予言機2
「ええっと、ちょっと待ってくださいよ、この予言って……当たるんですか?」
とりあえず、そんなところを訊く。当然だろう、と返されるとばかり思っていたが、
「いいや」
と、タリィはとんでもないことを言い出す。
「は?」
「少し考えれば分かることだろう。これを聞いて、ココアが反骨心から早めに眠ったらどうする?」
そりゃあ、そうだけど。
「その場合、色々妨害があって眠れない……なんてことはないんですか?」
「ない。普通に眠ることができる。その場合、予言は外れたことになるわけだ」
どうしてこういうことが起こるかというと、とタリィが説明をしだす。
「さっきスイッチを押しただろう? あの時に情報を読み取っていて、その情報を基に未来を予測している。しかし、どうも予言機は、自身の予言についての情報をその予測に入れることができないようだ」
「そうみたいだね。俺もちょっと試してみたんだけど、予言を聞いたことで俺たちの行動が変わるから、それで結果として予言が外れる、ということらしい。まあ、よく考えれてみれば、予言機が計算するときに自分の予言の情報を入れたらえらいことになるでしょ。その予言の情報のためにはまず計算して予測をしなきゃいけない。予測の計算のために予測の情報が必要で、その予測の情報の計算のためには予測の情報が必要で……いつまで経っても終わらない。だから、予言自体は予言のための情報には含まれない」
長々と分かりにくい説明をしてくれるのはヴァンだが、まあ、何となく言いたいことは分かる。
「じゃあ、あんまり役に立たないんじゃあ……」
「実際、そうなのよ。実用性ゼロのゴミ」
渋い顔で黙っていたメアリが口を開く。
「でもそれだと困るから、何とか使えないかとタリィに命令して色々実験してみたんだけどね……」
「いくつか予言の信用性を上げる方法は実験を繰り返して判明した」
タリィは胸を張る。
「まず、予言で訊く対象を個人のちょっとした行動で変わりそうもないものにするのがひとつ。それから予言を聞く人間と予言の対象をなるべく離すということもひとつ。例えばココアの行動について予言を聞くなら、その予言はココアには聞かせないようにするわけだ。それから単純かつかなり原始的だが、予言を聞いた人間が、なるべく予言を聞く前と変わらないように行動しようと意識する、というのも効果があった。そして何よりも」
言葉の途中でタリィはまたスイッチを押す。
「予言せよ。最後に眠りにつくのは誰か」
『――ココア』
またスイッチ。
「予言せよ。最後に眠りにつくのは誰か」
『――ココア』
「これだ。予言の後にスイッチを押して、もう一度計算させるんだ。予言を聞いた状態の情報を収集させるわけだな」
「はあ。でも、それって」
どうもひっかかる。
「それって、一回目の予言を聞いた情報ではあっても、二回目の予言を聞いた情報ではないんですよね?」
「んん?」
横で話を聞いていたメアリが首を捻り、イースターとエジソンも何か不審そうな顔をしている。伝わらなかっただろうか?
「ほう、鋭いじゃあないか。この話を聞いただけでそこまで理解できるとは。他の凡人共は何度説明してもいまいち要領を得なかったのに」
だがタリィは絶賛する。どうやら合っているらしい。
「本当に、いつになく理解が早いね」
少し失礼な言い方をしている気もするが、ヴァンも感心している。その後、
「ほら、前に説明したでしょ、メアリ。ちょっと言い方は違うけど、それと今ココアが言ったのは同じだよ。例えば、まず予言で俺が『転ばない』と出る。それを聞いて、俺が予言に逆らって『転んでやろう』と思う。そうなってからもう一度スイッチを押して予測させたら、今度は俺が『転ぶ』って予言が出てくる。これで予言は外れない、ように思える。ところが、その二回目の予言を聞いて、じゃあ俺が『転ばない』ようにする、となると、結局予言は外れる。このことだよ」
「ああ、そういえばその話あったわね、ややこしい」
メアリはため息。
「そう、予言を聞いてから予測し直してから予言を聞いても、結局その新しい予言を聞いたことによって予言が外れる可能性はある。それはココアの言った通りだ。俺ほどの天才ではないが、この分野に関しては理解が早い」
タリィはまた褒めてきてから、
「だから、何度スイッチを押して予言を聞きなおしても、変化がなくなるまでやるんだ。俺は『飽和予言』と呼んでいるテクニックだが、これを使う」
言いながらスイッチを押して質問して、を繰り返す。
何度やっても、答えは『ココア』、つまり僕だった。
「ほら、これはつまり、予言を聞こうが聞くまいが最後に眠るのはココアだ、ということになる。今回は最初から最後まで予言が変わらなかったが、ころころと変わる場合もある。ただその場合でも、大体十回は繰り返せば、『飽和予言』になる。経験則だが」
なるほど。
「これらの方法、条件を全て満たした上での予言であれば、予言の的中率はほぼ確実になる」
「じゃあ、やっぱりすごいじゃないですか!」
「それがそういうわけにもいかないのです、ココア様」
エジソンが否定する。
「ふん、この予言機はもはや芸術とさえ言える。この素晴らしさが分からない凡人は度し難い」
苛つくタリィの妄言はいいとして、
「話を聞く限り、条件や方法が面倒ではありますけど、それでほぼ確実に的中する予言がなされるんなら、とんでもないことだと思うんですけど」
僕の疑問に、
「いくつもの制限があるのです」
とエジソンがため息と一緒に言い、つられるようにメアリ、ヴァン、そしてイースターまでもがため息をつく。




