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「残念ですが……あなたたちは、このまま処刑台行きです」  作者: あとりえむ


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8/12

3月31日

王宮の最も巨大な広間は、狂騒と黄金の光に包まれていた。


私が主催したこの夜会には、ユーリと母エリザをはじめ、この十年間で国庫を食い物にしてきた悪徳貴族たちが一人残らず集められている。


広間の中央では、帝国から密輸された最高級のワインが滝のように注がれ、贅肉を揺らした貴族たちが下品な笑い声を上げていた。


「素晴らしい夜会だ、サラ。君もようやく、王族らしい振る舞いができるようになったね」


ユーリが顔を赤くして、私の腰に手を回す。彼の吐息からは、強烈なアルコールの臭いがした。


「ありがとうございます、ユーリ様。皆様が心ゆくまで楽しんでくださるのが、私の何よりの喜びですわ」


私は扇で口元を隠し、完璧な作り笑いを浮かべた。


ユーリの背後では、母エリザが若い愛人を侍らせ、見せびらかすように極大のルビーの首飾りを揺らしている。

周囲を取り囲む貴族たちも、私を「飾り物の愚王」と見下す視線を隠そうともしない。


だが、彼らが今あおっている美酒の裏で、給仕のアンナたち使用人がどのような目をしているか、この酔っ払いどもは誰一人として気づいていない。


明日の夜明け、この広間は巨大な棺桶になる。そのために、彼らを一人残らずここに縛り付け、意識が濁るまで酔い潰す必要があったのだ。


「ユーリ様。少し夜風に当たってまいりますわ。皆様のことは、どうか貴方からよろしくお伝えください」


「ああ、行っておいで。君のような堅物には、この華やかな空気は少し息苦しいだろうからね」


ユーリは私から手を離し、すぐに別の貴族の輪へと戻っていった。


私は広間を背にし、重厚な扉の外へ歩み出る。

背後で扉が閉まった瞬間、私の顔から一切の表情が抜け落ちた。


誰もいない静まり返った回廊を抜け、私は王宮の最奥、玉座の間へと足を踏み入れた。

月明かりだけが差し込む冷たい部屋。


今日、私が身に纏っているのは、一切の装飾を排した純白のドレスだ。


ユーリたちは「清廉を気取った悪趣味なドレス」と嘲笑っていたが、彼らには到底理解できないだろう。これが、明日の朝に結界の中で死を迎える私の、死装束であることに。


私は冷たい玉座の前に立ち、左手に嵌めた銀の指輪を高く掲げた。


十年分の憎悪と、この国への冷たい義務感。私の命そのものとも言える魔力を、最後の一滴まで指輪に注ぎ込む。

指輪が青白い光を放ち、微かに脈打つような熱を持ち始めた。



準備はすべて終わった。


明日、太陽が昇ると同時に、私はこの玉座で結界を発動し、あの愚か者どもと一緒に永遠の眠りにつく。

恐怖も、未練もない。私の心は、凍りついた湖のように静かだった。


 ◇ ◇ ◇


同じ頃、王都の上空。

月明かりすら届かない分厚い夜の雲の中に、数百の死神たちが息を潜めていた。

皇帝ガリウスは、黒竜の背から、眼下で一際明るく輝く王宮を見下ろしている。


「陛下。配置は完了しております。いつでも降下可能です」


闇に溶け込んだ側近の囁きに、ガリウスは無言で手を挙げた。


「待て。約束は日付が変わる時だ」


ガリウスの黄金の瞳が、王宮の光を鋭く射抜く。


眼下で開かれている馬鹿げた宴の騒ぎなど、彼にはどうでもよかった。

彼の意識はただ一つ、あの光の中心で、たった一人で自らの死を待っている狂った女王にのみ向けられている。


お前は今、どんな顔をして夜明けを待っている?

自分の命を燃やし尽くすための冷たい玉座で、俺が来るのを待っているのか。


「……もうすぐだ、サラ」


ガリウスは低く、獲物を前にした猛獣のように喉を鳴らした。


「もうすぐ、お前のその狂った自己犠牲を叩き割り、俺がその首輪を引きちぎってやる」


嵐の前の、息が詰まるほどの静寂。

地上で破滅を待つ冷徹な女王と、上空で獲物を狙う傲慢な皇帝。


決行前夜。

二人の運命が交差する四月一日は、もう数時間後に迫っていた。

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愛など不要ですから。お気をつけて 愛など不要ですから。お気をつけて

あとりえむ 作品紹介
愛など不要ですから。お気をつけて 追放された地味なメイドは和菓子職人の記憶に目覚める 忘却の対価は最果ての愛 死に戻り妻は、推しの確定ファンサをお断りしたい。 自分の娘に転生したので息子を当主にするべく暗躍します。
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