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みんなを幸せにする武士になりたいだけなのに!(権力闘争がひどい)  作者: ワタツミ


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第41話「那珂川」

引き続き拙作ではございますが、何卒お付き合いいただけますと幸いです。



――治承4年(1180年)九月 那珂川 多気義幹――



 防塁の一角が崩れた。

 太刀を抜き、その崩れ口へと自ら駆ける。


「怯むな!ここが正念場ぞ!」


 叫びながら、押し寄せる敵兵の先頭にいた男を斬った。

 血飛沫が頬にかかる。人を斬るのはこれが初めてではないが、気持ちのいいものでもない。


「 兵の多くが渡り切っておりまする!

 もはや、この崩れかかった状態では持ち堪えられませぬ」


 景幹の声に周囲を見渡した。

 各所で敵兵が次々と川を越えてきていた。


(この短い間に……。恐るべき速さだ)


 太刀を握り直す。

 緒戦の負けを悟ってなお、成すべきことがあった。



――同時期 那珂川対岸 義円――



 太刀を抜き、渡河した兵たちと共に対岸の土を踏んだ。


 戦場には土と血の匂いが混じって充満している。

 腹の底から込み上げてくるものが恐怖なのか、興奮なのか、自分でも判然としなかった。


「義円様、お下がりを!」


 傍らの郎党の声を聞き流した。


「いや……。この目で見届ける」


 敵陣の内側は、既に乱戦の模様であった。

 先に上陸した将家の兵を筆頭に、常陸勢が入り乱れている。


 迫り来る敵兵の一撃を太刀で受け流す。

 坂東に流れて十九年、積み重ねてきた鍛錬により染みついた動きは、無意識に体を動かした。

 実際に人と斬り結ぶこととの間には、埋めがたい隔たりはあるのだが。


「はあっ……!」


 声にならない声を上げながら、太刀を振るい続けた。


 現代の倫理観から言えば、他人に向かって刃物を振り回す抵抗はいかほどであろうか。

 この状況で止まれば、次に崩れるのは自分であると言い聞かせる。


「義円様、ご無事で!」


 傍らの兵が、迫る敵の一人を打ち払う。その声に、束の間の陶酔から我に返った。


(考えるな。……今はこの一戦を生き延びることだけ考えろ)


 自らへ言い聞かせ、なおも太刀を振るい続けた。


 敵陣後方、ひときわ目立つ武者が、なおも兵を鼓舞して続けている。


(あれが……。多気義幹か)


 その太刀筋は、乱戦の中でも些かも乱れていなかった。

 この期に及んでなお、崩れぬ統率。

 その姿に敬意を覚えずにはいられなかった。


 義幹の周りには、なおも数十の兵が踏みとどまっている。


(乱戦の中、こうして己の主のために、命を賭けられる者たちがいる。

 兵にそう思わせるだけの男を決して、軽んじてよいものではない)


「それなるは義幹殿とお見受け致す……!

 もはや、勝敗は決しておりましょう! これ以上の無駄な抵抗はお控えなされ!」


 その呼びかけに、義幹は太刀を構えたまま、こちらを睨みつけた。

 その目には憎悪よりも、拭いがたい悔しさが滲んでいるように見える。


「若造が……!儂に降れと申すか!」


「降れとは申しませぬ!

 ですがこの戦、これ以上続けたところで、そちらに勝ち目はございませぬ!!

 これ以上、兵の命を散らす道理がどこにございましょうか!」


 一瞬、義幹は、太刀を振るう手を止める。

 その隙を逃さず、おそらく腹心であろう男が前に立った。


「義幹様……ここは退くべきかと」


「……勝ち目はない、と申すか」


「未だ、館には多くの兵が残っております!!

 この場で、兵を討死にさせず体勢を立て直しにかかるべきかと」


 眼前の義幹は目を閉じ、やがて太刀を鞘に収めた。


「退く……! 全軍、館まで退け!」


 号令と共に、常陸勢は次々と、陣を離れ後退していった。

 その退却を追撃することなく見送る。


「義円様、追撃は……」


「兵をまとめよ。……ここまでで十分だ」


 太刀を鞘に収めながら、深く息を吐いた。

 全身から、力が抜けていく。


(これが戦か……)


 勝った。

 だが、その実感は頭の中で描いていたものとはまるで違っていた。


「義円様……! 我らの、勝利にございます!」


 将家が駆け寄ってくる。

 その顔にも、疲労と興奮とが入り混じっていた。


 頷いた。

 友に賞賛の視線を送りつつも、素直な喜びだけを見出すことはできなかった。


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