表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
304/345

エピローグ

本日は時間をずらして推理6とエピローグ二つ投稿しています。

 数日が経った。


 結局、ケイブは洗いざらい吐き、そこからずるずるとビンチョルやホージョウ、そして他の組織の関係者も次々にマサカドに引きずり出されていったらしい。曖昧模糊とした組織とも言えない組織が、マサカドの手によってついに壊滅させられるのではないかと期待されている。

 かなり組織の上の方と関わりを持っていたオーキが、積極的に情報提供してくれたのも大きい。連中との付き合いはほとほと嫌気がさしていたようで、途中で逃げ出したのも捕まるのも恐れたというよりも、組織から逃れるためだったらしい。探偵士に捕まったオーキは、洗いざらいをぶちまけているそうだ。彼が名士となっている母国のナムト国はそれでかなり大騒動になっているらしい。


「それで、どうなの?」


 ここはヴァン・ホームズ宅の客間。僕とヴァンが並んで座り、対面には幾分憔悴した様子のギンジョ―がお茶をすすっている。背筋も少し丸まっている。


「で、ハヅキの様子は?」


「ああ」


 ギンジョ―はカップから口を離す。


「自分がイワンを殺していないってことが分かってからは少し精神的に落ち着いたりもしたんだが、その後にな、ソラの力がイカサマだって話を聞いてからは、また半狂乱だ」


 顔を歪めるギンジョーのため息は長い。


「ただでさえ、元信者や関係各所から訴えられて、その対処で手一杯だっていうのに、俺しかそれを処理する人間がいない。まったく……俺はあの三人の中では一番そういうのが苦手だったんだぜ?」


「ご愁傷様――なあ、ハヅキはそうだろうとは思っていたんだけど、あんたも?」


 ヴァンの問いかけは言葉足らずだが、それでも何のことを言っているのかは分かる。ギンジョーにも分かったようで、


「ああ。ソラの力を疑ってなんていなかった。だから、なのかもしれないな。俺もハヅキも、ソラの力のおかげで村を出ることができたあの日から、彼女の力を疑ったことなんて一度もなかった。だからこそ、ソラは、あんな……」


 首を振る。


「なあ、あんたらには信じて欲しいんだ。村で見せてくれたソラの力は、間違いなく本物だった。間違いなく、神様の声が聴こえていたんだ。そうとしか思えない奇跡を俺もハヅキも何度も目にした。きっと……きっとソラは、少しずつ力を失っていったんだ。でも、それが言い出せなかった。俺や、ハヅキには。だから……」


「信じるよ」


 ヴァンはあっさりと言って頷く。


「信じる。きっと、あの大会の時にはその力はずいぶん失われていたんだろうね。だから、俺と再会するって予知をした。実際には、ずれていた。俺はソラの死体と再会しただけだ。残念だな」


 生きている間に会えていれば、とまで言ってヴァンは言葉を止める。それなら、ソラは助かっていたかもしれない。そう思っているのだろう。


「……ソラのやったことは、犯罪者どもと組んで大勢の人を欺いた、許されることのない罪だ。だが、それは俺もハヅキも共犯だよ……いや、一番罪が重いのは俺だろうな。俺は、三人の中では一番の年長だ。二人とも、村では俺の妹分でよ。村を出るときも、俺が二人を守ってやるって、そう思って剣を握りしめて同行したってのによ」


 彼には似合っていない自嘲の笑みを浮かべる。


「一人は精神的に参って、一人は殺された。俺だけが無事だ」


「いや、そんなに」


 気にしないほうが、と言いかけて僕は言葉を飲み込む。無理なことを言っても仕方がない。


「おまけに、ソラはケイブって奴と愛人関係まで結んでいて――ああ、ったく、俺がそのクソ野郎をさっさとぶっ殺していれば、今頃は俺が鉄格子の中にいるだけで全部平和だったのかもなあ」


「そんな簡単にはいかないと思うよ。イワンのことがあるから。あいつが付き纏っていたんでしょ」


 慰めるつもりかそれとも単なる事実を口にしただけなのか、ヴァンが言う。


「ああ、確かにあいつもいたなあ。ああ、あいつもさっさと俺がぶっ殺しとけばこんなことには――しっかし、どうしてあいつはあんなにしつこかったんだろうな」


「確かにね。おまけにインチキに気付いてもソラじゃあなくてケイブの方を脅すとか、よく分からない奴だったよなあ、あいつも」


 二人があまりにもバカみたいな会話をしているので、心底驚く。


「……二人とも、特にヴァンさん、分かってなかったんですか?」


 え、と二人が揃ってこちらを向く。


「いや、多分ですけど――イワンって人は、きっとずっとソラさんが好きだったんですよ」


 例の大会での、一目惚れに近かったのかもしれない。そしてたちの悪いことに、彼自身、それに気付いていなかったように思える。最後の、最後まで。


「えー? イワンが?」


 首を捻るヴァンは納得していないようだ。


 だが、それしかないはずだ。名探偵であるヴァンが解決した事件を、その推理が間違っていると考えてまでソラに付きまとった理由。全てを知った後、ソラではなく、その愛人関係にあるケイブの方を脅した時の心情。もう、想像しかできないし、イワン自身は決して認めることはなかったかもしれないが、きっとそうだ。


「ちなみに、どう? もしイワンが真正面からソラに交際申し込んでいたら?」


 にやにや笑いながらヴァンが言うと、


「ぶった斬るな、間違いなく」


 ギンジョ―は即答する。


 重く陰鬱だった空気がそれで少しだけ緩む。


「まあ、ハヅキのことは了承したよ。もしもあれだったら、うちで引き取る」


 そう言ってからヴァンは、ちょうどお茶の替えをテーブルに置いて出ていくメイドに目を送る。


「似たような立場のがもうすでに一人、うちにいるしね。のんびり暮らしているうちに大分回復してきてさ。ああ、あと最近見てないけど、そういや芸術家もいたな、うちの奥さんの茶飲み友達。あいつ、まだ屋敷にいるのかな? まあ、いいや。ともかくそういうわけだから、訳ありの人間をうちの屋敷で預かるのは問題ない。奥さんも文句言わないでしょ……多分」


「いや、そうか。そう言ってもらえると助かる」


 座ったままではあるが、深々とギンジョ―は頭を下げる。そもそも、彼はそれを頼みに忙しい中、わざわざここまで訪ねてきたのだ。


「それで、ギンジョ―さん、記事の話ですけど……」


「ああ、構わない。今回の事件のこと、俺たちがやってしまっていた詐欺も含めて、全部記事にしてくれ。インタビューもいくらでも受けるよ。誤解されて広まるよりは何倍もマシだ」


 やった。これで今回もヴァンの解決した事件のことを記事にできる。


 そうして何度も頭を下げながらギンジョ―は去っていく。


 見送ってから、僕もそろそろお暇します、とヴァンに声をかけると、


「ああ、そう。今回は迷惑かけたね、ココア」


「いえいえ。次に何か特ダネになりそうなネタがあったら、お願いしますね」


「ああ、まあ、考えておくよ」


 そして、僕はヴァンの屋敷から出る。だが、去り際、何かが引っかかる。何か、妙な気配を感じるような。もちろん、ただの気のせいだろう、と考えてそれを振り切り帰路につく。





 ココアが出ていったあとの客間。ヴァン一人しかないように見えるその客間で、しばらく黙ってお茶を口にしていたヴァンは、


「ほら、記者は帰った。そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」


 誰もいないはずの部屋で、声がそれに答える。


「ショウトウは取り調べで、あの『黄金の瞳』でセイバーを名乗って犯行に及んだのは指示によるものだと自白した」


「やっぱり」


「だが、それだけだ。黒幕は借金で首が回らなくなった人間を、金と引き換えにセイバーに仕立て上げていた、ということしか分からなかった。無論、後日君の目をえぐったのはショウトウではないそうだ。結局、本物の最初のセイバーが誰なのかは謎のままだ」


「まさか、それだけ言うためだけにわざわざ来たんじゃないよね?」


「マカロンの証言。ショウトウの証言。更に、わずかではあるがケイブやビンチョルの属していた犯罪組織がいくつかのセイバー事件に関わっていた痕跡もあった。それらを全て組み合わせて、更に――」


「まだ、何かあったっけ?」


「君が教えてくれたことだよ。ペース芸術学校にかつて所属していたニャンがセイバーと何らかの関係があるかもしれない、と。だからニャンの生前の足取りを辿れるだけ辿って、それも組み合わせた。そうすると」


「そうすると?」


「怪盗セイバーの黒幕と関わりがあるかもしれない場所を一か所、割り出すことに成功した。全ての情報に、ほんの少しずつかすっている場所。そこに、何かがあるかもしれない」


「そうでないとわざわざお願いを聞いてショウトウの面会に行ったかいがないってもんだよ。さっすがインコグニート。諜報機関の面目躍如だね。ああ、機関って言っても、今は実質一人だけなんだっけ?」


「放っておいてくれ。友達は元々少ないんでな」


 姿ない声が苦笑する。


「で、じらさないでよ、その場所ってどこなの?」


「調査する気か?」


「そりゃそうでしょ。こっちは片目を取られてるんだから。その場所に乗り込んでセイバーを引きずり出してやらないと」


「もうすでに、君はそこに乗り込んでいる」


 一瞬、言われた意味が分からず、ヴァンはしばらく黙り込んだ後、


「……どこ?」


「カルコサ湖だ」

というわけでありがとうございました。

今回は難産&失敗っぽいという、これまででも一番あれだったのですが、それでも少しでもお楽しみいただけたのであれば幸いです。

さてさて、一応、今回消化したお題についてです。


魔法と科学捜査の戦いによる裁判・冤罪もの

新興宗教・予言

魔術師大会

容疑者全員に動機あり、アリバイ無し、彼ら以外に犯行は不可能、しかし証拠なし

魔法で解決しているはずの事件の真相

推理対決

複数の人間が自分が犯人だと思い込んでいる状況

明るくて広い閉ざされていない所

トンネル・廃墟


というわけで、一応いただいたお題は全部消化した、はず……。


まあまあ、とにもかくにも、作者としても色々と勉強になった話にはなりました。


お題は全て消化したので、次回はお題なしでやろうと思います。ココアをワトソン役にしてのこの新しいシリーズの最終話になると思います。グランドフィナーレです。全然何も思い浮かべていませんが。


それでは改めて、皆さんありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ