがあるのも事実で御座るが…」


「…まぁ、良いでしょう。彼の側近である貴女には、話しておいても良い。少し、長くなりますが…」




此処まで読んでいただき感謝<(_ _)>




拙いですが、もし少しでも楽しんでいただけなら幸いです。




良ければ次回以降も拝読して頂ければ幸い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。