14話目: 勇/ この生き物はこの世界での頂点に君臨している
「私は魔王の魔力がわかるんだ」というのがリリィの言だったし、だから黙って後ろについて歩いていたが、それにしては一向に魔王らしきものには遭遇しなかった。
それが気になって確認してみると、本当に魔王の魔力はわかるらしいがそれもある程度近づけばの話だそうだ。
ちなみに感知できる距離は1kmぐらい、だから街を歩き回っていたのも特にあてがあったわけでもないらしい。
どのみち虱潰しに探して回っていたわけだが、その結論として周囲にいないと分かったことは喜ぶべきなのか、それとも遠くに拠点を構えた可能性を考えて心配するべきなのか判断に困るところだ。
いわば手がかりなしの状態であるが、だからと言って何度も同じ場所を歩き回っても意味はないし、遠出するには時間も準備も足りない。
交通機関を利用しようにも電車とバスは時間的に無理だし、タクシーに乗ろうものなら死んでしまう。
俺の財布が・・・。
移動手段で思い出したが、昨日リリィにはこの世界のことを話してある。
時間的に常識的なことだけだが、その時に車の話題が出てきた。
車が移動手段だと聞いたときはかなり驚いていたが、リリィが車を見た時に抱いた感想を聞いて俺も驚いた。
リリィは車を見て巨大な昆虫だと思ったらしい、確かに独特の光沢がタマムシなどの甲冑に見えなくもない。
少し観察してすぐに人間が乗っていることに気が付いたらしいが、それでも見た瞬間にこの生き物はこの世界での頂点に君臨しているのではないか、とまで思い戦慄したらしい。
勇者を戦慄させるこの世界の化学ってスゲーなんて思いながら、絵面を見るとシュール過ぎて爆笑したのはいい思い出。
そして爆笑しすぎて少しの間、リリィがいじけたのは悲しい思い出である。
さて、話をもどそう。
遠出できないならこれ以上街を歩いても仕方ない、俺とリリィは探索を切り上げて帰宅していた。
帰ったらすでに母君により夕食の準備ができており、俺たちはすぐに食卓に着くことになった。
ちなみに親父は仕事で遅いのでまだ帰っていない、死んだ目で働いてなければいいが・・・。
「今日の晩飯はなんだ?」
「今日は肉じゃがよ~」
「おふくろの味代表の肉じゃがですか」
「私の味代表の肉じゃがですよ~、よそってくるから待っててね」
「私になにか手伝えることはないだろうか?」
「あらありがとう、じゃあ一緒に来てね」
夕飯の盛り付けに向かった母君を追ってリリィもキッチンに向かう、居候二日目にしてすでにこの家になじみつつあるらしい。
それにしても母君がいった私の味というセリフだが、発言したのが母君じゃなかったら結構なエロス発言だと思うのはおれだけだろうか。
はっ、まさか母君は欲求不満・・・?夜な夜な火照る体を一人なぐさめているのか?
いや、ねーよ、俺じゃあるまいし。
そして男は年中欲求不満みたいなもんだし、俺はしょうがない。
だから昨日リリィを意識して眠れなかったのも欲求不満のせいだ、え?俺が童貞だからだって?ですよね~、ははワロス、・・・ワロス(涙)。
「またせたな、量はこのくらいでいいか?」
童貞のくだりで一人百面相をしていたら、いつの間にかリリィと母君が戻ってきていた。
「大丈夫だ、ありがとう。それじゃあ親父はまだだが、先にいただきますか」
俺の宣言に、全員が席に着き手を合わせる。
「「「いただきます」」」
そしてこの国特有の挨拶をして、夕食は始まった。
ちなみに俺と母君は箸を使っているが、リリィはスプーンとフォークを使っている。
昨日、今日と練習させてみたがどうも使えないらしい、辛うじて箸で物をつかむことはできるようにはなったのだが、それでも時間がかかるうえに重たいものを持つとすぐに落としてしまう。
リリィは俺たちと同じ道具が使えないことを悔しがっていたが、箸なんていうものが特殊なだけなので別に問題ないともう。
俺自身、なんで箸の利点がわからん。
俺は考え事をしていたせいで、いつの間にかリリィの方を見ていたらしい。
リリィは少しだけ目を伏せて、口を開いた。
「私だけ箸が使えないというのは、やはり見苦しいだろうか?」
「ああ、悪い。考え事をしてただけだ。箸はおれも使えるようになるまで相当時間かかったはずだし、使えないのはしょうがないことだよ」
「そういってくれるといくらか気が楽になるな」
「そうよ~、義史なんて箸どころかスプーンを持つことにも一か月かかったわよ」
「いやいや、いくら俺がガキの頃でもスプーン持つのに一月は掛からんだろ」
「かかったわよ、だってあなた意地でもスプーンを持とうとしないんだもの。もうね、食べさせてくれないなら俺は何もいらない、ていう気迫すら感じたわ」
「その節はまことにご迷惑をおかけしました・・・」
母君の話を聞いて俺は素直に頭を下げることにした、記憶にないとはいえ昔の俺何やってんの・・・。
「まあ二日ぐらい何も食べさせなかったら、自分からスプーン持つようになったんだけどね~」
「母君それネグレクト!ネグレクトだからね!?」
そしてたった二日で曲がる俺の意地、弱すぎることこの上ない。
これ以上この話題が続くと、俺の心が折れてしまいかねないので俺は話をそらすのだった。
会話が多いと一日が長くなりますね、ですが人間というものはしゃべる生き物ですし仕方ないですよね。




