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異世界の名探偵(旧題:ファンタジーにおける名探偵の必要性)  作者: 片里鴎(カタザト)
ドラゴンイーターあるいは黄泉がえる首無し姫の問題 出題編
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怨公と用心棒(2)

 不死公にも、レオにも似ていない。

 それが第一印象だ。


 その男の目は、確かに黄金だ。黄金の目に、黄金の髪。浅黒い肌。なるほど、確かにドラゴンイーターの特徴を持っている。

 そして顔の印象は、不死公のような学者然とした容貌とも、レオの野性を感じさせるものともまるで違う。

 男は耳までかかる金色の髪で、腫れぼったい目と太い鼻筋、がっしりとした顎を持っている。顔の輪郭が四角い。

 第一印象としては、「武人」のようだと思った。よく見れば、ロープで分かりにくいが、体型はレオのようにがっしりとしている。肩幅が広い。ますます武人っぽい。


「さて、何度か繰り返したやり取りだが、もう一度させてもらおう。お前が怨公で間違いないのか」


 トカレフが短刀を構え、いつでも飛びずされるように重心を低くする。


「いかにも」


 重く太い声が響く。

 男の声を聞くのは初めてだ。表情は全くの無表情。ローズを思い出す。


「顔を変える手術をしているんじゃないか?」


 こっそりとボブに囁くと、


「僕もそれを疑っている。確か、表情が作れなくなるんだったな」


 目だけで俺を見て、ボブも囁き返す。


「それがなくとも、魔術で顔を変えている可能性は全然あるわけだからな。あの顔が本当の顔だとは思わない方がいい、か」


 自分に言い聞かせるように呟く。

 が、よく考えれば、こいつは自分で怨公だと認めている。顔を変える意味はない、が。


 それにしても、表情がないどころか、視線が真っ直ぐ前を向いて、微動だにしない。俺達を見てすらいない。


「少なくとも、聖遺物を身に着けていないことは既に確認している」


 レイが俺達を少しは安心させてくれるような説明をしてくれる。


「ペースの片隅にこいつはいた。ある山村の外れも外れだ。ドラゴンイーターの特徴を持つ者を人海戦術で探し出し、見つかったこいつに尋問をしたら怨公だと認めた。こいつをここに連行した流れは、大まかに言うとそれだけだ」


 それに続いて始まるトカレフの説明に、


「はっ」


 大きく嘲笑と呆れが混じった息を吐くジャンゴ。


「マジかよ。怨公とやらの信奉者が身代わりをしているとか、家族を殺すとか脅されてるとか、いくらでも考えられるだろ。ドラゴンイーターそっくりの外見にする技術があるのかもしれない。何も調べてないのかよ」


 あるいは、マインドコントロール、洗脳の類もありうる。

 声に出さず、俺は心中で自分に言い聞かせる。


「当然調べた。だが、調べても何も出てこなかった。何もだ。この男が何者なのかは分からず、この男は自分が怨公であること以外は何も喋ろうとしない。私が、国内で人目を気にしながら、自分の権限で調べられる限りでは、結局何も見つからなかった。ああ、いや」


 そこで、唐突に再びトカレフのナイフが振られる。


 今度は、男の皮膚に薄く傷をつける。だが、男は眉一つ動かさず、トカレフの方を見ようともしない。


 だが、驚くべきはそこではなく、薄く血の浮いたその傷が、消えていくことだ。血の跡すら残さず。


「この男がドラゴンイーターであるということは、確定していいだろう」


「じゃあ、多少無理はできるな。俺が色々と口を割らせてやろうか?」


 不穏な雰囲気と共にジャンゴが舌なめずりする。怖い。


「いきなりそんな手を使う必要もあるまい。薬で口を割らせることはできんのか?」


 マーリンがシロナに問いかけると、


「可能。やってみる?」


「やめておけ。うちの医師、研究者を使って薬品は試した。ドラゴンイーターという種族ゆえか、それともそういう訓練をしているのか知らないが、通用しない」


 トカレフが首を振る。


 自白剤も意味なしか。


「拷問の類をする必要はない。どうせ不死公がここに来るわけだしな。とにかく、こいつが非常に怪しいのは間違いない。調べる価値があるっていうのは、ここにいる全員同意でいいな」


 ざわつく室内をマサカドが強引にまとめると、誰からも反対意見はでない。それはそうだ。目の前で、あっという間に傷が消えていくのを見た。ドラゴンイーターであることは間違いない。


「なら、今の段階ではそれでいい。そういう総意になったことに意味がある。後は、不死公の意見を聞くべきだ」


「おいおい」


 ボブが呆れた声を出す。


「雁首揃えて、全員でここであいつが到着するまで待つってのか?」


「もう、到着する。そんな気がするよ」


 あまりにも適当なマサカドの発言に、


「気がするってそんな」


 と、キリオが何か反論しようとしたところで、


「ああ、来たんじゃないか?」


 突然そう言って、マサカドはドアを開ける。

 部屋の外では、今にもドアを開けようとしていた兵士がドアが開いたことに驚いて止まっている。


「どうだ?」


 マサカドがその兵士に問いかけると、


「は、はい、今、ナムト国の方々が到着されました」


 と言うので驚く。

 もう、神がかり的だ。

 素直に、俺とボブは驚きを顔で表現してしまう。


 だが、他の連中は違う。

 闇に隠れて、マーリンの表情は分からない。エニは短く口笛を吹くだけ。アオイは尊敬のまなざしを向ける。ジャンゴはにやりと笑い、レイは表情を変えず、トカレフは何故か怒っているように眉を吊り上げる。ゲラルトは口元を隠し、何かを考えるようにしている。シロナは、そんな部屋の中にいる人々の表情をじっと観察している。

 そしてキリオは、歯を食いしばるような表情を見せる。


 キリオ、どうしてそんな表情をしてるんだ?

 疑問に思うが、恐ろしくて訊けない。つい最近に、家族の不可解な部分を見てしまったばかりだ。これ以上見たくない。

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