再び、ジエリコ混入について
研究室、それから寝室エリアにあるタリィの私物を、イースターとヴァンは片端から分解したり壊して中身を調べたりし出す。例の、タリィとニャンの間で交わされた密約か何かの証拠になるものを探しているらしい。
「計画書とかあったら――というか、あったはずなんだよね。まあ、今はもう燃やされてないと思うけど」
タリィの万年筆を砕きながらヴァンが言う。
「ええっと、それは、どういう?」
「だって、そうじゃないとニャンの計画を逆手にとって殺す、なんてことできないはずでしょ。あの予言機に仕掛けていた爆薬だってさ、絶対にニャンの計画で前々からタリィが準備してたやつじゃん」
「まあ、そうでしょうねえ」
そこには異論はない。
「だとしたら、さっきそれを爆発させた犯人は、爆薬のことを知ってたんでしょ。あの無数のコードのうち、どれが導火線なのかも」
「……ああ、確かに」
「とにかくその導火線は魔術で簡単に点火できて確実に爆薬まで目立たず火が伸びるようになっているんだろうけどさ、そもそもの話として見た目じゃあそれが導火線だと気付かれないのが何よりも重要なはずだ。だから、多分ニャンとタリィにだけ分かる目印をつけていたんだよ。ちょっとした傷とか」
「そして、犯人はその情報を盗み取っていたから爆発させられた、と?」
「じゃないと無理でしょ……あった?」
探しつかれたのか、テーブルの上に残骸の山をつくったヴァンは背伸びをしてイースターに問いかける。
「いえ、何も」
そう答えるイースターの周辺も残骸だらけだ。
エジソンは研究室内の設備を使って、例のビンチョルの胃の中から現れた部品を色々と調べているようだ。
というわけで、特にやることのないエーカー、僕、そしてメアリ、ルイルイが何となく集まって四人で話すことになる。僕は一応メモを取る準備をする。
どうしても状況的に、他の話をしようにもできず、事件についての話をするしかない。
「あたしって冷血なのかな。あの二人が死んだことに、びっくりするほど動揺してないのよね、全然よ、全然」
メアリが言う。
「タリィもビンチョルも、犯罪者で悪人だからなあ。別に死んでもどうでもいいと思っているだけじゃねえか?」
恐ろしいエーカーの分析を、
「我々は状況が状況のために色々な感覚が緊張のために麻痺している。ジエリコの後遺症や寝不足もある。単に混乱しているだけ」
とルイルイがフォローする。
ただ、そうなるとたっぷりと寝ているのにタリィとビンチョルの死に大して動揺していない僕が本当に冷血だということになりそうで嫌だ。
「しっかし、結局どう考えればいいのかしらね。予言の外し方もよく分からないままだし……」
伸びをするメアリに、
「やはり予言を外すのは、その予言を聞くというココア説しかないんじゃないのかな?」
ルイルイが僕の説を評価して言ってくれる。
だがメアリは鼻を鳴らして、
「また、堂々巡りになるけどさー、だとしたらニャンの脱出の予言はどうやって外したのって話になるじゃんか……あっ、予言が実は外れていなかったパターンとかは? ニャンとビンチョルが脱走するか、って予言だから、ニャンだけの脱走なら外れないとか」
「とんちやなぞなぞじゃあないんだから、それは無理だ。さすがに予言機も、『ニャンだけ脱走する』というようにきちんと返す」
たまたまそのタイミングで近くにいたエジソンが、例の部品を分析する手を休めずに目だけを妻に向けて苦笑する。
なるほど、それなりに予言機は融通が利くわけか。だとすると、やはり妙な気がする。タリィが口走った、あの話。予言機は、ジエリコの混入については事件としてカウントしてもよかったのではないか、という、あの話だ。まるで何かを誤魔化すようにタリィは喋っていたし、ヴァンもそんな感じで気に留めていなかったみたいだが、これはなかなか重要な疑問点なのではないだろうか?
「あの、やっぱり、ジエリコの混入がやっぱり重要だという気がするんですけど」
僕は意を決して口にする。既に話に出て、現時点では解決しないという話になったものを蒸し返すのもあまり気が進まないが、やはりここに何かヒントが隠されている気がする。予言を外したニャンの脱出や、殺人よりも地味だが、こここそが突破口なのではないだろうか?
「そうは言っても、もうジエリコについて話すことなんて」
ルイルイは否定しようと口を開いたらしいが、それが途中で止まり、
「――ああ、そうだ。そう、言えば」
そしてメアリに目を向ける。
「ジエリコ、外から持ち込まれたものが使われたのだとしたら、絶対に持ち込めないメンバー、つまり犯人から外れる人間が何人かいる」
「あっ、そっか。そうね、そういえば、そうだわ。そうよ」
ぽん、とメアリは手を叩く。
何だ、新情報か?
「ちょっと、詳しく聞かせてください」




