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異世界の名探偵(旧題:ファンタジーにおける名探偵の必要性)  作者: 片里鴎(カタザト)
ドラゴンイーターあるいは黄泉がえる首無し姫の問題 解答編
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推理(2)

 ひどくなるざわめき。

 それを、


「待ってくれ」


 一言で制したのはトカレフだ。


「疑問は、二点。一つ、帰還石はダンジョンでないと使えない。いかにダンジョンのパーツを使っていようとも、この城では機能できないはずだ。それとも、怨公はそれが可能なように帰還石を改造したとでも言うのか? 二つ目は、その帰還石が空き部屋のどこにあるのか、だ。もっとも、こちらについては見当がついているが」


「そうですね。分かり易い二つ目から。トカレフさんが見当をつけている通りだと思います。空き部屋に帰還石があるとしたら、それは竜の彫刻、その口の中しかあり得ません。帰還石は台座もついていてそれなりのサイズのものです。それを隠すには、まるまるそれを包み込むようにするしかない。それができるのは、空き部屋の中では竜の彫像だけです。おそらく、あの彫像の口が閉じていく仕掛けも、帰還石のことを知っている人間は触れることができて、そうではない人間は触れにくいようにするための仕掛けだったんじゃないですか?」


 最後は不死公に問いかけたが、答えは返ってこない。黙って見つめ返してくる。


「そして一つ目の質問です。確かに、この城が破壊されたダンジョンのパーツを使って作り出されたものなら、帰還石を持ってきたところで機能しないでしょう。しかし、どうしてこの城が破壊されたダンジョンのパーツを使った場所だと断言できます?」


「何言ってるんだ。見れば分かるだろう。ダンジョンの部分がところどころあって、それと通常の人工物がまだらに入り混じっている」


 ふん、とボブが鼻を鳴らす。


「そうです。けれど、それなら逆にも考えられませんか? つまり」


「この城は、一部破損したダンジョンを補修、改造したものだ、というのか。だが、それにしてはこの城の構造はダンジョンとは思えない。小さすぎる」


 トカレフの意見に、


「確かに。ただ、ここはそもそも地下に向かって進んでいくためのダンジョンだったのだと思います。つまり、本当の入口は」


 指を上に向ける。


「帰還石があることから、当然二階の空き部屋です。その本来の入口をミスリルレンガで塞ぎ、代わりにおそらく大きく破損していたであろう場所を改造して今の出入り口にした。元々、おかしいと思っていたのは階段についてです。奇妙な地下への階段があったのですが、それはすぐに階段の部分が一続きだからだと分かりました。しかし、考えてみれば妙です。一続きの階段、そんな巨大なパーツをダンジョンから城まで持ち運ぶのにも手間がかかるし、その階段を使うために部屋のない地下階ができあがってしまう。それくらいなら、ミスリルレンガで階段を新たに作ってしまえばいいはずです。耐久性の話で言うなら、外壁はともかく、内部の階段の耐久性にそこまでこだわる必要は全くなかったはずですから」


「あの階段は、元々ダンジョンとしてあったわけか。ああ、そうか、一方通行なのね」


 エニが言う。


「そう。地下への階段がいきなり壁になっているのも、それが一方通行の壁で、向こうから上がってくる用の階段だとしたら納得がいく」


「なるほど、いや、でも、ちょい待ち、変じゃない? モンスターとか宝についてはどうなるのよ」


 冒険者としては当然の疑問だろう。


「出入り口や途中冒険者がキャンプに使う場所など、宝やモンスターが出現しないエリアがダンジョンには存在する。問題はないさ」


「いやいや、だったら、ダンジョン全体がその出現しないエリアだっていうの? ああ、待ってよ、混乱してる。違うか。だって地下に一方通行の壁があるわけだから」


「ああ。おそらくこの城の地下がダンジョンの本体だ。宝やモンスターが出てくるエリア。けれど、ここで疑問が。あの階段は上がり専用。だとすると、下るための階段もあるはずだ」


「ミスリルレンガで塞いだんじゃないのか?」


 ボブが言う。確かに合理的な考え方だが。


「俺はそれはないように思う。簡単な理由で、そうだとしたらあの上がり専用の階段も地下部分を塗り固めてしまえばいいからだ」


 あっ、と何人かが声を出すが、大部分は俺の言っている意味が分からないらしく、呆然としている。


「よろしいですか。あの階段、地下に降りたら突然壁があって不自然極まりないです。考えてみれば、地下に降りる部分をミスリルレンガで塞いで床にしてしまえば、それで何の問題もないはずです。誰かに疑問に思われることもない。にも関わらず、あの階段がそのままにしてあるのは、『誰かが地下のダンジョンに降りた時の脱出ルート』として機能しているからとは考えられませんか? もちろん、通常は帰還石があるわけですが、しかし……ああ、この話は後にします」


「なるほど。つまり、下のダンジョン本体への通行手段は、完全になくなっているわけではない、ということだな。そうであれば、万が一のための脱出ルートを確保しておく必要もない」


 トカレフが頷き、顎を撫でる。


「さて、ではどこに階段があるのかについてですが、不死公」


 そこで俺は呼びかける。

 不死公の反応は、ただ目を向けてくるだけだ。その目からは何も読み取れない。


「ここで、この城を作成した不死公に教えてもらうというのはどうでしょうか?」


「悪いが」


 初めて不死公が声を出す。


「それに答える気はない。君のその推理が正しいか間違っているかも言うつもりはない」


「そうですか。それでは、勝手にこちらで進めさせてもらいます」


あっさり引き下がる。

反応は、想定の範囲内だ。


「そもそも、この城がどうやってできたのか? 戦乱の時代、誰も立ち入ることのないこの土地に城を建てることで難攻不落にしようという計画が持ち上がったからです。そして、不死公が調査にやって来た。ここで、わずかな期間で不死公が破損したダンジョンを見つけ、そのパーツを使ってこの城を作り上げたと言われていますが、実際は違ったのでしょう。破壊されたダンジョンを見つけたのは確かです。しかし、不死公はそれをそのまま城にする計画を立てた。地上部分にモンスターが出現しないのなら、それはとてつもなく合理的な判断です。そのために、破損した部分をミスリルレンガを主として修復、改造していく。そして、地下への道を閉ざす。この時、資料にもあるように不死公はダンジョンを改造したとは言わず、ダンジョンのパーツを使って作り出したと発表したのでしょう。理由は色々考えられますが、主な理由は他国への牽制でしょうか。つまり、ナムト国、そして不死公はわずかな期間にこれほどのものを作り上げる技術、力を持っていると他国に見せつけるわけです。そのために、実際に城の建築に関わった者以外には、自国の者にさえこの城の真実は秘密にさせた」


 全員の視線が一度不死公に集まるが、やはり何の反応もない。


「だから、彫刻で帰還石を隠し、地下への道を閉ざした。しかし、不死公自身も仰ったように、不死公、いえ、怨公ですら、ダンジョンに関する技術は再現不可能、理解不可能なものです。とすれば、完全にダンジョン地下への道を塞いでしまうことに不安があったはずです。もしかしたら、それによってある日突然予想もしていなかった問題が起こってしまうかもしれない。だから、いざという時に開放して、場合によっては地下のダンジョンへと進むことができるようにしておいたはずです。帰還石があるのに階段を残しているのも同じような理由で、その時は使えたとしても、ここまでダンジョンを改造している以上、ある時突然に帰還石が機能しなくなる可能性も考えていたんだと思います。ダンジョンを改造して使うなんて前代未聞なんですから、それくらい慎重でも全くおかしくはありません」


「ふうん」


 息を漏らすような声を出して、ゲラルトの目が空き部屋の方向に向けられる。察したらしい。


「つまり地下への道は普段は閉じているけれどいざという時に開くことができるようにしておく必要があります。単純に考えれば、それに最適な仕掛けは『扉』です。鍵のかかった扉で閉じればいい。それも、絶対に破壊することができず、不死公以外には開けることができない扉であれば、なお素晴らしい」


 ゲラルトだけでなく、全員の視線が同じ方向へ向く。


「あの開かずの間の扉、その奥こそが、地下への道だと考えられます」


「肝心なことが忘れられている。ただの夢物語にすぎん」


 と、そこで話の流れを不死公がばっさりと断ち切る。


「怨公を名乗ったあの男、あの男が帰還石、それが本当にあるとしてだが、帰還石を使って牢獄部屋を脱出した。それが君の説の大前提だ。しかし、牢獄部屋から空き部屋に移動したからといって、そこからどうやって男はこの城から脱出したというんだ」


「順を追って考えていきましょう。男が空き部屋に移動したとして、そこから直接城外に出ることはできません。つまり、まずは空き部屋から出なければならない。どのタイミングでか? 当然、一番場が混乱しているタイミング、誰もが牢獄部屋の中に集中していて、空き部屋に注意を払わない状況。煙で視界が悪くなっている状況です」


「爆発の直後だ」


 ヘンヤが簡潔に答えてくれる。


「そうです。そこで血塗れの男は空き部屋を出た。この出るタイミングで傷は回復して血は消えていったのでしょう。さて、この後、男はどちらに向かうか? 気づかれないように階段に向かい、一階に降りるというのはナンセンスです。途中、牢獄部屋を囲んでいる親衛隊と接近してしまいますし、そこで気づかれなかったとしても、階段に向かうまでに遅れて牢獄部屋に向かっていた俺達と鉢合わせになってしまいます。そうすると、向かう場所は一つだけです」


「窓か。牢獄部屋の側とは逆側の窓。そこから出た」


 そこまで言って、レイは首をかしげる。


「しかし、その窓から地上に降り立ったとしても、兵士に見つかっておしまいだろう」


「あのタイミング、爆発の直後のタイミングでその窓側、つまり出入口側にいた兵士の皆さんはある事情から、少しの間ですが城から目を逸らしていたはずです」


「女だ」


「そうだ、黒い服の女」


 兵士達から声があがる。


「そう。出入り口側にいた兵士の皆さんは、突如として現れた怪しい黒衣の女に注目していました」


「わずか数秒のことだろう。それに、その男が二階から飛び降りたりすれば気づきそうなものだし、そこから更に敷地外に逃げようとすれば絶対に目につくはずだ」


 冷静なウーヘイの反論に、


「窓から出た男が、地上に降りていないとしたらどうでしょうか?」


「何?」


「降りていないとしたら、上がったんでしょう。以前、レオ・バアルというドラゴンイーターの可能性のある男が、高い壁を素手で登って行ったのを見たことがあります。ドラゴンイーターというのは種族的に力が強いという話でした。窓から出て、そのまま少し上がって屋上に到達するのは、それほど無理だとは思えません」


「屋上、そうか」


 ウーヘイが唸る。思い出したのだろう。


「そう、屋上をチェックしに行った親衛隊の方が一人、行方不明になっていました。これは、屋上でその男と鉢合わせしてしまったためだと思われます」


「飛竜か」


 爪を噛むのはジャンゴだ。どうして思いつかなかったのかと悔しがっているようだ。


「屋上で一人、行方不明になっているんだから即座に思いつくべきだったな。実際、鉢合わせた親衛隊員は殺されるなり気絶させられたなりして、飛竜に運ばれたんだな。そして、怨公も同じか。飛竜に咥えられようが噛み砕かれようが、ドラゴンイーターにとっては問題ない。そのまま、巣まで連れて帰ってもらえばいいだけだ」


「俺も、おそらくそのルートだと思います。あの時、飛竜が屋上を旋回していたという証言がありましたから。あの状況で、屋上のあたりの飛竜が何をしているかをじっと見ている兵士もいないでしょう。地上が大騒ぎだったわけですから」


「うちの隊員も、怨公も飛竜の巣に運ばれたわけか。じゃあ、落ちていたという剣は、本当に親衛隊の一人が巣に運ばれるまでの間に落ちてしまったものか」


「おそらく」


 頷いて、


「ところで、こうなると男の足取りは全く掴めなくなります。昨日、飛竜の巣に運ばれてから、今どこで何をしているかなんて分かるわけがないですからね。ただ、一つ分かっていることがあります。それは、あの男とマサカドさんは協力関係にあった可能性が非常に高いということです」


 倒れているマサカドに視線が集中する。


「そもそも、この城を舞台にしなければさっきのトリックは行えませんし、そもそも帰還石に同期していなければ無理です。それを、マサカドさんの協力なしで行ったとは思えません。そうなると、マサカドさんが果たして怨公の協力者だったかどうかは、一点」


 全員を、ゆっくりと見まわしてから、


「あの男、怨公を名乗っていた男が本当に怨公であるかどうか、その点が問題になります。しかし、脱出方法等を考えても、彼がドラゴンイーターであるのは間違いないように思いますし、そうなれば彼が怨公である可能性は非常に高いように思います。彼を怨公と仮定することは問題ないように思えます。ですが、それは他に更に怨公である可能性が高い者が存在しない場合、です」


 これまでとは違うざわめきが、ゆっくりと広がっていく。


「他に怨公の候補として、相応しい人間は誰か? もう、皆さんはお分かりですね」


 親衛隊や兵士の何人かは、既に臨戦態勢をとっている。ヘンヤも刀を抜いているが、誰もそれをとがめない。

 全ての意識は、一人に集中している。


「質問があります。不死公、この城がダンジョンであり帰還石が使用可能であることを、どうしてあなたは我々に言わなかったのですか?」


「君が言った通り、この城がダンジョンを改造したということは誰にも知らされるべきではないと私は考えている。それにより、他国の者は元より自国の者にとっても、実際よりも私は強大な存在となるからだ。それは答にはならないか?」


 全員に穴が開くほどに見られながらも、不死公は落ち着いて答える。


「なりません」


 それを、俺は追い詰める。


「その逃げた男がもしも本当に怨公であるなら、そして怨公が世界の敵であるなら、誰よりも怨公を危険視していたあなたがそれとこの城の秘密を天秤にかけて秘密を優先しますか? いいですか、もしもあなたが男が消えた時に帰還石のことを我々に話していたなら、天井から飛竜のルートもおそらく誰かが思いつき、今頃には兵士達によって男は捕えられていたかもしれないんです。どうしてそれをしなかったのか」


 不死公は答えない。ただ、感情の無い目が俺を飲み込むように向いている。


「知らなかったからです。この城がダンジョンであることも、帰還石のことも。ですが、それはこの城を作り上げ、帰還石を彫刻で包んだ不死公ではありえない」


 全身の力を込めて、視線で不死公をまっすぐ射抜く。


「あなたは不死公ではない。違いますか?」

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