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さっき一瞬死んだ話。  作者: おみがわ
14/15

臨死体験

2022年1月11日。

ついにタイトルの件が身に降りかかった。


この日は夫の仕事始めで、初日から残業はしないと定時で切り上げて帰ってきたので、美川憲一のおだまりチャンネルで面白そうな動画があったから一緒に観ようと誘った。

夫も楽しんで観てくれていたけれど、途中で夫のスマホがKと職場同僚からのLINEで何度か鳴り、そのたびにかかりきりになるので残念に思っていた。


もともと夫はメールやLINEの類を打つのは得意ではないと言っていて、私のようにレスポンスが早いと疲れる、返さなきゃと思って焦ると言って嫌がったので、私は夫に業務連絡以外のLINEは極力しない妻になった。


私には疲れる、とあからさまに嫌悪したLINEも、同僚やKからならきちんと返す夫に寂しくも思った。

寝る時間になったらさっさと布団に向かい、「早くおいで」と私を急かすようなことを言った。



「さっきからスマホばかりだったくせに」

始まりが口から出てしまえばもう止めるものは何も無く、恨みを乗せてどんどんつむぎ出される言葉たち。

Kから相談を受けているので仕方がないと夫は言ったけれど、以前にもKから相談に乗った結果50万貸して返ってこないということがあったので、「またKさんにお金を貸したら離婚する」と返した。

「それはもちろんそう。だけどアイツも今大変みたいなんだよ」

あくまでKに寄り添おうとする夫。

自分の子供たちには事情も聞かず正論で殴るような育児をするくせに。悲しみと怒りばかりが膨らんでいく。


Kが仕事を始めて1年経つが職場が合わないらしく、転職すると給料が10万円ほど下がるから辞めきれないと悩んでいるとか。

「そんなのそっちの夫婦で話し合えばいい。足りない分は奥さんが稼げばいいし、それが無理ならKがもう少しこのまま働くか、転職して少ない給料でやっていくしかない。それだけのことでしょう」

そう言っても夫は「話を聞くくらいいいでしょ、突き放す必要ないでしょ」とあちら側の味方でいるつもりのようだった。


もう自分がなにを言いたいのかもわからなくて、「私の前でKと関わって欲しくない、苦しい」と泣いた私を夫は抱きしめてくれたけれど、かけてくれる言葉がどれも薄っぺらく感じてしまって。


「Nちゃん(私)はすごいね、心のトゲが抜けないんだね」

「Nちゃんが15年も恨み抜いてくれたから、今昔をふりかえってバカだったなぁって身に染みてわかる」

「根拠の無い友情を信じてたし、最高の友情だって勘違いしてた」

「つらかったよね、嫌な思い出しかないね」

「こんなに傷つけてきたのに、Nちゃんを最愛の人だとか当たり前みたいに言ってた自分が情けない」


ぜんぶ口先だけに聞こえた。


「アイツとは金の件で縁を切りかけたけど、そのあと仲直りして、それからは人をオモチャにするような振る舞いはなくなって変わったんだよ」

「でも、改心したってやったことが無くなるわけじゃない。された方は一生残るキズがあるのに、謝られてもいない」


そんなどうしようもなく乾いたやり取りを続けて、だけど涙はどんどん出てきて、疲れたな…もう諦めちゃおうかな…って感じると共に、

「なんであの時死んでしまわなかったんだろう、15年もたってこんなに苦しいなんて」

って思ったんだ。


そしたら



「もう死んでるでしょ?気付いてないの?」


って自分の内側から自分が話しかけてきた。

その瞬間。

「あ、私あのとき死んでたんだ」

なぜかすとんと納得してしまった。

そしたらもう止まらない。


布団に寝転がってた体が5センチくらいズッ、と沈んだ感じがして、

同時に呼吸も終わった。呼吸が止まったんじゃなくて終わったっていう感じのス…って感覚があった。

さっきまでただの軽い冷え性レベルだったつま先と指先が、血の気が引くって表現がピッタリに感じるくらいびしびしびし…と冷えきってきて、夫がさすってくれてる背中の感覚がなくなったんだ。


あ、終わっちゃう。さみしいな。

首吊りのロープも、手首を切るナイフも必要ない。

自分が死んでることに心の底から納得してしまった瞬間、人は死ぬんだ。それがよくわかった。


被験者に目隠しをして、ただの水をぽたぽた垂らして「血が抜けていってる」と思い込ませただけでショック死したという実験結果があったらしいけど、それはきっと本当のことなんだ。


目の前がじわじわと黒ずんで来た時、

やっぱりやだな、悔しいな。Kに殺されたって遺書も書かずに死んだら、誰にもわかってもらえない。

そう思ったら体が小刻みに震え出した。

足は膝の辺りまで感覚がないほど冷えきって動かせなかったけど、さっきまでみたいに「体と別離した感覚」はなくなってきた。



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