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派遣社員、宇宙へ行く!  作者: 相内みなぎ
14/25

月の珈琲


それから一ヶ月。


高齢女性、カフェ最後の日。


楓は北原と瀧澤とカフェに来ていた。


女性は明日月に行き、娘夫婦と合流してから、月の土地売買関係の書類を提出してから地球に帰るとの事であった。


そして月の土地を売ったそのお金を元手に、高齢者専用のマンションに入居する事になっている。


それぞれお勧めの日替わりケーキセットを頼んでいた。


ケーキはこの店を継ぐ若い女性が作ったのだが、今日はコーヒーはこの引退する女性がいれた。


メニューは月のコーヒー一種類だけだ。


「月のコーヒーは地上では高いからね。味わっておかないと」

と、年配女性が言う。


月のコーヒーとは、月で栽培されているコーヒーだ。


月の土地を持っていたコーヒー好きの日本人が、その土地にコーヒー豆栽培の為のハウスを建ててコーヒーを造った。


それが月のコーヒーだ。


コーヒーなど食品や飲料は地球に輸入するのにたくさんの検査がある。よって高くなってしまう。

宇宙基地に送る分には簡単な検索しかないので遥かに安い。


なにせ宇宙基地の三倍の値段た。


「この子のお菓子が食べられなくなるのも寂しいわね」


年配女性が女性の方を見て言った。


「生物は無理でも焼き菓子なら送りますね、それと月のコーヒーも」


女性が答える。


「ネットで販売してもいいかもしれませんよ」


北原が声をあげた。


「チーズケーキやガトーショコラなら冷凍すればここからでも送れますよ」


「そうだよね。去年ここのカフェ、雑誌に載ったでしょ。お取り寄せしてでも食べたいって人も多いと思うな」


送料は安いのだ。


宇宙基地から月を経由して、地球へ送ってもそんなに高くはない。


個人輸入という形なら、商売でも検査は簡単なものですむ。


「いいと思いますよ。私もお婆ちゃんに送ってあげたいな」


楓は思わず言った。


「お婆ちゃんっ子なの?」


川野が尋ねる。


「はい」

楓は答えた。


その時、ドアの鐘が鳴った。


「こんばんは〜!」


その人物は、真っすぐ楓の方にやってきた。


「松居さん?久しぶりだね!」


入ってきたのは、平野翔平だった。


「あれ?知り合い?」


北原が楓と平野を交互に見て尋ねる。


「はい!同期です!」


平野がハキハキと答える。


「平野さんもここの常連だったんですね」


楓が言った。


「ここの宇宙コーヒーにハマっちゃってね。他にも色々と宇宙の物を集めてるんだ」


平野が答える。


「宇宙の物?」


楓が尋ねる。


「そう。こんな感じ」


平野はスマホを取り出し、ちょっと操作してから楓に画面を見せた。


白い棚の上に天文宇宙検定四級の合格証書が額に入れて立てかけてあり、その手前には家庭用プラネタリウムが置いてある。


更にその隣には、小さい模型が並んでいた。


某宇宙映画に出てくるロボットの模型、某宇宙アニメに出てくるスペース基地の模型。


地球から月まで乗った大型シャトルと月から宇宙基地まで乗った小型シャトルの模型まである。


そして、その棚の隣には天体望遠鏡が置かれていた。


「もうすぐ月の土地が手に入るんだ。そうしたらこの検定試験の合格証書の横に権利書を並べようと思ってて」


平野はサラッと言った言葉に楓は反応する。


「月の土地!?」


「そう。私から買うのよ」


年配女性が言った。


楓は言葉が出てこずに年配女性と平野の顔を交互に見る。


「月の土地を買うってあなた、お金持ち?」


北原が声をあげた。


「うちの給料だって人並みじゃない?もしかしてお坊ちゃま?」


「そんな訳ないじゃないですか」


平野は続けて話す。


「この方が安く譲って下さったんですよ」


年配女性の方を見て言った。


「そうなのよ。

私もあの土地をどうしようかと悩んでいた時だったからね。

息子も娘もいらない、お金にかえて母さんの老後に使えばいいって言ってくれていたし」


いや安く譲ってくれたといっても。


この間、月の土地を売って地上の高齢者専用のマンションに入ると言っていた。


高齢者専用のマンションは単身用だとそんなに広くはなく、確か就職氷河期世代だと老後の住宅手当がついてて更に安めのはずだ。


かと言って、激安という訳ではない。


数百万はくだらないはずだ。


「ここで月のコーヒーを飲みながら、宇宙の話を聞くのが本当に楽しくってね。月の土地の話を聞いてそれなら僕に譲ってもらえませんかってお願いしたんだ。

お金は分割で何とかって。

格安にしてくれて、一括で支払える金額にしてくれたんだよ」


「月の土地の売買って面倒みたいでね。数年かかる事もあるみたいなの。それじゃあ私が元気なうちに終わらないかもしれないし」


年配女性が話した。


「一括でって。あなた、一体貯金いくらあるのよ?」


北原が平野にたずねた。


当然、平野が答えるわけはない。


「その土地をどう活用するつもりなの?」


今度は瀧澤がたずねた。


「何かこう。

家庭用小型シャトルの駐車場に貸し出すとか、月のコーヒーみたいに何か栽培して月原産としてネット販売するとか」


「そこまで考えていないですよ」


平野は苦笑いして答えた。


「しいて言えば、小さいドームを建てて別荘しにようかなと」


「え?!活用しないの?もったいないなぁ〜」


瀧澤は平野のコトバに信じられないと言うように答えた。


「お金持ちのすることね」


北原が羨望の目で言った。


「活用しないんじゃなくってゆくゆくは何かにって事ですよ」



そうこうしているうちに、遅い時間になってしまった。


「そういえば今日は日奈ちゃんはいいの?」


瀧澤が若い女性に尋ねる。


「今日は深夜保育を予約出来たので大丈夫なんてすよ」


若い女性が答えた。


「あ私、日奈っていう五歳の娘がいるんですよ。

シングルマザーなんです」


「へぇーじゃあ色々と大変じゃないですか?」


北原が聞いた。


「いやいや結構宇宙基地って地上と比べてかなり恵まれてるみたいですね。

私自身は地上で子育てした事ないからよく分からないんですけど、地上の友人たちは大変だっていつも言ってますね、保育所とか買い物とか」


「それに、瀧澤さんが日奈に色々としてくれて。

この間は日奈を月まで連れてってくれて」


「だって日奈ちゃん可愛いんだもん。月も楽しかったし」


瀧澤はそう言って笑った。



「月でミュージカル?」


楓が聞き返す。


「そう!凄いらしいんだ!」


そう興奮ぎみに話すのは平野だ。


「月でしか見れない演目?どういう事?」


そう楓が聞き返すと、


「ジャーン!」


と声にだしで平野は楓の目の前にチケットを見せた。


無重力ミュージカル


あぁ、聞いたことがあるな。


確か舞台上だけ無重力になるような

劇場が月にあって、縦横無尽に踊るお芝居があると。


で。そんな話を何故平野が私に???


「チケットが二枚当たったんだよ。興味ない?」


「あんまりないかな」


「そうなんだ、見たことないよね?一度観てみようよ!」


空気読めてない・・・。


「無重力ミュージカルってまだ七演目しかないらしいんだけど、これが一番人気の演目なんだって!

俺、いつか地上勤務になるだろうからここにいるうちに全部制覇しようと思ってるんだ!」


まだ一演目も観ていないうちに・・・。


「分かった。今度の日曜日ね」


「良かった!社員は月までは無料送迎シャトルがあるから」


「そうなの?」


「俺、すでに二十回は月に行ってるから任せて!」


うわ〜陽キャだな。


「じゃ次の日曜に!九時にシャトル乗り場で待ってる!」


そう言うと平野は技術部へ走っていった。


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