第53話:世界樹の民と双子の勇者
放課後、いつものように禁書部屋でのティータイム。
「夢幻種を捕まえたり懐かせたりするのは、この世界の歴史上初だね」
湯気を立てる紅茶が入ったカップを俺の前に置きながら、黒猫神霊タマが教えてくれた。
歴史上初って、凄くない?
「学園どころか、世界の歴史に名を残すのか、チッチ」
「近いうちに、国王と謁見する事になる筈だよ」
「凄いな~王様に会っちゃうのか」
紅茶と一緒に置かれた木イチゴに似た実のタルトを味わいつつ、他人事みたいに聞いてたら…
「もちろん、君とモチもね」
「へ?!」
…他人事じゃなくなった。
「だって、君が身体強化をかけたから、捕獲出来たわけでしょ?」
「…そ、そうだけど…。禁書魔法を知られて大丈夫?」
禁書魔法を使ったの、バレない?
「国王はこの部屋の存在は知ってるし、いつか君みたいな者が現れる事も分かってるよ」
「そうなのか…」
優雅に紅茶を飲みつつ、タマは平然としてる。
それなら、大丈夫かな。
俺も安心して紅茶とタルトを味わいに戻る。
「まあでも、モチと君は勇者の生まれ変わりだから、それについての話もあるかもね」
「え?!」
続くタマの話に、危うく紅茶を吹くところだった。
なんとか抑えたのは、我ながら頑張ったと思う。
「勇者の生まれ変わりって、モチだけだよね?」
「あれ? 聞いてない? 君もだよ」
異世界生活開始から随分経つけど、聞いてないぞ?
今頃になって、俺も勇者の生まれ変わりと言われても、え?そうなの?という感じだ。
「じゃあ、今日はこれを読んでもらおうか」
そう言ってタマが差し出した本は…
…【世界樹の民と双子の勇者】というタイトルだった。
───海の向こう、世界の果て
隠された地に、世界樹は根を下ろす
根を張り、枝を広げ、1つの木は森に変わる
その森を守るのは、千年の時を生きる者たち
それは、神が創りし世界樹の民
世界樹の民は猫人の時代の守り人
猫人の世界を守護する役目を神に与えられた一族
邪悪が世界を脅かす時、世界樹の民に双子が生まれる
双子はそれぞれ異なる力を持ち、邪悪を滅ぼす勇者となる───
「………」
本を借りて帰ってモチにも読ませたら、鼻の穴広げて真顔になった。
そんなに動揺する?
君、かなり初期から勇者の生まれ変わりって言われてたろ?
本には歴代の双子の勇者について書かれていて、一番最後に載っているのがどうやらモチと俺の前世っぽい。
【魔王を倒したセレスト兄弟】
赤い髪は爆裂の勇者、モチ・エカルラート・セレスト。
青い髪は回避の勇者、イオ・アズール・セレスト。
モチは高火力の魔法を使い、敵を殲滅する。
魔王との戦いでは気付かれないように接近、自爆魔法を使用して消滅させた。
不死鳥の主人。
イオは完全なる回避で敵を翻弄する。
魔王との戦いでは前衛で注意を向けさせ、魔王がモチを攻撃しないように護っていた。
福音鳥の主人。
「モチ、日本に居た時のフルネーム覚えてる?」
俺は聞いてみた。
オトンヌの街のノエル商会で、俺は無意識に前世のフルネームを名乗った。
しかも、日本人としてのフルネームを完全に忘れ去っている事に気付いた。
モチも同じなのか?
「自分のフルネーム言ってみて?」
「モチ・エカルラート・セレスト」
…あ、やっばり。
モチも無意識に答えたのは前世名だ。
「………」
モチがまた鼻の穴広げて真顔になった。
どうやら、モチも日本人としてのフルネームを忘れているらしい。




