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フレイム・アンド・グリーン:もしも消防士が栽培学を学んだら  作者: もしものべりすと


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第9章:地下の農園

「……雫さん、旧軍の防空壕跡のデータをもう一度洗い出してくれ。この火災現場の真下だ」

植物園跡地の炎を睨みつけながら、焔はインカムに低く命じた。

「火耕栽培」というパズルが、頭の中で組み上がっていく。

地上の火災は、システムの一部に過ぎない。エネルギー源であり、整地だ。ならば、収穫と管理を行う「中枢」が必ず地下にある。


「……あったわ。焔くんの言う通り、この一帯の地下に広大な防空壕網が。でも、ほとんどが公式には閉鎖、水没扱いに……」

「灰島が使ってる。そこが奴の『農園』だ」

焔は防火服の襟元を引きちぎるように緩め、決意を固めた。

「警察も消防も、この『火耕栽培』という概念を理解できない。俺が行く」


雫が特定した図面上の通気口は、植物園のドームから離れた、打ち捨てられた資材置き場のコンクリートの塊に隠されていた。

焔は重い鉄格子をこじ開ける。

地下から吹き上げてくるのは、カビの匂いに混じった、あの第6章で嗅いだ薬品とオゾンの異臭。

「雫さん、俺が30分経っても戻らなければ、このデータを全マスコミに送ってくれ。……頼んだ」

返事を待たず、焔は暗い梯子へと足をかけ、一人、地下の闇へと消えた。


防空壕特有の湿った冷気が肌を刺す。

通路を抜けた先で、焔は息を呑んだ。

そこは、農園と呼ぶにはあまりに無機質な空間だった。


フットボール場ほどもある空間。だが、そこに土はない。

青白いLEDライトが、コンクリートの床に何列も敷かれた金属製のレーンを照らしている。

そのレーンの上を、例の「燃えないツタ」が、無数のパイプやケーブルに繋がれながら、まるで工場製品のように整然と「栽培」されていた。

「……水耕栽培ハイドロポニクス……?」

いや、違う。焔は壁際に並んだ巨大なタンクと制御盤に気づく。

ディスプレイには、この空間全体の環境データが表示されていた。温度、湿度、二酸化炭素濃度。そして、「培養液組成」。

そこには、N-P-K(窒素・リン酸・カリ)の数値に加え、蓮見教授が指摘した「モリブデン」や「マンガン」といった微量要素が、異常な高濃度で並んでいた。


「こいつは、この培養液だけで……いや、待て」

焔は、レーンの下に広がる床下空間に気づいた。

グレーチングを無理やりこじ開ける。

暗い床下。そこには、土が敷き詰められていた。だが、それは焔が愛する「土」ではなかった。

赤黒く変色し、薬品の匂いを放つその土壌は、まるで**心土破砕しんどはさいを受けたかのように人為的に耕され、不気味なほど均一な団粒構造だんりゅうこうぞう**をしていた。


「……! そうか!」

全てのピースがはまった。

「地上の火災で全てを焼き払い、薬品で土壌を強制的に『殺菌』と『改変』する。そして、地下のこの『死んだ土』を巨大なフィルターにして、地上から吸い上げた汚染水すら培養液(肥料)に変えているんだ……!」

灰島のシステムは、焔の想像を遥かに超えていた。

地上の火災は、単なる地上げや実験ではなかった。地下農園のエネルギー源であり、土壌という「培地」を作るための「耕起」そのものだったのだ。


「そこまで解明するとはな。……消防士にしておくのは惜しい」


背後からの声に、焔は凍りついた。

振り返る間もなく、硬い何かが焔の首筋に突き立てられる。

青白いLEDの光が歪み、遠ざかっていく。

「歓迎するよ、赤井くん。私の『火耕栽培パイロポニクス』へ」

灰島の冷たい笑い声と、培養液が流れる低い機械音だけが、焔の意識が途切れる最後の音だった。

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