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異世界の名探偵(旧題:ファンタジーにおける名探偵の必要性)  作者: 片里鴎(カタザト)
ドラゴンイーターあるいは黄泉がえる首無し姫の問題 解答編
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推理(3)

「君は、私を怨公と告発しようとしている。かなり無理のある話だ。詳しい事情をしっている者は、とても信じないよ」


 まだ落ち着いている不死公の言葉通り、ウーヘイも剣を構えてはいるが半信半疑の顔をしている。


「そうでしょうね。では、もう一つ、あなたが不死公ではないと俺が考えた根拠をお話します。それは、シロナが殺害された事件でのあなたの行動です」


「ほう、私が何をした?」


「簡単な話です。あなたは、叫んで兵士を呼んだ」


 視線がぶつかる。


「それの、何がおかしい? そもそも、シロナを殺したのはマサカドではないのか?」


「その話は後で詳しく説明しますが、俺もその可能性が高いと思っています。ですが、それは置いておいて、あなたが兵士を叫んで呼ぶという迂闊なことをしたのは、兵士を全てあの部屋に集めたかったからではないですか? もっと言うなら、殺人犯の脱出経路を作り出すためだった」


「どういうことじゃ? ヴァン、お主さっき、マサカドが殺した可能性が高いと……」


「マーリン先生、俺が言っているのは、正確には脱出の可能性のある経路です。ここで、想像してみてください。もしも、あの時兵士を呼ばず、どこからも犯人が脱出する隙間がないままにシロナ殺害の調査が始まったら、と」


 全員が、そう言われてもピンと来ないようで反応が鈍い。


「いいですか、当然、どこにも犯人はいないという話になる前提です。先に話しますが、犯人は怨公と名乗った男と同じく、帰還石でその場を離れたはずですからね。そうなると、どうなります? シロナが殺されていた場所をよく考えてください」


「あっ」


 エニが声を上げる。


「開かずの間……」


 答えが出た。


「そうです。あの場所に犯人、おそらくはマサカドさんがいたはずなのに、どこにもいない。逃げ道もない。そうなったら、どうなりますか? おそらく、我々は全員で強固に主張することでしょう。『ひょっとしたら、開かずの間の扉の向こうにいるんじゃないか? あの扉を開けてくれ』と。もちろん、拒否するでしょうし、あの扉を開けられるはずがない、と抵抗するでしょうが、それでも一応開けてチェックすべきだという話になるはずです。ゲラルトさんあたりが、駆け引きとして、開けてもらって親衛隊にチェックしてもらうのでもいい、くらい言うかもしれませんね。それでも拒否せざるを得ない。我々はもちろん、親衛隊からすら疑いの目で見られようとも、断固拒否するしかない。何故なら、あの扉をあなたは開けることができないからだ。不死公ではないから」


「深読みしすぎだ。君は、私のミスを計画的だと解釈している」


「だからこそ、アオイによって偶然開かずの間から倉庫へ移動できなかったと知って酷く動揺し、無理矢理にでもあの扉が開かなかったことを否定しようとしていました。もっとも、実際は、ある偶然から開かずの間を開けようという話にはならなかったんですが」


「偶然?」


 黙ってしまった不死公の代わりに、エニが訊いてくる。


「逃げていくマサカドさんだ。彼の姿を我々が目撃したことによって、シロナ殺害の犯人が絶対に開かずの間にいるはず、という主張は通らなくなりました。現に、犯人らしき人物が逃げていたわけですから」


「じゃあ、この扉は焔によるものじゃあないということじゃの?」


 破壊された扉をマーリンが撫でる。


「ええ。あの時、不死公、と今も呼びますが、あなたはシロナの死体を見て、瞬時に判断したのです。怨公を名乗る男が自分にとって理解不能な方法で消失しているから、このシロナ殺害の犯人も同じように自分にとってよく分からない手段で消えている可能性がある。しかし、ここで犯人がどこにもいないという話になれば、開かずの間を調べろという流れになりかねない。だからまず、兵士を呼んで、全員が集中している間に犯人が倉庫を通って逃げ出したことにした。しかし、問題なのはその次です」


 俺は手でマーリンが撫でている扉を指し示す。


「兵士がいなくとも、あの扉には閂がかかっていた。怨公と称する男が城内から消失したことを考えれば、どういう手段かは不明ですがシロナを殺害した犯人も城内から消失した可能性がある。倉庫から貴賓室を通ったところで、そこから犯人がどうやって逃げ出したかを提示しなければ説得力が薄い。貴賓室を出て階段を上り、二階の窓から出た? まさか。途中で急いで一階に向かっている人々と鉢合わせします。やはり、あの出入口の扉から出たとするしかない。ならば、閂をどうするか? 破壊してしまうのが一番です。それも、犯人らしきマサカドが破壊したのだとよく分かる方法で」


「あの時、最初は不死公だけが扉の方を向いていた」


 ヘンヤが呟く。


「そうです。その時に、魔術により扉を斬りつけ、そして焼いた。扉ごと閂を破壊して、焔で無理やりマサカドが通ったようにしたのです。ちなみに、マーリンさん、その扉を魔術でそんな風に破壊するのは、可能でしたよね?」


「可能じゃが、非常に高い魔術の技量が必要となる。できるのは、わしか、ヴァン、そして」


 ため息と共に、


「話にきいておる怨公、くらいじゃろうなあ」


「そうです。ところが、ここでマサカドさん、不死公の両者にとって予想していなかったことが起きました。マサカドさんは、当然帰還石で空き部屋に移動し、不死公の叫びが聞こえてから周囲に誰もいなくなるのを見計らって空き部屋から飛び出したのだと想定できます。そして、窓から外に出て、マサカドさんの場合は普通に地上に降りて、走って城から遠ざかる、その途端」


 ばん、と俺は両手も使って扉の破壊を表現する。


「突如として出入口の閉ざされていたはずの扉が破壊され開かれ、城内の俺達と目が合ってしまう。マサカドさんとしても驚いた顔をするのは間違いありません。一方の、不死公にとっても驚きです。焔で破壊した振りをした扉の向こうに、本当に逃げていくマサカドさんの姿があったんですから」


 あの時、両者は心底驚愕していたのだ。

 が、考えてみれば、あの時に扉が破壊されてマサカドが飛び出していったのだとすれば、マサカドの姿は城から離れすぎていた。

 扉の破壊とマサカドの逃亡が繋がらないのであれば、そこからでもこの解を導き出すことはできたはずだ。


「さて、ここまでどうでしょうか、不死公」


「何もない。話にならないな」


 ローブの中で腕を組んだまま、じっと見てくる。


「君の推理には証拠が何もない。また、その推理の中ですら、マサカドがシロナを殺し、更には怨公の協力者であることを認めている。となれば、疑うべきはそこで意識をなくしているマサカドではないのか?」


「いいですか、不死公。俺は今、ただ一つ、ただ一つだけを問題にしています。今までの事件についての推理も、全てはそのただ一つの問題に答えを出すためです。それは、怨公は誰なのか、です。確かに消えた男は怪しく、その協力をしたマサカドも怪しい。そしてシロナを殺したのはおそらくマサカドで、その事件の経緯も大部分は謎に包まれています。しかし、それよりも、やはり、あなたが本当の不死公でなければ怨公の候補として一番怪しいのは間違いありません」


「怨公を名乗ったドラゴンイーターが存在する。それよりも、私の方が怪しいと?」


「今、この場で、あなたが何者で、どうして不死公の名を騙っていたのか、全員が納得できるような話をしてくれれば、それで終わる話です。しかし、あなたはそれができない」


「証拠も何もない話だ」


「証拠。俺の推理が正しい証拠なら、すぐに出せますよ。竜の彫刻の口の中を調べればいい」


「いや、それは、この城がダンジョンであることを示すだけだ。私が不死公ではないという、そんな馬鹿げた考えの証拠にはならない」


「そんなに馬鹿げていますか? 周囲を見てください。親衛隊すら、この城がダンジョンだったことを言わなかったあなたを疑いの目で見ていますよ」


 実際、既に親衛隊は不死公に向かって構えている。明らかに警戒して、周囲を一定の距離をとって囲んでいる。


 無言で、俺と不死公は睨み合う。

 誰もが固唾を呑んで見守り、空気が張り詰める。


「ところで皆さん、大きなことを忘れていませんか?」


 やがて、沈黙を打ち破って俺が言うと、空気が揺れる。


「マサカドさんは発見されました。その衝撃的な展開に、誰もがマサカドさん本人だけに注目していました。しかし、マサカドさんがこうして意識を失っているとすると疑問が一つ。焔はどこでしょうか?」


 一瞬の沈黙の後、一気に騒がしくなる。


「そういえば、持っていないぞ」


「隠れ家らしき場所にもなかった」


 口々に騒ぐ人々。

 やがて、その中でボブが、


「どっかに落ちてるとかじゃないのか。ほら、手に麻痺するような毒を打ち込まれてるんだろ。持っていたのを落としたとか」


「問題は、鞘がここにあることです」


 三度目となるが、俺は鞘を掲げて見せる。


「鞘に入れない限り、高熱を発し続ける刃が焔の特徴です。もしも森の中にでも落ちているなら、今頃火事になっていてもおかしくありません。そもそも嵐の中にそんなものが落ちていたなら、昨晩は大変だったはずです。雨が刃にかかるたびにそれが蒸発して、真っ白い煙が遠くからでも見えるかもしれません。しかし、そんなものは誰も目撃していない。そもそも、逃げる時にマサカドさんは焔をちゃんと持って逃げていたのでしょうか? キリオ、マサカドさんに打ち込まれた毒は、一瞬で全身に痺れが広がって動けなくなる毒物だったんだよな?」


「え、ええ、そうよ。それを打ち込まれた後、走って逃げ出すなんて、人間じゃないと思ったけど」


「そして、それを右腕に打ち込まれている。ボブ、お前の言うように、そうなったらまずは右腕が痺れだして、焔を取り落としてしまうのは正しい。問題は、それが城内のことか、城外のことか、だ」


「城内に? 誰も見ていない、そんなものは」


 横目で不死公を気にしながらウーヘイが俺を向いて言う。


「そう。誰も見ていない。けれど、城外に落としてしまったならさっき言ったように火事、あるいは煙、そうでなくとも異音や異臭がしている可能性が高いし、これまでの捜索で誰にも見つかっていないのは妙です。やはり、素直に考えれば、城内、それも、シロナに腕を針で刺されてすぐに取り落としたはずです。しかし、そんなものはない」


 一度言葉を切り、もう一度、全身全霊で不死公を真っ直ぐ見る。


「焔が落ちていたとしたら空き部屋が一番怪しいはずです。一階か二階の、どちらであろうと。しかし、どちらにもない。ここで、もう一度振り返ってみましょう。俺の推理では、不死公は幻想のマサカドを脱出させるために焔によるものと見せかけて閂と扉を破壊した。では、その後で城内で焔が見つかって都合がいいのか、悪いのか」


 不死公の顔に、不思議な表情が浮かぶ。

 笑うような、怒るような、楽しんでいるような表情。貴賓室で俺達に向かって、血が滾ると言っていた、あの時の表情だ。


「もちろん、都合が悪い。つまり、空き部屋には本当はシロナの死体とその傍らに焔が落ちていたのではないでしょうか? そして、とっさに不死公はそれを隠した。武器で閂と門を壊して逃げ出したという物語を守るためにです。どこに? 目立つものですし、下手にどこかに隠していては刃の熱で燃え上がる可能性がある。そもそも、あの一刻一秒を争う状況で隠し場所を選んでいる余裕はない。だから、とっさにどこかに隠したはずです。そして、隠しながら魔術を使い続けるしかない」


「魔術じゃと? まさか、ずっと刃を魔術で冷却しつづけるというのか?」


 マーリンが大きな声を上げる。


「そんな馬鹿げた話が、そりゃあ、わしだって無理じゃ。いや、無理とは言わんが体力が続かんわい。まあ、ドラゴンイーターならできるんかもしれんが、それにその方法じゃと常に近くに焔がないと、魔術を、かけ」


 絶句して、マーリンは震える。


 全員の視線が、今度こそ完全に、半信半疑のものではなく絶対の不信をもって不死公に集まる。


「ずっと監視されていたあなたには、どこか別の場所に焔を置くことすらできなかった。ところで、シロナ殺害の事件以降、ずっとフードの中で腕を組んでいらっしゃいますね。両手を、出してもらっていいですか?」

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