第19章:地下3階 ― 冷凍カプセルの罠と、モニターから銃身を突き出すチート開発者~
エリアスは『地下3階(ベースメント3)』の回廊を慎重に前進し、マップのスケールが変化していることにすぐ気づいた。同じ地下第3階層にいるにもかかわらず、この新しい区画は超巨大だった。以前目にした無菌の調査ラボとは似ても似つかず、軍関係者のための巨大なレクリエーション施設を思わせる建築構造をしていた。
彼が降り立ったばかりのエレベーターは、兵士たちの宿舎(兵舎)が両脇に並ぶ長い回廊の突き当たりにあった。エリアスは肩にショットガンをしっかりと構え、すべての部屋を1つずつ確認し始めた。パラノイア(猜疑心)が彼を鋼鉄の万力のように締め付けていた――もはや怪物だけでなく、いつ壁をすり抜けて(グリッチして)現れるとも知れないプログラマーたち自身を警戒しなければならなかったからだ。
宿舎の大部分は空っぽで、他の部屋にも無意味な背景オブジェクトしか置かれていなかったが、完全な孤独の中で行った綿密な探索は確実に実を結んだ。視界内に敵の姿はない。
【ログ:マグナム弾+2。合計:5発】
【ログ:金庫の暗証番号×1 を獲得】
【ログ:ベレッタ弾+12。合計:59発】
宿舎ブロックの突き当たりに、唯一進める道が残されていた。両開きのスイングドアを押し開けると、広大な『屋内バスケットボールコート』へと出た。そしてそこで、無人地帯は終わった。
コートには『スロンビ』がうようよと溢れかえっていた。至る所に配置され、突破不可能な肉の壁を形成している。
エリアスは扉の枠に身を張り付け、瞬時に計算を巡らせた。(ざっと30体といったところか。ステルスを使えば、他の連中の視界に入って敵視を一斉に集める前に、最大でも7体までは静かに処理できる)
通常のビデオゲームなら、戦術は単純明快だった――最初の7体を暗殺し、残りを引き連れてエレベーターまで走って引き返し、扉の狭い入り口を利用して1体ずつ虐殺すればいい。だが、ここのルールは汚染されていた。もしエレベーターの中に籠城している時に天井からプログラマーがスポーンしてくれば、袋のネズミになってしまう。
(あの中には戻らない。武器庫の弾を消費するしかないな)歯を食いしばり、彼は決断した。
タクティカルナイフを抜き、死のダンスを開始した。観客席の影の中を移動し、完全な無音で最初の7体のスロンビの喉笛を掻き切っていく。だが8体目の怪物の死体が敵の視界内に倒れ込んだ瞬間、群れ全体が一斉に彼の方へと振り返った。白濁した目が赤く充血する。AIが変異トリガーを発動させたのだ――鈍重な『スロンビ』から、狂暴な『ロンビ』へと瞬時に切り替わった。
エリアスはそれを予測していた。すでにベルトから破片手榴弾を1個外しており、振り返って後方へと全力疾走する直前に自分の足元へと正確に落としていたのだ。
ロンビの群れは盲目的な大群となって前方へと突進し、起爆寸前の爆発物をまともに踏みつけた。
ドォン!!
爆発が最前列を木っ端微塵に吹き飛ばした。12体の怪物がピクセルと血の雲となって一掃される。
後方への全力疾走を止めることなく、エリアスはアサルトライフルを構え、生き残った11体に向かってマガジンを空にするまでフルオート射撃を叩き込み、近づかれる前に容赦なく薙ぎ倒した。
【ログ:破片手榴弾-1。合計:1個】
【ログ:アサルトライフル弾-23。合計:75発】
(なんてクソもったいない消費だ)煙を上げる銃身を下ろしながら、エリアスは思った。
だが、その銃声は待ち構えていた連中の注意を引きつけてしまった。回廊の奥のエレベーターの扉が勢いよく開き、アサルトライフルで武装したプログラマーの1人が飛び出してきて、エリアスに向かって即座に発砲してきたのだ。
銃弾が空気を切り裂く。数発がエリアスの胸に命中したが、距離が離れていたため衝撃は損傷したケブラー製防弾チョッキによって完全に吸収された。
エリアスは応戦しなかった。くるりと背を向け、怒鳴り声を上げながら追いかけてくるプログラマーを背後に引き連れてバスケットボールコートを駆け抜けた。
コートのすぐ先には、広大な軍用『射撃訓練場』が広がっていた。エリアスはその中へと飛び込んだ。
数秒後にプログラマーがライフルを構えて敷居を跨いだ。「正々堂々と正面から戦え! ビビってんじゃねえぞ、腰抜けが!」青年が逃げ出したと思い込み、開発者が怒鳴り散らす。
だが、エリアスは逃げてなどいなかった。入り口のすぐ脇にあった、バスケットボールがぎっしり詰まった大型の金属製カゴの後ろにしゃがみ込んでいただけだったのだ。
開発者が真正面だけを見て前進した瞬間、エリアスはすでにその背後へと回り込み、サプレッサー付きベレッタを突きつけていた。
「普通のビデオゲームなら隠れたりはしなかったさ」氷のように冷たい声でエリアスは言った。「死んでも次のチャンス(リトライ)があるからな。だがこのゲームじゃ、俺の現実の命はお前のくだらない騎士道ごっこに付き合うほど安くないんだよ」
引き金を引く。うなじへの単発射撃。
【ログ:ベレッタ弾-1。合計:58発】
プログラマーは前のめりに倒れ込んで塵へと分解されたが、他の連中とは異なり、極めて有益なドロップ品を地面に残した――新品の『ケブラー製防弾チョッキ』だ。エリアスはボロボロになった自分のチョッキと素早く交換し、防護力を最大(100%)へと戻した。
射撃訓練場のカウンターを体系的に漁り、射撃テーブルの上に散らばっていた破片手榴弾を4個回収して爆発物を補充した。
【ログ:破片手榴弾+4。合計:5個】
突然、凄まじい轟音が地下3階の基礎を揺るがした。天井から埃が降り注ぐ。
(ゴリアテが到着したな)心拍数を跳ね上げながらエリアスは直感した。(急いで別の階層へ移動する方法を見つけないと)
HUDが緑色に点滅した。
『警告。ゴリアテがミニガン(ガトリング砲)で武装しています。可能な限り距離を取ってください』
「くそっ、不死身の怪物に重火器を持たせるなんて反則だろ」エリアスは吐き捨てた。
射撃訓練場を出ると、分岐点に出くわした。下り階段と上り階段だ。
(普通に考えれば出口を探して上へ行くべきだ。だが、あのひねくれた狂人どもの思考回路からすれば、正解は『下』だな)
階段を駆け下りる。壁のプレートには『地下3.5階(ベースメント3.5)』と書かれていた。
扉を開けると、広大な『機関室』に出た。室内は配管や工業用ダクトで埋め尽くされていたが、前のステージとは異なり、火をつけられそうなガスバルブは見当たらなかった。
機関室の奥で、密閉された部屋を見つけた――研究員たちが生物実験体を輸送する前に冷凍保存していた場所、『コールドスリープ室(冬眠室)』だ。
室内には巨大な円筒形のカプセルがずらりと並んでいたが、端末から電源が入っていて使用可能な状態になっているのは「1基だけ」だった。
(もしかして、あの不死身の怪物を冷凍しろってことか?)エリアスは自問した。(永久に止められるとは思えないが、落ち着いて探索するためにはどうにかしてあいつを厄介払いする必要がある)
機関室にゴリアテの鈍く重い足音が響き渡った。不死身の怪物が到着し、遠くにいるエリアスの人影を見つけるやいなや、ミニガンの銃身を回転させ始めた。特大口径の銃弾の嵐が鋼鉄のパイプを引き裂き、室内を火花で埋め尽くす。
幸運なことに、コールドスリープ室は一列に並んだカプセルによって作られた狭い回廊の迷宮のような構造になっていた。
エリアスは遮蔽物に身を隠した。(あいつを中に押し込むには、気絶させる必要がある……開いている機械のハッチの真ん前で、マグナムを頭に撃ち込まなければならない)
遮蔽物に阻まれて遠距離から蜂の巣にすることができないと悟ったゴリアテが、容赦なく前進を始めた。鉛の雨は途切れることがなく、エリアスに動く隙を一切与えない。
(射撃を止めさせなければ、近づいて位置に誘導することすらできないぞ)
エリアスは破片手榴弾を1個外し、カプセルの列の向こう側へと山なりの軌道で投げ込んだ。
【ログ:破片手榴弾-1。合計:4個】
爆発が巨像をまともに捉えた。記録されたダメージはゼロだったが、運動エネルギーの衝撃がゴリアテのAIを苛立たせ、残忍な行動選択を引き起こした――機械的な動きでミニガンを背中のマウントへとしまい込み、素手でエリアスを掴み殺そうと頭から突進を開始したのだ。
(完璧だ)エリアスはニヤリと笑った。(距離が十分に近ければ、銃器よりも近接攻撃を優先するAIなんだな)
巨像が瞬く間に目の前へと迫った。エリアスは持ち前の反応速度をフル稼働させ、カプセルの鋼鉄をへこませるゴリアテの壊滅的なパンチをかわし続けた。ミリ単位で空間を計算し、回避するたびに一歩ずつ後退していく。1回、2回、3回、4回……。
7回目の完璧な回避で、エリアスは開いたままのコールドスリープカプセルの真ん前へとゴリアテを誘導し終えていた。
1ミリ秒も無駄にせず、エリアスは『マグナム』を抜いて発砲した。
【ログ:マグナム弾-1。合計:4発】
大口径の銃弾が、ゴリアテの白濁した両目のど真ん中に着弾した。致命傷にはならなかったものの、凄まじいストッピングパワー(阻止能)が巨人をぐらつかせ、重度のスタン状態で片膝をつかせた。
エリアスがその当たり判定に近づいた瞬間、ゲームが操作権を奪った――エリアスが巨人の胸板に正面から前蹴りを叩き込んでカプセルの内部へと押し込み、ハッチを密閉して端末のレバーを下ろすイベントアニメーションが再生されたのだ。
アニメーションが終了した。エリアスは機械のモニターを見た。【冷凍睡眠開始 ― 推定持続時間:5分間】。
「くそっ!」仕掛けの罠を悟り、エリアスは吐き捨てた。「時間稼ぎにしかならねえのかよ! 完全に排除できるわけじゃないのか!」
走らなければならなかった。来た道を引き返し、出口を探して上へと続く階段へと飛び込んだ。
上のフロアへ出ると、エリアが広がっていた。電気ロック式の両開き扉の前に出る――ディスプレイには『Missing Fuse』と表示されていた。周囲を見回すと、天井の近くに開いた換気ダクトがあり、木箱を積み上げれば届きそうなことに気づいた。
側面のオフィス群を狂ったように漁り始める。壁掛け金庫を見つけ、少し前に軍人の宿舎で回収していた暗証番号をテンキーに素早く打ち込んだ。電子音と共に扉が開き、重厚な武器が姿を現した。
【ログ:焼夷グレネードランチャー(弾薬12発)を獲得】
「いい得物じゃないか」エリアスはそれを構えて声を上げた。「だが、あの化け物の装甲相手には全く役に立たないな」
デスクをひっくり返し続け、ついに工業用ヒューズを見つけた。ロックされた扉へと駆け寄り、配電盤にヒューズを押し込む。
カチリと所定の位置に収まったのと全く同じ瞬間、下層階から人間離れした咆哮が響き渡り、床を激しく震わせた。5分間が経過したのだ。ゴリアテが拘束を破った。
エリアスは再起動したばかりの扉のディスプレイを見た。【開放プロセス進行中……残り 5:00】。
「ふざけんなよッ!」最悪のサバイバルホラーにありがちな『手順ミス(シーケンス・エラー)』に気づき、エリアスは絶叫した。「先にヒューズを見つけて扉の5分タイマーを起動させてから、あいつを凍らせに行くべきだったんだ! そうすれば出口が開くまでの5分間を安全にやり過ごせたのに!」
下へ戻ってやり直すことも考えられたが、再びミニガンと向き合うのはリスクが高すぎた。これ以上回復アイテムを無駄にするわけにはいかない。
ゆっくりと開き続けている扉に背を向け、木箱をよじ登って換気ダクトの中へと急いで潜り込んだ。
狭い金属の通路を這い進み、『地下2.5階』へと出て特別室のデスクの上に重く着地した。
室内には、ゲームの背景設定を掘り下げるファイルや書類が山積みになっていた――ゴリアテは単なる生物兵器ではなく、まさに「今日この日」にアメリカ政府へと正式に売却・引き渡される予定だったという内容だ。
床の下から凄まじい轟音が響いてきた。ゴリアテがヒューズの扉の前に到着し、突破口を開こうと強化鋼鉄を拳で殴りつけているのだ。
オフィスの引き出しを急いで漁り、貴重な銃弾を回収した。
【ログ:マグナム弾+3。合計:7発】
轟音が止んだ。鋼鉄が破られたのだ。数秒のうちにゴリアテがこのオフィスへとやってくる。
エリアスは自分が通ってきたダクトの中へと再び飛び乗ったが、這って逃げる代わりに、ほんの少しだけ顔を覗かせて様子を見ることに決めた。
オフィスの扉が蝶番ごと文字通り引きちぎられ、ゴリアテが重い足取りで入ってきた。短いゲーム内ムービー(カットシーン)が始まる。
映像の中で、不死身の怪物はデスクの上の書類を掴み上げた。病んだ脳内にまだ人間の知性の断片を残していた怪物は、自分がアメリカ政府へ売却される予定だったという記述を読んだ。抑えきれない猛烈な怒りが怪物を支配した。巨像はオフィス全体を破壊し始め、デスクやコンピュータ、本棚を次々と粉砕した。そして凄まじいショルダータックルでオフィスの耐力壁そのものを丸ごとぶち抜き、暗闇の中へと姿を消した。そこでムービーが終了した。
エリアスはダクトから滑り降りた。「デスクの下に隠れようとしなくて本当に良かったぜ、虫ケラみたいに踏み潰されるところだった」
瓦礫の海の中へと降りる。ゴリアテが壁に開けた巨大な穴を覗き込んだが、向こう側は立ち入り不可能な工業用配管だらけの深い縦穴になっているだけだった。
破壊された扉からオフィスを出ると、基地の『管理区画』へと出た。
そこはパーテーション(小部屋)が入り組んだ迷宮で、敵がうようよといた。
奇妙なことにまだ電源の入ったモニターの前に座り続けていた個体を含め、周囲を彷徨っていた12体のスロンビを処理した。最初の4体はナイフのステルスで葬ったが、残りは拳銃を使うことを余儀なくされた。
【ログ:ベレッタ弾-8。合計:50発】
有益な戦利品は何もなく、ただ物資を大量に浪費しただけだった。だが死んだ管理監督者の死体を漁り、『非常階段の鍵』を見つけた。
先へ進むと、ブースの中に孤立して置かれた1台のコンピュータが、画面上で奇妙に明るい光を放っているのに気づいた。
エリアスは歩み寄り、画面のドキュメントを読もうと頭を下げた。
HUDが血のような赤色で激しく点滅する。
『罠です! 離れて!』
エリアスは電光石火の反射神経で後方へと飛び退いた。まさにその瞬間、モニターの画面の中からショットガンの銃身が文字通り突き出し、ガラスを突き破って散弾を放った。わずか1ミリの差でエリアスの胸を外れる。プログラマーたちがまたしても環境のグリッチ(バグ)を悪用していたのだ。
『画面に向かって直接手榴弾を投げてください』ゴキブリが提案した。『当たり判定を強制的にこじ開けて、コンピュータの内部へと手榴弾を送り込みます』
二度言われるまでもなかった。エリアスは破片手榴弾のピンを抜き、モニターに向かって真っ直ぐに投げつけた。手榴弾はガラスに跳ね返る代わりに、ブラックホールに吸い込まれるかのように画面の中へと飲み込まれた。
数秒後、PCの内部から絶望的な悲鳴が聞こえ、続いて鈍く生々しい爆発音が響いた。奇妙なことに、コンピュータの筐体の外側は完全に無傷のままだった。
【ログ:破片手榴弾-1。合計:3個】
「これでクズがまた1人減ったな」立ち上がりながらエリアスは評した。
管理区画は無限に続いているように見え、同じような分岐点と回廊が並んでいた。
『急いで出口を見つけてください』ゴキブリのテキストが点滅した。『敵の大群があなたの現在地に向かって急速に接近しています』
マップがないため、エリアスは純粋な直感で方角を選ぶことを強いられた。回収できる物資もなければ、探索すべき脇部屋もない。長い回廊を走り抜け、ついに防火扉に突き当たった。非常階段の鍵が完璧に噛み合ってロックが外れる。
扉を大きく開けたが、目の前にあったのは彼を襲おうと階段を猛烈な勢いで駆け上がってきていた、咆哮する『ロンビ』の壁だった。扉を塞がれる前にエリアスは鋼鉄の扉をバタンと閉め、鍵を回してロックした。下へと続く階段は通行不能だ。すでに群れが占拠している。
振り返り、タワーのもう一方の上り階段へと駆け出して、2段飛ばしで駆け上がり『地下2階(ベースメント2)』へのアクセス扉へと到達した。
ドアノブに手をかけ、開けて中へと足を踏み入れる。
即座にゲーム内ムービーが始まった。
映像が映し出したのはエリアスではなく、ゴリアテだった。装甲巨像は、その新しいフロアのいくつもの部屋の耐力壁を拳と体当たりで体系的に次々と粉砕していた。瓦礫、デスク、そして柱が四方八方へと吹き飛ぶ。不死身の怪物はフロアの複雑な間取りを物理的に破壊し尽くし、エリアスが隠れたり逃げたりするのを防ぐため、すべての遮蔽物とすべての壁をなぎ倒して「単一の超巨大な何もない空間」を作り出していたのだ。
映像の最後、作り出したばかりの広大なオープンスペースの中央に陣取ったゴリアテが両腕を高く掲げ、施設全体の壁を震わせる身の毛もよだつ咆哮を上げた。
『ボスアリーナ』が完成した。そして、逃げ道はどこにもなかった。
--- 現在のインベントリ確認 ---
・再計算後の残り時間:06:24:18
・アサルトライフル:75発
・焼夷グレネードランチャー:12発
・サプレッサー付きベレッタ:50発
・ショットガン:15発
・マグナム・リボルバー:7発
・破片手榴弾:3個
・閃光弾:1個
・コンバットダガー:1本
・電池式懐中電灯(バッテリー:100%)
・ケブラー製防弾チョッキ:耐久度100%(新品)
・回復アンプル:2本
・体力(HP):90%




