事情聴取1
関係者は全員二階の一室に集まっていた。好都合だ。
部屋には探偵士もいて、入ってきた僕とアオイを見て会釈をする。アオイが首を傾げると、
「今、事情聴取は終わったところです」
と探偵士は言う。
「何度目かの、な。どうせ次の事情聴取があるんだろ?」
ベッドに腰かけていた関係者の一人が皮肉っぽく言う。
宗教に関係しているのか三人とも真っ白い服を着ているが、その中でもひと際体格のいい男だ。太い首筋、日焼けした肌、態度も含めて宗教関係者というよりも傭兵か何かに見える。
「ギンジョー、やめて」
同じように白い服を着た、長い黒髪の女性がたしなめる。長身痩躯の静かな雰囲気を持ったその女性は、ずっと俯いている。
「それで、眼鏡のあなたは何度か会っていますけど、そこのあなたは?」
俯いたままなので一瞬分からなかったが、彼女は僕の素性を質問しているようだ。
「あ、僕はココアと言います。ええっと――」
どう説明したものか。記者と正直に答えるのもおかしい。記者がこの場にいることは奇妙であり、そして僕自身にそれをうまく説明できないのだから。
「彼は、いや彼女は、えー、とにかくこの人は、アドバイザーみたいなもんっすね」
アオイが代わりに説明にもならない説明をした後で、
「ええっと、これでいいの? はい、じゃあ、これ。これが調書をまとめた資料っす。それをまずは読んでもらって、他に気になることがあるがあったら彼らに質問してもらうってことで」
「おいおい勘弁しろよ」
ギンジョーと呼ばれた男が肩をすくめる。
「そいつが読み終わるまで俺たちは待たなきゃいけないのか?」
「ご心配なく。ものを読むスピードには自信があるので」
こちとら記者だ。
それよりも、残る一人――まったく反応しない、最後の一人が気になる。さっきからずっと黙って座って、まっすぐこちらを見ている。水晶のような大きく透き通った瞳を見ていると、不安になってくる。人形のように整った容姿。
ここに来るまでの間にアオイにちらりと説明された少女、ソラに違いない。
居心地の悪さを感じながらも、渡された調書を基にした資料に目を落とす。
幸いなことに、三人にばらばらに事情聴取したであろう情報を補完し合い、まとめて簡潔にしてあるからそこまでの量ではない。
この屋敷では定例の集会が行われていた。歪杯の会の全ての会員を集めての集会。それは朝に終了し、一般の会員は帰宅した。残ったのは、会の幹部であるギンジョーとハヅキ(例の長い黒髪の女性)、そして教祖であるソラだけだ。
この時点で、地下にある聖域――彼らにとってはかなり重要な場所ではあるのだが、そこの扉は開いていた。というのも、そもそも残っている三人は全員聖域の鍵を持っているからだ。鍵を持っていない一般会員が屋敷にいる場合は鍵を閉めておくが、そうでなければ開けておくのは慣例となっているそうだ。
昼が過ぎ、三人はそれぞれの部屋に基本的にはこもっていた。ただ普段の仕事としてハヅキは時折部屋を出ては少しずつ屋敷の清掃を、そしてギンジョーは見回りをするために屋敷を何度か回っている。ソラはずっと部屋でお祈りをしていたそうだ。そうして、ハヅキは三度目の清掃のタイミング、午後五時に聖域の清掃へと向かい、そこで死体を発見した。
他に何も気付いたことはなし。まとめるとそれだけの内容だった。
訊くところがあったら、どころの話じゃなくて、そもそも気になるところしかない。
「ええと、そのお」
訊きたいことが多すぎてどう質問していいのか迷い、
「まず、被害者なんですけど、イワン・ディーですっけ。彼とはお知り合いなんですか?」
その質問をした途端、ギンジョーは頭をかき、ハヅキは体を震わせ、そしてソラは一瞬だけ目を伏せる。それぞればらばらの反応だが、それで答えは分かる。
「彼は――古くからの顔見知りです。親しいわけではありませんが」
瞬きすらせず、ソラが答える。
「でしょうね。アオイさんから聞きましたよ、ええと、例の大会に出場されていたんですよね、彼もソラさんも」
「正確には、今ここにいる三人とも、だ。あの大会の会場には俺たち全員がいた」
ギンジョーの答えは初耳だ。そこまでは詳しく聞いていなかった。あとで、もうちょっと詳しくアオイから大会の概要を聞いてもいい。だが、その前に。
「その大会以来ずっと、イワンとは何の接触もなかったんですか? それなのに、いきなり彼の死体が出現した?」
「いや、あの野郎は大会以来ずっと、ソラに付きまとってやがったからな」
忌々しげにギンジョーは首を振る。
「付きまとうって、どうして?」
「彼は」
ソラは簡潔に答える。
「私が、あの事件の犯人ではないかとずっと疑っていました」




