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過去2

 ウーヘイの指示で、係員がヴァンたちに鍵を配っていく。


「今配られたその鍵が、この金庫の魔術錠の鍵だ」


金庫は頑丈そうではあるが小型で、数人がかりであれば持ち運べそうなものだ。


「ただし、これは特注で、鍵は四種類揃わないと――つまり今それぞれの代表者に配った鍵全てを使わなければ扉は開かない。そしてここに――」


 そこで一度言葉を止めてウーヘイが頷くと、さっきの係員――ショウトウという名の青年が、恭しく掲げるようにして何かをもってその金庫へと進む。彼が持っているものは、金色に透き通った球状の何かだ。


「これは『黄金の瞳』と呼ばれている宝石だ。今回の大会のスポンサーでもあるナムトの資産家が所持している宝石であり、これを優勝者が手に入れることになる」


「なかなか思い切ったもんだ。時価いくらくらいだね?」


 ちらちらとソラの方を気にしながら、イワンが尊大な口調で質問する。


「少なくとも小さな貴族ならば家宝にするレベルだ、とだけ言っておこう」


 ウーヘイが言っている間に、ショウトウは黄金の宝石とやらを金庫におそるおそる置く。


 それを確認してからウーヘイは扉を閉めて、


「これで、代表者四名――ソラ、ヴァン、イワン、そしてオーキの持つ鍵が揃わなければこの金庫は開かない」


 肩をすくめると口調を一気に緩めて、


「さて、じゃあ、試してみるか」


 そう言って手招きにするので、ヴァン、そして他の三人は金庫の前に集まる。金庫には、確かに鍵穴が四つある。


「どこにどれを差し込んでも問題ない。とにかく四種類とも全ての鍵がささっているかどうかだ。今の時点では、ほら、決して扉は開かない。だが」


 何度ウーヘイが扉を引っ張ろうともびくともしなかった金庫の扉が、ヴァンたちが鍵を全て差し込むといとも簡単に開く。中には例の宝石が輝いている。


「こういうこと、だ。ああ、今の一連の動きと説明は開会式の時に改めてやるから、覚えておいてくれ。いわばこれは予行演習だ」


 そうウーヘイが説明している間に、ショウトウが金庫から入れた時と同じく恭しく宝石を取り出す。


「観客にここまで説明して、そしてこれから鍵の奪い合いが始まる、とぶち上げるわけだ。そこからは、トーナメントで魔術の優劣を競う。四名しかいないから、三試合だけになるが」


「俗な見世物やのお。まあ、構わんけどな」


 あくびまじりでオーキが言う。どうやらこの大会自体にあまり興味はないらしい。


「そう言わないでください、オーキ老。俺もこのシナリオが上がってきた時はうめき声をあげましたが」


 表情を崩して苦笑を耐えているような顔を一瞬してからウーヘイは顔を戻す。


「さて、それでは試合の内容だが――試合の組み合わせも競技内容も、その開会式でくじ引きで決める。公平だろう? 説明としては以上だ。質問がなければ、後は各自控室でゆっくりしてもらおう」


 その言葉が終わる前に、あくびしながらオーキは立ち上がると、さっさと部屋から出ていく。


「やあ、ソラ。初めましてだね。イスウの、神の声が聞こえる少女の噂は聞いているよ」


 一方で、イワンはソラに話しかけている。


「そう」


 ギンジョ―に半分庇われながら、ソラはそっけなく返す。ギンジョ―は完全にいかがわしいものを見る目をしている。


「僕はイワン・ディー。炎と氷の魔術が得意で――」


「知っている」


「知っているとは光栄だね。そう僕は――」


 微妙にかみ合っていない会話をしているのを尻目に、


「いやあ、どうもどうも、ホージョウさん、ご無沙汰してます」


「妙なところで会うなあ、ビンチョル」


 お互いのスポンサー同士――ホージョウとビンチョルが挨拶をしている。後ろ暗いところのある金貸し同士、知り合いらしい。


 さて、と。ヴァンは他に気になることがあるので立ち上がり、係員に金庫運搬の指示を出しているウーヘイに近づき、小声で呼びかける。


「ウーヘイ」


「どうした?」


「こっちのセリフだよ。何、これ? こんな予行演習聞いたことがない。いきなり呼び出されて、大して内容のない説明と明らかに必要のない演習。もともとこんな事前の説明、するつもりなかったんじゃない? 必要最低限の説明なら代表者になった時に受けてるわけだし。ここで話す内容は、本来はぶっつけ本番で開会式でいきなり俺たちに知らされる予定だった」


「――ああ、後は任せる」


 ヴァンの言葉を聞いて少しだけ考えると、ウーヘイは傍の係員に声をかけて、


「少し歩こう」


 と歩き出す。


 部屋を出て、ひとけのない方へと二人で歩きながらヴァンは続ける。


「ところが、何か問題が起きて、というより心配事かな、それがあって、現時点で流れに問題がないかどうか確かめたくなった。違う? それとも、事前に俺たちに説明しておくことで万が一問題が起きた時に責任を少しでも軽くするためか――」


「嫌な男だ、お前は」


 ウーヘイはため息とともに、封筒を取り出す。


「……何これ?」


 それには答えず、ウーヘイは黙って頷く。その味もそっけもない封筒をとりあえず受け取り、中を覗く。


 そこに入っていたのは、一枚のカードだ。取り出したそのカードには、ただシンプルに、


「宝石『黄金の瞳』をいただく ――セイバー」


 とだけ書いてある。


 ヴァンの感想はひとつだけ。

 セイバーって、なんだ?

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