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暇な人たちでごちゃごちゃと話す

 簡単に言えば、もっとも前――かつて予言機やこの研究塔が世界をひっくり返すレベルでの発見であり研究だと思われていた頃――の習慣がまだ残っているという話だった。


「余計なものを持ち出さない、持ち込ませない。出入りする荷物なんかの検査をしてたの。身体検査も含めて。まあ、今では完全に形骸化してるけど、形骸化」


 ただ、とメアリは続ける。


「クソ真面目なのと、立場的にきっちりしなきゃいけないのとが、毎回出入りする時には身体検査受けてるのよ」


「ええっと、クソ真面目と立場的にっていうのは……」


「不本意ながら、クソ真面目というのが私」


 ルイルイが手を挙げ、


「立場は俺だ。身体検査を本来する立場だからな」


 エーカーが続く。


 なるほど、この二人は研究塔への出入りの際に身体検査を受ける……で?


 僕の疑問は顔に出ていたらしく、


「調べたら倉庫にあるジエリコは使われていなかった。外からジエリコを持ち込んだんじゃあないのか、という話があった」


 ルイルイが補足してくれる。


 そう言えば、そんな話があった。そうか。


「なるほど、そう考えると、ジエリコを外から持ってくることができないルイルイさんとエーカーさんは、ジエリコを混入することができない、と」


「あと、そこで爆睡している人もジエリコを外から持ち込むのは無理」


 メアリが研究室の隅のソファーに転がって寝ているディーコンを顎で示す。


「え、なんでだよ?」


 きょとんとするエーカーに、


「ほら、忘れたの、あの人は」


 そこでメアリは口をつぐむ。声に出すのははばかられる、とでも言うように。


「――ああ、そうか」


 エーカーは納得しているが、僕は全然訳が分からない。


「あの人は、昔、色々とあった。ココアも知っているように、社会的に叩かれて」


 とルイルイが意味ありげな目線を送ってくる。


 ああ、あの事件のことか。それは、僕もヴァンもよくよく知っている。

 ヴァンの解決したあの事件は、議員だったディーコンに精神的にも社会的にも多大なダメージを与えたはずだ。


「そのせいで一時期精神不安定になったとかで、精神安定剤や睡眠薬を過剰摂取して病院送りになったとかあったみたいでな。ブラックリスト入りしてるとかで、そういや、ディーコンは薬を買うのがかなり面倒になっているはずだ、手続きがな。『睡眠導入剤を気軽に飲めるのがここに閉じ込められて唯一いいことだ』なんて漏らしていたくらいだしよ」


 にい、と笑いつつディーコンの寝姿を横目にエーカーは肩をすくめる。


「ふうん、そうすると、ジエリコが外から持ち込まれたとすると、その人たちは除外した方がいいわけですね」


 外から持ち込まれた、という前提では、だ。あくまでも。


「ところでよ」


 エーカーが、これまでとは一転、声を潜める。


「ど、どうしたんですか?」


 いきなり雰囲気が変わったことに戸惑いながら訊くと、


「いや、ほら、さっきビンチョルとタリィが殺された件、ナイフが使われてただろ、ここにおいてあった、床に刺さってた方のナイフ」


「ああ、そうみたいですね」


「で、ニャンを殺した凶器のナイフはさすがに重要な証拠だからあそこに厳重に保管されている」


 部屋の隅に向けられたエーカーの指の先にあるのはニャン殺害の凶器と思われるあのもう一本のナイフだ。透明なケースに入れられている。


「はあ、そうですけど」


 それがどうしたんだろうか?


「けどよ、あっちのナイフだって一応は証拠品だからそれなりには保管されていたはずだぜ? それをわざわざ使う理由って、何か分かるか?」


「そりゃ、刺し殺したいからじゃないですか?」


 何の質問だ?


「いや、刺し殺したいだけなら、普通にこの研究塔にある調理用のナイフを使えばいいと思うんだよな。相手は縛られている状態で、しかも爆発でショック状態なんだろ? 刺すだけなら、それでいいじゃねえか」


「はあー……なるほど。でも、僕が言うのもなんですけど、それってヴァンさんに相談すべきことじゃないですか?」


「いや、ヴァンにも言ったぜ、さっき。そうしたら、何か滅茶苦茶嫌そうな顔をした後、『しばらくの間、他の奴には絶対にそのことを言うな』って念を押されてよ」


「言ってるじゃん」


 呆れた顔のメアリに、


「え、ちゃんと『しばらく』は言わなかったぜ」


 そういう問題か?


 滅茶苦茶怒るんじゃあないかと思ってヴァンの姿を探すと、ヴァンとイースターの姿がない。どうやら、寝室エリアかどこかに他のタリィの私物を調べに行ったのだろう。


「やっぱり、そうですなあ」


 と、そこでずっとあの部品を調べていたエジソンが顔を上げる。


「何か分かったの?」


 興味津々なのを隠さず走り寄っていくメアリ。


「ええ。これは、魔術の流れを強化する、あるいは弱化するためのものですな。機能自体はシンプルですが、非常に高度な技術が使われております。おそらく、魔術を使用する人間にも道具にも、何であろうと調整することなく、接続さえすれば機能するようになっております」


「へえー、じゃあ、それを通して魔術使おうとしたら僕の魔術もパワーアップするんですか?」


 だったら欲しい。


「もしくは弱化するかでございます」


 ああ、そうか。


「ちょっと待って。問題は、その道具をどうやって使ったか、でしょう? ドラゴンイーターが、まさか自身の魔術を道具を使って強化する必要はない」


 冷静なメアリの声に、全員なるほど、といったん考える。


「だったら、共犯者に渡したか、何かしらの道具、装置に入れたか、だな」


 エーカーの発言に、僕は首を傾げる。


「共犯者はタリィなんじゃないですか?」


「ありゃあ、ただの内通者だろ。ずっと縛られているあいつが道具もらったところで何ができる?」


 そうか。じゃあ、タリィ以外に共犯者がいた場合――いや。


「じゃあ、ビンチョルじゃないですか?」


「あいつも一緒に閉じ込められていただけじゃん」


 メアリが今度は反論してくる。


「いやいやいや、じゃあですよ、この研究塔の中に、三人目のニャンの共犯者がいたかもってことですか? それは考えなくていいんじゃないですか? ヴァンさんじゃないですけど、そんな共犯者ばっかりの状態で名探偵に挑戦も何もないでしょ」


 さすがにそれはひどいと思う。


「だよな。理論上はありでも、さすがに俺もないと思うぜ」


 それにエーカーは同意して、


「となると、何か魔術式の装置に組み込んだか。動作に影響がでるはずよね。だけど――」


 メアリは自分の夫に顔を向ける。


「この研究塔で魔術式の装置って何があったっけ?」


「ふむ。まずは予言機の動力が魔術式ですな。それからこの研究塔の時計と、警備室の空気の浄化装置も」


 あの、ダクトで全ての部屋とつながっているやつか。


「それから潜水館との接続部分や、その際に開閉するゲート、これも動力は魔術式です」


「ちょっと待って。けど、そもそもニャンたちにはそれを仕掛けるタイミングない、という話じゃなかった? ジエリコ混入の話の時に、そうなったはずよ」


 ああそう言えばそうだった。ジエリコを混入しようにも、ニャンたちは倉庫から出てきて警備室を通って予言機まで来て、それから研究室にいるルイルイを連れてきて、という流れのためにできないという話だった。この部品を組み込むのも、同じか。いや、出入口付近にあるであろう潜水館との接続部分やゲートに仕掛けることはできないことはない、か。ただ、それをしてだからなんだ、という話だけど。


「じゃあ結局、この部品の使い道は分からず、ってことで終わりですよね」


 うーん、と全員考え込んで結局もやもやしたままで終わる。爆睡しているディーコンがうらやましいくらいだ。


 そういえば、例のエーカーのチクり問題があったな、と思い出す。ヴァンの計画からすると、エーカーがあの情報を言ったのは結構まずいんじゃないだろうか。ヴァンに確認してみるか。


 どうせこれ以上話すこともないし、ということでぬるっとその場を抜け出し、多分こっちだろうと寝室エリアに向かう。ここの、タリィのエリアで多分私物チェックを――


「え……?」


 曲がった先、寝室エリアに入ったところで、僕の目にそれが入ってくる。


 壁によりかかり、座り込んでいるイースター。そのイースターの心臓付近に、見たことのないナイフが突き刺さっている。そして、それを必死の形相で握りしめているのは、


「ヴァン、さん?」


 返り血で顔を少し汚した状態で、ヴァンがそこにいる。深く突き刺そうとしているヴァンに、イースターが血の気の失せた顔で必死に抵抗して、ヴァンのナイフを握った手を掴んでいる。

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