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みんなを幸せにする武士になりたいだけなのに!(権力闘争がひどい)  作者: ワタツミ


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第35話「衆議」

引き続き拙作ではございますが、何卒お付き合いいただけますと幸いです。

 


 ――治承4年(1180年)五月 上総国 義円――



 以仁王の令旨の報せから数日、俺と広常は上総家の進退について

 より深く検討を進めるため、広常を名主と仰ぐ周辺豪族の中で、信頼できる者たちを密かに集めた。


「右からそれがしの側近たる金山将監が一子将家。

 天羽秀常(あまは ひでつね)殿、時田為常(ときた つねずみ)殿、匝瑳常成(そうさ つねなり)殿、印東頼常(いんとう よりつね)殿……。

 此度、皆様にお集まりいただいたのは、これから先の在り方について

 腹を割って話し合いたいがためにございます」


 居並ぶ一同は、同時に頷く。


「既に、以仁王様の令旨が発せられたこと皆様の耳にも届いておりましょう。

 ……この令旨にいかに応じるべきか。共に考えていきたいのです。」


 将家が俺の言葉を引き取るように、言葉を繋ぐ。


「この四年あまり、幾つもの試みに取り組んで参りました、

 ……その結果、こ坂東でも屈指の力を持つに至っております。

 動員出来る兵は2万、うち五〇〇〇は広常様の命が降れば即座に動けまする。

 兵に持たせる兵糧も不足なく。京での商いに通ずるものがおりますれば、補給も容易かと。」


 現状を整理するかの如き説明に、まず口を開いたのは天羽秀常だった。

 広常の実の兄弟であり、一族の中でも最も年長の武将である。


「義円殿……。

 儂は、正直、此度の両耳には深く関わることにいささかの懸念を抱いておる。

 ……確かに、この国は豊かになった。

 上手くいっておる中で、此度の戦に得はなし。

 無用な戦で、豊さを失うことになれば元も子もあるまい。」


「秀常様の御懸念、まことにごもっともにございます。

 ……ですが、各地の平家に与する者どもへの不満は溜まっております。

 自ら立たずともいずれ、否応なくこの動乱に巻き込まれることになりましょう」


「それは、儂も分かっておる。

 ……だが、直接危害のない今、進んでその渦の中心に飛び込む必要があるのか、という話よ。」


 傍らに座る時田為常が、異なる見方を示した。


「秀常様……。

 それがしはむしろ、この機を逃せば乱世の趨勢を他家に委ねることになりかねぬと思います。

 ……どこぞの豪族が平家に対抗せんがため、源氏の貴種でも担ぎ上げてしまえば

 その中の一勢力として、埋没することになりましょう」


 これには匝瑳常成もまた、深く頷いた。


「為常殿の仰る通りにございます。

 ……当家の力は、決して小さなものではございませぬ。

 持てる力を正しく使えば、更なる栄達も見えて参るかと。」


 空気を引き締めようと思ったのか

 若年の印東頼常は、より現実的な視点から意見を述べた。


「ですが、義円殿。

 ……独力に令旨に応じるとなれば、平家からの追討を正面から受けることになります。

 当家の力だけで、平家に与する周辺諸国からの圧力に耐えられましょうか。」


「その懸念は、それがしも同じくしておりました。

 ……ですが、平家と対するということあれば源氏の流れを汲む足利殿との誼がございます。

 また、千葉常胤様をはじめとする、坂東の多くの武家とも誼を通じて参りました。

 例え、数家が平家に怯えようとも決して、孤立した戦いにはならないものかと。」


 居並ぶ諸将を前に、この機とばかりに己の身の上を明かす。


「皆々様……。

 それがしには、もう一つお伝えせねばならぬことがございます。

 これまで、広常様しか存ぜぬことではありましたが……

 それがしは亡き父、義朝が一子にて、幼名を乙若丸と申しまする。」


 突然の告白に、将家以外の者たちは大きく目を見開いた。


「義円殿が……。義朝様の御子息であられたとは……」


 動揺を隠せない一同に先んじて、年長の天羽秀常が懸念を口にする。


「義円殿……。それが真であれば尚のこと慎重にならねばなるまい。

 ……もし、当家が、兄上の頼朝殿やご一族の義仲殿より先に令旨に応じて兵を挙げ

 その後、源氏のご一族が挙兵されることがあれば、この坂東を巡って争うことになりかねぬ」


「秀常様の御懸念はごもっとも。

 ……ですが、それがしは兄頼朝と、争うつもりは毛頭ございませぬ。

 ……もし兄や木曽殿が挙兵なされば、それがしは共に源氏の世をつくるために戦う所存。」


「では、義円殿は源氏の御一門が立たれれば、それらと合流をお考えなのか。」


「まだ、断言はできませぬ。

 ……兄や木曽殿が、いつ、どのような形で動かれるか。

 また源氏の世とは申しましたが、それがしが言葉を選んだのは

 平家よりもそれがしが収める世が、民を豊かに出来ると思った故のこと。

 民を豊かにするという志をお持ちの方々でなければ、驕れる平家の二の舞になりかねませぬ。」



「……義円の言う通りだ。

 当家は民を豊かにすることを念頭に進退を定めたい。

 この決断は拙速であってはならぬ故、この場で結論を出すこともなかろう。

 ……皆、それぞれの立場から、これからも忌憚のない意見を聞かせてくれ」


 その言葉に、一同は深く頭を垂れた。

 思いの外、時間が経過していたこの衆議は、結論を出すには至らなかった。

 だが、有力諸将を含めて、広常と上総家を慮っての発言に終始したことには手応えを得た。

 乱世に一枚岩となって、向き合っていく――実現出来そうな土台はある。


 何より、長年の秘密を明かした俺への接し方は節度はあれど大きく変わらなかったのである。

 こみ上げる想いを、静かに噛みしめる。

 後戻りのない決断の時が、間近に迫っている。

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