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そして勇者は世界を知る/やがて魔王は対峙する  作者: るい
現代日本に勇者は必要ですか?/羊と兎と濡れ烏
18/24

18話目: /魔 死刑宣告にも等しい行為の押し付け

少し長いです

 買っておいた飲料水と服を持って部屋に戻ると、ミリは指示通りベッドの上で所在無げに座っていた。

 毛布に包まっているのは寒さのせいだと判断したが、それなら寝てればいいのにと京都は思わないでもない。

 ミリからすれば見知らぬ場所でベッドの上に寝転がされていたのだから、落ち着かないのはしょうがないことなのかもしれないが、残念ながら京都がそのことに気が付くことはない。

 顔に似合わず京都は図太い性格をしている、自分の生死が関わるような状況で遠慮する気は毛頭なく、相手もそれは同じだろうと考えていた。


 「持ってきたから先に服着ようか。肌着もないし使い古しのジャージだけど、替えがないから今はこれで我慢してね」


 そんなことはさておいて京都は服を手渡し、ミリに背を向ける。


 「それじゃあ着替え終わるまで後ろ向いてるから、終わった教えてくださいな」


 ミリの返事を背中に聞いて着替えが終わるのをまつ、しかし、いつまでたってもミリから声がかかることはなかった。

 最初のほうこそ衣擦れの音も聞こえていたが、今はその音もなく、かわりに「クシュンッ」という可愛らしいくしゃみが聞こえた。


 「ミリ?ジャージ着た?」


 「袖は通しましたが、ちょっと前の閉め方がわからなくて・・・」


 気になって尋ねてみると、そんな答えが返ってくる。

 前の締め方がわからない、要するにファスナーの閉め方がわからないということだろう。

 はて、それはどういうことだ?と京都は首をかしげる。

 自分の記憶では、見てもわからないような特殊なファスナーを持ってきたつもりはないし、そもそもそんなものを持っていた記憶もない。


 「下は履いたよね、そっち見るよ」


 締め方がわからない以上、このまま待っていても仕方がないので振り返る。

 下は問題なく着ることはできるだろうし、上も袖を通しているだろうと思い返事はまたなかった。

 振り返った先には当然ジャージ姿のミリがいる、開いたジャージの間から見える胸元には包帯が巻かれており、さらしのようにも見える。

 胸の中央に傷があり、本来胸元に包帯を巻いても傷口を抑えることはできないのだが、なんというべきかミリの発育はあまりよろしくない。

 そのおかげで迅速に処置ができたのだが、はたして喜ぶべきか哀れむべきか判断に困る京都であった。


 ミリはジャージの前を閉めようと悪戦苦闘しており、今は片手にプラーを手に持って逆側のファスナーに合わせようとしている。

 やや小柄な見た目と相まって、寝ぼけながら着替えるJKのようだと思った。

 もちろんJKの着替えなど見たことはない、ただのイメージである。


 ファスナーを閉めるのにプラーを使うのだと思っているようで、そこまでは正解なのだが、どうすれば閉まるのかまではわからないらしい。

 昨日脱がせた服もどこか前時代的なものだったことを思い出した京都は、もしかして生活レベルも前時代的なものだったのではないかと思ってしまう。

 その答えはあとで聞くとして、京都は手を貸すことにする。


 「ちょっと貸して。これはファスナーっていって、こうやって開け閉めすればいいよ」


 そういってミリに見えるようにしながら、ジャージのファスナーを上げる。


 「この引手をプラーっていって、上下に動かせば開き具合の調節もできるよ」


 「そうなんですか。便利ですね」


 ファスナーを閉めながら説明すると、ミリはえらく感心していた。


 「こういう服あんまり来たことない?割とあると思うんだけど」


 「見たことないです・・・。それどころかもしかしたら、京都さんが常識だと思っていることもわからないかもしれません」


 京都が問いかけるとミリはそういって目を伏せた。

 とりあえずこれは話を聞くにも細かい話をする必要がありそうだ、そう思った京都はとりあえずミリに水を差し出す。


 「じゃあとりあえずその話でも聞かせてもらえる?話せるだけでいいし。でもその前に水でも飲んで一息つこうか、喉乾いてるでしょ?」


 話は聞かないといけないが、だからと言って急ぐ必要もないのだ。

 だったらミリの体調を整えてからのほうがいいと京都は判断したのだった。






 「それじゃあミリは異世界から来たってこと?」


 二人がかりとはいえ1リットルほどの水をあっさりと飲み切ったミリであるが、いざ話を始めると存外にトンデモな内容が飛び出してきた。


 話によるとミリは異世界から来たらしい、その世界は魔法などが存在するためこちらの世界ほど技術が進んでいないようで、水を入れていたペットボトルにかなり驚いていた。

 そして勇者と魔王が存在し魔王が世界を支配しようと目論んでおり、それを勇者が止めるという戦いが長い間続いているそうだ。


 さらにはミリは異世界での魔王だったそうだ。

 聞いたときは思わず後ずさった京都だったが、詳しく話を聞くと元は普通の魔族だったらしい。

 話を聞きながら魔族ってなんぞ?疑問に思った京都が質問すると「いくつかある人間の種族です」との答えが帰ってきた。

 人間の種って外人以外にもあったんだ・・・、と思わないでもなかったが、実際に角の生えたミリに言われると頷くしかった。


 話をもどすと、もともと普通の魔族だったミリは、ある時突然自分の中に何かが入ってくる感覚に襲われたそうだ。

 その日以降不意に意識がなくなることがあり、自分の知らないところで自分が感知しないことが起こるようになったそうだ。

 最初は数時間程度だったが、徐々に意識のない時間は長くなり、やがてミリの意識は完全に沈むことになった。

 沈んだ意識の中、薄らと自分でない自分の行いがわかり、その時にミリは自分が魔王として動いている事を知ったそうだ。

 そのまま長い時間をすごしていたミリだが、最後には勇者に剣で刺され、気が付いたらここにいたらしい。


 「なんか壮大な話になってきたなぁ・・・」


 話が壮大すぎて、信憑性を判断するのは早々に諦めている。

 京都は常識が音を立てて崩れていくのを聞きつつ、ミリの傷は勇者につけられたものだろうと判断した。


 「・・・やっぱり気味が悪いですよね」


 いまだ自分の常識に追い付かず、話を整理していた京都をどう思ったのか、ミリは顔を俯かせてそう呟いた。


 「え、なんで?」


 一方京都はそんな声をあげると共に、首を横に傾けた。

 ミリの世界で魔王というものは絶対的な悪であり、ミリがそう思うのは仕方のないことだろう。

 しかし京都は魔法なんて無縁の世界で生きてきた、文字通り住んでる世界が違うのだ。

 そもそもの話異世界での常識など知らないし、いまだに実感なんて沸くはずがない。


 「なんでって・・・、私は魔王だったのです。私自身の意志ではありませんが、またいつ意識を奪われるかわからないんですよ?」


 「多分それはないと思うよ。ずっと意識がなかったミリが今ここにいるんだし、魔王がいるならミリの意識は戻らなかったんじゃないかな」


 「それでも確証はありません。助けていただいたことは感謝いたしますが、このままだと恩をあだで返すことになってしまうかもしれません」


 「・・・それは追い出せってこと?」


 「はい。その方が京都さんの為にもなります」


 「じゃあ、お断りします」


 自分を追い出せ。

 それを肯定するミリは、自分の声が震えていることを知っていた。

 今のミリを一人外に出すということは、いわゆる死刑宣告にも等しい行為の押し付けに他ならない。

 魔族の、という注釈は入るものの、もとはただの人間なうえ、手傷まで追っている。

 自分でもなぜ生きているのかわからないほどの傷だが、それでもこれから生き残るすべなど、思い当たる余地もない。


 ただそれでもと、これ以上恩人に迷惑をかけたくない一心で口をついた言葉。

 そしてその言葉まで、すげなく却下されたのだった。

 ミリは押し黙り、なぜ?という視線を京都に向ける。


 「そもそも助けた時点である程度の面倒事は覚悟してたよ。だって、角の生えた女の子なんてこの世界にいないし」


 そんなある種恨みがましい視線を向けられた京都は、一度軽く息を吐いて話し始めた。


 「それでもこうやって助けた以上、今さら出て行けなんて言うつもりもないし、それに何より・・・」


 ミリは押し黙って聞いている。俯きがちではあるものの、それでも目線はこちらを向いていた。

 そんなミリの頭に手を置いて、京都は続ける。


 「震える女の子を前にして、出て行けなんて言えないかな」


 言い終えて、頭の手を優しく動かす。

 撫でられているミリはと言えば、呆けた顔でされるがままになっていた。

 だがその顔は徐々に歪み、その眼には滴が溜る。


 「どうなっても、知りませんからね」


 そして一言だけが口からこぼれ、静かに涙をこぼした。


 そんなミリを見ていた京都はというと、撫でる手を止めず優しく微笑んでいるが、内心では冷や汗をかいていたりする。

 京都の言うことは本心であるし、本心が大半を占めてはいたものの、実はそれ以外に思うこともあったのだ。

 一度ミリを助けた以上、この部屋には痕跡が残る。

 もしミリを放り出したとしてもミリが公の場所に出てしまった場合、いづれはここにいた痕跡が露呈する可能性が高いのだ、この国の警察機関の調査能力を舐めてはいけない。

 その場合、ミリがどのような状態で発見されるかによって自分の扱いが変わるのだが、どのような状態であろうとも京都に同情的な目を向ける者は少ないだろう。

 ならばこのまま匿っていた方が自分にとっては都合がいい、そんな打算もあったのだ。


 もちろんその話もするつもりであったし、むしろそれを本心の照れ隠しとして出そうと考えていた京都だが、まさかさっきの言葉で泣かれるとは思っておらず、話を続けるタイミングを完全に逃していた。

 悟られないよう変わらぬ笑顔でミリを撫でつつ、どうすればミリが泣き止むかに思考を裂き、しかしすぐに諦めることにした。

 こういう時はそっとしておくと相場が決まっているのだ、だがその前に最後に一言だけ声に出す。


 「まあとりあえず、これからよろしくってことで」


 その声に言葉が返ってくることはない、それでも何度もうなずくミリを見て、京都はそれを返事代わりに受け取って、頭をなで続けるのだった。


一話ごとの文字数が安定しませんね・・・、まだまだ精進します。

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