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フレイム・アンド・グリーン:もしも消防士が栽培学を学んだら  作者: もしものべりすと


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第7章:灰色の経歴

「南米の、火山帯……」

研究室を出た帰り道、焔はアスファルトに落ちる自分の影を踏みながら、その言葉を反芻はんすうしていた。

熱帯の、強烈な日差しとスコールの匂い。なぜか、そんなイメージが脳裏をよぎる。

それは、あの夜の熱風とは正反対の、湿った熱だ。


灰島はいじま れん。45歳」

隣を歩く雫は、タブレットをタップしながら淡々と読み上げた。市役所に戻る時間すら惜しみ、歩きながら灰島の経歴を検索している。

「グレイ・デベロップメントCEO。ここ五年で急速に頭角を現した。専門は都市再開発と……」

雫の指が止まる。

「……バイオマス資源開発。五年前まで、南米の鉱物資源採掘企業の現地顧問でした」


焔は立ち止まった。「南米……ビンゴか」

「場所は、アンデス山脈の活火山地帯。表向きはレアメタルの採掘ですが、同時に『極限環境微生物』の研究も行っていたようです。蓮見教授の言っていた菌類と一致します」


灰色のパズルが、黒い輪郭を帯びていく。

灰島は、南米の火山帯で「火を喰う菌類」と「異常な環境で育つ植物」のノウハウを手に入れた。そして今、この街を「実験場」にしている。


「……緑川さん」焔の声が低くなった。「あんた、どこまで踏み込む気だ」

「データが揃えば、告発します。それが私の仕事です」

「仕事、か」

焔は、消防署の建物を見上げた。

(俺の仕事は火を消すことだ。火事を起こす『土』を捜査することじゃない)


署に戻ると、案の定、大隊長が待ち構えていた。

「赤井。また火災現場を嗅ぎ回っているそうだな」

「……調査です」

「それは警察の仕事だ。いいか、お前は消防士だ。越権行為は許されん。次に非番の日に問題を起こしてみろ。分かってるな」

その目は、焔の「栽培オタク」という奇行をとがめる目ではなかった。組織の秩序を乱すな、という冷たい警告だった。


(Want(望み)は真実の解明。Need(必要なこと)は、これ以上被害を出さないこと……)

焔は、制服の襟元を無意識に引き締めた。緊張すると出る癖だ。


その夜。

焔は、祖父の遺品が詰まった段ボール箱を開けていた。

(じいちゃん……)

火事で焼失した農園の、唯一残った納屋から持ち出したものだ。

カビ臭い匂いの中に、懐かしい土の匂いが混じる。

一冊の、古びた大学ノートが出てきた。祖父の農園日誌だ。


『……土が死んでおる。何を蒔いても育たん。長年の連作障害か、それとも……』

『隣の土地を買った東京の男。妙な『土壌改良剤』をくれた。一度試してみるか』

『……火事だ』


それが、最後の日記だった。

焔は息を呑んだ。あの火事も、ただの事故ではなかったのかもしれない。

その時、スマートフォンの短い着信音が鳴った。

緑川 雫からだった。

『今夜、動きがあります。宮田さんの土地で、灰島が何かを始める』

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