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第13章:レベル5 ― バグった虫 ~仕様を破壊する最強の『バグ相棒』誕生と、暴かれる手抜き開発の真実~

肥満した研究員は咆哮しなかった。タールと腐敗した臓器で満たされた喉の奥から湧き上がるような、湿ったゴボゴボという音だけを漏らしていた。だが、エリアスの血を凍りつかせたのはその喘ぎ声ではなかった。怪物が視界に入ったまさにその瞬間、その頭上に浮かび上がったもの――セグメント(区画)に分かれた、細かく振動する赤いバーだった。

『体力ゲージ(HPバー)』だ。


エリアスはまばたきをし、自分の神経系のバグか、あるいは火星でケブラーを粉砕された爆発と脳震盪のトラウマによる幻覚ではないかと疑った。『プロトコル0』において、ゲームエンジンが視覚的な補助(UIアシスト)を提供することなど決してなかった。あのゲージが見えるということは異端であり、ソースコードに直接焼き付けられた冒涜だった。横へと視線を向けると、ゴキブリの姿が目に入った。体長1メートル50センチの暗いキチン質の塊は、アリーナのすぐ外側で微動だにせず立っていた。その触角が不自然な周波数で振動し、研究員へと真っ直ぐに向けられている。


エリアスは瞬時に理解した。あの虫はNPC――コード内部のネイティブ要素であるため、プレイヤーである彼が本来決して持つはずのない「視覚特権(デバッグ表示権限)」を持っていたのだ。ゴキブリはサーバーの生データを彼の網膜へと直接投影し、HUDのセキュリティフィルターをバイパスするための中継ブリッジとして機能していた。


ゴキブリが彼の方へと首を向けた。そのキチン質の顔の上に、ほとんど人間のような歪んだ「笑顔」が浮かび上がった。エリアスは嫌悪感の疼きを覚えたが、すぐさま感情を閉ざし、その生理的嫌悪を純粋な戦術的アドバンテージへと変換した。

「このアリーナじゃ、お前が俺の最強のリソース(資源)になりそうだな」彼は囁いた。


1秒も無駄にしなかった。プロゲーマーの論理が主導権を握る。エリアスはベルトから破片手榴弾を引き抜き、安全ピンを抜いて巨像の足元へと正確に転がした。爆発がデジタルのリングを揺らし、砂塵と瓦礫を巻き上げる。赤いゲージを見る――きっかり4分の1が消え去っていた。(本物だ。ダメージが数値化されているぞ)


肥満研究員が獰猛に反応し、体勢崩し(スタッガー)のアニメーションから立ち直ると、巨大な注射器を槍のように構えて頭から突進してきた。エリアスはミリ単位の動きで回避し、無敵フレーム(iフレーム)を利用してかわすと、サプレッサー付きベレッタで胴体を狙って素早く9連射を叩き込んだ。赤いゲージが猛スピードで減少し、半分以下へと割り込む。


ボスが変異した。血まみれの白衣を引き裂く暴力的なアニメーションと共に、筋肉が異常肥大していく。エリアスはその移行を見抜いた――『発狂(エンレイジ)モード』のギミックだ。

巨像がタイタン級の跳躍を放ち、アリーナのハロゲンライトを遮った。怪物が着地する正確なフレームで、エリアスは『パルス・ディフェンス』の防御チャージを起動した。金属のドームが衝撃の重みの下で激しく振動する。シールドが衝撃波の大部分を吸収したものの、エリアスは自分の体力がハート7個中4個から「3/7」へと減るのを感じた。


「デカくなったところで、当たり判定(ヒットボックス)が広がって狙いやすくなるだけだぜ、このマヌケが」血の塊を吐き捨てながら、エリアスは唸った。


『タクティカル骨の弓』を抜き、単一の滑らかな動きで最後の「通常の矢3本」をつがえて放った。正確な3発が、ボスのたるんだ肉の奥深くへと突き刺さる。怪物の体力ゲージはさらに縮まったが、全体の5分の1をわずかに超えたあたりで頑固に止まった。消えることを拒む、強固な残り20パーセントだ。


研究員が汚染されたピクセルの軌跡を引きずりながら、再び突進してきた。エリアスはためらわなかった。『フルオート・アサルトライフル』を抜く。14連射。フルオート射撃のリズミカルで鈍い金属音が怪物の両膝と胸板を薙ぎ払い、ゲージの残りを完全にゼロにして有機的な瓦礫の山へと変えた。ボスは重く崩れ落ち、灰色の光のグリッチとなって消滅した。


エリアスはライフルを下ろし、過熱した銃身から立ち昇る鼻をつく煙を吸い込んだ。乱れた呼吸を整えるためにほんの一瞬だけ息をつく。アドレナリンが引き始め、蓄積した打撲や火傷の鈍い痛みが押し寄せてきた。ボスが倒れた地点へと歩み寄り、地面から無傷の『ケブラー製防弾チョッキ』を拾い上げると、幸運にも消滅する前のデジタルの体液の水たまりから3本の矢を引き抜いて回収した。


その時になってようやく、ゴキブリがアリーナの外周を越えて近づいてきて、甲高い音で鳴いた。埃まみれの顔に疲労をにじませながら、エリアスはそれを見つめた。

「家族の仇を討った報酬は何だ?」彼は尋ねた。

虫は自分の顎の間を探り、エリアスの足元に惨めな「3発の9mm弾」を吐き出した。


彼は苦笑いを爆発させ、首を横に振った。「これだけだとわかっていたら助けなかったぜ」軽蔑を込めて言いながら、銃弾を拾い上げた。「まあ、結局のところお前のせいじゃないな……壊れたゲーム経済でお前をプログラムしたあの間抜けな開発者どものせいだ」


ゴキブリが最後の会話テキストを再生するために顎を開いた。『3発の銃弾を受け取ってください。それではお別れ――』

だが、音声が途切れた。

ショートしたモデムのような猛烈なノイズ音が、その声を断ち切ったのだ。視覚的なグリッチが発生し、黒と緑のテクスチャの痙攣がゴキブリのキチン質の肉体全体を駆け巡った。ポリゴンモデルが激しく振動し、今にもクラッシュしそうになる。やがて、グリッチが安定した。AIがスクリプトの強制書き換えを行い、自らのパラメータを再定義したのだ。


ゴキブリの口調が完全に変わった。その声はより鮮明で、不自然なものになっていた。『私の家族の仇を討ってくれたお礼に、これからはあなたの旅のすべてをお手伝いします。あなたの忠実なる僕(しもべ)となりましょう』


HUDの中央に、予想外の輝く通知が浮かび上がった。


【システムメッセージ:ペットを獲得しました ― ゴキブリ】


エリアスは石のように固まり、沈黙した。アニメーションがグリッチを起こしたという事実こそが、決定的な証拠だった――このゴキブリは、恒久的な同行仲間(コンパニオン)になるようには1ミリもプログラムされていなかったのだ。ゲームが壊れ始めていた。あるいは、適応型AIのベースを持つすべてのNPCは、致命的なバグに晒されると自己再調整(リキャリブレーション)を行う仕様なのかもしれない。


ステージクリアのローディングは視覚的な内破(インプロージョン)だった。エリアスはリンボ(辺獄)へと放り込まれた。


◇ ◆ ◇


エリアスは無条件反射で素早く時間の計算を行った。

・前回の残高:02:45:24

・ステージクリアボーナス:+60分

・買い物前の合計:03:45:24


商人は洗練されたオーク材のデスクに座って彼を待っていたが、エリアスのすぐ後ろに巨大なゴキブリが静止しているのに気づいた瞬間、笑顔の途中でピタリと固まった。その顔から傲慢さの痕跡が完全に消え失せる。

「ど、どうやってそのクリーチャーをここへ連れ込んだ!?」NPCがどもりながら叫んだ。商人はもはや笑っていなかった。神経質そうな手つきでテーブルの上の黄金の時計を押し、5分間の休憩タイマーを容赦なくスタートさせる。


「俺のインベントリの中に入っている」エリアスは腕を組み、素っ気なく答えた。

商人は読み取れない表情で顎を強張らせ、苦労して本来の役割へと戻って話を切り上げた。「何を買いたいね、旅人よ? 君の持ち時間は『03:45:24』だ」


エリアスは浮遊する商品を見つめた。次の悪夢に備えて攻撃力を補充し、傷を癒やす必要があった。

・ハート3個(90分):ほぼ最大まで回復するため。

・アサルトライフル弾30発(30分):主力火器の弾薬補充。

・ベレッタ弾10発(10分):サプレッサー付き拳銃用。

・合計消費:130分(2時間10分)。


エリアスはまばたきひとつせず購入を確定させ、残り時間が『01:35:24』へと減るのを見届けた。

商人は商品をテーブルの上に滑らせると、慎重な動きでゴキブリへと近づき、手袋をはめた手でその甲殻にそっと触れた。

「もしこの……虫を私に売ってくれるなら」スクリプト外の強欲さに目を輝かせながら、商人が囁いた。「代わりに、まるまる『4時間の寿命』をあげよう」


「売らないね」エリアスは氷のような声で答え、視線でクリーチャーを自分のそばへとونび戻した。

(AIがこのバグの穴を塞ぐためにこれほど莫大な撒き餌を提示してくるということは)真の仕様悪用者(エクスプロイター)としてエリアスは思考を巡らせた。(このペットが連中のステージ構造全体を汚染しかねない脅威だということだ。誰が返してやるもんか)


商人は険しい目で彼を睨みつけ、手を引っ込めた。エリアスはその恨みがましい視線を無視し、ホログラム球体から次の目的地を選んだ。『雪山(スノー・マウンテン)』だ。

ロード画面に先立つ時空の崩壊の最中、商人の声が暗く脅迫的に響き渡った。「さようなら、エリアス」

「ここでは死なねえよ」世界が白いピクセルの吹雪の中へと消え去る中、彼は答えた。


◇ ◆ ◇


ローディングは彼を、山頂にある放棄された山小屋(ロッジ)の内部へと直接吐き出した。


--- インベントリ確認 ---

・時間通貨(タイマー):01:35:24

・体力ステータス:ハート 6/7

【武器・弾薬】

・フルオート・アサルトライフル:合計45発

・サプレッサー付きベレッタ:合計25発

・ショットガン(12ゲージ):4発

【ガジェット/ツール】

・タクティカル骨の弓:1張(通常の矢3本)

・軍用タクティカルナイフ:1本

・大型パイプレンチ:1本

・木の松明:1本

・電池式懐中電灯:1個

【キーアイテム/コレクタブル】

・煽りメモ(コード・トロール・ノート):仮想アイテム10枚

・スマイルカード:1枚

【防具・防護】

・高性能宇宙服(使用可能)

・ケブラー製防弾チョッキ(耐久度100% ― ボスからのドロップ品)

・パルス・ディフェンス:残り1チャージ

【消費アイテム】

・破片手榴弾(フラググレネード):1個

【ペット】

・ゴキブリ(アクティブ ― ステータス:グリッチ/圧縮状態)

・現在地:【雪山】


エリアスは周囲を見渡した。割れた窓の外は分厚いデジタルの雪の毛布で覆われていたが……まったく寒くなかった。降雪のアニメーションもなければ、凍傷やスタミナ低下のメカニクスもない。ただ地面の上に白いテクスチャが雑に塗りたくられているだけだった。

右上のカウンターを見る。『01:33:27』。(残り1時間半もない。この家を隅々まで探索している暇はないな)


正面玄関の扉から外へと出て、最初の一歩を踏み出した。足元から鳴ったのは、新雪を踏みしめる柔らかい音ではなかった。乾いた録音済みの効果音――ゴキブリの洞窟で砂利を踏んだ時と「全く同じ音声ファイル」だった。ブーツが石のテクスチャに雑にめり込んでいる。景色は彼に息を呑ませたが、それは美しさのせいではなく、悪質なレベルデザインのせいだった。


目の前で、マップが放射状に広がっていた――選べるルートが少なくとも「6本」あったのだ。岩と目もくらむような白さの中へと消えていく6本の小道。

「クソ野郎どもめ」エリアスは歯を食いしばって吐き捨てた。「マップもなしでどうやって正しい道を選べってんだ? 俺の最後の1時間を削り取るためにわざとやりやがったな!」


背後から、ゴキブリが小走りで追いついてきた。山小屋の中を勝手に漁って見つけてきたばかりのフルーツジュースの紙パックを、前脚の1本を伸ばして彼に差し出す。エリアスはそれを受け取って飲み干し、いつものエネルギーの火花が組織を癒やして最後の欠けていたハートを回復させるのを感じた(体力:7/7)。

直後、虫がHUD上のテキスト文字列を通して決定的な情報を伝えてきた。『マップならすでにあなたのインベントリの中にありますよ。私が読み解いてあげましょう』


エリアスは困惑しながらサブメニューを開き、『煽りメモ(コード・トロール・ノート)』――これまで中指を立てた子供っぽいイラストしか表示されなかったあの10枚の無意味なデジタルの紙切れを選択した。もはや「紙のオブジェクト」ではなくインベントリ内のデータとなっていたため、サーバー内の実体であるゴキブリはその本来のプログラミング層をデコード(復号)することができたのだ。エリアスは愕然としてそれを見つめた。虫のおかげで視覚的な偽装が剥がれ落ちた――あの紙切れは、最初からずっと『マップ』だったのだ。


ゲームの正確で詳細な10枚のマップ。そのうちの4枚は、彼がすでに訪れて苦しめられたエリアを描いていた。

5枚目のメモを食い入るように確認すると、『雪山』のマップがその残酷な全貌を現した――目の前にある6本のルートのうち、実に5本が時間を奪うための無限湧きポイントだらけの死の罠『キル・ルーム(処刑部屋)』だったのだ。本物のゴール――岩の尾根の下に隠された狭い洞窟へと繋がっているのは、たった1本だけだった。


エリアスは迷いのない足取りで正しいルートへと向かった。(このペットはマジで途方もない幸運の塊だぜ)苦笑いを浮かべる。(俺自身がイカサマをしているわけじゃなく、ゴキブリのAIが仲介してコードを読み取っているだけなら、システムもこれをエクスプロイト(不正行為)として検知して俺を処罰することはできないはずだ)


雪に偽装された砂利の小道を2人で一緒に歩き出した。途中、ゴキブリが彼を追い抜いて前方へと猛ダッシュし、半分埋もれた木箱の中を漁った。戻ってくると、彼に『破片手榴弾』を2個手渡した。

(当然だよな)ベルトに手榴弾を引っ掛けながらエリアスは思った。(NPCなんだから、トリガーポイントの位置も、敵が何体湧くかも、この忌々しいマップのどこに何のアイテムがあるかも全部正確に把握しているわけだ)


虫が彼の前を歩いている時、ある輝きがエリアスの注意を引いた。洞窟の視覚圧縮でこれまでは隠れていたゴキブリの背中の点滅するテクスチャが、山の残忍な白い光の下で露わになっていたのだ。甲殻の中央に、色褪せたロゴ――純粋な怠慢から消し忘れられた開発用アセットの透かし(ウォーターマーク)が刻印されていた。

そこには大きな文字でこう書かれていた。


『リーサル・ウイルス4(VIRUS LETALE 4) ― アセット・バンドル』


エリアスはピタリと足を止め、喉の奥で息を呑んだ。パズルのピースが壊滅的な暴力性で一気に噛み合うように、一瞬にしてすべてを理解した。

『プロトコル0』の裏にいたのは、間違いなくあいつらだった。何年も前に彼が生配信で徹底的にこき下ろし、辱めたあの倒産したスタジオだ。だが、その真実は彼に罪悪感をもたらすどころか、純粋で獰猛な怒りだけを呼び起こした。連中が破綻したのは、断じて配信者たちのせいなどではなかった! あのゲーム――連中が逆恨みして復讐の動機にしている自称「最高傑作」は、前作『リーサル・ウイルス3』のあからさまで恥知らずな使い回し(コピー)だったのだ。単なる下品な『アセット・フリップ(素材流用ゲー)』だったのだ。正気な人間なら誰もあんなものをフルプライスで買うはずがない。マップの一部や怪物のスキンすら変える手間を惜しみ、ほんの少し手直ししただけだったのだ。


だからこそ、あの時の生配信で彼はあんなにも早くクリアできてしまったのだ! 彼の筋肉記憶と空間認識能力は最初からすべてを知っていた――あの壁をすり抜けられることも、ボスの当たり判定がバグっていることも。連中は何ひとつ修正していなかったのだ。

それなのに今、あの傲慢で凡庸な開発者たちは、自分たち自身の怠慢と無能さに対する卑小な逆恨みのためだけに、プレイヤー同士を殺し合わせ、現実の寿命を奪い取ろうとしている。


「クソ野郎どもが……」指の関節が白くなるほどアサルトライフルのグリップを強く握りしめ、エリアスは何もない雪山に向かって唸った。「このサーバーから絶対に出てやる。そしてコードの最後の1行まで、お前ら全員に代償を払わせてやるからな」


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