調査(3)
色々と考えながら牢獄部屋から出ると、二人組みの兵士が詰め所の向こうの空き部屋からちょうど出てくるところだった。
警備中か。
「どうも」
会釈すると、向こうも会釈を返す。と、その後で、二人の兵士は顔を見合わせている。
「何か?」
ひょっとして、俺の調査がオッケーだという話を聞いていなかったりするのか?
気になったので声をかけると、
「ああ、いえ」
「ヴァン様、あの空き部屋で助手の方がお待ちです」
「え?」
何それ?
「もし見かけたら声をかけて欲しいと仰っていましたので、確かにお伝えしました」
呆然としている俺を尻目に、二人組みは去っていく。
何となく怖くなって、ゆっくりと端の空き部屋のドアを出来る限り慎重に開けていく。
誰だ?
「おい、何やってんだよ、さっさと入って来い」
ドアの隙間から中の様子を窺いながら開けてる俺に、空き部屋の中、床に腰を下ろしていたジャンゴが俺に声をかけてくる。
デジャヴだ。少し前にも、この部屋でこいつと話した記憶がある。
「助手っていうから誰かと思えば、お前か」
さっきまでの不安から解放され、反動で意味もなくにやにや笑いながら部屋に入って扉を閉める。
「お前の調査が許可されたって聞いたんでな、お前の助手として調査してるって言えば自由に動けるかと思ったんだ」
ジャンゴは大きく伸びをしてから床に寝転がる。
「あの大部屋にずっといたら息が詰まるわ」
「それは、分かるけどな」
あまりにも自由なジャンゴにため息をつく。
「いや、それにぶっちゃけ、俺とお前は一応は七大探偵なのに他の連中と比べて警戒されていないからな、自由に動けるんだよ」
確かに、それはあるかもしれない。
「どうして、俺とお前なんだろうな?」
俺の素朴な疑問に、
「お前には野心がない。そして俺には実績がない。ジャンゴになったのがつい最近だしな」
ははは、と天井を見上げながらジャンゴが笑う。
自分の野心の無さは否定できない。少なくとも、ゲラルトと比べるとそこの意識には圧倒的な差がある。
「ああ、そうだ、ジャンゴ。資料を色々読んできたんだよな」
「ん? ああ。ナムト国でな」
「そこに、この嵐の城の中の隠し通路とか妙なギミックの話はなかったか?」
だめもとで訊いてみる。
「ないない。前も言ったけどよ、ナムト国内にもこの城についての資料は少ないんだ。今の持ち主、イスウ国のマサカドが何も知らないなら、俺も知らないって」
「この城を作った時の記録も全くないんだっけ? それがあれば、ダンジョンからどんな仕掛けを運び込んだかとか分かるかと思うんだけど」
「ないなあ。元々、ここが地理的にも難攻不落だって話は知ってるよな」
「ああ。この嵐もそうだし、飛竜の巣に近いっていうのもそうだとか」
「そうそう。特にこの時期は飛竜が子育ての時期だから危険なんだけどよ、難攻不落ってことは、元々はここら辺の地が未開の地だってことだ。侵入が難しいわけだからな」
「ああ、それは、そうだろうな。そんな危険極まりない土地には誰も好き好んで踏み入らないか」
「そうそう。だから、そもそもこの土地に人が入ったのは、パンゲアでの戦乱が激しくなって、乱戦の中でイスウ軍の部隊が踏み入ったのが最初らしい。それで、この土地にもしも城を築けたら難攻不落のものになる、とは思ったが」
「そんな場所に城を築くのが無理難題なわけだな」
まず、建材を運び込むのが大変だからなあ。
「そういうことだ。そこで、相談を受けたのが当時対ペース国ということでイスウ国と同盟を結んでいたナムト国だ。ナムト国からその地に向かった不死公は、部下を引き連れてその地を徹底的に調査した後、わずか一月の間に今の城の原型を作り上げたらしい」
「ひ、一月?」
ありえるのか、そんなこと。
「わずか一月、おそらくは前後の調査なんかを合わせても三ヶ月くらいの間のことだ。ということで、戦乱が一番激しかった時期、そんな僅かな期間に急ピッチで進められた出来事だからな、資料にも断片な情報しか載っていない。おそらく、実際にこの城を作った不死公と僅かな関係者しか、実際にどういう風にこの城を作り上げたのか知らないんじゃないか? 国に残してきた不死公の腹心の部下や重臣だって知る事はなかったんだろう」
だから、資料がほとんどない、と。
「なるほどなあ」
唸る。
「それより、ヴァン、気付いているか?」
「え?」
「この部屋だ」
ばっとジャンゴは上半身を起こす。
「何が?」
「ここだ。俺も寝転がっていて気が付いたが、足跡がある」
言われて気付く。なるほど、確かに足跡がある。床に、かすかに足跡がついている。ぼんやりとしていて輪郭もサイズも分かりにくいが、確かに足跡らしきものが、竜の彫像から扉まで続いているのが、目を凝らすと分かる。
「これ、俺とかお前とか親衛隊の人の足跡じゃないの?」
「かも、しれないが、ああ、この足跡、妙だな。水か?」
「え」
「何かがついて足跡ができてるんじゃない、逆だ。この床、細かいほこりか何かが染み付いているが、それがこの足跡のところだけ少し綺麗になっているから、足跡が浮かび上がってきているんだ。普通に歩いたらこんな風にはならない」
「なるほど」
試しに足元を見ながら歩いてみる。確かに、足の跡はつかない。
「例えば水浸しになった奴が歩いた後、その水が蒸発したらこんな風にかすかに足跡が残るかもってことか」
「ああ……それに、ヴァン、こっちも見ろ」
ジャンゴは竜の彫像に近寄る。
噛まれかけた覚えのある俺はゆっくりと近寄る。
「これだ。足跡の辺りを見ろ」
彫像の下、そこの足跡の辺りに、何やらキラキラと輝くものがばら撒かれている。
「これは……」
指でこするようにしてそれをとって近づけて見てみる。
「金属、か」
金属の破片、というよりも細かい粉だ。金属の粉とでも言うべきものが、彫像の下の辺りに広がっている。ここだけだ。他には床のどこにもない。
「ひょっとして」
俺は若干怯えながらも竜の彫像の口の中を見る。闇に目を凝らすが見えない。魔術の炎で照らしたところで、
「やっぱり」
口の中に、床に零れていたのと同じ、金属製の粉が大量に落ちている。
「何だこれ?」
横からジャンゴが覗き込んできたので、俺は炎を消してジャンゴに向き直ると、本心を言う。
「何でしょう?」
何なんだ、これ?




