シンシア
シンシア視点です
私たちは冒険者だ。
私たちが出会ったのはもう何年も前のこと。
冒険者というのはどうしても、危険が伴う仕事が多い。
だから、大体の冒険者が昔馴染み同士でパーティを組んだり、他人の紹介でパーティに入れてもらったりして安全を確保する。
でも、昔馴染みも伝手もないような者には、パーティを組むのは難しい。
なにせ命の危険がある仕事なのだから、そう簡単に仲間に入れることができないのは当然のことだ。
私もそんな、仲間も伝手もないような冒険者だった。
魔法は使えても、一人で魔物討伐に行けるような豪胆さなど持ち合わせていなかった私は、一人で薬草採取などの依頼で日銭を稼いでいた。
そんなある日のこと。
ギルドにパーティ募集の貼り紙があった。たまにこうして一人での冒険者活動に限界を感じた者が、仲間集めのためにギルドに依頼として貼り紙をさせてもらうことがある。
その貼り紙を見て、なんとなく、行ってみようかなって思った。
本当に深い理由なんてなかったけど、この『なんとなく』があったからこそ、私は気心知れた信頼しあえる仲間に出会えた。
いつものように四人で冒険者ギルドに向かい、依頼を探す。
今日は少し出遅れてしまい良い依頼がなかった。
なので、今日はこの街の近くの森でウルフを狩る依頼を受けた。
私たちはDランク冒険者だ。ウルフくらいで苦戦はしない。
Fランクだったころは一角ウサギでも苦労したけどね。
最近はたまにCランクの依頼を受けているから、ランクが上がる日もそう遠くはないと思う。
森に入り、ウルフを探す。
前衛がパーティリーダーのイグニ、それからシオンだ。私は魔法使いとして後衛。ソフィは短剣を使ったり、魔法を使ったり、罠をはったりする臨機応変な対応をしてくれる。
ウルフは群れで行動することが多いが、今日は単体で行動しているウルフを3匹討伐した。でも、見つけるまでにだいぶ時間がかかってしまい、気づけばもう夕方になっていた。
いつもならこんなにかからないのだけど。
「そろそろ帰ろうか」
なんて言っていたら、近くの草が音を立てて揺れた。
すぐさま全員で武器を構える。
でも、そこから出てきたのはフードを被った小柄な人だった。
声を聞く感じ、女の子だろう。
イグニがフードを取るように言うと、女の子は素直に外した。
しかし、その素顔を見て私たち四人は固まってしまった。だって、ものすごい美少女なんだもの。
少なくとも、こんな森に一人でいていい子じゃないと思う。
話を聞いて率直に思ったことは、怪しいなってことだ。
森にいるのにミトロジアのことを知らないし、いつからここにいたかもわからないなんて、そんなことあるのだろうか。
でも、不思議と敵意は感じないのだ。なんだかオドオドしているというか、不安そうにしているというか。
たぶん、悪い子ではないんだろう。それに…。
他の三人を見ると、私と同じ可能性に思い至っているのがなんとなくわかった。
なら、構わないだろう。
「私たち今からミトロジアに帰るけど、一緒に行く?」
一緒にミトロジアに行くことになったので、自己紹介をした。
ナナちゃんというそうだ。
てっきり魔法使いなのだろうと思っていたんだけど、どうやら違うみたい。
それどころか魔力も扱えないらしい。
珍しい。そんなことあるのだろうか。
イグニが言うには稀にそういう人もいるらしいけど。
魔法と言えば、そうだ、暗くなる前に明かりを出しておこう。暗い道は危険だからね。
「『ライト』」
魔法で明かりを作り出すと、ナナちゃんが食い入るように見ていた。
なんだか可愛かったので、明かりを動かしてみたらナナちゃんもつられて動くので面白かった。
その様子を見られて恥ずかしそうにしている姿もまた可愛くて、内心抱きしめたくなる衝動を抑えるのに必死になっていた。
でも、まるで初めて魔法を見たかのような反応をしている。彼女の周りには魔法使いはいなかったのかしら。
その後しばらく歩くと、森を抜けて街道が見えてくる。その先にあるのがミトロジアだ。私たちの家がある場所。
ナナちゃんはカードを持っていないようで、銀貨を支払っていたが、その後詰所に連れていかれた。
ナナちゃんは可愛いから良からぬことが起きないとも限らない。この街にそんな兵士はいないと思うが、やはり少し心配だった。
他の三人も同じ思いのようで、ナナちゃんが出てくるのを四人で待った。
でも、すぐに何事もなく出てきたので安心した。
もうすっかり暗くなってきてしまったので、ナナちゃんは宿をとって休むそうだ。
なので、前に利用した宿屋に案内した。あの宿屋はお風呂に起動式魔石が付いているので、魔力の使えないナナちゃんにはピッタリだ。
その宿で一緒に食事を取ったあとは、ナナちゃんとお別れだ。
何か困ったことがあったら声をかけてと言って別れる。彼女は最後まで良い子だった。
私たち四人は宿を後にし、冒険者ギルドに向かう。
もうすっかり夜になってしまったため、通りに人はほとんどいない。
そんな場所を歩いている途中、話す内容はもちろん彼女のこと。
「どう思った?」
イグニが最初にそう問いかけてきた。
「どこかのお忍び…いや、家出貴族ってところか」
「その可能性は高いですね」
やっぱり、みんな同じことを思っていたみたい。
魔物を知らない、アイテム袋を知らない、この街の存在も知らない。
魔法を見たことがなく、カードも持っていない。
料理に使われている肉が何の肉かも知らない。しかも料理を飲み込むのに苦労していた。
世間知らずにもほどがある。
しかもかなり可愛い。貴族って美形が多いし、あの子もそうなんじゃないかってくらいには可愛い。
そして何より、着ていた服。あのローブはそうとう高価なものだろう。普通の服とは違う、おそらく魔法が組み込まれている特殊なローブだ。
魔法による特殊効果が組み込まれている装備品というのは、確かに存在する。魔法の効果はピンキリだけれど、それでも平民が手に入れられるようなものじゃない。
彼女が着ていたローブはそんな中でもかなり上級の代物だろう。魔法使いなら気が付いてしまう者もいると思う。
そんな大層な代物、持っているのはそれこそ高位の貴族か王族くらいだ。
なのに。
「あの危機感のなさは、正直不安になるわ」
「わかります。あれではいつか攫われてしまうのではないかと思ってしまいます」
そう、彼女には危機感がない。危機感があれば、そもそも森で迷うことも、私たちに話しかけることもしなかっただろう。
ましてや、お金が使えるかと実際に金貨や銀貨を見せてきたときは心底驚いた。私たちのことを信用してくれたのだろうけど、それでも不用心すぎる。
だからこそ、私たちは彼女を信用したのだけどね。
「まあ、魔法使いだと思われているだろうから、そう簡単に手出しはされないとは思うが」
「でもよ、それもバレるのも時間の問題だよな。なにせ魔力が使えないんだから」
魔力が使えないなら魔法も使えないわけで。
全く、どんな理由でこんなところに来てしまったのかわからないけど、身を守る術くらいは身に着けてからにしてほしかった。
見ているこっちが不安になってしまう。
それでも何故か、私たちは今後も彼女と関わっていくのだろうという確信めいたものを感じた。




