ルナ美術館
三十分たって全員が乗車すると再び月面車は走り出した。
次の行き先はルナ美術館だ。
絵画や彫刻など月にまつわる作品が集められている。
ちょうど月で制作活動をしている作家が個展を開いているらしい。
その作家は日本人女性で、星座をモチーフにした淡い紺色が印象的なイラストで有名だ。
楓もSNSでイラストやプロフィールを見たことがある。
沖縄の離島出身で、中学生の時からSNSでイラストを発表し続けきた人だ。
最初は海や南国のイラストが主だったのだが、やがて宇宙や星座をモチーフにしたスタイルになったらしい。
そして数年前から月に住居を移して制作活動を続けているようだ。
今現在でもSNSで新作を月にニ作品ほどのペースで発表している。
今日はそのイラストレーターも美術館に来るらしい。
それは今日になって初めての分かった事だった。
「この人だね」
楓は祖母にタブレットに映ったイラストレーターの写真とプロフィールを見せた。
若い女性だった。
年齢はまだ二十一歳だという。
楓とそう変わらない。
楓は興味を持った。
会ってみたい、そう思った。
楓は美術館に着く前に自身のスマホでそのイラストレーターの作品を片っ端から調べた。
それこそ沖縄で南国や海のイラストを描いていた頃の作品から最近の月に移住してからの物まで。
これまでの数回東京や沖縄で展覧会を開催しているイラストレーターのようだった。
月での開催は今回が初めてとの事であった。
デジタルを使って描かれていて、そのほとんどがSNSで発表されている。
なので、わざわざ展覧会に行く必要がないとの意見も見受けられた。
わざわざ月でやる必要ある?
東京でやればよくない?
なんの為の交通費助成か分からないよね?
そうなのだ。
展覧会や舞台、ミュージカルなどの知的文化は都市部に集中していて地方住みの人間は都市部の人間と比べて簡単にアクセスできずに文化的格差ができてしまう。
そこで交通網が発達し日本全国、どこからでも半日あれば東京に行けるようになった現在。
舞台などのチケットがあれば交通費と宿泊費を国が助成する、という制度ができた。
その制度は、公演のその日の宿泊費を助成してくれる。
そこで安めの美術館や資料館のチケットを予約すれば、その日の宿泊費をかなりおさえる事ができてしまう。
そうして、東京やテーマパークを観光する利用客が増えた。
しかし、都市部の人間が反発した。
自分たちは高い生活費を払って都市部にいるのに、と。
なので、地方のみでライブや展覧会を開催するアーティストが炎上したりする事がある。
出身地だけでやりたいというアーティストも多い。
そして、今回のイラストレーターの展覧会も月のみでの開催となる。
いくらなんでも月だけの開催はひどすぎる、ほとんどの人が行けないじゃないか、と炎上した。
SNSで見られるから展覧会自体必要がないじゃないかという書き込みもあった。
それでも月での展覧会は開催された。
三ヶ月という長い期間開催される展覧会で、予想に反して来場客はかなり伸びた。
まだ開催期間の半分しかたっていないのだが、すでに来場予想の四倍だ。
展覧会のためだけではなく月の観光もしていくので、月の観光地の口コミがネットに溢れ出した。
そして後半。
さすがに多額の交通費と高めの宿泊費、高い旅行保険が必要になるので、月に行くにはそれなりに裕福な人ばかりになる。
そういった連中は前半に集中して押しかけたため、後半は比較的空いているらしい。




