営業開始
少し長くなりました
次の日の朝、何事もなく目が覚め朝食をいただく。
ついでにネリンさんに今日から屋台をやるって伝えておく。時間があったら買いに来てくれるそうだ。
昨日の帰りにカモフラージュのための食材とそれ以外に必要な物は全て買っておいたので、まっすぐ商業ギルドへ向かう。
その途中でイグニさんたちに会った。
「あ。おはようございます」
「おや。おはよう」
「ナナちゃんおはよう。どこか行くの?」
せっかくなので、屋台の宣伝をしておく。
「最近屋台で食事はしていなかったですし、行きたいですね」
「うまいんなら食べてみてえな」
「じゃあ、後で食べに行くか」
「是非きてください。そして美味しければ宣伝しといてください」
「ふふ、わかったわ」
商売だからね。知り合いにも売り込まないと。
冒険者ギルドに向かう四人と別れ、商業ギルドに到着。
ギルド内はすでにそれなりの人がいたが、割とすぐにナーリさんに会えた。
「おはようございます」
挨拶もそこそこに、ギルドの裏に連れていかれた。裏にはギルド所有の倉庫があり、その入り口にいくつもの屋台が置いてあった。このうちの一つが私が使う屋台のようだ。
足に車輪が付いているのでそのまま押して運ぶことが可能だが、面倒くさいのでアイテムボックスに入れた。
それなりに大きな屋台がアイテム袋に入ったことにナーリさんが驚く。実際はただの袋だけど。
「そんなに大きなアイテム袋をお持ちなんですね」
「貰い物です」
嘘ではない。スキルもこの袋も貰い物だ。
屋台を出すのは他にも食べ物を売っている屋台がたくさんある、あの広場だ。
この街の屋台のほとんどはあの広場で出すことになっている。
屋台の設置場所も決まっているそうなので、ナーリさんが案内してくれるそうだ。
広場ではすでに屋台が並んでおり、下準備中なのかいい匂いが漂ってきている。
「この辺りですね」
ナーリさんが指した場所は、果汁屋の隣の空きスペースだ。
そこにアイテムボックスから屋台を取り出す。便利なスキルだよね。
突然出てきた屋台に驚いている人がちらほら。目立っちゃってるね。
「本日売りに出すのは昨日のハンバーグサンドだけでしょうか?」
「そうですね。でももう一種類作ろうかなと」
カツサンドもとい、ウルフカツサンドだ。あれの方が冷めても食べやすいし。たぶん。
「そうでしたか。そちらも食べてみたいですね」
「作ってあるので良ければどうぞ」
「いいんですか?」
「美味しかったら宣伝してください」
「わかりました。ありがとうございます」
ナーリさんにカツサンドを渡すと嬉しそうにしてくれる。昨日のハンバーグサンドが本当に美味しかったってことかな。期待してくれてるのかも。
そう考えるとなんだか私まで嬉しくなる。
一口食べたナーリさんが目を見開く。
「これは…美味しい。このお肉のまわりにあるのはなんでしょう。サクっとしてて食べたことのない味わいです。このタレは昨日のとは別の味付けですね。ナナさんが作る料理は今までにないものばかりな上に、とても美味しいです」
ちゃんと期待に応えられたみたいで良かった。これだけ絶賛してくれるなら売れるかもしれない。
ナーリさんがギルドに帰っていった。他の職員に宣伝しといてくれるそうだ。
早速準備をしようとしたら、男性が近づいてきた。
「嬢ちゃん! 今日からここで店やるのか!」
串焼き屋のおじさんだ。ガハハと笑いだしそうな笑顔で話しかけてきた。
「はい。ご迷惑にならないよう頑張ります」
「気にすんな! 最初はみんな初心者だからな! 何か困ったことがあったら言ってくれよ!」
「ありがとうございます」
そういっておじさんは自分の屋台に戻っていった。良い人だなあ。
とか思ってたら果汁屋のおばさんも声をかけてくれた。
「私もあの串焼き屋のおやじさんもみんな、先に屋台開いてた先輩たちにお世話になったからね。だからみんな新入りが来たら気にかけてるんだよ」
なんと。そんな優しい歴史があったとは。
私もいつか先輩として、ものを教える立場になる日がくるのだろうか。
「でも、商売では負けないからね。これはみんな同じさ」
ですよね。でも、その方がいい。結局は商売だからね。私も頑張ろう。
せっせとハンバーグサンドを作っている。お昼までにカツサンドを作れるか微妙になってきた。一度にこんな大量に作ったことないから意外と苦戦しているのだ。
大量にすばやく丁寧に作るのって、大変なんだなあ。
キャベツを食材庫から取り出す際に、ウルフ肉のひき肉が出せるなら、キャベツの千切りも出せるのでは? と思ったので試したところ、なんと千切りキャベツが出てきたのだ。
なにこれもうすごくべんり。
スキルのおかげで時間短縮されたので、それなりの数のハンバーグサンドと、いくつかのカツサンドが出来上がった。
これを毎日続けるのかと思うと今から帰りたくなってきた。
しんどいけど帰るわけにはいかないので、少し早いけどお昼を食べ損ねないように食事をして気を紛らわせた。
ここまで来て引き返すことはできない。気合入れましょう。
料理良し、見栄え良し、あと必要なのは私の度胸だけ!
さあ、開店だ!
そろそろお昼時だからか人が増えてきている。誰か買ってくれるだろうか。
匂いで誘うためにデミグラスソースを煮込んだりお肉を焼いたりしていると。
「これはなんて食い物だ?」
と力仕事をしていそうな青年が声をかけてきた。
「こっちがハンバーグサンド、こっちはウルフカツサンド。どっちもお肉だよ」
展示用に置いてある品を指しながら言う。
「腹にたまるのは?」
「ハンバーグサンドかな」
「じゃあそれくれ」
彼が初のお客さんになってくれた。
お金を受け取りハンバーグサンドを渡す。食べやすいようにハンバーグを薄く作ったけど、硬めの丸パンを使っているからこっちの方がお腹にたまると思うのよね。
受け取った青年はその場で食べ始める。すると驚いたように一瞬止まったかと思うと、一気に食べ始めた。喉に詰まらせないといいけど。
しばらくして食べ終えた青年は
「すげえうまかった! そっちもくれ!」
とカツサンドも買ってくれた。こっちも口に合ったらしく、嬉しそうに食べてくれた。
あそこまで喜んでくれると私も嬉しいね。
その様子に惹かれて少しずつお客さんが増えてきた。
そして私がどんどん忙しくなってきた。
元ニートとしては忙しいのは遠慮したいところだ。そんなこと言っていられる状況ではないけど。
そんな中、イグニさん達が来てくれた。
「なかなか盛況みたいじゃない」
シンシアさんはそう言って、果汁のジュースを差し入れしてくれた。
ありがたい、さっきから休憩できなくて疲れてきていた。
「どっちのほうがオススメ?」
「どっちも食べてくださいよ」
笑いながら勧める。どっちも美味しいと思うし。
結局、男性陣がハンバーグサンド。女性陣がカツサンドに決めた。
列ができているので、少し離れたところで四人が食べているのをチラ見する。
美味しそうに食べているので安心した。
お昼を過ぎるとだいぶ客足が落ち着いてきたので一息つく。思っていたより売れたおかげで残りストックが僅かになってきてしまった。
早いうちに店仕舞いできそうだなーとか思っていたところに、ネリンさんが来た。
「ナナちゃん! 食べに来たよ!」
「いらっしゃい」
「あ! 新しいやつだよねこれ! こっち頂戴!」
そう言ってカツサンドを指さしたネリンさんに苦笑しながら渡す。
美味しそうに頬張る姿を見ながら、ここは本当に食文化が進んでないなーとか考えてた。
疲れてきたのかもしれない。
ネリンさんが帰ってからも客がチラホラ来ていたが、そろそろ品が無くなってきたので、今日はもう店仕舞いすることにした。
夕方になって客が増えると足りなくなってしまうからね。追加で作る気はもちろんない。
アイテムボックスに入っていれば腐らないので余ってても問題ないけど、そんなに頑張るつもりはない。
片付けをして、周りの人たちに挨拶をしてから宿に帰った。
宿の部屋で今後のことを考える。
初日から盛況だったおかげで、だいぶ儲けることができた。食材費がかかってないので、引かれるのは商業ギルドに納める分くらいだ。
今日だけでこの宿に数日連泊できるくらいには稼いだ。毎回これだけ稼げれば、いつか家を借りたり買ったりできるだろう。
店つきの住居を買えば宿代はいらないし、わざわざ外出る必要もないし、料理の幅も広がるし、いいこと尽くめだ。
そんな簡単にいくかはわからないが、難しくはないだろう。
しばらくは屋台で頑張っていこう。




