月の博物館
「お婆ちゃんのお母さん、楓ちゃんのひいおばぁちゃんはあまり出掛けるのが好きじゃない人だったのね。だから働いたら色んな所に行こうと思ってたの。
でもコロナウィルスが若い時に流行ってしまって。
その時に働いていた会社も倒産してしまうし、本当に仕事にも困って。
そのまま結婚して東京に出て来たからあまり旅行出来なかったのね。
あなたのお母さんも出掛けたがらない人だったし、お金もなかったし」
確かに記憶の中の母は一緒にゲームをしていた記憶がほとんどだ。
その後、祖母と半日バスツアーに参加するために月面空港に戻った。
祖母が地球で予約してくれていたツアーで、日本の旅行会社が企画している。
予約の十分前に乗車場所に来てみるとすでにツアーの小型月面車が着いていた。
祖母の荷物を月面空港のロッカーに預け、小型月面車に乗り込む。
小型月面車は本当に小型で、運転手はいない。
自動運転のようだ。
数えてみると座席は十席。
それぞれの席にタブレットが置いてある。
席は自由となっていたので楓と祖母は一番前の席に座る。
タブレットにはツアーの日程表とおすすめポイントが映し出されていた。
五分前になるともうカップルが一組。
ギリギリの時間に若い女性が飛び乗ってきた。
(出発します)
アナウンスが流れる。
タブレットを見ると、最初の行き先は月の博物館だった。
世界各国が月を開拓してきた歴史が学べるらしい。
楓は博物館なんて学校の授業でしか行ったことがない。
漫画図書館やアニメ科学館もプライベートで行ってはいない。
小型月面車は静かに発車した。
少し走ると、月面ドームの外に出る。
車の外は空気も重力もない。
ほんの少しの恐怖を感じる。
窓の外は無数の星空が広がっていた。
もしかしたら地球でみる星空よりも凄いかもしれない。
十分ほど走ると博物館に着いた。
月面車は博物館横にある駐車ドームの中に静かに入る。
ドームのは空気も重力も人工的に作ってある。
ドームに入って入口が閉まる。
駐車スペースで一分ほど待つ。
(空気と重力が満たされました)
とアナウンスが流れる。
ゾロゾロと下車して、駐車場から博物館の入口に向かう。
博物館の入口にはグリーンのランプが付いている。
「開」のボタンを押すと自動ドアが開いた。
全員中に入ると自動的にドアも閉まる。
閉まったドアを見ると、赤いランプが付いていた。
閉まってすぐに駐車場は空気が抜かれているらしい。
楓は皆の後ろを付いていった。
月の博物館は通路の通りに見学していくようになっていて、数十年間に渡る月の開拓の様子が展示されている。
地球から操縦する事が出来る月面車。
月の開拓に使われたたくさんの重機などが血氣に送り返されずに展示されていた。
「お婆ちゃんはリアムタイムで月の開拓のニュースを見ていたんだよね?」
楓は祖母に尋ねた。
「そうね」
祖母は重機の前にある説明書から目をそらして答える。
「でも遠い世界の出来事だったわね
」
「そうだよね。確かその頃は宇宙旅行が一般的になったとしても、数千万円かかるって話だったしね」
「でもね、ネットで工事の進捗状況がリアムタイムで見られたからね。
たまに見てたわね。面白かったわよ」
「そうなの?」
「そうそう。確かこんな感じだったような気がするわね」
と、飾られているパネルを見て言った。
「何もない所によくこんな立派な空港とかつくったものよね」
博物館は小さく、ゆっくり見て回っても三十分もかからなかった。
出口の前には無人売店があり、数は少ないがお土産が買えるようになっている。
文房具、マグカップ、ティーシャツ、キャップ、ポーチなどなど・・・
祖母は月面探査車のミニチュアを購入していた。
二千二十年代にJAXAで使われていたモデルだ。
楓は迷ったが定規を買った。
手帳に書く時に定規が欲しいと思っていたのだ。




