22話目: /魔 息を吸って吐き出すという動作を繰り返し
入浴を終えた京都がベッドの上で涼んでいると、ほどなくしてミリも浴室から出てきた。
こちらが気になるのかチラチラとこちらを伺うものの、見返してみると慌てたように目をそらされてしまい、そのままソファに座ってしまう。
ベッドからはソファに座るミリの背中しか見えず、今ミリがどんな顔をしているのかを京都が知ることができないため、向けられた背中にどんな言葉を書ければいいか考えあぐねていた。
京都にとって性別を間違われること自体は今に始まったことではないが、自分の裸を見せてまでその間違いを正すのは初めてだった。
そもそも京都自身自分の外見が女性っぽいという自覚があり、昔から温泉などの性別の関わる公共施設の利用は避けている。
それらの施設を使用しないのであれば性別を間違えられても何ら問題はなく、日常生活に支障が出ることはなかった。
それでも性別を間違われることは当時の京都にとっては存在の否定であり、以前はは勘違いを防ぐ努力も色々しており、高校入学時の京都は短髪の少年だったりする。
とある事情ですぐにその努力もやめることになったし、生憎と努力を続けたとしても周りからの評価は短髪の少女であったのだが。
「さてと・・・」
いくらミリが気まずさを感じていたとしてもこのまま置いておくわけにはいかない、せっかくの休日であるし出来るだけゆっくり休みたいのだ。
ゆっくりと立ち上がり先ほどまで使っていたドライヤーを手に取る、そしてミリの後ろに移動してその背中に問いかけた。
「髪は乾いた?」
先ほどから意図的に目を逸らし続けていたミリであったが、こうやって声をかけられてしまえば顔を合わせないというわけにはいかない。
実際はやろうと思えばできるのだがミリにとって京都は恩人であり、その恩人に顔を逸らしたまま会話するという失礼な事は出来なかった。
そして顔を突き合せれば必然的に視線が重ってしまい、そのたびに目だけを逸らすミリは見方によっては絶対に使ってはダメと言われる薬を服用しているようにも見える。
「慌てすぎ、少し落ち着いて?」
あまりにもの狼狽ぶりにあきれながら、ミリに深呼吸をするように促す。
京都の指示通り大きく息を吸って吐き出すという動作を繰り返しているミリを観察し、頃合いを見計らってドライヤーを手渡した。
「あの、これは?」
とりあえず受け取っては見たミリではあるが、果たしてこれがなんであるかの見当がつかない。
取っ手らしきものが付いているのはわかるためそこを持っては見るものの、結局使い方なんてわかるはずもなくミリは首をかしげて尋ねるしかない。
「それはドライヤー、髪を乾かす道具だよ。ここがスイッチで、上にあげだら風が出てくる」
わからないであろうことを分かっていた京都は説明がてら実際に電源を入れることにする、スイッチをあげた瞬間鳴り出す大きな音と風にミリは目を見開いた。
ミリの驚く様子が楽しくて、京都はドライヤーから温風が出るよう設定しミリの手に風を当てると、先ほどの挙動不審な様はどこへやら、興味津々といった様子で京都が手に持つドライヤーに視線を注いでいる。
「あたたかいですね。この風で髪を乾かすんですね?」
「正解~。じゃあ乾かしてあげるから、ソファにでも座って」
われたとおりソファに座るミリを確認した京都は自分もベッドに腰掛け、後ろからドライヤーの風を当てなびいた髪に指を差込みすいてゆく。
ドライヤーの風の温もりと京都の手の動きが心地よく、ミリは気が付けば目を閉じてそのぬくもりと優しい手つきを感じていた。
「大体こんなもんかな。どう、自分でも使えそう?」
やがて風がやみ名残惜しさを感じながらミリが振り向くと、先ほどの気まずさを入浴前と変わらない優しい微笑みがあった。
京都にとって裸を見られたことは取立てて気にすることではない、確かにコンプレックスの一つではあるが自分の内側だけで処理できてしまう程度のものだった。
だから多少の気恥ずかしさはあるものの、京都がミリに対して何かを感じることはない。
そのことを京都の態度から察したミリは、そこで初めて安心することができた。
異性の裸を見ることは初めての事で、それはミリの中で異性と男女の営みをする時だと思っていた。
だから男性である京都もそれは同じだと思っていたのだ、自分が裸を見てしまったことで京都が不快な思いをしたかもしれない、それがミリにとって気がかりであった。
だがそれは完全な杞憂であることがわかり、よかったと胸をなでおろすことができた。
「はい、ありがとうございますっ!」
それからは気まずい雰囲気は無くなり、二人でテレビを眺め、時間をつぶして就寝となった。
京都の硬い意思によりミリはベッドで京都はソファで寝ることになる、ミリはベッドに寝そべって自分の髪をそっとなでる。
さきほど、京都が手ずから手入れしてくれた髪。
髪をすく手の感触を思い出して目を閉じる、徐々に微睡に沈んでゆく中、ミリは自分の口の端が上がるのを自覚した。




