第18章:悪魔との契約 ~同装備の『開発者クローン』との一騎打ちと、機銃掃射の地下ガレージ~
『地下5階』の回廊は無菌の金属の腸のような通路で、上層階の腐敗とは鮮明で不気味な対比をなす冷たい青いネオンに照らされていた。エリアスは感覚を最大限に研ぎ澄まし、アサルトライフルを構えてゆっくりとした足取りで前進した。
冷徹で計算高い怒りが、恐怖に取って代わっていた。プログラマーたちが彼を監視していることはわかっていた。そして何より、コードのどこかに隠れているゴキブリに自分の声を届ける必要があった。
回廊の中央で足を止め、鋼鉄の天井に向かって顔を上げた。
「マップもなしでプレイさせる気かよ!?」極秘研究所に軽蔑に満ちた声を反響させ、エリアスは大声で叫んだ。「プログラマーを使ってスクリプト外の待ち伏せを仕掛けさせ、不死身のクソ怪物に追いかけ回させるだと!? 現実世界で殺し屋でも雇って、俺の頭に銃弾を1発撃ち込んだ方が早かったんじゃねえのか? こんな負け犬の復讐のために、お前らは本当にそこまで暇を持て余してるのかよ?」
彼の右側の空気がパチパチと音を立てた。ピクセルが凝縮して視覚的な歪みを起こし、あの商人――すなわち会社の『CEO』がすぐ隣に実体化した。いつもの洗練されたスーツを着て、背中で両手を組み、顔には氷のような笑みを貼り付けている。
「落ち着きたまえ、坊や」研究所の反響とは対照的な穏やかな声で、CEOが言った。「もし私たちが現実世界で暗殺者を使って君を単純に殺していたら、一体どのゲーマーが私たちの素晴らしい『プロトコル0』をテストできたというのかね? 以前に君たちのような配信者を20人ほど選んだのだが……全員死んでしまったよ。君が唯一の生き残りだ。真のプロトコル0を最初にプレイする特権を勝ち取ったのだよ」
まさにその瞬間、鮮やかな緑色のテキスト文字列がエリアスのHUDに割り込んだ。
『前のゲームで読んだレベル7から10のマップは、ここと一切関係ありません。あなたが悪魔(旧ビルドの最終ボス)を前倒しで倒したため、途中のステージをバイパスして直接「完成版」のゲームへと飛ばされたのです』
(まだいてくれたか、ゴキブリ。助かったぜ)エリアスは心の中でかすかな安堵のため息をついた。
CEOは首を傾げ、彼を値踏みするように見た。「焦ることはない。約束した通り、このゲームはクリア可能だ。君はすでに私たちのプログラマーを2人も排除した……実に大したものだよ。あるいは」CEOの両目が疑念に満ちた2本の細いスリットへと狭まった。「誰かが私たちのコードの中を嗅ぎ回って、君を助けているのかもしれないがね」
エリアスはポーカーフェイスを崩さなかった。ゴキブリの存在には感づいているようだが、どこに潜んでいるかまでは特定できていない。
「あるいは」嘲笑うような笑みを浮かべてエリアスは言い返した。「単にお前らにビデオゲームのプログラマーとしての才能がないだけかもな」
CEOの顔が硬直し、人工的な柔和さが消え失せた。「まあいい、仕事の話に移ろう……弾薬か何かを買いたいかな?」
「何か役に立つものはあるのか?」ホルスターの近くに手を置いたまま、エリアスは尋ねた。
HUDが緑色に点滅する。
『安全地帯の先の地下5階にはスロンビがうようよいます。戦術的に配置されているため、徹底したステルスプレイを推奨します』
「ここで売っているのは銃弾だけだよ」横にホログラムの価格表を表示させながら、CEOが答えた。「さっき君からすべて没収したからね、ここは少し安くしてある」
「必要なのはベレッタの弾だけだ。30発くれ」エリアスは命じた。
「結構。命の15分間だ」
CEOが指を鳴らすと、エリアスの予備マガジンの中に弾薬が直接実体化した。
【ログ:ベレッタ弾+30。合計:49発】
【タイマー更新:06:47:36】
「シールドは買わないのかね?」エリアスが防御デバイスを要求しなかったことに気づき、CEOが嘲笑った。
「そんなものを買ったら簡単になりすぎるからな」エリアスは冷ややかに返した。
「せいぜい楽しむといい」CEOは黒いピクセルの雲となって消え去った。
モデルが消えた途端、回廊の照明がわずかに揺らいだ。エリアスは歯を食いしばって悪態をついた。
「クソ野郎どもめ、せめてマップくらいよこしやがれ」
ゴキブリのテキストが素早く流れる。
『このステージのコードにはマップ自体が存在しません。根本から無効化されています。私にもどこへ行くべきかの平面図的な指示は出せませんが、エンティティ(実体)を検知することは可能です。あなたの周囲の部屋にいる敵と物資の位置をピン(マーカー)で知らせます』
(つまり生体レーダーとして俺のHUDに直結してるってわけか……よし、ダンスを始めようぜ)
エリアスは軍事研究所の心臓部へと足を踏み入れた。予告通り、エリア内は感染者で溢れかえっていた。何十体ものスロンビが回廊や機械室をパトロールしている。その数は約30体。ほんのわずかなミス、重すぎる足音ひとつ、あるいは影の計算違いひとつで、全員の敵視を一斉に集めてしまうだろう。
だが、エリアスはプロフェッショナルだった。完全な集中状態へと入る。
影のように無音で、配置された敵の間をすり抜けていく。ゴキブリがHUD上の小さな視覚パルスを通じて、敵がどの方角を向いているかを正確に教えてくれた。エリアスは当たり判定を1ミリも外さなかった。20分間にわたって死者たちの間で死のダンスを踊り、ナイフによる30連続のステルス・キルを完遂した。消費した銃弾はゼロ。その間にもハッカーのピンに従って室内を漁り、物資を回収した。
【ログ:ショットガン弾+6。合計:7発】
【ログ:閃光弾+2。合計:2個】
【ログ:ケブラー製防弾チョッキを装備 ― 耐久度100%】
「上出来だ」ケブラーのバックルを締めながら、エリアスは呟いた。「エリア内に強力な防御物資を大量に配置してやがる。ってことは、もうすぐ戦うべき相手が出てくるってことだな」
いくつものデスクを通り過ぎたところで、電源の入ったタブレットに気づいた。世界観の収集アイテムではなく、生のテキストファイルが開かれていた。
『次のボスはこの俺自身だ。開発者(Dev)のひとりだ。イカサマはしないし、管理者チートも使わない。死ぬまでの真剣勝負だ。お前と全く同じ武器庫で、お前のコピーとして戦う。どっちがビデオゲームが上手いか勝負しようぜ』
エリアスは捕食者のような笑みを浮かべた。「約束を守ってイカサマをしないといいがな。それに、もうすぐ直接顔を合わせるなら、ひとつ聞いておきたいことがある……」
研究所の一番奥にある両開きの扉が開き、広大な円形の『サーバールーム』へと出た。
中央で、そいつが待ち構えていた。ボスは人間のアバター――エリアスと全く同じ服装、同じ防弾チョッキ、同じ武器をベルトに提げた「完全なコピー(クローン)」だった。
プログラマーが一歩前に踏み出したが、エリアスは片手を上げて制した。
「撃ち合いを始める前に、ひとつだけ好奇心を満たしてくれ」硬い声でエリアスは言った。「どうやってこんなビデオゲームを作って、生身の人間をその中に閉じ込めるなんて芸当をやってのけたんだ? 想像の限界も物理法則も完全に超えてるぞ」
プログラマーは彼を見た。「教えてやってもいいぜ、どうせお前はここから生きては出られないからな。俺たちは『悪魔と契約』したんだ……ただし、ひとつの条件付きでな。俺たち自身もゲームに参加しなければならなかった。だから俺たち全員がこうして中に入っている。お前らを全員排除するまで、俺たちもここに閉じ込められているんだ。さあ……死ぬ時間だぜ」
開発者は戦術的なミスを犯した。秒間ダメージ(DPS)が最も高い武器――『アサルトライフル』を抜こうとしたのだ。
だが、エリアスはゲーマーの目で彼を観察していた。大型武器の取り出し(ドロー)アニメーションは遅い。ベレッタの方がはるかに速い。
エリアスはコンマ数秒のうちにサプレッサー付き拳銃を抜き、引き金を引いた。パスッ。
銃弾はプログラマーの膝を正確に撃ち抜き、照準アニメーションを中断させて体勢を崩させた。
【ログ:ベレッタ弾-1。合計:48発】
即座に2人は遮蔽物の後ろへと飛び込んだ――エリアスはスチール製のデスクの後ろへ、開発者はメインフレーム(大型サーバー)の後ろへ。
「俺たちの間に実力の差なんてねえぞ!」遮蔽物の後ろから、苛立ちに満ちた声でプログラマーが叫んだ。「お前はすでに圧倒的に不利なんだよ!」
開発者の遮蔽物の裏から、安全ピンが外れる金属音が響いた。破片手榴弾が完璧な弧を描いてエリアスのデスクへと飛んでくる。
エリアスはパニックに陥らなかった。全く同じ瞬間に閃光弾を起動し、敵のメインフレームに向かって投げ返した。
2つの手榴弾が同時に炸裂した。
エリアスはダイブして回避を試みたが、破片手榴弾の有効範囲にまともに巻き込まれた。無傷だったケブラー製防弾チョッキが破片の大部分を受け止めて命を救ったものの、衝撃波は残忍だった。HUDの上で、体力が急降下する。
【受けたダメージ:40%。現在の体力:60%】
だが、彼の閃光弾も確実に仕事をこなしていた。目もくらむような白い光がプログラマーをまともに飲み込み、完全なスタン(気絶・盲目)状態に陥らせていた。
「ああ、その通りだ。俺たちの間じゃ勝負にすらならねえよ」胸の痛みを無視して遮蔽物から飛び出しながら、エリアスは言った。敵の盲目状態を利用し、滑らかな動きで背後へと滑り込む。
「スピード勝負の接近戦で大型武器を選ぶなんてな……雑魚が」
エリアスは目をくらまされたクローンのうなじにベレッタを突きつけ、引き金を引いた。パスッ。
「少なくともお前は正直で、イカサマはしなかった。だがどっちみち雑魚は雑魚だ」
【ログ:ベレッタ弾-1。合計:47発】
プログラマーの肉体が崩れ落ち、赤と灰色のピクセルとなって分解された。
HUDの画面が輝く。
【地下5階のボスを排除】
【報酬:+60分】
【戦利品獲得:回復アンプル×2、ショットガン弾×8】
エリアスは即座にアンプルの1本を掴み、自らに注射した。安堵感は瞬時に訪れた。
【体力回復:90%】
(残りアンプル:2本/ショットガン合計:15発/残り閃光弾:1個)
(祝っている暇はないな)周囲を見渡しながらエリアスは考えた。(まだ地下5階の軍事研究所に閉じ込められたままだ)
ゴキブリのテキストが時間通りに表示される。
『周囲にはもう回収できる物資は何もありません。脱出ルートだけを探してください』
エリアスは従った。開けられそうな軍用ロッカーや、「罠だ」と叫んでいるような半開きの扉をすべて体系的に無視して真っ直ぐ進んだ。電源の入ったコンピュータも数多くあったが、立ち止まってファイルを読めば時間を奪われるだけだとわかっていた。
研究所の突き当たりでエレベーターを見つけた。操作パネルの行き先は1つしかなかった。『レベル2(地下2階)』だ。
エリアスは目を細めた。地下5階まで降りてきたのに、今度は上へと送り返されるのか?
リロードしたばかりのショットガンを構えて「2」のボタンを押し、エレベーターが動き出した。奇妙なことに天井からの奇襲もなければ、血に飢えた開発者も現れなかった。
(だが、なぜ俺を地下2階へ行かせるんだ?)
扉が開いた瞬間、目の前に広大な『地下軍用ガレージ』が広がった。戦車、装甲バン、そして重火器の木箱が点在している。周囲には誰もいなかった。不自然な静寂が支配している。
突然、視界の上下に黒い帯が降りてきた。ゲーム内ムービー(カットシーン)が始まったのだ。
映像の中で、エリアスのアバターが全力で走っていた。彼自身が乗ってきたエレベーターから飛び出してきたばかりのおぞましい怪物――狂犬病の犬のように顎が割れて長く伸びた変異兵士、『犬男』ゾンビに追いかけられていたのだ。カットシーンのAIに動かされたエリアスは最後の数ミリでその噛みつきをかわし、重機関銃の銃座が搭載された装甲バンのルーフの上へと飛び乗った。そこでムービーが終了した。
「なるほどな」操作権が戻った瞬間、エリアスはショットガンをしまって固定銃座のグリップを両手で掴みながら言った。「自分の武器は使わず、このタレットを使って戦うイベントか」
犬男が前方へと猛ダッシュし、装甲バンの上に直接着地しようと巨大なジャンプを放った。だが、エリアスは外科的な精度を持っていた。タレットの引き金を引き、即座にギミックの仕様を理解した――怪物にきっかり「6発」の銃弾を当てればノックバックして後方へと吹き飛び、攻撃をキャンセルさせられるのだ。しかもタレットの弾数は無限だった。
そうしている間にも、轟音に引き寄せられて何十体ものスロンビがガレージへとなだれ込み始めた。
今やエリアスはスロンビの群れと犬男の両方を同時に相手にしなければならなかった。
だが、プロゲーマーの頭脳は数秒で敵の行動パターンを解読する。「攻撃モーションはたったの2種類しかねえな」照準を動かしながら分析した。「真上に真っ直ぐ飛ぶか、一度横にステップしてから正面に突っ込んでくるかのどっちかだ」
「これなら簡単だ」
サバイバルホラーの真っ只中に挿入された、アーケード風の固定シューティング(レールシューター)パートだった。6発当てて犬男を吹き飛ばした直後にタレットを旋回させ、バンのタイヤに近づきすぎたスロンビどもを薙ぎ払う。それから再びボスへと照準を戻す。
およそ3分間、一度たりともかすり傷すら負うことなく、鉛の弾丸と完璧なタイミングのダンスを続けた。
その時、機関銃がジャム(弾詰まり)を起こして停止した。再び黒い帯が降りてくる。カットシーンだ。
彼が出てきたエレベーターの扉が爆発して吹き飛んだ。煙の中から現れたのは、後ろに置き去りにしたはずのあの装甲巨像――『ゴリアテ』だった。
カメラを揺らす咆哮を上げ、巨人はスロンビどもすら恐怖で震え上がらせた。盲目的な怒りに駆られた犬男がゴリアテに向かって飛びかかったが、巨像は歩調すら緩めなかった。顔面のど真ん中への壊滅的なパンチたった一撃で、犬男を瞬時に粉砕したのだ。
映像の中でエリアスのアバターは機関銃でゴリアテを撃ったが、銃弾は雨粒のように装甲に弾かれるだけだった。無意味だと悟ったエリアスは装甲バンから飛び降り、走り去った。そこでムービーが終了した。
再び操作権が戻り、背後にゴリアテの地震のような足音を響かせながらエリアスは全力で走った。
「くそっ、またあの不死身野郎がケツに張り付いてきやがった!」戦車の後ろを回り込んで距離を稼ごうとしながら叫んだ。
HUDがゴキブリの救いのテキストで輝く。
『正面にある3本の道のうち、中央には物資が2つ、左には1つあります。右の道は完全に空っぽです』
エリアスは迷わなかった。物資を拾うために減速することは、ゴリアテに踏み潰されることを意味する。
スライディングしながらカーブを曲がり、右の道へと一目散に飛び込んだ。約束通り回廊は空っぽで障害物もなく、突き当たりには明かりのついたエレベーターがあった。操作パネルには巨大な『3』の数字が浮かび上がっている。
エリアスはその中へと飛び込み、ボタンを連打した。鋼鉄の扉が閉まり始める。
角を曲がってゴリアテが現れ、唸り声を上げながら突進してきた。激突のわずか1ミリ秒前に扉が閉まりきる。
エレベーターが『地下3階』へと降下し始めるのを感じたが、その一瞬後、凄まじい轟音がエレベーターのかご全体を揺るがした。ゴリアテが外側の扉に拳を叩き込んだのだ。金属は耐えたが、耳をつんざく音が響き渡った。
次の地獄への降下が始まったばかりだった。
--- 現在のインベントリ確認 ---
・再計算後の残り時間:07:17:36
(時間計算:ベース07:02:36 - ショップ15分 - ステルス20分 + クローンボス報酬60分 - ボス戦5分 - タレット戦3分 - ゴリアテ逃走2分)
・アサルトライフル:98発(未使用)
・サプレッサー付きベレッタ:47発(ボスに2発使用)
・ショットガン:15発(ベース1発+ステルス回収6発+ボス報酬8発)
・マグナム・リボルバー:3発
・破片手榴弾:2個
・閃光弾:1個(回収2個-ボス戦で1個使用)
・コンバットダガー:1本
・電池式懐中電灯(バッテリー:100%)
・ケブラー製防弾チョッキ:爆発で損傷(残り耐久度:約60%)
・回復アンプル:2本(ベース1本+ボス報酬2本-1本使用)
・体力(HP):90%




