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推理6

本日は時間をずらして推理6とエピローグ二つ投稿しています。

 故人の名誉に関わるからあんまり言いたくなかったんだけど、と前置きしながらヴァンは続ける。


「あるいは、いかさまの手伝いをする条件としてあんたが強要したのか? まあ思うに、その中間あたりの関係っていうのが実際のところだった気はするけどね」


「何、言ってやがる」


 すごむケイブの声は揺れている。


「ええっと、何を言っているかと言われると、下世話な話をしているとしか言いようがないね。ソラは至近距離で前から心臓を一突きされていた。まったく防御の痕跡なく。犯人は顔見知りだとか信頼関係うんぬんとかあるけど、一番分かり易いのはソラと犯人は抱き合っていた、という形だ。そこから、犯人は熟練の技で心臓を一突き。そして、それにプラスして、多分」


 ちらり、とヴァンはこちらに目を向けて、


「ソラは最初から殺されるつもりだった。ああ、そうだ。既に覚悟を決めていたと思うね」


 だから気に病むことはないのだ、と言外に僕に伝えてくる。


「だからこそ、聖域でわざわざ、ココアに対して、俺が来たら打ち明けたいことがある、とほのめかした。何らかの形であんたにそれが伝わるようにね。あるいは、例の伝声管を通じて直接聞いたのかな? ともかく、俺が来たら例のインチキの話をぶちまけようとしていると思ったあんたは慌てた。で、ソラを殺して、伝声管を破壊したんだ。ひょっとして、壊したのはオーキだったりする? だとしても、まさかオーキはソラを殺すとは思っていなかったんだろうとは思うけど。だからこそ、それを知ってパニックになって逃げだしているのかな。まあ、この辺りはどうでもいいか。ともかく、伝声管は破壊された」


 また、ヴァンは例の棒――伝声管の一部だったらしきものをくるりと回す。


「ソラがどういう心境だったのかなんて分からない。インチキに疲れて全て終わりにしたかったのか、ケイブ、あんたのことを憎んでいたのか、それとも他に何か思うところがあったのか。だけどとにかく、敢えてあんたをおびき寄せて殺されよう、としていたのは確かだ。そして、あんたが犯人だと告発してやろうって意思もあった」


「んん? ちょっと待って欲しいんすけど。大事なところで遮って申し訳ないっすけど、あのー、だったらさっさと、あたしとか他の探偵にインチキしていることと、こいつがイワンを殺したって話を言えば済むんじゃないすか?」


 そりゃそうだ、という反論をアオイがする。


「ああー、それね。確かにそうなんだけど、ソラの視点からすると、イワンを殺したのはおそらくケイブだって程度の話でしかなかったはずだよ。そもそも、この宗教のイカサマとイワンの殺人は直接的には関係ないんだからね。自分の周囲を嗅ぎまわっていてこのインチキに気付く可能性のあるイワンが殺されたことで、直感的にケイブが怪しい、と思った。あるいはあんた自身、何かほのめかすようなことでも喋った?」


 ヴァンの確認にケイブは睨みつける以外返さない。


「まあ、いいや。だから、この宗教ビジネスにおける共犯関係については証言できても、イワン殺害については微妙なところだ。だから、ソラは、何とかしてケイブを極刑にしたかったのかな。ああ、前言撤回だ。やっぱり、かなり憎まれているのは確かだね」


 にい、と睨むケイブに笑いかけてから、何の反応もないのを確かめてからヴァンは続ける。


「まあ、そういうわけで自分を殺されるとともに、その犯人はケイブだという証拠を残そうとした。遺書の類で告発してもいいんだろうけど、ケイブに消される可能性がある。実際、本当に書き残したけどあんたが処理したんじゃない? まあ、とにかく、ソラはもっと直接的にケイブが犯人だと示した」


 そう言われてもピンとこない。だが、明らかにケイブの顔はどんどんと、更に青ざめつつある。


「抱き合っている時にソラは刺された。それから、ソラの両手の指は切断され持ち去られていた。そう考えると、見えてこない? 犯人がどうしてソラの指を処分しなきゃいけなかったか。ものすごいシンプルな理由だよ。ただ、普通はそこまで直接的かつ乱暴な手段はとらないと思うけど」


 ここで僕は分かる。


「それって、つまり、こういうことですか」


 僕は手を前に伸ばし、爪を立てるゼスチャーをする。


「――ひっかいた、ってことですか?」


「シンプルに考えたらね。ソラとケイブは抱き合って、一人は心臓を突き刺し、もう一人は思い切りひっかいた。互いに相手を攻撃してるんだから妙なもんだね。で、多分ソラの爪を見たら死ぬ寸前に誰かに思い切り爪を立てたのが分かる状態だったんでしょ。だから――普通はそんな手段思いつきもしない気もするけど。暴力に慣れているあんただからこその発想だね」


「……何を言っているのか、分からねえな」


 とてもよく分かっていそうな顔色でケイブが何とか返す。


「あ、そう。ともかく、あんたを身体検査して、普通なら致命傷になりかねない場所への傷と、背中か首筋あたりにあるであろうひっかき傷、それがなければ俺の今言ったことは全部何の意味もない妄言だ。で、もし、その二つともがあったら――どうする?」


 ヴァンの問いかけに、ケイブは数秒の間黙って震えていたが、やがて口調も荒く、


「いい加減にしろ! だから、その刺されたのは別のもめごとで、ひっかき傷だって――他の女にやられただけだ。それが、何の証拠になる!」


「――それなら」


声。


「その傷が、具体的にいつどこの誰に刺されたりひっかかれたりしたものなのか、しっかり喋ってもらうぜ」


 聞いたことのない声が、突然響く。決して大きくないその声は、猛り狂っていたケイブの勢いをぴたりと止める。声にはそれだけの力と自信が満ち満ちている。


 視線はドアに向く。誰もいない。だけれど、部屋のドアが少しだけ開いている。その隙間から声がする。誰かが、部屋の外、ドアのそばの壁に寄りかかって今の発言をしたのだと分かる。誰だろうか。分からないのに、何故か鮮明に思い浮かぶ。腕組みをして壁に寄りかかっている偉丈夫が、不敵な笑みを浮かべて先の発言をしていた姿が。


「ああ、もう来たの」


 ヴァンは気の抜けた声を出して、


「じゃあ、もう俺はお役御免だね」


「ああ、礼を言うぞ、ヴァン。そいつを、『俺の特製取り調べツアー』に合法的にぶち込むのには十分な根拠だ。もちろん、今回の話だけじゃあない。お前の知る限りの、組織の話も吐き出してもらうぜ」


 声だけだというのに、それは第三者のはずの僕もたじろぐほどの威圧感だ。


「な、て、てめえ、まさか、マサカド……」


 ケイブの声がどんどんと弱弱しくなっていく。


「安心しろ。俺は拷問で無理やり自白を引き出すなんてマネはしない。ただ、てこずらせてくれた上にお前が犯人だったと分かった場合――多少、扱いが手荒になることは勘弁してくれよ? 何しろ、俺の判断でソラって小娘が死んでいてな、なかなかに堪えているもんでな」


「じゃあ、ありがとうございましたっす、本当に……おい、行くぞ」


 ヴァンに対してぺこりと頭を下げたアオイは、一気に声と眼鏡の奥の眼を鋭くして、急に二回りは小さくなったように見えるケイブの手首を掴む。そのまま、ずるずると部屋の外へと運ぶ。


 部屋にいた他の探偵士たちがそれを囲み、ドアが閉まる。閉まりきるその寸前に、傍の壁に寄りかかっていた誰か――おそらくはあの有名なマサカドが、ヴァンと、それから僕に向かって手をひらひらと振っているのが見える。そうしてドアは完全に閉まり、外の一団の気配はゆっくりと部屋から遠ざかっていく。


 そうして、僕とヴァンだけが残される。


 事件が解決したように見える。だが、ヴァンはずっと、さっきから首を捻っている。閉じてしまったドアを眺めて、何度も、何度も。


「……どうかしたんですか、ヴァンさん?」


 実はケイブが犯人じゃあないとか、と心配になって問いかける。


「ん? ああ……ねえ、どう思う? 俺が、ショウトウの奴じゃあなくて最初からこっちの事件の方に来ていたら、ソラは死ななくて済んだと思う?」


 ぽんと軽く、しかしよくよく考えてみると重い質問を投げかけてくる。


 僕は答えることができない。


 ヴァンはずっと、首を捻り続けている。

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