第9章:レベル3 ― 幽霊船とコード・トロール ~支離滅裂なマップ移動と、開発者の中指が描かれた収集品~
ショッピングモールの地下駐車場から新しいシナリオへの移行は、唐突であると同時に残忍だった。黒いロード画面もなければ、ピクセル化するトランジション(切り替え効果)もない。まばたきひとつする間に鉄筋コンクリートの壁が消え去り、ヴィンテージのキャンピングカーは放棄された巨大な船の腐った木製甲板の上に激しい金属音を立てて着地した。ガレージの淀んだ空気は、潮風と錆の匂い、そして腐りかけの海藻の悪臭を含んだ凍てつく突風へと瞬時に置き換わった。夜空は黒い雲の深淵であり、そこから血の色をしたデジタルの月のいつもの不気味な光が差し込んでいる。船体に打ち寄せる嵐の海の轟音は耳をつんざくほどだった。
エリアスは冷たいハンドルに両手を張り付かせたまま、運転席に座り続けていた。叫びもしなければ、身震いすらしない。この背景変更のあまりの馬鹿馬鹿しさが、彼から純粋な驚きを完全に奪い去っていたのだ。宇宙ホラー、ジャングル、下水トンネル、そして今度は幽霊貨物船。レベルデザインは、無作為に放り込まれたアセットのごった煮だった。
「このストーリー皆無のクソゲーじゃ、もはや何を見ても驚かねえよ……」骨の髄まで染み込む慢性的な疲労と皮肉が混じった声で、エリアスは呟いた。キャンピングカーの擦り切れた背もたれに身を預け、塩がこびりついたフロントガラスを見つめる。「いいストーリーがないクソゲーは本当に反吐が出るぜ。4年前にお前らのゲームを誰も買わなかった理由も、まさにそこにあるんじゃないのか? 本物のゲーマーってのはバグやグリッチが好きなんだよ。それをネタにミームを作ったり、RTAで壊したりして楽しむんだ……もしゲームが売れなかったとしたら、それは間違いなくこのゴミと全く同じで『ストーリーがクソだったから』に決まってる」
目に見えない開発者たちに向かって声に出して悪態をつくことが、彼にとって唯一のストレス発散になっていた。どこかでAIか、あるいは彼を監視している誰かが聞いていることを願っていた。
気を取り直し、車内の調査を開始した。サバイバルホラーの鉄則は、先へ進む前にすべての安全地帯で物資を探すことだ。虫食いだらけの引き出し、座席の下、そして電源の切れた小さな冷蔵庫の中を漁る。まさにその中、空のパッケージと粗悪にレンダリングされたゴミの間に、小さな紙パックを見つけた。『リンゴジュース』だ。
ラベルはなく、見慣れた緑がかった微かな輝きだけを放っている。エリアスはストローを外し、銀紙に穴を開けて一気に飲み干した。化学薬品とピクセルの味がしたが、効果は瞬時に現れた。液状の温もりが胸に広がり、左上のHUDで灰色のハートが1つ赤く満たされた。
【体力:5/6】
「幸先のいいスタートみたいだな」肋骨の痛みがさらに和らぐのを感じながら、彼はため息をついた。
だが、自分が状況をコントロールできているという幻想は、キャンピングカーから出るためにドアハンドルを押した瞬間に粉々に砕け散った。
片足が木製の甲板に触れた途端、HUDのインターフェースが消え去り、視界の上下から分厚い2本の黒い帯が降りてきたのだ。
『カットシーン(イベントムービー)』だ。
エリアスはベレッタを抜こうとしたが、筋肉が反応しなかった。ゲームが彼の肉体の制御権を奪ったのだ。錆びたコンテナの後ろから、3体のグロテスクな人影が現れた。軍人――少なくとも擦り切れた迷彩服を着ていたが、その肉体は解剖学的な悪夢だった。完全に肉が削ぎ落とされた『骸骨』でありながら、骨の胸郭の内部では血まみれの内臓――肺、心臓、そして腸が丸見えのまま脈打って浮遊しており、頭蓋骨の上部が切り取られた頭の中には粘り気のある緑がかった脳みそが輝いていたのだ。
頭の中でどう分類していいかすらわからなかった。3体は超人的な怪力で彼を掴み上げた。イベントシーンのスクリプトのせいで、彼のアバターは一切抵抗しない。そのまま船の暗い奥底へと引きずり下ろされ、最後には錆びた鉄格子の牢獄の中へと荒々しく放り込まれた。
軍人スケルトンの1体が、見張りとして独房の鉄格子の前に立った。すると、オールドスクールで純粋に間抜けなAIの見本のような挙動で、怪物は頭蓋骨を垂れ、喉の奥から唸り声を漏らすと「立ったまま居眠り」を始めたのだ。さらに酷いことに、独房の扉に鍵すら掛けておらず、ただ軽く閉めただけだった。
カットシーンの黒い帯が消え、操作権がエリアスへと戻った。
(さて、どうやって始めるべきかな?)仮想の手首をさすりながら彼は考えた。わずか1メートル先に、居眠りしているスケルトンがいる。銃弾を節約するために重いパイプレンチを抜いて頭蓋骨を叩き割るのが本能的な正解だったが、頑固で好奇心旺盛なエリアスはあることを試してみたくなった。コードをテストしたかったのだ。
「おい!」鉄格子を拳でガンガンと叩きながら、エリアスは大声で叫んだ。「居眠りしてんじゃねえよ! 独房の鍵すら閉めてないぞ、このマヌケ!」
怪物はピクリとも動かなかった。存在しない呼吸のリズムに合わせて緑色の脳みそを脈打たせながら、睡眠アニメーションが何事もなかったかのようにループ再生され続けている。
「駄目か」エリアスは失望して呟いた。「ステルスイベントの順序を壊したご褒美に、隠しアイテム(イースターエッグ)か隠し会話でも出るかと期待したんだがな……」
迷うことなくパイプレンチを握りしめ、独房から一歩踏み出すと、眠っている怪物の頭蓋骨に向かって壊滅的な一撃を直接振り下ろした。
バキッ!
鈍器は一撃で頭部を粉砕した。スタン(気絶)アニメーションすら入らず、即死だった。骨の肉体が崩れ落ち、黒いピクセルの雲となって消滅する。
「上出来だ」エリアスは確認した。この基本雑魚に対して、パイプレンチは一撃必殺の武器として機能する。
監禁ブロックの他の独房も素早く調べたが、いつものように何ひとつなかった。環境アイテムもゼロなら、スケルトンからのドロップ品もゼロだ。
トタン板の回廊へと続く牢獄の金属扉から慎重に顔を覗かせる。2体のスケルトンがパトロールしていた。ミリ秒単位で正確なタイミングと一定の間隔で振り返りながら、馬鹿げた移動ルート(パスファインディング)で行ったり来たりを繰り返している。初心者向けのステルスパズルだった。
エリアスは時間を無駄にしなかった。パターンを計算して隠れ場所から滑り出ると、1体目の頭蓋骨にパイプレンチを振り下ろした。バキッ。すぐさま振り返り、2体目の不器用な攻撃をかわしてそいつの頭も粉砕した。
消費弾数ゼロ。だが、相変わらずドロップ品もゼロだ。
唯一進める道に沿って前進する。重い気密扉を開けると、分岐点に出た。金属製の階段の1つは船の腹の底へと下りており、もう1つは上層のデッキへと登っている。その真ん中の壁に打ち付けられた、血で描かれたグロテスクな看板にはこう書かれていた。
『上 = 簡単(EASY) / 下 = 困難(HARD)』
「考えるまでもなく『上』へ行くぞ」エリアスは声に出して言った。このゲームの適応型AIを相手に、英雄気取りで「困難」な道を選ぶことは、死の罠の中で何時間もの寿命を奪われることを意味するだけだ。
パチパチと音を立てるネオンに照らされ、何十もの船室が並ぶ長い回廊に出た。人影はまったくない。完全な虚無だ。
時間の不安が再び彼に噛みついた。右上へと視線を投げる。
【大脳皮質崩壊まで:01:43:09】
「動かないと、時間は無限じゃないんだ」唸りながら走り出した。回廊を疾走しながら、すべての扉のノブを押してみる。どれひとつとして開かない。すべてダミー――壁に貼り付けられた単なるテクスチャだった。唯一干渉できる扉は一番奥にある、『艦橋(ブリッジ/司令室)』へと続く扉だけだった。
扉を大きく蹴り開け、操舵室へと突入した。巨大なガラス窓から黒い海が見渡せる。その時、ブリッジのノイズ混じりのスピーカーから自動放送が流れ始めた。
『船長がキャンピングカーで逃走中……彼を止めろ!』
エリアスはまばたきをし、窓の外を見た。信じられないという目で船の下層デッキを見下ろす――船長(擦り切れた帽子をかぶったスケルトンの3Dモデル)が、まるで海面がアスファルトであるかのように彼の白いキャンピングカーでデッキの上を文字通りドリフトしながら外洋へと飛び出しており、その後ろから十数体の骨の兵士たちが無意味に銃を乱射していたのだ。
シュールすぎる狂気の光景だった。
「見る価値もねえな」首を横に振り、ガラス窓に背を向けてエリアスは自らに課した。鉄則だ――背景イベントに決して気を取られるな、タイマーを消費させるための罠だ。「探すぞ」
航行コンソールや海図テーブルの間を漁る。汚れがこびりついた海図の山の下から、必要なものを見つけた。『下層デッキ・アクセス権』と書かれた磁気式の電子カードキーだ。
(よし、今のところは順調みたいだな)カードをポケットに収めながら考えた。(もし最初の分岐点で『困難』な下を選んでいたら、間違いなくロックされた扉に行き当たって、引き返すのに大量の時間を浪費させられていたはずだ。『簡単』を選んで正解だった。さあ、下へ戻ろう)
司令室を出て、回廊を走って引き返した。だが分岐点の扉まで戻って開けた瞬間、彼は石のように固まった。
さっきは下へと降りていたはずの階段が……今度は明確に「上」へと向かっていたのだ。彼が見ていない間に、ステージの幾何学構造が書き換わっていた。船の腹へと続く階段吹き抜けはもはや存在しなかった。
(一種の幽霊船ギミックってわけか)意図的なグリッチに足止めされないよう割り切り、ゲームエンジンによって強制された唯一のルートに沿って先へと進んだ。
いくつもの隔壁を通り抜け、ついにユニークな敵と鉢合わせた。他の連中よりもはるかに巨大で、重装甲をまとったスケルトンだ。エリアスは反射的にショットガンを構えた。
「頭にショットガンを……いや、待てよ」
物資は不足している。ボスでもない雑魚敵相手に使うには、ショットガンの弾はあまりにも貴重すぎた。
ベレッタを抜く。露出した脚の関節に素早く照準を合わせ、単発で1発撃ち込んだ。パスッ。
銃弾が骨を砕いた。巨人は麻痺して地面へと重く崩れ落ちた。エリアスは素早く駆け寄り、パイプレンチを抜いて脈打つ緑色の脳みそへと壊滅的な一撃を直接振り下ろした。怪物は瞬時に消滅した。
銃弾や回復アイテムの代わりに、巨人は折りたたまれた小さな紙切れをドロップした。
拾い上げると、インターフェースにこう表示された。【コレクタブル(収集品) No.1】。
「デスゲームにやり込み用の収集アイテムまであるのかよ?」呆れ果ててエリアスは吐き捨てた。「しかも、なんで道中で出くわす普通の雑魚敵にドロップさせるんだ?」
生存に不可欠な暗号かパスワードでも書かれているのではないかと期待し、メモを開いて読んだ。
そこにはこう書かれていた。『すべては遠い昔に始まった……[かすれて判読不能]……船が……[かすれて判読不能]』。
エリアスは困惑して眉をひそめ、紙を裏返した。
裏面には、黒いペンで子供っぽいタッチの「巨大な中指」の絵が描かれていた。
煽り(トロール)だ。プログラマーからの直接的な挑発だった。
「こんなクソみたいな紙切れを読ませるために、俺の貴重な時間を浪費させやがって……」エリアスは鼻を鳴らした。それでも、生まれつきのコンプリート主義者としての性が勝った。閲覧インターフェースを閉じ、その紙をデジタルインベントリの中へと丁寧にしまい込んだ。何が起きるかわからないからだ。
再び行軍を開始し、ついに『機関室』へと降りた。内部の熱気は息が詰まるほどだった。錆びた巨大な配管とボイラーの間を体系的に探し始める。半分外れかけた格子の後ろで、ショットガン用の極めて貴重な赤いシェルを「2発」見つけた。
それをポケットに収める。続けて、ロックされた金属製の接続箱に気づいた。パイプレンチを使ってこじ開ける。中には奇妙なアイテムが入っていた――燃料を染み込ませたボロ布が巻かれた、太い木の棒だ。
【新規アイテム ― 近接武器:松明】
コマンドひとつでいつでも点火・消火が可能だとHUDが知らせた。試してみると、手のひらの中で明るくパチパチと音を立てる炎が灯った。
(炎が弱点の敵を燃やすためか、あるいは別のギミック用かもな)推測し、クイックインベントリにセットしていつでも使えるようにした。
機関室から外へと続く重い気密扉を開ける。次の部屋は巨大な船倉の倉庫だった。
そこでは「9体」の軍人スケルトンが彼を待ち構えていた。
今回、AIはパラメータを劇的に変更していた。さっきの連中よりも信じられないほど速く、射線を避けるためにダッシュやジグザグ移動を繰り返し、ヒットボックスの基本ルールを破壊するような奇妙で予測不能な動きをしていたのだ。
これほど素早い群れ相手にパイプレンチでは太刀打ちできないことはわかっていた。ベレッタを両手で構える。ヘッドショットは狙わない、頭蓋骨の動きがあまりにもカオスすぎる。彼は最も大きく無防備な標的――剥き出しの内臓、特に胸郭の中で脈打つ「心臓」を狙うことに決めた。
撃つ。そして距離を保つために狂ったように後退しながら撃ち続けた。
弾は命中していたが、敵の不規則な動きのせいで何発も外れた。やがて9体目のスケルトンが床の上で粉々に砕け散って倒れた。
冷や汗をかきながらマガジンを確認する。9体の雑魚を処理するために、ベレッタの弾を「12発」も消費させられていた。
有益なドロップ品を期待して奴らが死んだ場所へと歩み寄る。地面には「9枚の紙切れ」が落ちていた。
拾い上げる。9個の忌々しいコレクタブルだった。確認のために1枚ずつ開いてみる。すべて全く同じ内容で、すべての裏面に巨大な中指が描かれていた。
「マジで何の意味もねえぞ、これ……」血圧が急上昇するのを感じながら、彼は吐き捨てた。「読む気もしないね。俺のタイマーを削るためのもうひとつのクソみたいな煽り(トロール)だ」
それでも自らの本能に忠実に、彼はそれらを捨てなかった。最初の1枚の隣、インベントリの中に綺麗に重ねて収納する。(もしかしたら最後に、このゴミを高値で買い取ってくれる商人がいるかもしれないからな)
次の扉を開ける。
完全かつ絶対的に空っぽの、四角い部屋に入った。目に見える扉もなければ、窓も、木箱もない。絶対的な虚無だ。
右下の壁に、血で描かれたたった一文のメッセージがあった。『炎のみが地獄への扉を開く』。
エリアスは銃をホルスターに戻し、新しい木の松明を取り出して火をつけた。
【大脳皮質崩壊まで:01:28:25】
タイマーが容赦なく時を刻む。「俺の時間を無駄にさせるんじゃねえぞ、クソゲーが」彼は唸った。
たっぷり2分間かけて部屋を調べた。命の2分間が文字通り燃やされる。コレクタブルの紙切れに火をつけるのか? いや、あれはインベントリに入れたままだし手放したくない。パズルの論理は何だ?
壁の文字へと歩み寄る。『炎のみが』。
エリアスはパチパチと燃える松明を掲げ、血で描かれた文字に炎を直接押し当てた。すると即座に、デジタル化された血に火がついたのだ。炎が壁に沿って走り、巨大な長方形のポータルの赤熱する輪郭を描き出した。油圧のきしみ音と共に、頑丈な金属の壁が真っ二つに割れ、左右へとスライドして開いた。地獄への道が開かれ、手元には貴重で無意味なコレクタブルがそのまま残った。
敷居を跨ぎ、下り坂になって深く沈み込んでいく暗い回廊を進んだ。当然ながら、ケチなAIの本性に忠実に、道中には回収できるものは文字通り何ひとつなかった。
回廊はついに超巨大な円形の部屋へと出た。金属の壁は、床の格子の下を流れるデジタルな溶岩によって照らし出されている。『ボス戦のアリーナ』だ。
鈍い轟音が構造全体を震わせた。暗い天井から、彼のすぐ目の前に巨大な骨格の怪物が落下して着地した――引き裂かれた巨大な翼、鞭のように長い尻尾、そして胸郭の内部にいつもの脈打つ内臓のコアを備えた『骨の悪魔』だった。
エリアスはサプレッサー付きの銃を構え、死闘に備えた。
--- インベントリ確認(レベル3・ボスアリーナ突入時点) ---
【銃火器】
・サプレッサー付き9mmベレッタ:残り9発
・ショットガン(12ゲージ):残り6発
【遠距離/近接武器】
・骨の弓:Zウイルス付きの矢・残り3本
・タクティカルナイフ:1本
・大型パイプレンチ:1本
・木の松明:1本(コマンドで点火/消火可能)
【投擲武器/戦術ツール/防具】
・パルス・ディフェンス:残り5チャージ
・閃光弾:残り1個
・電池式懐中電灯:1個(ケブラーにガムテープで固定中)
【衣装/アーマー】
・ケブラー製防弾チョッキ:装備中
・宇宙服:コマンドでいつでも装備可能
【収集品】
・煽りメモ(トロール・ノート):10枚
【体力・ステータス】
・ハート:5/6
・精神状態:ゲームの仕様に嫌悪感を抱き、開発者の煽りに激怒しているが、サバイバルモードに完全集中している状態
・所持通貨(残り寿命):01:26:25(2分間のパズル推理後)




