19話目: /魔 そして一時の静寂が支配する
「そろそろ場所を変えようか」
ミリが落ち着いた頃合いを見計らい、京都はそんな提案をする。
「実はここ、今は使ってないんだよね」
ミリを運び込んだ場所は元自室である、連れてきたばかりのミリは血塗れであり状況もわからなかったため、隠蔽のしやすいここに連れてくることにした。
辛うじて使える様相を成してはいるものの、この部屋以外はどうしようもない惨状であるため、お世辞にも人が住める環境とは言えないのだ。
立地はというと、現在は使われていない二階建ての一軒家、二階の最奥の部屋である。
ミリの世話をするたびにわざわざ家の外まで出なければいけないという環境は、怪我人を住まわせるにはいささか向いてない。
という説明をミリにはしたもの、実際のところ事あるごと歩きにくい廊下を通ってこの部屋に来るのは京都自身である、はっきり言って御免こうむりたいのが本音だった。
そんなわけでミリが歩けるようになり次第、現自室に連れ込む予定だったため、意識が戻った時点ですでに歩けるというのは、京都にとっては予想外であり好都合でもあった。
早速移動しようと京都は意気揚々と廊下へのドアを開く、後ろから廊下を覗き込んだミリは思わず息をのんだ。
そこにあるのは廊下を埋め尽くすありとあらゆる大量の物体、衣類らしきものもあれば円盤状のものに本や小物、しまいには何かわからないものもある。
そんな大量の物体が床全体を覆い尽くしていたのだ。
「散らかってるでしょ?片付けたいのは山々なんだけど、ちょっと気力がね・・・」
戦慄にも見えるミリの表情を見て、京都は舌をだしながらそんなことを言う。
二之宮京都の実家は、いわばゴミ屋敷と化していた。
散らかってる、で済む問題だろうか?というミリの疑問はもっともであるが、当の京都はこの惨状を気にした様子もなく廊下を歩き、当然のように廊下のものを踏みつけながら、ずいぶんと慣れた足取りで外へと向かう。
何度か足をとられつつも、京都の背中を追って何とか外にでる。
流石に外にまでゴミが溢れ出ていることはなかったものの、すぐ目の前に巨大な箱が鎮座しており、ミリは再び息をのむことになった。
唖然と箱を見上げるミリを横目に、京都は箱の前まで歩き錆びついた扉を開く。
「ここが今の我が家です」
一度自慢げな微笑みを見せた京都は、そのまま箱の中に入っていった。
ミリが見た巨大な箱とは、いわばトレーラー用のコンテナである。
これは何か違うだろうと思いながらも、この世界の知識は先ほど京都に教えてもらったことぐらいしかなく、その京都が我が家と(自慢げに)言い張るならばやはりこれは家なのだろう、そう思うことにして京都に続いて家(箱)に入る。
いざ入ってみると、まず目に入ったのはベッドとソファとテーブルでその奥のには調理場らしきもの、さらに奥には扉があるものの、その扉は閉められておりその奥を見ることはできない。
部屋に仕切りなどはなく先ほどの家よりは狭いものの、整理されているからか広々としている印象がある。
「どう、意外ときれいでしょ?とりあえず、そこのソファにでも座ってて」
「京都さんはここに住んでるんですか?」
促されるままに座るものの、この家が気になって京都に尋ねる。
「今はね。昔はさっきの家にいたんだけど、少し家を空けてたらゴミ屋敷になっちゃってた」
「あの、ご家族の方は住んでなかったんですか・・・?」
「う~ん、ちょっと色々あってね~」
「そうなんですか・・・」
質問事態には答えるものの、京都の返事をミリはそっけなく感じた。
そして一時の静寂が支配する、興味本位で質問したことを後悔するもすでに時は遅く、話題を変えようにもこの空気の中出せる話題が浮かばなかった。
京都が気になってみてみるも、調理場らしき場所で作業をしておりこちらからではその表情はうかがえない。
重く気まずい空気の中、どれほどの時間か俯いていると、横から何かが差し出された。
突然のことに驚くと同時に差し出されたものから、どこか食欲を誘う香りが漂ってくることに気付く。
思わずそれに視線を向けるも、ミリにはそれが何かが理解できず、差し出した本人に助けを求めるような視線を向ける。
「食欲はある?おかゆ作ってみたんだけど」
京都の口ぶりから見るに、どうやら食べ物であることを察するミリ。
すると調理場らしきものはやはり調理場だったのかとミリは納得し、しかし先ほどまでの沈黙の手前、掛けるべき言葉を見つけることができなかった。
「ごめんなさい」
結局考えてもいい言葉は見つからず、京都から目を逸らし辛うじてそれだけを口にする。
「あやまらなくていいよ。さっきの話は気にしてないから、ちょっと返事に困っただけ」
そんなミリの態度に京都は苦笑してなだめる。
実際のところ京都にとって答えづらい質問ではあったのだが、本当に気を悪くするほどのことでもなく、沈黙に関してはただ料理に集中しているだけだった。
「それよりさっきは答えられなくてごめんね。おかゆ作るのに夢中になってた」
むしろ自分のせいでミリをここまで落ち込ませたことを申し訳なく思うほどの余裕もあり、その証明として自分の話をすることにした。
「さっきの話だけどね。最初は家族で暮らしてたんだけど、訳あって二年ぐらい家を空けてたんだ。その間に家族がここに居られなくなっちゃって、久しぶりに帰ってきたら誰もいなくなってた」
あれ、これ話してもむしろ空気が重くなる・・・?
ということに気付いたのは、話を聞いたミリの顔から血の気が失せたのを見たあとだった。
「と~・・・、とはいってもお母さん意外はみんな生きてるし!みんなそのうち帰ってくると思うから!だからそんな顔しないでご飯食べよう、ねっ!?」
あわてて明るい声を出してみるも、ミリはもはや耳をふさぎ目とギュッと瞑っており、こちらの話を意図的に遮断していた。
それから京都はイヤイヤと頭を振るミリをなんとかなだめることに成功した頃には、既におかゆも冷め、電子レンジで温めなおすハメになるのだった。
ちなみに問題なく食事を完食したミリに対し、胸元に風穴があいていたけど食道はどうなっているのだろう?という疑問を抱くが、また墓穴を掘ったらどうしようという思いからそのことに触れるのは控えておいた。
その代わり山下から、スタバのオススメを教えてほしい、という相談メールが届いておりそのメールに答えることにした。
とりあえずココアを推してから、代案として山下の好みそうな味のエスプレッソと割と自分の好きなキャラメルマキアートを提案しておいた。
そして京都もおかゆを食べ始める。
食べながら山下のメールに、エスプレッソはやたら量が少ないということを伝え忘れたことを思い出したが、山下はさして気にもしないだろうと勝手に決めて、おかゆを食べることを優先する京都だった。
義史視点での描写は省きましたが、エスプレッソってなんであんあ小さいカップでくるんでしょうね?
喫茶店でエスプレッソを頼んだ友人が、届いた現物を見て「ファッ!?」とか言ってた記憶があります。




