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異世界の名探偵(旧題:ファンタジーにおける名探偵の必要性)  作者: 片里鴎(カタザト)
ドラゴンイーターあるいは黄泉がえる首無し姫の問題 出題編
161/345

ついに死者が出る

 謎の金属粉とかすかな足跡のことは置いといて、結局それ以上に調査をすることもなく俺とジャンゴはいったん大広間1に戻る。


 まずは男性陣から聞き込みをしようか、と思って部屋に戻ったところで、


「あれ、ゲラルトがいねえな」


 部屋に入った瞬間、目ざとく見つけたジャンゴが呟く。


 確かに、メンバーのうちゲラルトの姿がなくなっている。


「というか」


 見れば、ウーヘイとヘンヤの姿もない。


「大分、いない」


「ゲラルトは俺の代わりに不死公のとこに行ってもらってるんだ」


 椅子に座ったマサカドが言う。


「え、どういうことですか?」


「明日の話だよ、明日の。ほら、今のところうちの兵士とトカレフのとこのも、近くの宿で待機だろう? このまま、ずっと明日も待機させるつもりなのかって文句を言いに行くつもりだったんだ。予算の無駄遣いだろ」


 苦笑してマサカドは首を触る。


「ほら、さっきあれだけ好き勝手にして、もう引っ込むって言った手前、俺がまた外に出るのもあれだ。お前と一緒に行った時に、ついでに不死公に言えばよかったんだが、明日のことにまで気が回らなくてな。さっき、そこのレイに指摘されて気が付いたんだ」


 名指しされて、レイは軽く頷く。


「私の国の兵士も無駄に待機させられるから、気になっていた」


「まあ、そういうことで、誰か俺の代わりに不死公に話をつけて欲しかったんだが、正直なところこの状況で不死公相手に話をつけられそうな器量を持っている奴はそうはいない」


「僕に頼めばよかったんだ」


 ボブが文句を言うが、全員無視する。


「だから、ゲラルトに動いてもらうことにしたんだ。とはいえ、交換条件としてウーヘイが張り付いていくことになったが。ゲラルトは、ヴァンは知っているだろうが、腕が立つタイプじゃない。まあ、ないとは思うが、逆に向こう側がゲラルトを消そうとしたら簡単に消されてしまう。特にウーヘイが傍にいればな」


 恐ろしいことをにやにやと笑いながらマサカドは語る。


「だから、ヘンヤに護衛として付いて行ってもらったんだ。ああ、かなりウーヘイも渋っていたが、この件に関しては向こう側に負い目があるからな。こっちの兵士を無理やりに宿待機にさせたんだ。こっちはあっさり飲んでやったし。この件については無理が言えるぜ」


「ところで、ヴァン」


 枯れ木のように立っていたマーリンが突如として声をかけてくる。


「う、あ、何ですか?」


 びびった。


「飯はまだか?」


 あまりにも状況に不似合なセリフに、一瞬、とうとうマーリンもぼけたかと思ったが、


「ああ、確かに、もう夕食の時間ですよね」


 考えてみれば、俺も腹が減っている。


「親衛隊の人に訊いてみましょうか?」


「僕は肉がいいな。血の滴るようなレア・ステーキだ」


 大声で言うボブをまた全員で無視。というか、どう答えろというのだ。


「失礼しまーす」


 と、ドアが開いて、エニが顔を出してくる。


「あ、いたいた、マサカドさん」


「どうした?」


「シロナが呼んでるわよ」


「何?」


 マサカドは不審げな顔をして、首を捻る。

 それはそうだ。どうして、このタイミングでシロナがマサカドを呼ぶ?


「あまりこの部屋からは出たくないんだが」


「いやあ、シロナとキリオがずっと看病してたんだけど、記憶を取り戻したらしいのよ、アオイが。で、あなたに話したいことがあるって」


「ああ」


 ぽん、とマサカドは手を叩く。


「その話か。ようやく思い出したのか。はいはい。で、あいつはまだ寝てるのか?」


「そうみたい。シロナが、まだできるだけ動かさない方がいいって」


「仕方ない」


 マサカドは立ち上がる。


「ああ、ところで、そっちでは食事の話は出たか?」


「食事? そう言えばお腹すいたわね」


「ついでだ。そこの見張りに食事をお願いしよう」


 話しながら、マサカドとエニは出て行く。


「アオイねえ、わけの分からない行動は確かにしていたが、あいつが何が事件に関係あるのかね?」


 ボブが俺に向かって訊いてくる。


「ないと思うよ」


 あいつ、そんな重要人物じゃないだろ。意味不明だし。

 そんな風に暇つぶしのやりとりをボブとしていると、


「ふうむ」


 と、マーリンが城の見取り図を広げて唸っている。


「どうかしましたか?」


「いやあ、あの男が消えたルートを捜しておるだけじゃ。しかし、無理に見えるがのお。偶然の見落とし、というのも考えにくいわい。それこそ、鼠の這い出る隙間もなかったはずじゃ。あの牢獄部屋からは」


「先生のような魔術の泰斗でも、無理ですか?」


「わしでもあそこからは抜け出られんのお。じゃが、そうじゃの。もしも」


 ローブの奥の闇からの声の調子が変わって、何やら笑いを含んだものになる。


「トカレフの奴なら抜け出せるかものお」


「は?」


 どうして、そこでトカレフの名前が出てくる?


「団長が、ですか?」


 横で黙って聞いていたレイも、さすがに目を丸くして話に入ってくる。


「ふっふっふ、あまり人に言うなよ。奴に殺されるからのお。トカレフは、ああ見えて結構な歳でな、かなり若作りしておるのよ」


 意外な話の流れに、全員がマーリンに寄っていく。


「で? 何だよ?」


 ゴシップが好きなのか、目を輝かせてボブが身を乗り出す。


「奴は、元々は冒険者でのお。冒険者同士の間に生まれて、物心ついたころにはダンジョンに潜っておったほどじゃ。実は、わしも若い頃、といってもそれなりの歳ではあったがの、その頃に冒険者の真似事をしておる時期があってな、その時にまだ少女じゃった、といっても冒険者暦で言えばわしを凌駕しておったが、とにかくまだ子どものトカレフと組んだことがあってのお」


 衝撃の過去だ。ということは、トカレフはどのくらいの歳なんだろうか。


「その頃、冒険者仲間の間ではちょっとした有名人じゃったぞ、トカレフは。『罠抜け』と呼ばれておった」


「罠抜け」


 読んで字の如し、か?


「あいつがねえ」


 ジャンゴも素直に驚いている。


「ダンジョンには罠が多い場合もある。どんな罠がどれだけあっても、するすると抜けて先に進む。罠で部屋に閉じ込められても、中から解除して抜け出してくる。あいつは元々、そういうのが得意な冒険者じゃった」


 今からは想像もできない。


「まあ、どうも種も仕掛けもない部屋みたいじゃから、さすがのトカレフも無理じゃろうがな」


 だが、ヒントくらいはもらえるかもしれない。

 俺、自由に動けるわけだし、行ってみるか。


「ちょっと、話を聞いてきます」


 そのまま、大部屋を出て隣の女子部屋に入る。もちろん、さっきのことがあるのでノックをしてからだ。


「はい」


 ノックの後に、キリオの声で返事が来る。


 そこで、ドアを開けて、


「あれ?」


 予想外の光景だ。

 中にいたのは、キリオ、多少顔色が悪いアオイ、そしてトカレフだった。


 マサカドとシロナはどこに行った?


「ああ」


 こっちの怪訝な顔で何を思っているのか察したキリオが、


「マサカドさんとシロナさんは、ついさっき親衛隊の人が呼びに来たから出て行ったわよ」


「え?」


 思わずアオイの顔を見る。いつも元気なアオイは沈んだ表情で何も話さない。


「そうそう。アオイさんが何か話したいことがあるはずだったんだけど、いざその話が始まる前に緊急だからって言って呼ばれて行ったわ」


 シロナとマサカド?

 どういう人選だ? どうして、あの二人が呼ばれる?


「私としては、話す前にマサカドが出て行った時にアオイがむしろほっとした顔をしていたのが気になるな」


 まっすぐ背筋を伸ばして椅子に座り、こちらを見てもないトカレフのその一言にアオイの表情がますます悪くなる。


 こいつの顔色が悪いのは、ひょっとして頭を打ったせいじゃなくて、別に原因があるのか?


「しかし、遅いな」


 ぽつりとトカレフがぼやく。


「え、さっき呼ばれて行ったばかりですよ?」


 というキリオに、


「そっちではない。ゲラルトとヘンヤだ。ペース国の兵士の問題でもあるから私が行こうというのを、大丈夫だからと言うからゲラルトに任せたが。遅い。私も行こう」


 トカレフはそう言ってようやく俺に目を向けて、


「ヴァン、君も来るか?」


 断る理由はない。

 だが、俺はともかくトカレフが出歩くとなると見張りの兵士が渋る気がするが。


「心配するな。見張りは文句を言わない」


 その言葉通り、トカレフと一緒に部屋を出ても、親衛隊の二人は何も言わず見送るだけだ。


「どうして?」


 思わず、俺が声を潜めると、


「親衛隊はただの兵士ではなく、一人一人がナムト国を動かす人材だという話は知っているな?」


「ええ、それは、まあ」


「裏切りもしないし、反乱もしない。それは自分が上に昇るための傷になるからだ。だからと言って、彼らは命令をきくだけの頭のない兵隊ではない。今回のこの事件、そして不死公に不信を抱いている連中もいる」


 あまり、穏やかな話にはならなそうだ。

 黙って、斜め後ろを歩く。


「ここで私を見逃すことが、そのまま命令違反にはならない。ならば、見逃して、事態が動くのを加速させて見極めようとする親衛隊員がいてもおかしくはない。そうだろう?」


 話は終わったようだが、こちらとしては全く納得できない。

 なるほど、トカレフの言うことはある程度真実なのかもしれない。現に、マサカドの時もある程度は兵士が自分の判断で動いていたし、そのおかげで俺達は不死公の所までたどり着けた。

 だが、肝心のことが抜けている。今、二階で見張りをしている兵士二人が、どうしてトカレフが言ったような考え方の持ち主だと分かっていたのか。

 インコグニート。存在すら定かではない七大探偵の一人。本当にいるかどうかは、この際問題ではない。

 問題は、そんなものが存在していてもおかしくない、と思わせる闇がペース国にあることだ。だとすれば、例えばペース国が秘密裏に、孤立していたはずのナムト国と繋がりを持っていたとしても驚くべきことだとは思えない。

 その中で、親衛隊とある程度のパイプを持っていたとしても。

 いや、繋がりがあったのは、ナムト国ではなく、その中にいた怨公という可能性もある。


「素直だな。考えを隠せていない。全て視線から出ている」


 階段を下りながら、こちらに背中をずっと向けているはずのトカレフに言われる。


「え、いや」


「ゲラルトとは違う。政治家には向いていない」


「元々、なる気もないですよ」


「そうか。それはいいとして、怨公との繋がりを疑うなら、私よりも先に疑うべき人物が三人いる」


「誰です?」


 ちょうど一階に辿り着いたその時、トカレフは足を止めて、感情の読み取れない静かな目でこちらを向く。


「一人はマサカド、一人はシロナ、一人はキリオだ」


 なんだ、その三人?


「キリオは、単純な話だ。彼女はマクガフの孫弟子のようなものだろう?」


 言われて、初めて確かにそうとも言えると気付く。

 アルルがマクガフの弟子なわけだから、そこのルートがあるな。


「シロナも、同じだ。身内の恥を晒すようだが、奴はペース国で医術を学んでいた時に、マクガフと親しかった」


それは、意外、でもないか。医術師である以上、それはありうる話だ。


「ヴァンがシャーク国内で動いてマクガフの話が出た時に、各国が一斉にマクガフと自国との過去の関わり合いを洗い直したはずだ。うちも同じ。その中で、シロナが特に親しくしていたという話が出てきた」


「へえ」


 新事実ばかりだ。


「そのこと自体よりも問題なのは、そのことをマサカドが全く知らないとは考えにくいということだ」


 ぼそりと付け加えたその言葉に、俺は眼を剥く。


「シロナが怪しいって知っていながら、用心棒として雇ったってことですか?」


「実際には、怪しいというほどの問題ではない。ただ単に、かつてマクガフと付き合いがあったというだけの話だ。だが、だとしてもわざわざそんな人間を雇う必要はない。奴が直感でシロだと確信していたとしても、我々のうちの誰かに疑わしい人間を雇い入れた責任を追及される可能性がある」


「じゃあ、やっぱり知らなかったんじゃないですか?」


「雇う人間が怨公の信奉者の可能性があると知らなかった、いや、知ることができなかったというのか、あのマサカドが?」


 そう言われると、自信がなくなってくる。

 確かに、マサカドは雑で乱暴ではあるが、同時に抜け目がない。矛盾しているようだが、奴は力尽くで勝手気ままに動いて、結果として全てをうまくいかせる。そんな印象だ。


「だから、マサカドも怪しいと?」


「それ以外にも、怪しむべき点はある。この城だ」


 また、ゆっくりとではあるがトカレフは歩き出す。


 置いていかれないように慌てて追う。


「この城が、どうかしたんですか?」


「この城を、怨公を運び込む場としようと強固に主張したのはマサカドだ。もちろん、筋が通った主張ではあったが。そもそも、この城に何か秘密があるとして、それを知っていても利用するためにはまずはこの城を舞台にする必要がある」


「それができたのは、マサカドさんだけってことですか」


「そうだ。そして、この城は元々イスウ国のもの。マサカドは何度かこの城の調査に自ら乗り出した過去もあるらしい。つまり、この城に何か仕掛けがあるなら、それを利用することができる可能性が一番高いのはマサカドだ」


「なる、ほど」


 呻く。

 盲点だったが、確かにそうだ。

 もしも、この城の仕掛けを利用してあの消失劇が起きたのなら、そもそもこの城に全員を集めた張本人が真っ先に疑われるべきではある。

 その意味で、マサカドが怪しいというのはもっともな話だ。

 問題は、そうだとして、その意味が、動機が全く分からない点だ。


「でも、あの囲いから抜け出る方法なら、トカレフさんの方が思いつくんじゃないですか? マーリン先生から聞きましたよ」


 俺の発言に、


「ぐっ」


 足を止めて、苦々しく振り返る。


「あの老いぼれ。余計なことを」


 そして、頭を振り、


「悪いが、私にもあの消失の方法は分からない。ただ」


 そこで、トカレフは指で赤毛の髪の毛を弄ぶ。


「何か、引っかかる気はする。案外、あの頃の私だったら、すんなりとあの謎は解けているのかもしれない」


「どういう意味です?」


「意味などない。勘だ。まったく、勘で物を言うなどと、マサカドのようだ。私らしくない」


 そうしてまた前を向いて歩き出そうとしたところで、トカレフは眼を細める。


「様子が、妙だ」


「え?」


 言われて見てみれば、何か雰囲気が変だ、確かに。

 城の出入り口の傍に立つ二人の兵士と、貴賓室の横に立つ二人の兵士。その四人と、もう一人、貴賓室の扉と空き部屋の扉のちょうど中間地点に立ち尽くしている兵士。計五人。

 全員が、空き部屋への扉を見ている。


「どうした?」


 よく通る声でトカレフが問うと、兵士のうちの一人、出入り口の横に立っていた兵士が困惑した顔を向ける。


「これは、トカレフ様」


「どうした?」


「いえ、実は、まだ話し合いが長引いておりまして」


「ゲラルトと不死公か?」


「ええ。それで、後から来ていただいたマサカド様とシロナ様にお待ちいただいています」


 それに答えるのは、貴賓室と空き部屋の間に立っている兵士だ。おそらく、マサカドとシロナを呼んだ兵士だろう。


「それで、その二人は?」


「あちらの空き部屋でお待ちです、が」


 そこで、兵士は言葉を濁す。


 うまく表現できないが、妙だと言うのだろう。


 確かに、一つ一つはそこまでおかしなことではないが、何か妙だ。

 ゲラルトとの話し合いがそこまで長引いているのも妙ならば、それをあの空き部屋で待つというのも妙だ。確かに、ここでずっと立って待つのも嫌なのかもしれないが。


 そのタイミングで扉が開き、ヘンヤとゲラルトが顔を出し、俺達を見て少し驚く。


 それに続いて、不死公も顔を出す。


「どうして、君達が……?」


 そう言ってから、不死公はゆるゆると首を振り、


「千客万来だな。だが、まずはあの二人か。シロナとマサカドは?」


 と兵士に問いかける。


「それが、あちらに」


 と兵士が手で空き部屋を指し示すと、不死公は眉をひそめる。それは不死公だけでなく、横で聞いていたヘンヤとゲラルトもそうだ。


 やはり全員、二人があの空き部屋に入ったことを妙だと感じているようだ。決定的におかしいわけではないが、少し妙だ、と。


「呼んできましょうか?」


 兵士の言葉に、


「いや、いい。待たせたのは私だからな。私が行こう」


 そう言って、つかつかと無造作に歩いて空き部屋に不死公が入っていく。扉が開き、不死公が入ってゆっくりと閉まる。


 何か、それを見ながら、胸騒ぎがする。起こる。何かが、起こる。予感がする。


 そのタイミングで、貴賓室からウーヘイが出てくる。

 ずらりと立ち並んでいる俺達を見て、やはり妙な顔をする。それはそうだろう。


 次の瞬間、


「馬鹿なっ、来てくれ、早くっ」


 想像もできない、動転した不死公の叫びが、空き部屋から聞こえる。


 兵士達が、ヘンヤが、ゲラルトが、トカレフが、ウーヘイが、一斉に走って空き部屋へと近づく。俺も当然走る。


 一番に扉に辿り着いたヘンヤが、片手で刀を抜き放ちながらもう片手で扉を開ける。


 そうして、俺達はそれを目にする。


 狭い空き部屋の中、不死公が立ち尽くしている。その足元には、真っ白い布に赤黒い線を入れた、奇妙な芸術作品のようにも見える格好で、シロナが倒れている。目は見開かれ、虚空を睨んでいる。


 死んでいる。


 そして、部屋に飛び込んだ俺達にのろのろと不死公は目を向けた。


「どうなって」


 呟いていた不死公は途中で絶句し、目を見開く。信じられないものを見たかのように。その焦点は俺達ではない。俺達の後ろに結ばれている。


「馬鹿な」


 俺達の後ろに何があるのか。

 それに思い当って俺が振り向くのと同時に、固いものが軋む音と何かが焼き焦げるような音が同時に聞こえ、最後に轟音。


 振り向いた俺の目に映ったのは、破壊され、開け放たれた出入り口の巨大な扉だ。

 そして、開け放たれた出入り口の先。闇の中にかすかに見えるのは。


「マサカド」


 トカレフが、呆然と呟く。


 嵐の中、遠くはあるが、確かにマサカドが全力で走り去っていく。走りながらもこちらを振り返って見ている。嵐の中、雨に打たれたその顔は、明らかな驚愕が張り付いている。


「どうなっている? こんな馬鹿なことがあるはずがない。あるはずがないのだ」


 同じような驚愕の顔を張り付けている不死公が、自分に言い聞かせるようにつぶやき続ける。

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