ミトロジア到着
ありがたいお誘いを頂いたので、遠慮なくご一緒させてもらうことにした。
昔、帰り道を間違えて駅に向かうはずが、住宅街に迷い込んだことがある。あれ以来私は方向音痴なのだと思い知った。携帯電話がなければ帰れなかっただろう。
自己紹介をしたところ、この人たちはやはり冒険者らしい。
最初に話しかけてきた男の人はパーティリーダーのイグニさん。次に話しかけてきた女の人はシンシアさん。もう一人の男の人がシオンさん。最後にソフィさん。
全員からどこから来たのかと聞かれたが、答えようがないので適当に濁しておいた。とりあえず、ここからすごく遠い場所だと言っておいた。
どうやってここまで来たのかとも聞かれたが、わかっていたら森で迷子になってないよ。
森を歩きながら隣にいるシンシアさんと会話をする。
「ナナちゃんは魔法使いなの?」
やはり魔力が存在するのだから、魔法ももちろんあるらしい。
「んと、魔法は使えないです」
「そんな恰好してるのに魔法が使えないのか?」
斜め前を歩いていたシオンさんが驚いたように聞いてくる。そんなこと言われても使えないものは使えない。
この世界ではローブは魔法使いの正装か何かなのだろうか。シンシアさんはマントですけど。
「魔法ってどうやったら使えるようになりますか?」
「うーん。ざっくり言えばどんな魔法を使いたいかを強く意識して魔力を打ち出せばいいはずなんだけど」
「魔法を使うこと自体はそんなに難しくないって聞いたんだが」
シンシアさんが説明してくれるが、そもそも魔力がわからない。イグニさんも簡単そうに言うが、イグニさんは使えないのだろうか。
「このパーティで魔法が使えるのはシンシアとソフィだけだよ」
どうやらこの世界の住人は、皆多かれ少なかれ魔力を持っているそうだ。しかし、魔法を使えるかどうかはその人の魔力量によるらしい。
そして何故魔法を使うこと自体は簡単なのかというと
「魔力は結構誰でも感じ取れるはずなのですが」
ソフィさんが不思議そうに私を見てつぶやく。魔力さえ感じ取れればそれをそのまま火や水などに変換するようイメージすればいいらしい。イメージ力や魔力量によって魔法の威力は変わるらしいが、魔法を行使すること自体に複雑な操作は必要ないのだとか。
しかし、魔力や魔法とは無縁の生活を送っていた私には魔力を感じ取るという、この世界の常識がまず当てはまらない。
「魔力っていうのがわからなくて…」
「変ね。魔力持ってない子なんているのかしら」
「持ってないわけではないと思うんです。でもどういうのが魔力なのかが…」
「そういうことなのね」
「魔力なんて子供のころから普通に感じ取れてたからな」
「言葉で説明するのは難しいですね」
うーん。困った。あの大量の魔力は宝の持ち腐れで終わるかもしれん。
「でも、稀に魔力を感じ取れない人もいるって聞いたことあるな」
「あー。聞いたことあるような無いような」
「聞いたことあっても実際に会ったことはないわね」
よかった、稀でもいるならそんなに怪しまれずにすむかも。
「あっそうだ。ためになるかはわからないけど、魔法を見せてあげる。暗くなってきたし『ライト』の魔法を使うわね」
そう言ってシンシアさんはイグニさんを見て、イグニさんも頷いて返す。それを確認したシンシアさんは杖の先端を前方に向ける。
「『ライト』」
ふわりと光を放つ玉が杖の先に現れる。初めて見る魔法に私の視線はくぎ付けである。
それを見たシンシアさんは微笑みながら光の玉を右へ左へ揺らし、私の周りにくるくると動かす。それを追うように私もくるくるしていたら周りがほほえましいものを見るような目になっていたことに気づき、恥ずかしくなった。
その後もいろいろ魔法について聞いてみたが、特に変わった話もなかったので他の話をした。
森で大きな野犬に会って襲われたと言ったら、それはたぶん魔物だねって言われたり、どうやって逃げたのか聞かれて、なけなしの食料を囮にしたと言ったら可哀想な子を見るような顔をされたりした。
イグニさんたちは森に魔物討伐にきたそうだ。その割には手ぶらだなあと思って聞いてみると、アイテム袋というものを使っているらしい。
アイテムボックスみたいなものなのだろうか。
「あれがミトロジアですよ」
大分日も落ちてきたところでようやく森を抜け、少し遠くに城壁に囲まれている大きな街が見えた。どうやら、あれがミトロジアらしい。
ここに来るまでに、街に入るにはカードを見せるか、お金を支払うかする必要があると教えてもらった。アイテムボックスにお金が入っていてよかった。このお金が使えるかもちゃんと聞いておいた。問題なく使えるそうだ。
街に向かおうとしたら、シンシアさんにフードを被るように言われた。
「念のために、ね」
何故か他の三人も頷いていたので、おとなしくフードを被ることにした。
街に近づくと、何人かの冒険者らしき人たちが門番にカードを見せて入っていく姿が見える。数人並んではいるが、そんなに待たずに入れそうだ。
「お前さんカードを持ってないのか。ないなら銀貨を支払ってくれ。それからそこの詰所でいくつか話を聞きたい。」
銀貨は渡したが、そう簡単に入ることはできないみたいだ。門番について詰所に入る。
詰所は石造りの建物のようだ。
「まず、名前は」
「ナナ」
「ナナか。どこから来た」
「…日本から来ました」
「ニホンか…聞いたことないな」
ですよねー。まあ当たり前だろうけど。この手の質問は誤魔化しようがなくて困る。
「この街に来た理由は」
「森で迷子になってたところを冒険者の人たちに助けてもらってここまで来ました」
「一人で森にか? なんでだ?」
「気が付いたら森にいました」
「うーん。まあ、もういいか」
怪しすぎるだろうに、職務放棄だろうか。私としては助かるけど。
「最後にそのフードを取ってくれるか」
フードを取って顔を見せると、門番が固まる。
みんなのこの反応は一体何なのだろうか。早く鏡を見たい。
「こりゃあ将来美人になるな。でもそのフードは被っていた方がいいな。争いの種になりかねん」
言われたのでフードを被る。美人になるってことは結構いい感じの顔立ちなのかもしれない。
最後にカードを作る方法と泊まれる場所について門番に聞いてから詰所を出る。するとイグニさんたちが待っていてくれたらしく、話しかけてきた。
「大丈夫だった?」
「はい。大丈夫でした」
どうやら心配してくれたらしい。優しい人たちだ。特に問題なかったことと、私でも泊まれそうな宿をいくつか教えてもらったことを言うと
「それならナナにはあの宿屋がいいな」
聞くと、昔イグニさんたちも泊まったことのある宿屋らしく、質が良くお風呂もあるところだとか。
なんで『私なら』?
お風呂があるってわざわざ言われたってことは他の宿にはお風呂がないのだろうか。
「大体の宿には風呂があるぞ。まあ、安い宿にはなかったりもするが」
「桶にお湯を入れて布で拭くだけとかな」
毎日お風呂に入っていた身としては、お風呂のない生活なんて想像できない。
おとなしくその宿屋に向かうことにした。




