表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フレイム・アンド・グリーン:もしも消防士が栽培学を学んだら  作者: もしものべりすと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/11

第4章:死んだ土

深夜の火災現場は、昼間とはまるで違うかおをしていた。

規制線テープが、湿った夜風にはためく音だけが響く。

放水で泥濘ぬかるんだ土は、焦げた匂いと化学薬品のツンとした異臭を放っていた。

焔は息を詰め、規制線をくぐり抜けた。


(火事場泥棒ならぬ、土泥棒か)


自嘲しながらも、その目は獲物を狙う猟犬のように鋭い。

彼は消防士の知識で、最も高温で燃焼した「火点かてん」、すなわち宮田の家で「燃えないツタ」が最も繁茂していた壁際へと直行した。


「……これだ」


懐中電灯の光が、異様な光景を照らし出す。

焼けた土は、通常なら有機物が炭化して黒くなるはずだ。だが、そこにあるのは、まるで薬品で脱色されたかのような、白く乾いた無機質な砂だった。

焔は耐火グローブを外し、素手でその「砂」を握った。


(冷たい。まるで命が死に絶えている)


土の匂いがしない。微生物の気配も、腐植の温もりもない。

焔は無意識に鼻をすすり、持参した土壌採取キットを取り出した。ビニール袋にサンプルを採取し、その場で簡易土壌酸度計(試験薬)を振りかける。


「な……」


試験薬は、瞬時に色を変えた。

中性を示す緑色を遥かに通り越し、紫を通り越し、インクのような濃紺色のうこんしょくに染まった。

pH8.5…いや、9.0を振り切っている。


「アルカリ性…? バカな、日本の土壌は基本的に弱酸性だ。こんな数値、石灰をぶちまけても一日じゃこうはならない」


これは自然現象ではない。意図的に、強力な化学物質によって「殺された」土だ。

焔は、もう一つのサンプルを採取した。最初の火災現場の土と、宮田の土。二つの「死んだ土」のサンプル。


(緑川さん、あんたが欲しがった『データ』だ)


これが、あの「燃えないツタ」が育つための「苗床」なのだとしたら?

火災は、この異常な土壌を作るための「耕起こうき」だとしたら?

背筋を冷たい汗が伝った。これはもはや、栽培学の知識が踏み込んではいけない領域——命の摂理を歪める、「実験」の匂いがした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ