ドラゴンイーターの話(2)
「あなたが、我々とは根本的に違う種族だということは理解した。しかし、それでも、不老不死とはにわかには信じがたいな」
ようやく声を出すのはゲラルト。
「不老不死に近い、だ。正確には。真の意味で不老不死ならば、ドラゴンイーターは増える一方で減ることはない。今頃は地上に溢れているだろうさ」
不死公はゆっくりと足を組む。
「実際には死ぬ。自殺のため、あるいは他のドラゴンイーターを殺すための技術は、我々の種族がごく初期のうちから開発したものだ。そのための聖遺物も数多い」
話がそこまで来たところで、横のボブが身を乗り出す。
そこまであからさまではないが、ゲラルト、そしてレイの肩にも力が入ったのが分かる。
当然だ。この話し方からすれば、聖遺物は。
「少し待て」
緊張と高揚を押し殺した声でレイが割って入る。
「聖遺物は、ドラゴンイーターが作り上げたものだと、そう聞こえるが」
「ああ、そうだ。その通りだ。そうか、その説明がまだだった」
事も無げに、不死公は首を振る。
「聖遺物はドラゴンイーターの製作物だ。嫌になるほど長い時間を生きていく中で、ドラゴンイーター達は暇つぶしのように研究に没頭する。自分の興味のある分野に、全てを注ぎ込むわけだ。聖遺物はその副産物だ」
「じゃ、じゃあ、あんたは、今、色んな国が保管している聖遺物の製法とかも分かってるのかよ」
震える声でボブが聞く。
この答えによっては、不死公を手に入れた者が、いや、不死公こそがパンゲアの盟主となってしまう。
「無理だ」
だが不死公はあっさりと手を振って否定する。
「聖遺物はそれぞれ、製作者のドラゴンイーターが己の研究の末、自分しか理解できないような研究の果てに作り上げてしまったものだ。同じ種族だからといって、私が見て原理を理解したりすることはできない。ましてや製法など」
それを聞いて、ほっと、ゲラルトの肩から力が抜けていく。
「ちょっと待て。おかしくないか? 共通した技術みたいなものはないのかよ。例えば、聖遺物が全部、馬鹿みたいに頑丈なのはどういうことだ?」
ジャンゴの質問に、
「逆だ。ドラゴンイーターの製作物が全て頑丈なのではない。何らかの要因で頑丈なものだけが、今も残っているんだ。そして、その残ったものが聖遺物と君らに呼ばれている。だから、そう、例えばマサカド」
「あん?」
名前を呼ばれて、マサカドは怪訝そうに眉を上げる。
「君の持っている剣、焔とか言ったか」
「ああ」
「あれは、君らの定義では聖遺物ではないのだったな。だが、それはドラゴンイーターの製作物ではある。かつて、その製作者と声をかわしたこともあるから覚えている」
「へえ」
マサカドはあまり興味のないことを隠そうともしない生返事をする。
「つまり、ドラゴンイーターが製作したもののうち、現存するほどの耐久性を持ち、全く原理が不透明なものを、君らが勝手に聖遺物と呼んでいるだけだ」
衝撃的な話に、また部屋を沈黙が覆う。
特に、レイは妙な顔をしている。それはそうだろう。なにせ、聖遺物判定官なのだ。その判定が、こっちが恣意的にしているだけのものだと言われて平静でいられるはずがない。外見から誤解されるのだろうが、レイ自身、堅物で意志が強い以外は、ごく普通の精神構造の持ち主だ。
だが、まだ実感が湧かない。
目の前にいる男は、数千年、いや下手をすれば数万年を生きる神のような存在で、不老不死、そして彼らが聖遺物と呼ばれる国のパワーバランスを大きく変えかねないアイテムの製作者。
いくらなんでも、飛躍が過ぎる。
だが、否定しようとすればするほど、目の前で切り離された腕が血の一滴もこぼさずに動き回ったあの様が蘇る。
「それで」
沈黙を守っていたトカレフが口を開く。
「その、上位存在であるドラゴンイーターが、我々を集めて何をさせようと?」
「世界最高峰の探偵を集めた理由は、ただ一つ」
不死公は一本、太く長く、浅黒い人差し指を立てる。
「人捜しだ。私の父を捜して欲しい」




