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みんなを幸せにする武士になりたいだけなのに!(権力闘争がひどい)  作者: ワタツミ


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第30話「常陸からの使者」

引き続き拙作ではございますが、何卒お付き合いいただけますと幸いです。

 


 ――治承3年(1179年)夏 上総国 義円――



 上総国の富が坂東各地に知れ渡り始めた頃、思いがけない使者が広常のもとに訪れた。


 この一年あまりで、上総国の実収は着実に伸び続けている。

 新田開発によって開かれた田は、既に三百町歩を超え

 鉄と甘味を主軸としたの交易も、坂東各地の商人たちの間で確かな評判を呼んでいた。

 その噂は、上総国内に留まらず隣国にまで、静かに広がりつつあった。


「常陸国の佐竹隆義様より、使者が参っております」


 その報せに、内心で緊張を覚えた。

 もはや俺の立場は広常に外交の全権を預かるまでになっている。

 しかし佐竹氏は常陸国北部

 ――奥七郡と呼ばれる広大な地を治める、坂東でも屈指の勢力を誇る一族である。

 清和源氏の血を引く、由緒ある家柄でもあった。


 使者は丁重な態度でありながら、その言葉の端々には探りの色が滲んでいた。


「上総介様の御一族、近頃まことに勢いを増しておられるとの由。

 ……我が主・隆義様も、大いに関心を寄せておられます」


 その言葉に、慎重に応じる。


「恐れ多いことにございます。

 ……ただ、坂東の地を少しでも豊かにしたいと願い、地道な改革を重ねているに過ぎませぬ」


「地道な改革、と申されますが……。

 鉄と甘味による交易、さらには塩の増産、そして新田開発による農地の拡大。

 それらは、既に坂東各地の噂に上っておりますぞ」


 警告とも取れるような使者の物言いに警戒を覚えつつ

 使者が辞去した後、広常と共に慎重に話し合った。


「広常様……。

 佐竹殿は、この上総家を警戒しておられるのやもしれませぬ」


「うむ。……佐竹は、常陸で既に確かな力を持つ一族だ。

 儂らの勢いを脅威と見ておるのだろう」


(史実にある通りなら、佐竹氏はいずれ、頼朝の挙兵に素直には応じない道を選ぶことになる。

 ……つまり平氏の世に大きな不満を持ち得ていないということだ。

 豪族単体での勢力伸長に警戒して然るべきか)


 その予感は、まだ広常には語らなかった。

 しかし、佐竹氏との関係をこれからどう築いていくべきか

 ――その問いは、これまでの内政改革とはまた違う種類の、重い課題としてのしかかってきている。


 情勢を鑑みて、佐竹氏との関係は対立ではなく、可能な限り友好的なものへと導くべきだと判断する。



「広常様……。それがし、佐竹様のもとへ直に赴き、この上総家の意図を正直にお伝えしたく存じます」


「敵地に、単身乗り込むようなものぞ」


「承知しておりますが。無用な疑いを、佐竹殿の胸にこれ以上根付かせるわけには参りませぬ」


 決意を込めた言葉に、広常は頷いた。


「……分かった。だが、供の者は十分に連れて参れ」


 -----


 常陸国・太田の地に構えられた佐竹隆義の館は、想像していた以上の威容を誇っていた。


「上総介殿の御使者、義円殿にございますな。……よくぞ、お越しくだされた。」


 隆義は、丁重に迎え入れてくれた。

 同時にその眼差しには、値踏みするような鋭い光があることを見てとる。


「隆義様……。

 此度は、突然の訪問ご容赦いただき幸甚に存じます。

 当家が進めております試みについて、隆義様に、直にお伝えしたく参りました」


「うむ。……聞かせてもらおう」


 これまでの一連の検地、禄制度、軍制改革、交易網の整備について包み隠さず、丁寧に語った。


「これらの試みは、決して他の一族を脅かすためのものではございませぬ。

 ……ただ、上総という土地に生きる者たちの暮らしを、少しでも豊かにしたいという

 それだけの願いから始まったものにございます」


 その説明に、隆義は鋭く問い返す。


「義円殿……。其方の言いたいお題目は百も承知。その上で先に何を見据えておられる。」


 核心を突く問いに、俺は言葉を詰まらせる。


(乱世は、いずれ大きく動くことになる。

 ……その時、坂東の武士団がどちらに与するかによって、この国の行く末が大きく変わる)


 その予見を、正直に語るわけにはいかない。

 慎重に、言葉を選んだ。


「……平家の世は、いつまでも今のままではいられないと、それがしは考えております。

 いつか必ず、大きな動乱が訪れる。その時に備え、坂東の地力を少しでも高めておきたいのです」


 率直な答えに、隆義はまっすぐ俺の目を見据える。


「今の治世に疑問を抱くか……面白い御仁だ。

 そなたのような若者が、この坂東におるとはな・」


 その言葉には、警戒だけでなく、興味の色も滲んでいるように感じられた。


「隆義様……。佐竹家におかれても、御関心がございましたら

 それがし及ばずながら、お力添えいたしましょう。」


 その申し出には、さしもの隆義も意外そうな顔をした。


「……貴家の秘訣を、儂らにも分け与えるというのか」


「坂東全体が豊かになることは、当家にとっても決して悪いことではございませぬ。

 ……それに、隆義様のような御方と、いずれ手を取り合える日が来れば

 それがし、ひいては主君広常にとっても望むところにございます」


 その言葉に、隆義はしばし黙考した後、静かに笑った。


「……分かった。

 今日のところは、そなたの言葉を信じてみよう。」


「お心遣いありがたく。」


 -----


 隆義は、続けて館の奥から一振りの太刀を持ってこさせた。


「義円殿……。これは、我が佐竹家に伝わる些細な品にござる。

  貴家との友好の証として、お受け取りいただきたい」


「かたじけなく。……この誼を大切にいたします。」


「そなたのような若者が、この坂東に新たな風を吹き込んでおること。

 その行く末を、儂も興味深く見させてもらうとしよう」


 この時の言葉には、単なる社交辞令を超えた確かな含みが感じられた。

 ことが起きた時に、連携が取れるかは分からないが

 この場に足を運んだ意味はあると感じられる言葉は引き出した。


-----


 上総への帰路、この訪問の成果を静かに反芻する。


(完全な友好とまではいかなかった。

……だが、少なくとも、この時点における無用な敵対だけは避けられたはずだ)


 史実では頼朝の佐竹討伐に上総介も参陣する。

 互いに矜持はあれど、俯瞰的に見れば源氏の内紛であるこの出来事を防止出来る手応えも感じていた。



 上総の空に、夏の入道雲が高く聳え立っていた。

ここから。情勢はさらに複雑な様相を呈していくことになる。

来たる時に備えるため、次なる課題へと意識を向け始めていた。

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