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異世界の名探偵(旧題:ファンタジーにおける名探偵の必要性)  作者: 片里鴎(カタザト)
ドラゴンイーターあるいは黄泉がえる首無し姫の問題 胎動編
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探偵解散

「解散する前に、一つ相談がある」


 と、沈黙を切り裂くようにゲラルトが言う。


「不死公の言うことを、どれほど信じるべきだと思う?」


「あん? そりゃあ、与太話ばかりだけど、見たろ、実際に腕を切り離して動いてたんだぜ」


 すぐにジャンゴが反論するが、


「確かに。彼がドラゴンイーターという種族で、我々とはかけ離れた存在なのかもしれない。けれど、それが彼の言葉が全て真実であると担保しているわけでもあるまい」


 言いながらトカレフが立ち上がり、


「特に、怨公が本当に存在しているのかどうかすら、我々には分からない」


 推理小説で言うところの、クイーン問題というやつだ。手がかりから真相を推理しようとも、そもそもその手がかりが絶対的に正しいものなのかどうか、探偵には判断できない。


「与太話ならいいだろ。あいつの冗談に付き合って時間を無駄にしただけだ。完全な与太話ならな。問題は、あいつの話にある程度の真実と嘘が混じっていて、なおかつあいつに何らかの意図がある場合だな、どう思う、アオイ?」


 ふんぞり返って椅子をぎしぎしと鳴らしているマサカドに問われて、ずっと黙っていたアオイはびくりと体を震わせる。


「え、あ、えっと、よく分からないっす」


「あっそ。ちなみに、俺が思うに、少なくともあいつは全てを話しているとは思えないな。嘘をついているか、何かを隠しているか、ありそうじゃないか? ただ、聖遺物をくれるって話は本当っぽいな」


 ただの勘だが、とマサカドは付け加える。


「だからって、餌をぶら下げられた馬みたいに、どこに行くのかも分からず聖遺物欲しさに走るわけにもいかない」


「そういうこと。そこで、ジャンゴ、君にここで彼が話したことの裏づけ調査をお願いしたい」


「え、俺かよ?」


 いきなりゲラルトから話を振られて、ジャンゴは困惑する。


「一番簡単で信用できる手は、この国で怨公やドラゴンイーター、不死公についての資料を探すなり証言を集めるなりして、裏づけをすることだ」


「それが、どうして俺なんだよ」


「そんな資料が簡単に手に入るとも思えない。証言できるほど知っている人間も、おそらくはこの国の中枢の人間。簡単には教えてくれない。だから君だ」


 ゲラルトの目が冷たくなる。


「多少、乱暴な手を使わないと時間がかかりそうだからね」


「なるほど」


 にっとジャンゴが笑って、首を鳴らす。


「そりゃあ、そうだな。俺が適任か。ああ、いいぜ。どの道、この国で詳しいことを知っている奴を締め上げようとは思ってたんだよ。特に青い狼について知っているような奴はな。はっは、文字通り、草一本生えてない荒野にしてやるよ」


 目が笑っていない。視界の隅で、かすかにヘンヤが身構えるのが分かる。

 今のジャンゴに迂闊に触ると、こちらが怪我をする。ナムト国の関係者には気の毒なことだ。


「んで、他はどうする? 癪だけど、あいつの割り振りどおりに動くのか?」


「俺は俺の思うようにする。とりあえずは、奴の言う通りに動いてみるがな。興味がある」


 立ち上がって、マサカドはそのまま部屋を出て行こうとする。ヘンヤ、そして慌てた様子でアオイが続く。


「もう帰るつもりか?」


 トカレフが止めるが、


「そうだ、悪いか? 言っておくが、ここで相談していても無駄だ。そういう能力については、そこのゲラルトが一番長けている。いつの間にかその男の一番都合の言いように動かされるだけだ」


 言いながらマサカドは振り向かない。


「買い被りだよ」


 部屋を出る直前のマサカドにゲラルトが言うが、


「お前の才は貴重だろう。だが、俺にも才はある。自分のしたいようにできる才が。だから好きにさせてもらう」


 そうして、完全に部屋を出る直前、


「ああ、ヴァン」


「はい?」


 顔を半分だけ振り向かせて、片目で俺を睨む。


「お前は……」


 やがて、何かを諦めたように顔を戻す。


「いい。ヴァン、お前は好きにすればいい。お前の才も貴重なんだろう、きっと」


 どうして「きっと」ってつけるんだよ、俺の時だけ。


 そうして、とうとうマサカドは消える。ヘンヤとアオイをつれて。


「私達も戻るとするか、レイ」


 トカレフの言葉にレイも黙って立ち上がる。


「帰るんですか? この国を調査したりとかは?」


 思わず俺が聞くと、


「優先すべきは怨公だ。世界の敵という不死公の話が確かならば。そして、不死公が掴んでいないということは、この国を探しても怨公の居場所が分かる手がかりはないのだろう。無論、全てはあの男の言葉が正しいことが前提だ。そして、その真偽を確かめる役、国際問題になりかねないその役はそこの獣が引き受けてくれるらしい。私は、私のやるべきことをやる。戻り、国に適切に報告し、計画を立てて、最善と思える人員を配置する。それだけだ」


 特に気負うこともなく、そう言い放つとトカレフはレイを伴って出て行く。


「さあて、俺もいくぜ。青い狼について調べていて、この国が関わっているから集めにくかった種類の情報もいくつかある。そいつを根こそぎこの機会に掘らせてもらうか」


 ジャンゴは伸びをする。あまり気軽に相槌も打てない。さっきから、狂犬じみた獰猛さが隠しきれていない。


「我々も帰ろう。やることは沢山ある。トカレフの言うように、今の時点でナムトを探って国と国との問題になっても面倒だ。僕も興味はあるが、チャンスは今だけではない。ジャンゴ、君が荒らしまわったなら、その後始末という形で堂々とシャーク国が調査に入らせてもらうよ」


 そのジャンゴを前にして、平静を崩さずゲラルトが言うと、


「やっぱりそういうつもりかよ。いいさ、利用されてやる。けど、俺は俺のために動く。ゲラルト、あんたと利害が一致しなくなれば」


 突如として、ジャンゴの表情が消える。


「そんときゃ、敵同士だ。砕くつもりで噛み付くぜ」


「結構。その意気でナムトの闇を引き裂いてくれ」


 一瞬だけ視線を交差させ、先にジャンゴが部屋を出て行く。


「ヴァン」


「はい」


「君と、キリオ、ボブ、君達は不死公の言うように、レオ・バアルについて探ってもらいたい。ただし、当然ながらここでの話は出来る限り誤魔化してね。あの事件の関係者、アイス王妃に話を聞くのもいいかもしれない」


「あんたはどうするんだよ?」


 勝手に決められたことに不服なのかボブが口を尖らせると、


「僕は」


 そこで、ゲラルトにしては珍しく言いよどみ、


「何もしない、わけにはいかないよな、やっぱり」


 自分に言い聞かせるように呟く。


 俺も、ボブも、キリオも、誰もその意味が分からず、思わず三人で顔を見合わせる。


「各方面への調整や他の探偵との連絡は僕がしよう。それでいいかな」


 戸惑っている俺達に向かってそう言うと、ゲラルトは背を向ける。


「この件は、少々骨が折れそうな気がする」 


 最後にそう言うのが、妙に印象に残った。


 帰り、馬車までの道で、キリオが妙に震えていた。だが、何がそんなに怯えさせているのかは、結局何度聞いても言葉を濁された。

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