新しいものは欲しくなる
次の日も屋台で商売。
昨日来てくれたお客さんが広めてくれたのか、昨日より多くの人が買いに来てくれた。
ナーリさんが同僚らしき人達と一緒に買いに来てくれたように、やはり口コミでこの屋台の評判が広がっているみたい。
昨日はハンバーグサンドだったから、今日はカツサンド! って感じで、二日連続で来てくれた人も多かった。
昨日より多めに用意したとはいえ、一人で用意できる量には限界がある。お昼を過ぎた頃には売り切れてしまった。まさかこんなに売れるとは。
その後に来た人達には申し訳ないが、無いものはしかたない。
午後が丸々空いてしまったが、疲れてしまったので宿屋に帰って寝ることにした。
宿に戻るとネリンさんが屋台はどうしたのかと聞いてきたので、売り切れたから帰って来たと告げると、残念そうにしていた。
今日も食べるつもりだったのかこの人。
そんな日々を続けてしばらく、客足も落ち着きを見せてきた。それでもたくさんの人が来てくれるが。
私も商売に慣れてきたおかげで調理も接客も板についてきた気がする。
でも、元ニートが働くと謎の疲れを感じてしまうらしく、店の後は疲れて寝てしまう日が続いた。
それでもやはり慣れてきたのか、最近は午後に買い物に行ったり街の散策をしたりする余裕が出てきた。
私リア充してる…! とか思ったけど、一人で買い物はリア充に含めていいのだろうか。
月日が経つのは早いもので、私がこの世界に来てからもう一か月近く経つ。
最初は不安がいっぱいだった異世界生活だったけど、今はなかなか楽しい。
人は環境に慣れるものなのだ。
今日も屋台でハンバーグサンドとウルフカツサンドを売る。
最近はハンバーグサンドにチーズを入れて、チーズハンバーグサンドも売っている。ハンバーグとチーズの組み合わせは素晴らしいと思う。
それから、この世界の物でハンバーグに合うソースを作れないかと試行錯誤した結果、なんちゃってトマトソースができた。
トマトソースでハンバーグサンドを作って売り出したところ、それなりに好評だったので安心した。
そんなある日、料理を買いに来たお客さんが話しかけてくる。
「いやー、なんとも素晴らしい料理ですな。これは一体何のお肉なのでしょう」
またか。
最近、こうやって探りを入れるような話し方をしてくる人が増えたのだ。
今までになかった料理のようだから、予想はしていたけど、思っていたよりも面倒だった。
「何度も食べれば、わかるんじゃないですかね」
と、適当に返事をしている。
これで引き下がってくれればいいのだが、そうじゃない人もいる。
そういう人は後ろに人が並んでいてもお構いなしなので、正直営業妨害に近い気がする。
別にレシピを隠したりする気はないのだ。ただまあ、知りたがる人が想像以上に多そうで、キリがないなって思ってね。
でも、そろそろちゃんとした対応を考えないと。もし実力行使されたら、私では逃れる術がない。
お金も大分貯まってきたし、そろそろ屋台も潮時かね。
今日は商業ギルドに行く日だ。よくわからないがナーリさんに呼ばれた。
商業ギルドでナーリさんを探す。早速別室に連れていかれた。
「お呼び立てしてすいません」
「大丈夫ですよ。それで用ってなんでしょう」
「実はですね。ナナさんが売っている料理のレシピを売っていただけないかと」
「レシピを?」
なんでも、いつの間にか商業ギルドのギルドマスターが私の店に来ていたそうで。
それで、この料理は他の可能性も秘めている! 広めればもっと多様な料理が生まれるはずだ!
となったらしい。
「もちろん無理にとは言いません。料理人にとってレシピは財産と同義ですから。でも、最近ナナさんの料理を知りたくて商人たちがよく探りを入れてきているでしょう」
「ああ、どうしようかなと思ってたところです」
「中には無理矢理に聞き出そうとする者もいないわけではありませんから、そういったものから身を守る手段の一つとしての提案でもあります」
いっそのこと公開してしまえばひとまず落ち着くだろうってことか。
「具体的に、売るとどうなるんですか?」
「レシピは商業ギルドで管理され、条件付きでレシピを有料で公開します。そして購入金額の一部がナナさんにも支払われることになります。平たく言えばレシピで情報の売買が行われるわけですね」
「条件というのは?」
「最低限ギルドカードを確認します。売る側から購入者に制限を求めることも可能です」
確認するのは情報漏洩防止のためだとか。
料理人にしか売らないっていうのもできるらしい。
「儲かるものなんですか?」
「情報料はそんなに高くないですし、他の店で同じような料理が出されれば客足が遠のく可能性があるので、公表される方は少ないですね。でも、ナナさんの料理について知りたい人は多いと思いますから、必ず損をするというほどでもないかと」
それならまあ、僅かでも収入があるし、探りを入れてくる商人も減るし、いいかもしれない。客足が遠のくのはしかたないね。
ただ、デミグラスソースとトンカツソースに関しては教えられないのよね。というか私が一から作れない。
まあ、公開しないと付きまとわれる気がするから、ハンバーグとウルフカツとトマトソースの作り方ならいいかな。
「売ってもいいんですけど」
「いいんですか?」
「ソース…タレに関してなんですが、一つだけなら教えられます。それとお肉の作り方なら教えてもいいです」
「むしろそんなに公表していいんですか?」
「これくらいなら平気ですよ」
「ありがとうございます」
これを機にいろんな料理が増えるといいな。
レシピを紙に書いてほしいと言われたので、注意事項なども含めてできるだけ細かく書いておいた。
公開の条件は特に設けなかった。食文化が進むのは良いことだ。
レシピは明日中には公開されるそうだ。
レシピは売ったので、次は私の話を聞いてもらおう。
「ナーリさん。私そろそろ住居が欲しいなーと思っているんですよ」
「そういえば、ナナさんはずっと宿屋住まいでしたね」
「人一人住めて、お店もできるような物件ってないですかね」
それを聞いてナーリさんがニコリと笑いながら、少々お待ちくださいと言って席を立った。
戻ってきたナーリさんがテーブルの上に地図を広げる。
「先ほどの条件以外に物件の要望などはありますか?」
「治安がいいところで」
「わかりました」
資料をパラパラとめくり、お目当てのページが見つかったのか地図を指さす。
「この物件はどうでしょう。一階が食堂、二階が住居になっています。前に利用されていた方は引っ越しのために売りに出されたそうです」
指し示された場所は、大通り沿いでは無いものの、道幅も大きく他にも多数お店が並んでいる、賑やかな所だ。随分と良い場所にある物件のようだけど。
高そう。
「立地が良いので少しお値段は張りますが、お店自体が小さいのでそこまででもありませんよ」
賃貸料金と購入金額の両方を聞いてみたが、どちらも払えない額ではない。
ただ購入の方は高い。ギリギリになってしまうかも。
どうしようかな。
「直接確認に行かれますか?」
「そうですね。見に行きたいです」
「それでは今から行きましょう」
実際に見るって大事よね。
それから決めてもいいだろう。




