第12章:キチン質の波と忠実なる者のロア ~巨大ゴキブリNPCとの奇妙な共闘と、Zウイルス矢によるAI同士討ち~
観覧車のゴンドラが地面に激突した猛烈な衝撃で、エリアスは息を呑み、顎の歯がガチガチと鳴った。砂塵が晴れると遊園地の機械的な音楽は消え去り、湿って息が詰まるような熱気へと置き換わっていた。空は消え、巨大な洞窟のギザギザで閉所恐怖症を誘う天井に塞がれている。唯一の光源は、泥がこびりついたプラスチックの外装を持つ、地面に点在するいくつかの非常灯が放つ不健康で緑がかった輝きだけだった。
エリアスは足元を見下ろし、血管の中の血が瞬時に凍りついた。
床は、悪夢の純粋な燃料がうごめきながらテカテカと光る絨毯だった。体長30センチもある何百匹ものゴキブリがひび割れた岩や錆びたパイプの上を群れをなして這い回っており、その節のある無数の脚が湿った壁に反響する耳をつんざくようなカサカサという摩擦音を生み出していた。
強烈で内臓がひっくり返るような嫌悪感の波が彼を襲った。エリアスはゴキブリが大嫌いだった。これまでシステムが彼にぶつけてきたどんな変異怪物やピクセルの悪魔よりも、ゴキブリを憎んでいた。純粋な本能から、手に入れたばかりのアサルトライフルを構え、群れに向かって5.56mm弾の必死のフルオート射撃を解き放とうと引き金にかけた指に力を込めた。だが、熟練ゲーマーとしての反射神経がパニックを打ち消した。(待て。移動ルート(パスファインディング)を見ろ。めり込み(クリッピング)を見ろ)
ゴキブリたちは彼を狙っていなかった。攻撃的な姿勢すらとっていない。ただ互いの体をすり抜けながら、床の幾何学構造に沿って固定された反復ループで動いているだけだった。エリアスはライフルを下ろし、ベレッタを抜いて、左のブーツのすぐ近くでうごめいている特に巨大なゴキブリの1匹に慎重に照準を合わせた。
パスッ。
消音された9mm弾が静かに放たれた。銃弾は虫の甲殻をそのまま「すり抜け」、下の硬い岩に当たって小さな砂塵の雲を上げた。ゴキブリはピクリともせず、排出された真鍮の薬莢の中を通り抜けながら、あらかじめプログラムされたルートをただ歩き続けた。「ただの背景オブジェクト(プロップ)か」額から冷や汗の雫を拭いながら、エリアスは唇から大きく震える安堵のため息を吐き出した。「開発者どもに感謝しないとな。ただの背景の賑やかし(フィラー)だ」
とはいえ、何千匹もの巨大昆虫がうごめく光景を見ているだけで肌がムズムズした。レベルデザイナーが残していった隠し扉や簡単な戦利品がないか、すぐ周囲のエリアを素早くスキャンする。砕け散ったゴンドラの残骸の後ろを確認した。何もない。ここのマップは狭く無慈悲な一本道だった。暗闇の中を前へと進む以外に選択肢はない。
エリアスは緩んだ砂利をブーツで踏みしめながら、洞窟のメインルートに沿って行軍を開始した。受動的な背景アセットが突然敵対モブに変わるのではないかと疑心暗鬼になりながら、影から影へと絶えず視線を走らせる。
トンネルの内部へ数十メートル進んだところで、微かに脈打つ真紅の輝きが彼の注意を引いた。2つの巨大な岩の形成物の間にある、狭くギザギザした垂直の亀裂の奥深く、高い場所に挟まっていたのだ。
暗闇の中で目を凝らし、視界を絞る。エリアスは目を見開いた。「『ハートの器』だ!」
清潔で温かい光を放ちながら浮遊する、ピクセル化された赤いハートだった。最大体力を恒久的に増やすパワーアップアイテムだったが、マップ制作者はエリアスが物理的に手が届かないほど狭い当たり判定の隙間に意図的にそれを押し込んでいた。
「撃ち落とせってことだな」ベレッタの金属照準を合わせながら、エリアスは呟いた。
引き金を引く。パスッ。外れた。銃弾は亀裂の岩の縁に当たった。ゲームエンジンの欠陥だらけの垂直方向のヒットボックスを補正しようと姿勢を調整する。パスッ。またしても空振りし、銃弾が左側の岩壁に跳ね返った。
「このコリジョンメッシュ(当たり判定の網目)、俺を舐めてるのか?」ゲーマーとしての苛立ちを沸騰させながら、エリアスは唸った。素早くさらに3連射し――パスッ、パスッ、パスッ――5発目の銃弾がついに赤いアセットの端を捉えた。
ハートは真紅の粒子の美しい雨となって砕け散り、岩壁に沿って降り注ぐと彼の胸へと直接吸収された。頭の中で鮮明でメロディアスな音が鳴り響く。
【最大体力上昇:ハート7個】
【体力回復:ハート 4/7】
「素晴らしいね、出来の悪いヒットボックスを突破するためだけに9mm弾を5発も消費させられたぞ」残弾カウンターを確認しながら、エリアスはぼやいた。「だが、体力ボーナスはありがたく受け取っておこう」
洞窟の壁が狭まり、窮屈な防御姿勢を強いられる中、小道を先へと進んだ。急な岩の角を曲がった瞬間、心臓が喉元まで跳ね上がった。
小道のど真ん中に、身の丈「1メートル50センチ」はある怪物じみた『巨大ゴキブリ』が立ち上がっていたのだ。エリアスは凍りついた。その怪物が明らかにポリゴン数の少ない粗悪なアセット――動きは硬く、ピクセル化された甲殻にはリアルなテクスチャが一切貼られていない――であったにもかかわらず、その純粋に恐ろしいサイズ感が彼の恐怖症を爆発させた。本能的に一歩後ずさりし、12ゲージ・ショットガンを肩まで持ち上げて引き金に強く指をかけた。
すると、巨大ゴキブリはトゲだらけの前脚の1本を上げた。そして、礼儀正しくリズミカルに「手を振った」のだ。
エリアスは信じられないというようにまばたきをした。「巨大ゴキブリが一体何の挨拶をしてるってんだ?」
信用はしなかった。足を引きずり、ショットガンを安定させたまま、苦痛なほどの遅さで前進する。巨大昆虫は戦闘態勢をとることなく、ただ丁寧な遅いループモーションで前脚を振り続けていた。エリアスが5メートルの距離まで近づくと、怪物の触角の上にホログラムの表示が実体化した。【PRESS E TO TALK(Eキーで話す)】。
「NPCだと? 冗談だろ」エリアスは呟いた。ショットガンの銃口をほんの数ミリ下げ、脳内コマンドを押す。
視界の中央下部に会話ウィンドウが開き、言語をシミュレートしようとするカチカチというクリック音と衣擦れのような音声ファイルが再生された。
【巨大ゴキブリNPC】:『残酷で無慈悲な存在が、私たちの聖域へと侵入しました。奴は私の家族全員を虐殺したのです……容赦なく踏み潰しました。旅人よ、私のためにあの怪物を排除してはくれませんか? 成し遂げてくれたなら、計り知れないほどの報酬を与えましょう』
エリアスは巨大昆虫を見つめ、顔に冷笑的な笑みを浮かべた。「正直に言うとだな、兄弟。もし俺が丸めた巨大な新聞紙を持っていたら、俺もお前の家族に全く同じことをしていたと思うぜ。ここは文字通りの肥溜めだからな」言葉を切り、点滅するプロンプトを見つめる。「だが、サブクエストはサブクエストだ。こんな壊れたゲームエンジンの中で、確定報酬を断る手はない。引き受けよう」
【巨大ゴキブリNPC】:『感謝します、勇敢なる旅人よ。その残酷な怪物は、この深い下り坂の突き当たりで待ち構えています。さあ行きなさい、私の愛する者たちの仇を討つのです』
エリアスは会話ウィンドウを閉じ、肩を揺らして再出発の準備を整えた。だがトンネルに沿って最初の数歩を踏み出した途端、かかとのすぐ後ろで重くリズミカルなカサカサという音が響いた。鋭く振り返り、銃を構える。
巨大ゴキブリが彼についてきていたのだ。きっかり1メートルの距離を保ちながら、彼の動きを完璧にトレースしている。エリアスが立ち止まるたびに巨大バグ(虫)も立ち止まり、振り返るたびにその巨大なピクセルの目が虚空を見つめ返した。
「ああ、最高だな。ゲームデザインの極致だぜ」純粋な嫌悪感の激しい悪寒が背骨を駆け抜ける中、エリアスは囁いた。「世にも恐ろしい巨大昆虫が、俺の同行ペット(コンパニオン)になるなんてな。骨の髄まで幻覚の悪寒が走るぜ」
新しい相棒を無視しようと歩調を速め、砕けた岩や古い採掘の瓦礫で道が塞がっている洞窟のより広いセクションへと移動した。隠された弾薬がないかと期待し、メインルートから外れて巨大なギザギザの岩群の後ろにある暗い窪みを調べ始めた、その時。
バン!!
サプレッサーなしの銃声が、洞窟の静寂を引き裂いた。
エリアスは右肩に暴力的で脳を揺さぶる衝撃が激突するのを感じた。銃弾の威力で体が独楽のように回転し、体力ゲージが激しく点滅する中、焼けるような激痛の閃光が神経系を引き裂いた。
【体力:ハート 3/7】
「ぐああっ! くそっ!」エリアスは叫んだ。2発目が撃ち込まれるより先に、戦術訓練が主導権を握った。身をかがめて砂利の上を必死にローリングし、さっきまで自分が立っていた場所のすぐ横の岩を2発目の銃弾が弾き飛ばすのと同時に、巨大で頑丈な岩の後ろへと身を投げ出した。
巨大ゴキブリが彼の後ろへ猛烈な勢いで這い寄り、エリアスのすぐ隣の狭い遮蔽物の中へと巨大な甲殻を押し込み、彼の腕に当たって触角を狂ったように揺らした。
「くそっ、痛え……とんでもない激痛だぞ」右肩を押さえながらエリアスは呻いた。
無理やり冷静さを取り戻し、音声データを分析する。銃声の反響は鮮明で、高い場所から響いていた。洞窟の床のはるか頭上、どこかにスナイパーが陣取っている。
(考えろ、エリアス、考えるんだ)選択肢を頭の中で駆け巡らせながら自らに命じた。遮蔽物から飛び出し、『パルス・ディフェンス』のチャージを1回分消費して位置を特定することもできる。あるいは暗闇に向かって破片手榴弾を投げるかだ。視線を落とすと、すぐ隣の遮蔽物に押し込まれて震えている巨大なゴキブリNPCの姿が目に入った。
「おい」虫の方へ顔を向け、エリアスは囁いた。「頼みがあるんだが、俺の『囮』になってくれないか?」
ゴキブリが即座にカサカサと音を立て、ログに新しいテキスト行が表示された。
【巨大ゴキブリNPC】:『上から撃ってきているあいつは、私の巣を破壊した怪物の仲間です! あなたが奴を撃ち落とせるよう、喜んで銃火を引きつけましょう!』
エリアスが返事をするより先に、巨大昆虫が岩の後ろから飛び出し、長い脚で開けた砂利の上を猛烈に引っ掻きながらトンネルの中央へと走り出した。
バン!
スナイパーがその餌に食いついた。走る虫のすぐ目の前の地面に重い銃弾が着弾し、砂塵の雲を上げる。
そのたった1発の銃声だけで、エリアスには十分だった。マズルフラッシュ(銃口炎)が高さ20メートルの場所にあるギザギザの岩棚を照らし出し、狙撃手のシルエットを浮かび上がらせたのだ。単一の滑らかな動きでエリアスは岩の後ろから身を乗り出し、ベレッタを素早く上へと向けてスナイパーの頭部に金属照準を合わせた。
パスッ。
消音された単発の銃弾が銃口を離れ、スナイパーの額のヒットボックスのど真ん中を撃ち抜いた。シルエットが硬直し、バランスを崩して高い岩棚から真っ逆さまに落下すると、湿ったデジタルな音を立てて眼下の岩の床へと重く激突した。
エリアスは銃を構えたまま慎重に遮蔽物から出て、落下した死体へと歩み寄った。スナイパーはタクティカルベストの上に無菌の白い白衣を着ており、離反した研究員のように見えた。数秒のうちにキャラクターモデルが点滅し始め、四肢が赤と灰色のピクセルの雲となって溶け出し、やがてサーバーの床から完全に消滅した。
エリアスは長く息を吐き出し、銃を下ろした。「助かったぜ。生身の人間のプレイヤーじゃなくて、ただの通常のNPCモブだったか」
死体が消えた場所の上に、いくつかの輝くアイコンが浮いていた。身をかがめてインベントリへと回収する。
【戦利品獲得:9mm弾×6】
「うわあ、まるまる6発もくれるのかよ」純粋な皮肉を滴らせた声でエリアスは言った。「実に素晴らしいゲーム経済だな。気前の良さの最高傑作だぜ」予備の弾薬の山にそれを加え、合計を31発にした。
洞窟の小道はここから急激な下り坂となり、巨大で大きく口を開けた深淵へと降りていた。環境光は完全に消え失せ、漆黒の虚無へと置き換わる。エリアスは肩のストラップから電池式懐中電灯を外して点灯させ、さらに木の松明を取り出して素早い動作で火をつけた。暗闇の中を下っていくには最大限の視界が必要だった。
急な下り坂を慎重に降りていくと、トンネルが突然、超巨大で広大な地下空間へと出た。エリアスは歩調を緩め、低いしゃがみ姿勢になって自分の体で松明の光を隠した。
洞窟の底には、即席の『調査キャンプ』が広がっていた。携帯用の軍用テント、暗闇の中で静かに唸りを上げる発電機、そして科学モニターで埋め尽くされた折りたたみテーブルが空間を満たしている。エリア全体が冷たく無骨なハロゲンライトに照らし出されていた。
そして、厳重に警備されていた。
「人間か」暗闇の中で目を細め、エリアスは囁いた。「光に気づかれる前に明かりを消した方がいいな」懐中電灯のスイッチを切り、松明を岩壁に押し付けて火を消すと、自分のすぐ周囲を再び影の中へと沈めた。
巨大ゴキブリが彼の横へとやってきて、眼下の明るいキャンプに向かって触角を揺らした。
【巨大ゴキブリNPC】:『私の家族を踏み潰した怪物はあの下、あのキャンプの奥深くにいます……』
エリアスは岩棚の縁へとさらに這い寄り、冷徹な正確さで外周を偵察した。テントの間を移動しているモデルの数を数え始める。間抜けによろめくグール(屍鬼)ではない。全員がアサルトライフルとサイドアーム(拳銃)で完全武装した企業研究員と戦術警備兵だった。
「10……15……20……22人か」眉をひそめながらエリアスは数えた。「武装した人間の警備兵が22人。キャンプのレイアウト全体に散らばって配置されている」
影の中へと少し下がり、手持ちの物資のマージンを計算した。(ここでの最善手は何だ?)彼は考えた。(正面からの銃撃戦で全員を排除するだけの弾薬はあるが、もしここでライフルのマガジンや拳銃の弾を使い果たせば、このステージの最後にどんなボス戦が待っていようと完全に弾切れ(ドライ)状態で挑む羽目になる。しかもあいつらは鈍重で予測しやすいゾンビじゃない。戦術AIだ。銃火器を持っている)
エリアスは隣にいる巨大昆虫へと向き直った。「おい、聞け。あの中のどいつがメインターゲットなんだ? もしステルスで接近してボスだけを暗殺し、クエストクリアのフラグを立てられるなら、お前がどんな報酬をくれるのか見てみたいんだがな」
虫の触角が下がり、ログに新しいテキストが表示された。
【巨大ゴキブリNPC】:『あの中に主はいません……あの残酷な男は、キャンプのテントのさらに奥に隠れています。あそこにいるのはただの召使いどもです』
エリアスは小声で悪態をついた。単一ターゲットのステルス暗殺は不可能になった。22丁のライフルを相手にした大規模な正面戦闘に直面していた。HUDを見つめ、惑星移動の前から一度も触っていなかったある武器に視線が止まるまで、インベントリのリストをスキャンした。
『タクティカル骨の弓』。そして具体的には、残っている3本の『Zウイルス付きの矢』だ。
純粋な競技ゲーマーとしての天才的なひらめきが脳裏を駆け抜け、邪悪な笑みが顔に広がった。「よし、AIのパスファインディング(行動ルーチン)をぶっ壊す時間だぜ」
背中のプレートから骨の弓を外し、矢筒から最初の感染した矢を選び出した。矢尻が不快で粘り気のある液体で脈打っている。岩棚の縁へと近づき、ポリマーの弦が軋むまで引き絞ると、キャンプの西端にある燃料発電機の近くに孤立して立っている警備兵に照準を合わせた。
弦を放つ。シュパッ。
矢は暗闇を切り裂き、警備兵の肩のアーマープレートに直撃した。警備兵は通常の警戒アニメーションを起動しなかった。それどころか、キャラクターモデルが瞬時に硬直したのだ。『Zウイルス』のコードが彼のAIパラメータを書き換える中、おぞましく汚染された緑色のオーラが肉体の周囲で燃え上がった。わずか3秒のうちに研究員は喉の奥から歪んだ咆哮を上げ、鈍重によろめく狂暴な「ゾンビ」へと変貌した。
近くにいた警備兵たちが何が起きているのか理解するより先に、感染した研究員が前方へと飛び出し、一番近くにいた警備兵の首筋へと歯を突き立てた。
『味方がやられた! 変異体のアウトブレイク(感染爆発)発生だ!』警備兵の1人が叫び、キャンプのスピーカーを通して声が反響した。
絶対的で栄光に満ちたカオス(大混乱)が爆発した。研究員たちはパニックに陥り、内部の脅威に対処しようとしてAIルーチンが混線を起こした。武器が抜かれ、ライフル射撃の耳をつんざく大合唱がテントを引き裂く。だが、感染は指数関数的に広がるように設計されていた。
エリアスはその混乱の1フレームたりとも逃さなかった。2本目の『Zウイルス付きの矢』をつがえ、弓を引いて東側の側面にいる警備兵の集団へと撃ち込んだ。シュパッ。2つ目の感染源が発生する。数秒後、3本目にして最後の感染した矢をキャンプのど真ん中へと放った。シュパッ。
調査キャンプはデジタルな十字砲火のミンチ製造機へと変わった。警備兵たちはゾンビを撃ち続けたが、警備兵が1人倒れるたびに数秒後にはそいつが立ち上がり、感染した群れへと加わっていく。エリアスは高い岩棚の上で腕を組み、岩に背中を預けて快適に座り込みながら、キャンプの防衛線が完全に自壊していくのを高見の見物で眺めた。
約5分間そのまま待ち、耳をつんざく銃声がやがて散発的な単発の銃声へと減っていくまで、AIシステム同士に殺し合いを続けさせた。岩棚の縁から下を覗き込む。22人いた武装警備兵のうち、煙を上げるテントの廃墟の間をあてもなく彷徨っているのは、重傷を負ってよろめく「8体のゾンビ」だけになっていた。
「よし」ベレッタを抜きながらエリアスは言った。「これなら話が早い。十分処理できる数だ」
岩棚から飛び降り、キャンプの外縁部に軽く着地した。銃を構え、煙の中を前進する。一番近くにいるよろめくゾンビに狙いを定めて発砲した。
パスッ。パスッ。
ゾンビの頭が後ろへと跳ねたが、倒れなかった。残りの怪物たちが突然彼の現在地に向かってダッシュし始め、エリアスは眉をひそめた。システムの適応型AIが再び介入してきていた――ゾンビたちはもはや一直線には動かず、彼の照準の配置を狂わせるためにランダムな間隔で体を痙攣させ、跳ね、歩調を変化させてきたのだ。
エリアスはタイミングを修正し、一定の射撃レートを維持しながら滑らかに後退(引き撃ち)した。不器用で急激な動きの変化のせいで時折肩に弾が吸われ、9mm弾を「11発」消費させられたが、ついに7体の感染モデルがピクセルの山となって崩れ落ちた。
残るゾンビが最後の1体――折れた片脚を引きずる重度に変異した研究員――だけになったところで、エリアスは残りの銃弾資源を温存することに決めた。ベレッタをしまい、タクティカルベルトに手を伸ばして左手に重いパイプレンチを、右手に軍用ナイフを抜いた。
ゾンビの不器用な掴みかかりをかわし、素早い5連撃のコンボを叩き込む。重い鉄のレンチを素早く3連続で振るってゾンビのガードと肩、そして膝の関節を粉砕し、続けて頭蓋骨の付け根にタクティカルブレードを2回突き立てた。5発目にして最後の一撃で、モブは灰色の粒子となって消滅した。
「キャンプ制圧完了、と」近接ツールを鞘に収める前に刃からデジタルの残骸を払い落としながら、エリアスは息を吐いた。
即座に壊滅した調査キャンプの体系的な掃除を開始し、物資を求めて燃えるテントやひっくり返ったテーブルを略奪した。ドロップした戦利品は、標準的な物資と奇妙なシステムアセットが混ざり合った折衷的なものだった。
武器箱の後ろで、綺麗な木の矢が3本束ねられているのを見つけた。
【戦利品獲得:通常の矢×3】
崩れた医療テントの中では、ストローがついた鮮やかな色合いの小さな紙パック――フルーツジュースのパックを見つけた。エリアスは迷わなかった。箱に穴を開けて一気に飲み干すと、小さな緑色の光の閃光が傷ついた組織を修復する中、合成された甘い味が口いっぱいに広がった。
【消費アイテム使用:フルーツジュース ― ハート1個回復】
【体力:ハート 4/7】
そこから数センチ離れた金属トレイの上に、輝く黄金の銃弾が「1発だけ」置かれていた。パックになっているのだろうと期待して拾い上げたが、HUDは無表情な通知を表示しただけだった。
【戦利品獲得:9mm弾×1】
エリアスは純粋に信じられないという表情を顔に浮かべ、手のひらの中のたった1発の銃弾を見つめた。「うわあ、1発かよ。気をつけろよゲームさん、サーバーの経済バランスが崩壊しちまうぞ。もしもう1発追加で入れていたら、俺は物資の豊かさに溺れ死んでいたかもしれないからな」ため息をつき、その1発をマガジンポーチに押し込んで合計弾数を21発にした。
キャンプの中央へと振り返ると、破壊された発電機の近くに輝く『黄金の虫』の群れが実体化していた。エリアスはその中を通り抜け、コードを自らの肉体へと吸収させた。
【クロノ・ボーナス発動:黄金の虫を回収】
【ボーナスタイム追加:+30分】
メインタイマーを確認する。ゾンビどもが同士討ちするのを待っていた5分間で時計はわずかに削られていたが、30分間の注入によって稼働時間が再び跳ね上がり、大脳皮質崩壊に対する巨大なバッファー(余裕)が生まれた。
【大脳皮質崩壊まで:02:45:24】
「ようやくまともなドロップが来たな」エリアスは呟き、キャンプの奥にある最大の指令テントへと歩み寄った。戦術テーブルの上に、輝く黄金の羊皮紙のアイコン――隠しコレクタブルが置かれていた。興味をそそられて拾い上げる。インターフェースが鮮明なプロンプトを表示した。【コレクタブル獲得:裏面を注意深く読め】。
プログラマーからの下品な侮辱か、あるいは難解な世界観の断片だろうと予想しながら、手の中でアセットを裏返した。「当ててやろう、どうせまたコード・トロールの中指のイラストだろ」
ホログラムのカードを裏返す。裏面に印刷されていたのは、巨大でシンプルな『黄色いスマイルマーク(笑顔)』だった。
エリアスは3秒間じっとそれを見つめた。「なるほど。完全なる時間の無駄だな」カードをテーブルの上に放り投げた(データ自体はインベントリに自動登録された)。
彼のブーツが最後の指令テントの外周を跨いだ瞬間、環境がフリーズした。移動操作が脳から唐突に引き剥がされ、視界がスキップ不可能なイベントシーン(カットシーン)の窮屈で見慣れたシネマスコープフォーマットへと引き伸ばされた。
カメラが彼の視点から切り離され、粗いセピア色のフィルターを通して後方へとパンしていく。『回想シーン』が再生されていた。
視点は同行している巨大ゴキブリへと移り、1時間前の記憶を映し出した。物資の木箱の山の後ろで、脚を震わせながら無力にうずくまっている巨大昆虫の姿が映し出される。巣の中央に立っていたのは、白い白衣の上に血まみれのエプロンを着けた、超巨大で肥満した企業研究員だった。研究員は狂ったように高笑いしながら巨大な工業用の空気圧スタンプ(破砕機)を振り回し、何十匹もの小さなゴキブリたちを緑色の粘液の水たまりへと体系的に踏み潰していた。
BGMとして流れている巨大ゴキブリNPCの音声トラックは、甲高くすすり泣くようなチューチューという鳴き声の連続だった。泣いていたのだ。
セピア色のフィルターがパチンと消え、カメラが暴力的に彼の頭の中へと戻って移動操作が回復した。
エリアスは乾いた冷笑的な鼻を鳴らした。「実に涙を誘う感動的なストーリーだな」照準ロックが解除される中、重い皮肉を滴らせた声で呟いた。「間違いなくこのゲームの物語的深みの最高到達点だぜ。誰かこの開発者どもに脚本賞をやってくれ」
呆れて天を仰ぐために1秒を使う暇すらなく、耳をつんざく金属的な咆哮が洞窟全体を揺るがした。
岩壁の後ろから、回想シーンに出てきたあの巨大な肥満研究員がアリーナへと乱入してきたのだ。その重いブーツが石の床を砕き割ると同時に、エリアスのHUDの上部に「巨大なボスの体力ゲージ」が実体化した。洞窟の最終決戦が幕を開けた。
--- 装備および弾薬確認(レベル5・ボス戦突入時点) ---
【銃火器・弾薬】
・フルオート・アサルトライフル(5.56mmモデル):ドラムマガジン内に29発装填(予備弾薬0発)
・9mmベレッタ:合計21発(マガジン内に装填済み、サプレッサーはポーチに収納中)
・ショットガン(12ゲージ):チューブマガジン内に4発装填(完全装填・発射準備完了)
・タクティカル骨の弓:背中に装備中
・通常の矢:3本(調査キャンプで獲得したばかり)
【投擲/近接武器/ツール】
・破片手榴弾:2個
・Zウイルス付きの矢(特殊矢):残り0本(キャンプを感染させるために3本すべて消費)
・軍用タクティカルナイフ:1本
・大型パイプレンチ:1本
・木の松明:1本(消火状態)
・電池式懐中電灯:1個(消灯状態)
【防具・衣装】
・高性能宇宙服:コマンドでいつでも装備可能(インベントリに格納中)
・ケブラー製防弾チョッキ:耐久度0%(破壊済み、防弾性能なし)
・パルス・ディフェンス(ブレスレット):残り2チャージ
【キーアイテム/収集品】
・煽りメモ(トロール・ノート):デジタル化された紙10枚
・スマイルカード:1枚(コレクタブル・サブメニューに格納)
【生命パラメータ・時間通貨】
・体力:ハート 4/7(亀裂の隠しハートにより最大値が恒久上昇、フルーツジュースで1個回復)
・精神状態:高アドレナリン、深い戦術的集中、環境に対する残存する嫌悪感
・所持時間通貨:02:45:24(大脳皮質崩壊まで残り2時間45分24秒)
・現在地:【ゴキブリの洞窟 ― 調査キャンプ・アリーナ】
・現在の目標:【肥満研究員を撃破せよ】
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