第6章:レベル2 ― 破られたルール ~レンチの『スタンハメ』とシーケンスブレイクで巨大呪術師を撃破する~
肋骨の刺すような痛みは落下の事実を絶えず無慈悲に思い知らせていたが、エリアスに立ち止まる余裕はなかった。回復用のココナッツウォーターの化学的でピリピリする味がまだ舌に残っており、生命維持パラメータをハート6個中4個に保っていた。生きてはいるが、ミスの許容範囲は劇的に狭まっている。村の最初の小屋の外壁に身を張り付け、中央の巨大な焚き火が投げかける踊るような影の中に自らの姿を隠した。
脇腹の痛みを無視しようとゆっくり呼吸しながら、純粋なステルスモードへと入る。計算高い頭脳がエリアのマッピングを開始した――小屋は全部で7棟、焚き火を囲むように半円状に並んでいる。編まれた藁の壁に映る影から、6人の食人族がいることがわかった。
しかし、奴らの挙動には何か根本的におかしな点があった。
エリアスは小屋の角から覗き込んだ。敵はパトロール(巡回)していなかった。肉を解体しているのでもなければ、休んでいるのでもない。グロテスクでカクカクとした動きで、狂乱した支離滅裂な部族のダンスのようなものを踊っていたのだ。肉体がねじれ、頭が何の論理的なパターンもなく左右へと激しく揺れ動いている。
(見張りの悲鳴か)エリアスは歯を食いしばって推測した。(死ぬ時は無音だったが、最初の金切り声がキャンプ全体の敵視状態を変えたんだ。AIが奴らを警戒状態に移行させたが、俺に対する視覚的な射線が通っていないせいで、不規則な警戒アニメーションのループに入っているんだ)
ゲームはあからさまに彼をからかっていた。背中から『骨の弓』を抜き、唯一の矢をつがえる。一番近くにいる食人族に照準を合わせたが、苛立ちの唸り声を上げてすぐに武器を下ろした。
ほぼすべてのビデオゲームにおいて、装甲された敵や高HPの敵に対する胴体への矢は確殺にはならない。ヘッドショットか、最低でも心臓への直撃が必要だ。だが、あの狂った予測不能なモーション(ムーブセット)のせいで、怪物の頭部の当たり判定が毎秒50センチも移動していた。あんな標的に対して唯一の矢を賭けるのは、数学的に受け入れられないギャンブルだった。
矢をベルトに戻し、他の選択肢を検討する。ベレッタか? 最初の1体を撃てば村全体をおびき寄せてしまう。後ろの渓谷まで走ってチョークポイントを使い、1体ずつ撃ち倒すこともできるが、何発の弾丸を浪費することになる? 10発か? 15発か? そんな余裕はない。
残るはタクティカルナイフだ。だが、この近接武器のキルタイム(TTK)が「頭部への標準化された打撃5回」であることはよくわかっていた。5回分のアニメーションを再生している間に、怪物が悲鳴を上げて仲間全員に知らせる時間はたっぷりある。
その時、ひらめきが訪れた。オールドスクールなゲームデザインの論理の閃光が、彼の脳裏を照らし出したのだ。
「もしパイプレンチが『強攻撃』扱いだとしたら?」右手で配管工の重い工具を抜き、左手にタクティカルナイフを構えながら、彼は自分に囁いた。「サバイバルホラーにおいて、鈍器は刃物よりも秒間ダメージ(DPS)では劣るが、極めて高い体勢崩し(スタッガー/スタン)性能を持っているものだ」
試してみる価値はあった。最悪の場合でも、AIが敵対行動で反応する前に2発は叩き込めるはずだ。最高の結果になれば、貴重な銃弾を節約できる。
食人族が背を向け、ねじれた部族のダンスに夢中になっている瞬間を突き、エリアスは影から滑り出た。完全な無音で2メートルの距離を詰める。かかとを軸にして重いパイプレンチを振り上げ、怪物の頭蓋骨の付け根に向かって壊滅的な一撃を振り下ろした。
ゴァン!
濡れた木材を鉄で殴ったような鈍い音が響いた。食人族は死ななかったが、エリアスの仮説は外科的なまでの正確さで的中した。怪物がピタリと動きを止め、両腕をだらりと垂らし、頭をぐらつかせたのだ。深い『スタン(気絶)状態』に入った。
エリアスは1ミリ秒も無駄にしなかった。ストラップで手首にぶら下がるようにパイプレンチから手を離すと、左手のタクティカルナイフで気絶した敵のこめかみへ超高速の致死的な4連撃を叩き込んだ。
1、2、3、4。
食人族はくぐもった喘ぎ声を漏らして地面に崩れ落ち、床に触れるより先に黒いピクセルの雲となって消滅した。
物音ひとつしない。警報も鳴らない。そして何より、消費した銃弾はゼロだ。
「方程式は解けたな」冷たい笑みを浮かべてエリアスは囁いた。「パイプレンチはナイフ1回分のダメージを与えつつ、スタン効果を付与する仕様だ」
予想通り、敵のデジタルな残骸からは何のドロップ品も出なかった。悪臭を放つ毛皮やしゃぶり尽くされた骨の間など小屋の暗い隅を素早く漁ったが、室内は完全に空っぽだった。触れない背景オブジェクトばかりだ。
タイマーへと視線を上げる。
【大脳皮質崩壊まで:03:32:18】
時間の経済がもたらす這い寄るようなパニックが再び頭をもたげた。「この方法で小屋を1棟ずつクリアしていくのに、7分も8分もかけている余裕はない。急がないと」
小屋を出て、プログラムされた機械のような致死的な効率性で次の小屋の影へと滑り込んだ。2人目の食人族も同じカクカクとしたダンスを踊っていた。
プロゲーマーの筋肉記憶でコンボを再現する――背後からの接近、うなじへのパイプレンチのスタン攻撃、頭部への電光石火のナイフ4連撃。怪物は音ひとつ立てずに沈んだ。
死体が分解される中、今度は踏み固められた土の床の上に何かが転がり落ちた。微かな白い輝きだ。
拾い上げる。『矢』だった。ごく普通の骨の矢だ。
これでインベントリ内の矢は2本になった。
乾いた、狂気に近い苦笑が唇から漏れた。矢を見つめ、それから監視櫓の上のスナイパーのことを思い返す。「ちょっと待てよ」目に見えないAIに向かって彼は囁いた。「文字通り矢が溢れんばかりに詰まった革の矢筒を着けていた櫓の上の重装兵が、矢を1本しかドロップしなかった。それなのに、手に何ひとつ持っていなかったこの裸の哀れな雑魚が、矢を1本落とすのかよ。純粋な乱数(RNG)に依存したドロップ論理か。定番だな」
首を振り、ベルトの即席の矢筒に矢を差し込んだ。バランスの皮肉はさておき、一体いつになったらこの弓を使う機会が来るのかと疑問に思った。敵があんなヒステリックな動きを続けている限り、遠距離から頭を狙うのは不可能だ。
2棟目の小屋を素早く確認する――やはり空っぽだ。3棟目へと移る。
この建物は他とは違っていた。より小さく、入り口にひさしがない。エリアスはいつでも攻撃できるよう構えながら慎重に中を覗き込んだが、内部に影はなかった。敵はまったくいない。
だが部屋の中央に、奇妙なものが置かれていた。中をくり抜かれた太い木の幹に、濁った暗い液体が縁までなみなみと満たされていたのだ。
歩み寄って中身を調べる。雨水だったが、液状の泥に見えるほど淀んで汚れていた。「回復アイテムじゃないな」飲むという考えを却下して推測した。「こんなものを飲んだら、確実に『毒』のステータス異常を食らうはずだ」
オブジェクトに干渉してみる。くり抜かれた丸太の縁を掴むと、驚いたことに地面から持ち上がった。HUDはそれをインベントリに登録しなかった。それは『物理オブジェクト』――両手で直接抱えて運ぶことしかできず、運搬中は武器の使用が封じられるタイプのアイテムだった。
(雨水の入ったバケツか)ちゃぷちゃぷと揺れる水の重みを感じながら推論した。(インベントリに入らないってことは、すぐ近くの環境パズルを解くためのギミックだ。水を何に使う?)
視線が小屋の入り口を越え、ほぼ3メートルの高さまで炎を上げて燃え盛る村の中央の「巨大な焚き火」の上に止まった。
明白だった。水はあの火を消すためのものだ。
だが、コンプリート主義者の本能がこの明白な事実と激しく衝突した。(もし今あの焚き火を消したら)状況を評価しながらエリアスは考えた。(確実にゲームの進行イベントがトリガーされる。ボス戦が始まるか、次のエリアへ強制移行させられて、残りの4棟の小屋を探索したり、潜在的なドロップ品を得るために残りの食人族3人を殺したりすることができなくなるはずだ)
重いバケツを両手に抱えたまま、敷居の上で立ち尽くした。頭の中でタイマーが容赦なく進んでいくのを感じる。残りの小屋をステルスでクリアするには、少なくともあと20分はかかる――彼の命から文字通り削り取られる20分間だ。しかもここまでの戦利品は、控えめに言っても哀れなものだった。
「考えるのはやめだ」視線を鋭くして決断した。「システムは俺のプレイスタイルに適応する。俺が慎重に動けば、時間の経済を使って俺を罰してくる。なら、コードを強引にこじ開けるまでだ。ゲームエンジンが俺への対策を再計算するより速く動いてやる」
小屋の中で踊っている残りの3人の食人族を無視し、エリアスは広場の中央へと無防備なまま飛び出すと、くり抜かれた重い丸太を持ち上げ、腐った水の奔流を焚き火の心臓部へと真っ直ぐにぶちまけた。
効果は瞬時に、そして劇的に現れた。
単に蒸気が上がっただけではなかった。世界そのものの音声を吸い込むかのような耳をつんざく消火音と共に炎が消え去り、エリア全体がほぼ完全な暗闇へと突き落とされた。デジタルな空に浮かぶ不吉な赤い月の輝きだけが周囲を照らしている。
エリアスは空になった丸太を投げ捨て、瞬時にショットガンを抜いた。何かを起動させたのだ。『シーケンスブレイク(ゲームが想定した手順を飛ばす行為)』は、常に極端な結果をもたらす。
視界のカメラが揺れたように見えた。地震のように深い鈍い振動が、ブーツの下の大地を揺らし始める。
村を見下ろす山の尾根から、おぞましい咆哮が響き渡った。途方もなく巨大な何かが、虚空へと身を投げ出したのだ。
着地の衝撃は壊滅的だった。怪物はまだ探索していなかった4棟の小屋の列の真上に着地し、ティッシュペーパーのようにそれらを踏み潰した。木の破片、藁、そして残っていた3人の食人族のバラバラになった肉体が空中に舞い上がり、新参者の巨体によって一掃された。
AIは劇的な登場シーンを演出するためだけに、自軍の雑魚敵を自ら皆殺しにしたのだ。
砂塵が晴れると、エリアスは『ボス』と正面から向き合っていた。
『呪術師』だった。だが、小屋を2つ縦に積み上げたほどのタイタン級の巨体を持っている。その肉体は膨れ上がった汚染された筋肉の塊で、巨大な骨の装飾品と発光する戦化粧に覆われていた。顔は彫刻された巨大な木製の部族仮面の下に隠されており、その奥から秘術の力に満ちた両目が輝いていた。
「オーケー」ショットガンを構えたままゆっくりと後ずさりし、エリアスは呟いた。「アリーナ戦か。ボス戦の準備をしないとな。12ゲージを使うべきか?」
巨人の最初の動きを観察する。呪術師は無数の頭蓋骨で飾られた巨大な杖を持ち上げたが、その動きは重く、苛立たしいほど鈍重だった。一歩踏み出すごとに轟音が響くが、その一歩に何秒もかかっている。
(遅すぎるな)銃口をわずかに下げ、エリアスは評価した。(高火力の無駄遣いになる。こういうゲームにおいて、鈍重で巨大なボスは『弾丸スポンジ(ただ硬いだけの敵)』じゃない。必ずギミックか、特定の弱点があるはずだ。1発でも撃つ前に、それが何なのかを見極める必要がある)
攻撃を待つことなく、エリアスは消えた焚き火の煙を上げる残骸の周りを円を描くように走り始め、中央の障害物を利用して距離を保った。カイティングだ。
走りながら、呪術師がたった今破壊したばかりの小屋の瓦礫をブーツで踏み越える。臨床的な目が、瓦礫の間の輝きを捉えた。足を止めることなく手を伸ばし、走り抜けざまにそのアイテムを拾い上げる。
『矢』だった。だが、その矢尻は微かに滴り落ちる濃密な暗紫色の物質に浸されていた。
【毒矢】とHUDが点滅した。
(ボスのアリーナ内に直接配置された特殊弾薬か)頭をフル回転させながらエリアスは考えた。(偶然じゃない。これこそパズルのピースだ。奴の弱点に違いない)
彼を追いかけ回すのに飽きた呪術師が足を止め、地面に杖を突き立てて詠唱を始めた。周囲の空気が振動する。
(弾幕フェーズの始まりか)横へと走り続けながらエリアスは理解した。
ボスがビーチボールほどの大きさの青い魔法弾を放った。一直線に飛んでくる。エリアスは横転で軽々とかわした。背後の着弾点で青い爆発が起き、地面の一部を凍結させる。
続けて緑の球体が飛んできた。こいつはジグザグに進んでくる。エリアスは最後の瞬間まで引きつけてから前方へとダッシュし、その下をくぐり抜けた。球体が着弾した場所で酸の水たまりがジュージューと音を立てる。
最後に、扇状に発射された3つの赤い球体。エリアスは地面に身を伏せ、背中の上を通過していく球体の灼熱の熱気が髪を焦がすのを感じた。
青、緑、赤の魔法。すべて予備動作が大きく(テレグラフされており)、回避可能な攻撃だ。
だがその時、呪術師のアニメーションが変わった。
木製の仮面が発光し、巨人が杖を頭上へと掲げて、明らかにこれまでとは異なる方法で呪文をチャージし始めたのだ。今回、武器の周囲に凝縮されていくエネルギーは黒く、暗く、光を吸い込むミニチュアのブラックホールのようだった。耳障りで耐え難い高周波の唸り声が響く。
エリアスは即座に危険を察知した。(長い予備動作に、巨大なチャージ。これは広範囲攻撃か、完全追尾攻撃だ。ローリングしても当たる。回避不能だ)
黒い魔法球が放たれ、他の弾の2倍の速度で彼に向かって飛来した。彼の移動軌道を正確にトレースし、空中で向きを変えて迫ってくる。
考える時間はなかった。地面に両足を踏ん張り、左腕を上げて量子シールドの起動スイッチを押した。
黒い魔法が着弾する正確なフレームで、『フェーズ運動エネルギー・ディフレクター』が青い光の障壁となって展開した。
衝撃はタイタン級だった。エリアスの両足が泥に2本の深い溝を掘ったが、パリィ(ジャスト防御)のタイミングはミリ単位で完璧だった。黒い球体は量子シールドに跳ね返され、超音速で軌道を反転させて呪術師の顔面へと真っ直ぐに激突した。
爆発が巨大な木製の部族仮面を完全に粉砕し、巨人の腐りかけのおぞましい素顔を露わにした。ボスは両腕を脇にだらりと垂らして後方へとよろめき、完全なスタン(気絶)状態に入って片膝をついた。
エリアスの手首から、ガラスが割れるような音が響いた。ディフレクターが砕け散り、ピクセルの雨となって消滅したのだ。最後のチャージを使い切った。これで防御手段は完全に失われた。
「この犠牲でショットガンの弾を節約できるといいがな」エリアスは吐き捨てた。
破壊されたデバイスを無視し、コンマ数秒のうちに弓を抜いて『毒矢』をつがえた。ボスは仮面を失い気絶しているが、永遠に続くわけではない。
狙いを定める。露出していても鉄筋コンクリートのように分厚そうに見える頭部ではなく、黒い血を送り出す巨大な血管が脈打っている「皮膚の剥がれた首筋」を狙った。毒を回すのが目的なら、循環器系を撃ち抜く必要がある。
限界まで弦を引き絞り、息を止めて放った。
シュパッ!
矢は空気を切り裂き、巨人の喉の奥深くへと突き刺さった。完璧な一撃だった。
ほぼ瞬時に暗紫色の物質が広がり始め、首の血管を染め上げながら頭蓋骨へと昇っていく。毒が効果を発揮し、継続ダメージ(DoT)のデバフを付与していた。
だが、呪術師は死ななかった。周囲の森を震わせる咆哮と共に首から矢を引き抜き、立ち上がったのだ。普通のゲームのUIなら巨大な体力ゲージが猛スピードで減っていくのが見えるはずだが、『プロトコル0』ではすべてが隠されていた。
明らかに激昂したボスが攻撃を再開した。青、緑、赤の球体が狂ったようなペースでアリーナに降り注ぎ始める。エリアスは命がけで再び走り出し、泥に飛び込み、砕けた岩の後ろへと滑り込んだ。弾幕の地獄だった。
そして、悪夢が訪れた。
呪術師が再び天に向かって杖を掲げたのだ。暗黒のエネルギーが再び渦巻き始める。
(また黒魔法をチャージしてやがる!)心臓が喉元で早鐘を打ち、エリアスは悟った。(今あれを撃たれたら俺は死ぬ。パリィするためのディフレクターはもうないし、直撃に耐えられるだけの体力もない。アニメーションが完了する前に『DPSチェック(火力検定)』を突破してキャンセルさせるしかない!)
必死で大規模な戦術が必要だった。弾を節約しようという考えはすべて捨て去った。
雄叫びと共にベルトから最後の『変異スズメバチの巣』を引き抜き、巨人の露出した赤紫色の顔面に向かって野球のボールのように真っ直ぐ投げつけた。
蜂の巣が激突し、解き放たれた群れ全体が呪術師の目と開いた傷口を狂ったように刺し始める。怪物は絶叫したが、黒魔法のチャージアニメーションは中断されなかった。
エリアスは弓を投げ捨て、9mmベレッタを抜いて泥の中に両足をしっかりと踏ん張った。手持ちの弾は22発。それで足りるはずだ。
スズメバチに気を取られ、毒で弱体化しているボスの頭蓋骨のど真ん中に照準を合わせた。
引き金を引く。そして、指を止めなかった。
バン! バン! バン! バン! バン! バン! バン! バン! バン! バン! バン!
11連射。正確な11発の爆発が、腐りかけの巨人の頭蓋骨にクレーターを穿った。10発目で、ボスの頭上の黒魔法の球体が激しく明滅した。眉間のど真ん中を撃ち抜いた11発目で、魔法の構造体全体が自重で崩壊した。
巨大な呪術師は喉の奥から喘ぎ声を漏らし、膝から崩れ落ちると、解体された塔のように地面へと激突した。
着弾の直後、その肉体がグロテスクに膨張し始め、内側から白い光で膨れ上がると、無音のピクセルの巨大な爆発となって吹き飛んだ。
破壊されたアリーナに再び静寂が落ちた。
エリアスは銃を持った腕を伸ばしたまま片膝をつき、荒い息を吐いた。「マガジンの半分を空にしちまったな」アドレナリンが引いて疲労感が押し寄せる中、彼は計算した。「銃弾11発、レア投擲アイテム1個、特殊矢1本。この化け物のクリア報酬が俺の労力に見合うものであることを祈るぜ」
だが、周囲の視覚的現実が振動し始めた。島の輪郭がぼやけ、デジタルな六角形へと断片化していく。
「イベントシーン(カットシーン)が始まりそうだな」エリアスは咄嗟に立ち上がりながら呟いた。「どこか別の場所へ飛ばされるのか? ステージ移行だ!」
無駄にしている時間はなかった。多くのゲームにおいて、画面が暗転する前にボスのドロップ品を回収しなければ永遠に失われることを彼は知っていた。
肋骨の刺すような激痛を無視して前方へとダッシュし、呪術師が爆発した地点へと文字通りダイブした。血まみれの両手で泥の中を必死に掘り返す。
指先が細く硬い何かを掴んだ。世界が目もくらむような光の閃光となって爆発するほんの一瞬前に、それを引き抜いた。
目を開けた時、手の中に握られていたのは1本の矢だった。毒も塗られていない、ごく普通の矢だ。
「これだけかよ?」信じられないという思いと苦い失望の中で、彼は囁いた。「ステージの最終ボスが落とすのが、基本の木の矢1本だと? ゼロよりはマシなんだろうが、ふざけすぎだろ」
直後、空気の匂いが彼を襲った。もはやジャングルや海の匂いではなく、カビと錆びた金属、そして淀んだ水の悪臭だった。
周囲に焦点を合わせる。商人のあの無菌で明るい『聖域』ではなかった。革の椅子もなければ、オーク材のテーブルもない。
彼は巨大な排水管の内部に着地していた。壁は黒い地衣類がこびりついた湿ったコンクリートで、低い天井には錆びた配管の迷路が走り、緑がかった汚水を滴らせている。照明は死にかけのハエのように唸りを上げるぼやけたネオンだけだった。
エリアスは振り返った。空気には紛れもない死の悪臭が立ち込めていた。
彼は『生ける屍のトンネル』へと放り込まれていたのだ。
「このゲーム、マジで意味がわからねえぞ!」鉄筋コンクリートに声を反響させ、エリアスは大声で吐き捨てた。「ステージクリアのルールは休憩タイムだろ! 商人のところへ戻るはずだったのに。物資も削られてるんだ、補給が必要だったんだぞ!」
拳を握りしめ、『プロトコル0』の倒錯した論理を理解した。システムは単に彼の反射神経やインベントリ管理をテストしているだけではなかった。彼の精神的安定を積極的にへし折ろうとしていたのだ。彼をキレさせようとしている。
商人のホログラム球体のひとつに浮かんでいたのと同じ暗いシナリオ――『生ける屍のトンネル』へと強制転送されたのだ。
純粋で冷たく、麻痺するようなパニックの一瞬が胃袋を締め付けた。ゲームは彼を最も高価なレベルへと無理やり押し込んだのか? 同意もなしに命の60分間を奪い取ったというのか?
視界の右上へと鋭く目を向けた。容赦ないタイマーは移行の間も止まらず秒数を流し続けていたが、その数字を見て彼は息を吐いた。
【大脳皮質崩壊まで:02:47:19】
1時間の強制徴収は行われていなかった。時間はただ、呪術師と戦うために費やした通常の分数分だけ減っていたのだ。
「ちょっと待てよ……」暗闇の中で目を見開き、計算高い頭脳が点と点を繋ぎ合わせる中、エリアスは囁いた。「ここは『レベル3』じゃない。まだ『レベル2』の続きなんだ」
諦めに近い苦い笑みが唇を歪めた。「地下の化学実験室から宇宙ステーションへ飛んだ時と全く同じだ。このゲームは、ステージのちょうど中間地点で背景と環境ルールをガラリと変えるんだ。それが固定ギミックなんだよ。プレイヤーを決してゲームプレイに慣れさせないために、異なるシナリオのアセットを1つのレベルに繋ぎ合わせているんだ」
システムは入場料を割引してくれたわけでもなければ、不当なペナルティを課したわけでもなかった。ただ前半戦で物資を枯渇させた状態のまま、彼をステージの後半戦(第2フェーズ)へと無料で放り込んだだけだ。休憩なし。商人なし。安息なし。
彼は身を起こし、ベレッタを握り直すとともに、すでに低いうめき声と腐った足を引きずる音が聞こえ始めているコンクリートのトンネルの暗闇へと視線を向けた。
「通貨に関してはイカサマをしないが、消耗戦に関しては徹底的にサディストだな」冷ややかに結論づけ、この新しい地獄へと足を踏み入れる前に惨めな現状を確認するため脳内インターフェースを呼び出した。
--- インベントリ確認 ---
【銃火器】
・ベレッタM92F(9mm):残り11発
・ショットガン(12ゲージ):残り4発
【遠距離/近接武器】
・骨の弓:矢・残り3本
・タクティカルナイフ:1本
・大型パイプレンチ:1本
【投擲武器】
・なし
【防具】
・宇宙服:コマンドでいつでも装備可能
・フェーズ運動エネルギー・ディフレクター:破壊(消滅)
【体力・ステータス】
・ハート:4/6
・精神状態:苛立ってはいるが、ゲームの法則を完全に理解した状態
・所持通貨(残り寿命):02:47:19




