第17章:レベル2 ― デバッグのゴキブリ ~不死身の追跡者『ゴリアテ』と、管理者権限を剥奪する相棒の神ハック~
画面は、彼の最初の試練のリザルト表示の上で静止していた。
【4ステージ中・第1ステージ(地下4階) ― クリア】
エリアスがその統計データを頭の中で処理する暇すらなく、エレベーターが金属のうめき声を上げ、次のフロアへの到着を告げた。
重い扉が完全に開くより先に、神経インターフェースが彼の視界を乗っ取り、スキップ不可能な短いムービーを強制再生した。サバイバルホラーにおける王道のボス登場演出だった。
カメラは下からのアングルで、威圧的でマストドン級の怪物の軍用ブーツを映し出していた。身長は少なくとも2メートル50センチはあり、異常発達した腐りかけの筋肉組織と完全に融合したかのような、ボルト留めされた重厚な軍用アーマーに身を包んでいる。暗闇から2頭の獰猛で腐ったゾンビ・ジャーマンシェパード(軍用犬)がその巨人に飛びかかり、感染した牙を前腕に突き立てた。
巨像はピクリとも動かなかった。1ピクセルのダメージすら受けていない。機械的な無関心さでゆっくりと両手を伸ばし、2頭の犬の頭をそれぞれ片手で掴むと、そのまま握り潰した。骨が軋むおぞましい音が回廊に木霊し、直後に不快な破裂音が響く――2頭の犬の頭蓋骨が、熟れすぎたメロンのように文字通り握り潰されて破裂したのだ。
ムービーが終了し、操作権がエリアスへと戻った。
エレベーターの扉が完全に開く。彼のすぐ左側――ムービーが配置した正確な位置に、あの装甲巨像が立っていた。死んだように白濁した両目が、彼の上にピタリと釘付けになる。
エリアスはマグナムを抜こうとすらしなかった。
(不死身の追跡者の王道アーキタイプだな)プロゲーマーの頭脳が、瞬時に脅威を分類した。(ダメージが一切通らず、マップ中どこまでも俺を追いかけてくるタイプだ。あんな奴に弾薬を使うのは素人のやることだぜ)
即座に右へと向きを変え、肩越しに後ろを一瞥しながら全力でダッシュした。怪物は走らなかった。ゆっくりと、不可避で重い足取りで彼を追ってくる。その一歩ごとに、バンカーの壁が激しく揺れた。
肩の負傷による移動速度低下のデバフ(状態異常)が残ったまま接近戦になるリスクは冒せない。足を緩めることなく、クイックスロットから蛍光グリーンのアンプルを取り出し、太ももへと突き刺した。
【回復アンプルを使用。状態異常が解除されました。HP:100%】
(残りアンプル:1本)
痛みが消え去り、デジタルなアドレナリンの奔流へと置き換わる。正面の脇部屋から3体の『スロンビ』が飛び出し、回廊を塞いだ。
エリアスは速度を落とさなかった。サプレッサー付きベレッタを構える。パスッ、パスッ、パスッ。頭部への正確な3連射。彼の存在に気づくより先に死体が崩れ落ちた。
【ログ:ベレッタ弾-3。合計:24発】
だが、そのまま前へ突き進むことはできなかった。暗闇から低い唸り声が反響し、あのゾンビ・シェパードの1頭が完全に不規則な動きで恐るべき速度で飛びかかってきたのだ。(頭を狙うのは不可能だ)エリアスは計算した。
瞬時にショットガンへと持ち替える。犬が喉元へと跳躍した瞬間、エリアスは腰だめ(ヒップファイア)で真っ直ぐに発砲した。散弾で即死はしなかったものの、運動エネルギーの衝撃が変異犬を後方へと吹き飛ばし、リノリウムの床に叩きつけた。立ち上がるより先にエリアスが上から馬乗りになり、コンバットダガーを頭蓋骨へと突き立てた。
【ログ:ショットガン弾-1。合計:2発】
装甲巨像の重くリズミカルな足音――ドシン……ドシン……という音が、刻一刻と近づいてきていた。
エリアスは一番近くにあった扉、『機関室』へと滑り込んだ。
そこは太い工業用パイプと蒸気排出バルブが入り組んだ迷宮だった。わずか2歩進んだところで、さらに3頭のゾンビ犬が牙を剥き出しにして機械の上をよじ登ってきた。
(一列に並べ)エリアスは狭い通路の漏斗を作るために後退しながら考えた。3頭の犬がパイプの間の狭い回廊に密集した瞬間、最後から2番目のショットガンシェルを発射した。
広範囲に拡散した散弾が、3頭すべてを同時になぎ倒した。エリアスは前方へとダッシュし、最初の1頭をナイフで仕留めると、地面に倒れている残りの2頭をベレッタで素早く処刑した。
【ログ:ショットガン弾-1。合計:1発】
【ログ:ベレッタ弾-4。合計:20発】
動き続けなければならなかったが、背後の機関室の重い鉄扉が開く音が聞こえた。巨人が到着したのだ。
室内をスキャンし、圧力用の大きな赤いバルブを見つけた。力任せにそれを回す。壊れたパイプから引火性の高い工業用ガスが噴き出し、強いシューという音が部屋を満たして彼と怪物の間の空間を充満させた。
巨人が一歩踏み出した瞬間、エリアスはガス漏れのすぐ近くで火花を散らしている電気配管にベレッタの照準を合わせ、発砲した。
【ログ:ベレッタ弾-1。合計:19発】
ボォォォッ!!
轟音と共に炎の防壁が燃え上がり、回廊を包み込んだ。巨人が足を止める。熱気など少しも気にしていない様子で炎の向こうからエリアスをじっと見つめたが、移動ルートを制御するAIが環境障害物を認識した。ゆっくりと向きを変え、別ルートを探すために引き返していく。
(時間を稼げたな)エリアスはかすかな笑みを浮かべた。(だが、あいつは絶対に止まらない)
部屋の奥を探り、死んだエンジニアの死体から光沢のあるプラスチック製のカードキーを見つけた。
【アイテム獲得:磁気カードキー ― 重火器保管ロッカー】
入ってきたのとは反対側の扉から機関室を出た。外へ出た途端、角を確認する。一番左端、メイン回廊からすでにあの巨人が姿を現していた。
エリアスは真正面に向かって全力で走り、『生物研究ラボ』と書かれた両開きの扉を蹴り開けた。
実験室は巨大で、水で満たされた超巨大なガラス製培養槽がずらりと並んでいた。濁った液体の内部には、何十頭もの変異犬がぷかぷかと浮かんでいる。
不気味な光景を無視して奥の壁にある保管ロッカーを見つけ、磁気カードキーを通した。重いハッチのロックが外れ、大当たりの戦利品が姿を現した。
【戦利品獲得:アサルトライフル(弾薬90発)、破片手榴弾×4】
フルオート火器の頼もしい重みを感じながら、アサルトライフルを装備した。ロッカーの隣には電源の入ったコンピュータがあった。アクセスする。ファイルを読み始めたまさにその瞬間、部屋の外で響いていた重い足音がピタリと止まったことに気づいた。
(ああ、ビデオゲームの定番仕様だな)心の中でメモを取った。(世界観のドキュメントを読んでいる間は、追跡者の移動AIが一時停止するんだ)
素早くファイルに目を通す。あの巨人は彼らの究極の生物兵器、『ゴリアテ(GOLIATH)』として分類されていた。末期の悪性腫瘍を患った最前線の軍人が実験台として志願し、実験段階の『Gウイルス』――標準的なゾンビウイルス、攻撃的な狂犬病株、そして兵士自身の変異し続ける癌細胞を掛け合わせたおぞましいカクテルを注射されたのだ。その結果生まれたのが、止められない戦闘機械だった。
『弱点:なし』。
エリアスは呆れて目を回した。(ああ、そんなことは自分でわかってたよ。このアサルトライフルを使ったところでかすり傷ひとつつけられないんだろうな)
エリアスは早めに端末を閉じた。直後に何が起きるか、正確にわかっていたからだ。
画面が消えた瞬間、室内のガラス製培養槽に次々とひびが入り始めた。ガシャアァン! 床が水浸しになる中、ずぶ濡れになった十数頭のゾンビ犬が地面へと転がり落ち、ガラスの破片を振り払った。
(ここで大量の弾薬を浪費させられる羽目になるな)アサルトライフルを構えながら、エリアスは歯を食いしばった。
突然、鮮やかな緑色のテキスト文字列が彼のHUDに割り込んできた。
『プロトコルをハッキングしてゴリアテの制御を奪います。最大でも10秒ほどしか持ちません。準備して』
実験室の扉が蝶番ごと根こそぎ吹き飛ばされ、ゴリアテが突入してきた。
エリアスはアサルトライフルで制御された短い点射(バースト射撃)を放ち、彼に向かって飛びかかってきた2頭の犬を撃ち落とした。
【ログ:アサルトライフル弾-10。合計:80発】
エリアスを狙う代わりに、ゴリアテは機械的な咆哮を上げ、空中の犬を1頭鷲掴みにすると素手で文字通り八つ裂きにした。残りの群れは即座に最大の脅威へと敵視を切り替え、ゴリアテに一斉に飛びかかってその装甲に無駄に噛みつき始めた。
部屋の中央に、敵が完璧にひとまとめに集まった。
(ありがとよ、ゴキブリ)
エリアスは歯で手榴弾のピンを抜いた。破片手榴弾を投擲する。
犬の群れのど真ん中に爆発物を放り込み、デスクの後ろへと飛び込んだ。
【ログ:破片手榴弾-1。合計:3個】
爆発が部屋を揺らし、血と肉の雨となって犬の群れを蒸発させた。ゴリアテはクレーターの中心に無傷のまま立っていた。巨人は出口に向かって逃げようとしていた最後の2頭の犬に向かって即座に突進していった。
道が開けた。
実験室に散らばる研究員たちの死体を素早く漁る。4人目の死体で、探していたものを見つけた。
【アイテム獲得:非常階段の鍵】
(当然だな。地下1階と2階へのエレベーターは壊れてる。ここからは徒歩ってわけだ)
実験室を飛び出し、軍人と科学者の居住区画へと走った。最初の扉を蹴り開ける――空っぽだ。2つ目の扉――何もない。
画面の上に緑色のテキストが点滅した。
『ゴリアテの制御が切れました。その部屋の物資は諦めて、追いつかれますよ』
二度言われるまでもなかった。回廊を全力でダッシュしたが、通気口の格子の下を通り過ぎようとしたまさにその瞬間、天井からショットガンの銃身が突き出し、彼の頭部に向かって真っ直ぐに発砲してきた。
あり得ない角度、グリッチを起こしたアニメーションだった。
エリアスは回避ロールを繰り出し、散弾が仮想の髪の毛をかすめるのを感じた。(またしても汚い手を使うクソプログラマーか)
「正面からかかってこいよ、クソ野郎ッ!」天井に向かってエリアスは叫んだ。
居住区画の回廊の突き当たりまで辿り着いたが、道は少なくとも10体のスロンビの群れによって塞がれていた。そして回廊の反対側の端からは、ゴリアテの重い足音が加速して迫ってきている。挟み撃ち(トラップ)だ。
ステルスで処理している時間はない。エリアスはもう1個の破片手榴弾を外し、壁に跳ね返らせて一撃でスロンビの群れを吹き飛ばした。
【ログ:破片手榴弾-1。合計:2個】
血の霧の中を駆け抜けたが、プログラマーのショットガンの銃身が再び天井から突き出し、上から彼の動きを追尾してきた。
ゴキブリの緑色のテキストが再び表示される。
『落ちてきたらすぐに撃って』
突然、天井のパネルが崩落した。エリート軍人の装備に身を包んだプログラマーが、床の上へと派手に転げ落ちてきたのだ。ゴキブリが彼の管理者権限を無効化し、ゲームのルール内でダメージを受ける通常の無防備なプレイヤーへと引きずり下ろしたのだ。
プログラマーは地面に激突し、パニックに陥ってアバターをばたつかせた。「俺のコンソールに一体何が起きてるんだ!?」近接ボイスチャットを通して男が絶叫した。
エリアスはすでにアサルトライフルを構えて彼の真上に立っていた。プログラマーは胴体と頭部を重装甲で固めていたが、すね(脚)は無防備に露出していた。
エリアスはためらわなかった。引き金を引き、プログラマーの両脚へと直接8発のフルオート射撃を叩き込んで仮想の骨を粉砕し、床へと釘付けにした。
【ログ:アサルトライフル弾-8。合計:72発】
「ゴリアテと仲良く遊ぶんだな」エリアスは冷酷に言い放ち、麻痺して動けないプログラマーを跨いで通り過ぎた。
走り去るエリアスの背後から、純粋な恐怖に狂ったプログラマーの絶叫が聞こえてきた。「やめろ! 待ってくれ! お前をプログラムしたのは俺だぞ! お前のコードを書いたのは俺なんだ!」
ゴリアテの巨大な影がプログラマーの上に落ちた。巨像にとって、コードなどどうでもよかった。身をかがめ、哀れな男の頭を鷲掴みにすると、そのまま握り潰した。
グシャッ。
回廊に再び静寂が戻った。
『ミニマップ上に階段が見えません』ゴキブリが彼に通知した。『時間を浪費させるために、どこかの適当な扉の奥に隠したようです』
(どこの世界に、宿舎の部屋の横に非常口を作る馬鹿がいるってんだ?)エリアスは苛立ちながら考えた。
施設の突き当たりまで走り、社員食堂エリアへと続く両開きのスイングドアを押し開けた。マップ構造は前のステージとよく似ている。室内はゾンビだらけだったが、エリアスは亡霊のように動いた。純粋なステルスモードでテーブルの間を完璧なルートで抜け、コンバットダガーで感染者を次から次へと葬っていく。銃弾は1発たりとも消費しなかった。
自動販売機の近くで死んでいた警備兵の死体を漁り、大型マガジンを見つけた。
【ログ:アサルトライフル弾+30。合計:102発】
厨房へと入る。内部では、肉切り包丁を手にした5体のシェフ姿のスロンビが一斉に彼の方へと振り返った。
ドシン。ドシン。背後の食堂の扉を、ゴリアテがたった今粉砕したところだった。もはやステルスをしている時間はない。
エリアスはアサルトライフルを構え、バースト(点射)モードに切り替えて発砲した。頭部への外科的な4連バーストで、血とポリゴンの雨となって頭蓋骨が次々と弾け飛んだ。
【ログ:アサルトライフル弾-4。合計:98発】
厨房を破壊し尽くしながら迫ってくる止められない巨人を振り返ることなく、エリアスは奥の扉を蹴り開け、ついに『Emergency Exit(非常口)』と書かれた赤い重厚な金属扉を見つけた。
鍵穴に鍵をねじ込み、階段吹き抜けの中へと飛び込む。超人的な力を振り絞って背後の重い金属扉を引き寄せ、反対側からゴリアテの巨大な拳が金属に激突するわずか1ミリ秒前にロックを掛けた。
(これでしばらくは足止めできるだろう)扉の向こうでゴリアテの鈍い打撃音が響き渡る中、冷たい壁に背中を預けてエリアスはため息をついた。
HUDのタイマーを素早く一瞥する。絶え間ない追跡劇と銃撃戦、そして戦略的な逃走劇の間で、この狂ったステージだけで正確に「1時間14分」を失っていた。
探索を続けるために地下4階の別棟へ出られるだろうと予想しながら、鉄筋コンクリートの階段を降り始めた。だが地下4階の踊り場に辿り着くと、アクセス扉は互いに溶接された分厚い鋼鉄プレートによって完全に塞がれていた。ドアノブもない。出口もない。
さらに下へと降り続けるしかなかった。
階段吹き抜けの静寂にブーツの音を反響させながら一番底まで降りると、壁の剥げかけたペンキが『地下5階(ベースメント5)』を示していた。
近づいた瞬間、唯一進める扉が空気圧のシューという音を立てて開いた。そこは冷たい青いネオンに照らされた長く無菌的な回廊であり、上層階の腐敗と錆とは鮮明で不気味な対比を描いていた。
感覚を最大限に研ぎ澄まし、アサルトライフルを構えたまま回廊を進む。通路の突き当たりで、両開きの自動ドアが音もなくスライドして開いた。
目の前に広がっていたのは、ゲームのどんな公式マップにもデータマイニング情報にも載っていなかった超ハイテクな地下施設――巨大な『極秘軍事研究所』だった。
--- 現在のインベントリ確認 ---
・探索所要時間(レベル2):1時間14分35秒+前ステージの2時間4分(大脳皮質崩壊まで残り:07:02:36)
・アサルトライフル:98発
・サプレッサー付きベレッタ:19発
・ショットガン:1発
・マグナム・リボルバー:3発
・破片手榴弾:2個
・コンバットダガー:1本
・電池式懐中電灯(バッテリー:100%)
・回復アンプル:1本
・体力(HP):100%




