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異世界の名探偵(旧題:ファンタジーにおける名探偵の必要性)  作者: 片里鴎(カタザト)
ドラゴンイーターあるいは黄泉がえる首無し姫の問題 出題編
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怨公と用心棒(1)

 青と白を基調とした鎧を身に着けたペース国兵士が続々と堀を渡り、門を潜る。

 その中に、一際目立つ、赤毛を見つける。その隣には、レイの長身もある。


「ようこそ、嵐の城へ」


 城の前で待ち構えていた俺達の中から一歩出て、マサカドが挨拶する。


「ああ」


 軽く頷くと、トカレフは後ろの一団を振り返る。


「連れてきた」


 一団の中心、数人の兵士に担がれて、巨大な板、それもおそらくは銀樹製のものに何重にもロープで縛り付けられている男を見る。

 ほとんどロープで埋め尽くされるほどになっているため、正確な体格や外見は見てとれないが、肌が浅黒く髪が黄金のようであることは確認できる。

 そして、肝心の瞳は。


「まあ、そうか」


 納得したようにゲラルトが呟く。


 縛られた男は、口には猿轡、そして目隠しをされている。


「目を自由にしていると、魔術を使われる可能性がある。瞳の色の確認は、城内で万全の体制が整ってからにしてくれ」


 トカレフの説明に、俺達は頷く。


「では、牢獄部屋に彼を連れて行こう」


 こうしてマサカドの先導で男を二階のあの部屋まで連れて行くことになったが、男は縛られたまま不気味なほどに身動きせず、呻き声すらたてない。生きているのは分かるが、それにしては静か過ぎる。

 階段では、レイ一人で男を背負うようにして上がっている。見た目通り、力には自信があるらしい。


「ほら、これでよし」


 マサカドが牢獄の錠を開け、ドアを開ける。


 中には、狭いスペースに、床に直接打ち付けてある金属製の椅子。


「これに縛り付けよう」


 数人がかりで、板から外し、椅子へと座らせると、数十本、下手をしたら百を超えかねない本数のロープを結びなおす。

 その間も、縛られている男はなすがままだ。気を失っているのか?


「よし、これでいい。さあ、悪いが兵士諸君は出て行ってくれ。この牢獄に誰も侵入しないように見張るように」


 トカレフの号令で、作業の終わったペース国の兵士達が部屋を出て行く。マサカドが目をやると、イスウ国の兵士もそれに続く。


 部屋に残ったのは、俺、ボブ、キリオの三人に、ゲラルト、ジャンゴ、マサカド、アオイ、そしてトカレフとレイ。


「ああ、そうだ。ちょっと待ってくれ」


 そこで、マサカドはアオイに、


「万が一ってこともある。用心棒部隊を連れてきてくれ」


 用心棒部隊?


「分かったっす」


 アオイが駆けていく。


「悪いが、こいつを調べるのは少し待ってくれ。一応腕には自信があるが、念には念を入れないとな」


 そうして、マサカドは刀を抜く。鞘から抜き放った瞬間、刀身が赤く光る。高熱を発しているのだ。焔。聖遺物に近いマジックアイテムだ。


「お前らも準備をしておけよ。目隠しを外した瞬間はもちろん、今この瞬間に突然妙な力で襲い掛かってきてもおかしくない。そういう存在だろう、こいつは」


 マサカドの言葉はもっともだ。俺は意識を集中させる。いつ、何が起きても、咄嗟に魔術の一つくらいは出せるように。


そんな中、ジャンゴだけは両手をポケットに突っ込んだままだ。


「ハウザー、お前は徒手空拳か? 構えもしないとは」


長剣を抜いて油断なく構えながら、レイが目も向けずに尋ねると、


「もうジャンゴだって言ってるだろ、レイさん。俺が頑張らなくても、こんな面子が揃ってるんだから大丈夫だ。逆にこれでもダメなら、俺が気張ったって意味ないぜ。気楽な私立探偵なんだ。こういうとこではさぼらせてもらうよ」


「似てきたな、ジャンゴに」


「そりゃそうだ、ジャンゴだからな」


 牙のような犬歯をのぞかせてジャンゴは笑う。確かに、ハウザーと名乗っていた頃にはない狡猾さや余裕を感じないこともない。ジャンゴと何度もやり合い、ハウザーとも長い付き合いのレイには感慨深いのだろう。


「ところで、用心棒部隊とは?」


 俺が引っかかったことをトカレフが訊いてくれる。


「そのままの意味だ。俺の子飼いの兵士だけでは心配だったんでな。こういう件に噛ませても心配ない腕利きを国内外から連れてきた。ああ、人を集める際にはゲラルトにも協力してもらった」


「紹介しただけだよ」


「そのメンバーは? 本当に信用できる連中なのかよ」


 俺からしてみれば当然なジャンゴの質問に、マサカドは面倒そうに手を振って、


「すぐに分かるよ、ほら、言っているうちに、来た」


 足音が近づいてきて、ドアが開きアオイが飛び込んでくる。


「お待たせしましたっ」


「ようやく出番か」


 呟きながら入ってくるのは、ヘンヤだ。なるほど、こいつがいるのは納得できる、が。

 その後ろからぞろぞろと入ってくる連中を見て顔が凍る。


 黒い革の衣装を身に着けた少女は、炎術師のエニ。俺と目が合うと、ウインクしてくる。

 肌もローブも真っ白い、エルフの特徴を持った女。医術師のシロナ。こちらは全く俺に目を向けても来ない。喋りもしない。

 そうして、それとは対照的な黒いローブ。中身も闇。ただ、白い髭と皺だらけの手が闇から浮かび出ているようだ。


「マーリンさん」


 呻くように俺が呟くと、


「多少歳だが、頼りになりそうな用心棒だろ」


 後ろでマサカドが笑っている。


「久しぶりじゃのお、ヴァン、キリオ、それにボブ」


 シャーク国の参謀にして宮廷魔術師、マーリンが俺達に声をかけてくる。


「ところでマサカド、わしが来たのは、用心棒というよりも魔術の専門家としてじゃ。しかし、ドラゴンイーターとはのお。御伽噺が実在したか」


 呟いて、マーリンは壁際に寄って立つ。


「さて、じゃあ、さっそくチェックを」


 言いかけるマサカドを、


「待て」


 トカレフが冷たく止める。


「彼らは何だ? いや、それなりに名の通った者ばかりだから一応素性は知っているが。部外者にどこまで話している? そして、何故彼らを選んだ? どうなっている。ゲラルト、お前にも一緒に説明を求める」


「さて。さっきも言ったように、僕はマサカドに腕利きを紹介しただけだよ。他の条件は無視して、とにかくあらゆる意味での戦闘技術の高さだけで絞って知っている名前を挙げてくれと言われたから、手当たり次第に挙げただけ。その中から、そこにいるヘンヤ以外の三人をマサカドが選んだというだけの話だよ。どういう使い方をするつもりなのか、何故その三人なのか、どこまで話しているのかは全然知らない」


 そこでふっとやつれ気味の顔に笑みを浮かべ、


「ただ、冗談半分で挙げたマーリンさんがまさか呼ばれているとは思わなかったけれど。いや、確かに魔術の腕ではパンゲアでもトップクラスだから、名前を挙げざるを得なかったんだけどさ」


 確かに、それは予想できないだろう。


「まあ、あれだ。何が起こるか分からないから、とりあえず腕利きを揃えたかった。それだけだ。で、直接的な戦闘についてはヘンヤがいるから問題なし。それ以外の分野での腕利きを揃えたかった。こっちが死にかける可能性もあるし毒のような手段が必要になるかもしれないから医術師がいる。それから、肉弾戦以外の戦闘技術に優れる経験豊富な冒険者も必要だ。そしてもちろん、どこまでドラゴンイーターの技術に対応できるか分からないが、最高レベルの魔術のエキスパートも。ほら、そう考えれば、この人選は全く当然だろう?」


 あまりにも自信満々に言うのでマサカドに納得させられそうになるが、


「それでも、その中でどうしてこの人選にした?」


 さすがに冷静なトカレフはなおも深く聞く。


「最終的には直感だな。で、俺の勘でこいつらになら大丈夫だと思ったから、俺達の知っていることはほとんど話してあるぜ」


 あっさりととんでもない告白をするマサカドに、


「我々に承認もなくか」


 トカレフが静かに眉を吊り上げる。


「そう怒るな。しわが増えるぞ。大体、もう今更どうしようもないだろう。それに、こいつらは腕が立つし信用できる。おまけに」


 そこで、マサカドの目がすっと細まる。


「マーリンはゲラルトの身内、ヘンヤは俺の身内だ。ほとんどな。何とでもなる。そして他の二人は、根無し草。もし問題があるようだったら、消せばいいだろう?」


「呼びつけておいて勝手な話ね。でも、そう簡単にあたしを消せると思ってるの?」


 呆れたように肩をすくめるエニだが、目は鋭く硬い。


 シロナは黙って我関せず、といった風だが、この女が裏で何を企んでいてもおかしくないことを俺は知っている。いきなり毒をばら撒くくらいしてもおかしくない。


「ああ、マーリンは別として、ヘンヤは俺の側につくだろ。俺とヘンヤ対お前ら二人でやりあってみるか?」


 焔を構えるマサカドから、凄まじいプレッシャーが発せられる。


「分かった。分かったから物騒なことを言うのをやめろ。全く、下手な芝居をするな」


 その緊張感を崩すようにトカレフがため息と共に目を閉じる。


「バレた?」


 ちろっとエニが舌を出す。


 途端、部屋の中にあった張り詰めた空気は霧散する。


「マサカド、慣れないことはするものじゃあないな。あんな素人くさい芝居では人を騙せない」


「はっ、今のはふざけて場の空気を緩めただけだ。俺が本気で芝居をしたらこんなものじゃあない。俺は演技は得意なんだ。勘がいいからな」


 関係あるのか、それ?


「ともかく、あたしはここにいていいわけ?」


 エニがじれったくなったのか問いかけるので、俺達は全員目を合わせる。どう答えるべきだ?


 沈黙。息苦しくなってくる。

 どこまで続くんだ、この沈黙。


「いいんじゃねえか。他言無用ってことでよ」


 と、壁にもたれてずっと成り行きを見ていたジャンゴが、そう言うと全員の息がほっと洩れる。

 正直、助かったな。息が詰まって死にそうだった。


「じゃあ、さっそく」


 マサカドが顎でずっと動かずに椅子に縛られている男を示す。


「ああ。全員、何が起きても対応できるように構えていろ」


 そう言って、トカレフは短刀を取り出すと、目にも留まらない早業で男の顔に切りつける。

 おいおい、殺す気か?

 だが俺の心配は杞憂に終わり、男の猿轡と目隠しだけが切断される。皮膚には傷一つついていない。凄腕だ。そういえば、トカレフは短刀術の名手としても有名だったか。


 そうして、一瞬だけ切断されてもその位置のまま留まっていた猿轡と目隠しが、重力に従ってぱさりと落ちる。

 怨公とされる男の顔が、露になる。

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