異世界っていったら、魔法だよね!
いろいろ買い物をして、最後に鍋を受け取りに行く。
「こんにちは」
「おや、いらっしゃい。注文の品はできているよ。今持ってくるからね」
「ありがとうございます」
ベルさんが店の奥へ引っ込む。サリーアンを見ても特になにも言わなかったな。
そのサリーアンはあんまり鍛冶屋に来たことが無いらしく、物珍しそうに辺りを見回している。
しばらくするとベルさんが大鍋を持って戻ってきた。
「はい。これでいいかい?」
「いいですね。いくらですか?」
お金を支払い鍋を仕舞う。
「そっちの子はエルフかい?」
「は、はい」
ベルさんがサリーアンに話しかける。ちょっと緊張してる?
「いつでも買い物に来てくれていいからね」
「あ、ありがとうございます」
ベルさんが笑顔でそう告げると、サリーアンもほっとした表情をしていた。
やっぱり若い世代でも種族間の溝って多少はあるのね。
鍛冶屋を出た頃にはお昼になっていたので、家に帰ってきた。
お昼ご飯は、炊いたご飯が余っていたのでチャーハンにした。卵と野菜を少しだけ入れたシンプルなチャーハンである。
「エルフの国に炊いたご飯ってある?」
「確かあったと思うけど。ここまでしっかりしてるのはどうだったかな。基本的に野菜ばっかりなのよね」
エルフってベジタリアンが多いのかな。
サリーアンは結構なんでも食べるみたいだけど。
それにしても、この国の食文化が進んでないだけで、他の国ではそんなでもないのかもしれない。
「午後は魔法を教わるか、サリーアンに料理の下ごしらえを教えるか悩む」
「魔法は街の外でやるから明るいうちじゃないと無理よ」
「よし、魔法で。暗くなったら料理にしよう」
ということで一旦街の外へ。
なんだかんだ、街から出るのは最初にこの世界に来たあの日以来だ。
ギルドカードを見せて街の外へ。久々の外だ。あの時は暗かったからよく見えなかったけど、ちゃんと街道とかがあるようだ。いつか他の街にも行ってみたい。
少し街道を歩き、街から離れ、街道からも外れたところで魔法の練習をする。
「まず何すればいいの?」
「まずは魔力を感じ取れないとね。単純にわたしがナナに魔力流すから感じ取ってね」
おお、創作物でよくある修行法ですな。
サリーアンと向かい合い、両手を繋いで魔力が循環するようにする。
「じゃあ流すね」
すると、左手からなんだか暖かいものが流れてきている…気がする。小さすぎてよくわからん。
「もう少し流す量増やせない?」
「いいけど…負担大きいから長続きしないよ。早くコツ掴んでね」
そう言ってサリーアンは目を閉じる。
直後に左手からグワっと熱いものが全身を駆け巡った。なにこれキツイ!
すぐに右手からサリーアンの方へ消えていったけど、なんかものすごかった。
「何今のすごい」
「ナナの体はなんていうか…魔力伝達が速いというか、伝達しやすいというか」
「どゆこと?」
「魔法使うのに適した体ってこと」
「これはもう凄腕の魔法使いになれるフラグでしょ」
「魔力感じ取れないと始まらないよ」
「それでどうすればいいの?」
「さっき流したやつと同じようなものがナナの体内にもあるから、それを探すの」
「うーん」
さっきみたいな熱いやつが私の中にあるかな。
目を閉じて集中する。すると胸の奥になにかがあるのがわかってきた。これかな?
「それっぽいのがある気がする」
「じゃあそれを手の方まで動かしてみて」
言われた通りにやってみる。
胸の奥にある大きな塊が少しずつ体を伝って右手の方に移動する。
「待って待って待って多い!」
「無理」
今更そんなこと言わないで。
「…じゃあ…人がいない方に向かって魔法打つしかないか。水に変換するように想像して」
「よっしゃあ。格好良く決める!」
「テンション高…」
だって初魔法だもの!
誰もいないのを確認して、いざ!
いざ…
「…何か呪文とかないの?」
「ないっていうか、必要ないけど。想像力だけでなんとかなるものだし。まあ、低級だと大体アクアショットとかそんな感じの名前なら聞いたことあるよ」
「よし、アクアショット!」
手のひらの先で水の塊が暴発した。
「…」
「…」
辺り一面びしょ濡れである。
まさか飛ばずにその場で爆発したかのように水がはじけ飛ぶとは。
なんでかな。でも、発動自体はしたから結果オーライかな。
「よくない。ていうか、なんで濡れてないの!?」
そう。私は濡れていない。このローブは水をはじくからね。でもたぶん魔法も効かないような特殊加工がされているんだろうな。
なので、濡れているのはこの辺り一面と、サリーアンだけである。
「たぶん魔力量が多かったせいね…ああもう。下着までびっちょりに…」
「とりあえず、あれは魔法が使えたってことでいいのかな」
「まあ、一応。あとはもう細かい力加減だけね」
「おおお! ついに魔法を覚えたぞ!」
嬉しい。やっぱりファンタジーの世界に来たら魔法くらい使えるようになりたいよね。
「敵味方関係ない自爆技みたいなものじゃない」
「敵に囲まれたときなんかに使えるからいい」
「ナナがいいならいいけど。もういいでしょ。帰ろうよ。着替えたい」
「はいはい」
その後、街中をびしょ濡れのエルフの女の子が歩いている姿は注目を集めた。
サリーアンに睨まれた。
ごめんて。
帰宅してサリーアンがお風呂に入って着替えたところで、次は料理だ。
でもその前に。
「このアイテム袋は時間経過しません」
「はあ…ナナって何者なの? 普通の人間じゃないよね、もう」
「もうって何だよ」
時間経過しない特別なアイテム袋なので魔力を消費するんだろうってことにしておいた。あと、私にしか使えないことも。
食材庫も同じようなもので、故郷から大量に食材をこの中に入れて持ってきたってことにしておいた。たまに補充しているとも。
苦しい言い訳だけど、神様からスキル貰ったっていうより現実的でしょ。
サリーアンも一応納得してくれたようだ。
「それじゃあ料理を覚えましょう」
「はいはい。何作るの?」
「せっかくなので夕飯に食べます。何がいい?」
「パスタとピザは食べたから、ハンバーグがウルフカツかうどんか…うどんは麺料理だから今度でもいいかな。…ハンバーグ定食が食べたい」
「わかった。じゃあハンバーグのタネを作ろう」
ハンバーグはもうこの世界に来てから何度も作っているのでスムーズに作れる。サリーアンに教えるくらい余裕だ。
サリーアンは料理をしたことがあるらしく、手際は悪くない。あとは慣れだろう。
二人でやればあっという間に出来上がった。
「これでいいの?」
「あと焼くだけだけど、サラダもスープもご飯も用意しないとね」
「大変だね」
「サリーアンもやるんだよ」
お米を研いで、野菜を切って、ドレッシング作って、スープ作って。
作業は多いけど、難しいわけじゃない。
無事にハンバーグ定食が完成した。
「美味しそう」
「食べよう」
パクリ。
うん。いつも通りの味だ。
「作り方覚えた?」
「たぶん」
「まあ、作るときは二人でやるだろうから基本がわかっていればいいよ」
「それで、いつ開店するの?」
「下ごしらえしたやつはアイテム袋にたくさん入れてあるから、いつでもいいんだけど」
「じゃあもう明日開店しちゃえば? 他の準備もできてるんだから」
「そうだね。じゃあ明日開店しようか」
そんなわけで、明日開店です。
「このお店って名前ないの?」
「考えてなかった」




