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みんなを幸せにする武士になりたいだけなのに!(権力闘争がひどい)  作者: ワタツミ


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第27話「鉄と銭」

引き続き拙作ではございますが、何卒お付き合いいただけますと幸いです。

 


 ――治承2年(1178年)三月 上総国 義円――



 農業改革の目処がつき始めた頃、鉱物とそれを活かした手工業にも着手をすることにした。


「広常様……。この上総国内に確かな鉱脈があるかどうか、一度、丹念に調べてみたく存じます」



「鉱脈か。この地には、そうした話は、あまり聞いたことがないが」


「はい。

 ……ですが、調べもせずに、諦めるのはあまりにもったいなく。

 それがし自ら、幾つかの山をこの目で見て回りたく存じます」


 坂東各地から、鉱物に詳しい者たちを密かに集め、上総国内の山々を丹念に調査していく。


「義円様……。この山、幾らか鉄の気を含んだ土が見受けられます」


 挙げられる報告に期待し掘り進めてみるが、そこにあったのは金や銀といった鉱脈ではなく

 ごく僅かな鉄分を含む、限られた土壌だけだった。


「……残念ながら、これは鉱山にはなり得ませぬな」


 案内の者のその落胆した様子に、俺は静かに首を振る。


「いや、これはこれで、確かな価値がある。

 ……大きな鉱山ではなくとも、この地の海沿いには、砂のような鉄が豊富に堆積しているはずだ」


 実際に奈良時代には海岸線の砂鉄を使い、製鉄が行われたという記録もある。

 海岸線に沿い、砂鉄の採取が可能な場所を徹底的に調べ直す。


「この浜は、砂が、やけに黒っぽうございますな」


 案内の郎党が、そう気づいた様子で告げる。


「その黒さこそが、鉄分の証のようだな。

 ……この浜の砂を、少し持ち帰ってみよう」


 持ち帰った砂を心得のある者に見せると、思いの外、好反応を得た。

「この砂鉄を集め、たたら吹きの要領で鉄を作り出す。

 ……大きな鉱山には及ばずとも、これならば、この国で、確かな鉄を、生み出せるはずだ」


 坂東でも、鍛冶の腕に長けた職人たちを

 この上総の地に招き砂鉄からの製鉄を、本格的に試みることにした。


「義円様……。この製鉄、思いのほか、順調に進んでおります」


「これで武具や鍬の穂先を、この国だけで賄えるようになります。

 ……他国よりもずっと性能の良いものを揃えらるはずです。」


 その報告に感嘆している広常に向けて、この機を逃さずと畳み掛ける。

 頭に描いていたもう一つの重い課題――貨幣についてである。


「広常様……。この乱世、米や絹を交換することが商いとなっておりますが

 それだけでは、細かな取引には不便がございます。

 ……都では、宋の国から渡ってきた銭が、確かな価値を持つようになっていると聞き及びます」


「銭は耳にしたことはある。しかし我らには砂の金もあるではないか」


「金は陸奥の影響が強うございます。

 平家の世を上手く切り抜けるためにも、一定の銭は持たねばなりますまい。

 幸い、先立っての試みがいくつも上手くいく見込みでございます。

 米の余剰に甘味、鉄などを西国へ運べば銭は手に入りまする。」


 宋銭を上総国に取り込むため道筋は慎重に整えるべきである。


「坂東の商人を通じて都へと運び、その代価として宋銭を、確かに受け取る。

 この商いを試みまする。」


 その提案にも広常は、反対することなく頷く。


「なるほど……。物を売り、その代わりに、銭を得る。……そうして得た銭で、また必要な物を買う。

 銭を持つものは、土地を持たずとも米を得ることが出来るわけか」


「はい。……この銭という仕組みが広まれば、米や絹のようにかさばる物を

 いちいち運ばずとも取引ができるようになりまする。」


 この鉄と銭の仕組みが整うにつれ、着手した手工業は広く振興していく。


 -----


「いまひとつ」


「まだ何かあるのか」

 流石の広常も、その表情には呆れの様相を浮かべている。


「この地に自生する楮を使い、紙を漉く技を広めたく存じまする。」


 収穫を書き留めるにしても、木簡ではなく紙があれば便利である。

 しかし、こればかりは知識の範囲外である。 

 都から紙漉きの職人を招き、技術を器用なものに学ばせることにした。


「良いものが出来れば他の郷々にも、順次伝えて参る。

 ……紙は文書の記録や、書物の写しなど、多くの用途に欠かせぬものであるからな」


 その構想に、紙漉きの職人頭は平伏した。


「義円様のお考え、まことに先を見据えたものにございますな。

 ……それがしもこの技を、惜しみなく他の者たちに伝えて参りましょう」


 この一連の工業振興によって、上総領内は確かな産業の基盤を手にすることになった。


「義円……。其方に任せてこの方、我が領内は大きく変わったな」


「これも広常様の御決断と、郎党そして民たちの地道な働きがあってこそにございます」


 俺の言葉を聞きながら広常は、出来立ての紙を物珍しそうに指でなぞる。


「大したものだ、其方は。」


 そう言って愉快そうに声高らかに笑った。

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